海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

アメリカでは、なぜ舞台芸術支援が増えているのか(1)全米最大手の動きは?

2013/09/11
なぜアメリカでは、
舞台芸術支援が増えているのか? ~文化芸術支援の最大手・メロン財団を読み解く
1.メロン財団はなぜ文化芸術へ投資するのか
●舞台芸術への支援増は時代の流れ?

近年アメリカでは、舞台芸術(パフォーミング・アーツ)への民間支援が増えている。1,330の大手民間助成団体を対象にした芸術助成団体協会(Grantmakers In the Arts) の調査によれば、2010年度文化芸術全般への助成は総額23億ドルで、うち約7.5億ドルが舞台芸術に投じられた。前年度比5.5%であり、他の芸術分野よりも金額・伸び率ともに高い(芸術分野対象項目:舞台芸術、美術館、多目的アート、メディア&コミュニケーション、歴史遺産保護、人文学、ビジュアルアーツ)。

2001-2012年度メロン財団助成額推移
2001-2012年度メロン財団助成額推移

2001-2012年度メロン財団助成額推移(項目別)
2001-2012年度メロン財団助成額推移(項目別)

先日『アメリカではなぜ、音楽に民間支援がつくのか?』連載でご紹介したアンドリュー・メロン財団(The Andrew W. Mellon Foundation)は、文化芸術支援の筆頭的存在であるが、やはりこの5年ほどで舞台芸術部門の支援額を大幅に増やしている(ここでは演劇・オーケストラ・オペラ・現代舞踊を指す)。表1・表2をご覧頂くと、10年前と比べて約2倍に増えていることがお分かり頂けるだろう

なぜ文化・芸術支援に力をいれているのだろうか?舞台芸術は、米社会の中でどのような文脈で捉えられているのだろうか?

このリポートは同財団の年次報告書の分析を通して、アメリカにおける民間文化支援の経緯や、その背景にある考え方をまとめたものである。昨今では国の文化予算削減などもあり、一部民間での支援増額があってもまだ十分とは言えない状況ではあるが、その中から未来の萌芽を探ってみたい。

●メロン財団とは?
表3:1969-2012年度メロン財団助成額推移(5カ年毎)
表3:1969-2012年度メロン財団助成額推移(5カ年毎)

表4:2012年度助成額内訳
表4:2012年度助成額内訳

アンドリュー・メロン財団は、政治家・銀行家・美術品蒐集家・篤志家であったアンドリュー・ウィリアム・メロン(1855年-1937年)の2子による財団を統合し、1969年に設立された。助成総額は過去40年間で約23倍増(表3:1969年訳1.1千万ドル→2012年は2.5億ドル)で、時価の違いを考慮しても、堅実に実績を伸ばしてきたことが分かる。ちなみに2012年度助成総額は円換算すると約250億円であり、日本の2010年度文化予算の約4分の1にあたる。

さてそのメロン財団が創設以来最も力を入れているのは「高等教育部門」で、2012年度は全体の52%が同分野へ投資されている。そして「舞台芸術部門」19.1%が、それに次ぐ重要な位置に据えられている。(表4)

文化芸術に関して、メロン財団はこう記している。

「芸術は我々の人間性に訴えかけるものであり、自分自身そして他人に対する理解を深めてくれるものである。それは芸術を含め、人間性を築き上げる学問全てに言えることである」(2007年次報告書)

つまり自分を、相手を、人間を深く理解すること。身体を介した時間芸術の中で、それを表現することである。インターネットが普及した現代社会では、あらゆる情報へ簡単にアクセスできる一方で、それを読み解く知力や身体感覚の喪失が問題視されている。そこでこの「物事を読み解く知性×身体で表現する芸術」である舞台芸術を、より重視し始めたのではないだろうか。次の章では、その支援経緯を追ってみたい。

文中のグラフは年次報告書を元に作成したものです。"Museums& Art Conservation"は2011年より"Art History,Conservation and Museums"に、また"Libraries & Scholarly Communication"は2009年より"Scholarly Communications & IT"に統合・名称変更しています。
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菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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