海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

FACP (1) 知る―FACPの歴史、そしてアジア固有の文化を知る

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2011/11/11
FACP  (1) 知る― FACPの歴史、そしてアジア固有の文化を知る
ヤシの木が揺れるマニラの海岸は、美しい夕日で有名。
ヤシの木が揺れるマニラの海岸は、美しい夕日で有名。

FACP(アジア文化交流促進連盟)がフィリピンの首都マニラで11月3日~5日まで開催されました。30年近い歴史を有するFACPは、アジア太平洋地域における文化促進を目的として、現在約500の会員によって構成されています。今回の会議には日本を始め多くの会員が集まり、各国のパフォーミングアーツ業界の課題や現状などのスピーチが行われました(代表187名/99地域・団体が参加)。リポートは全3回、(2)「伝える・日本のプレゼンテーション」(3)「つなげる・アジアから世界へ発信」に続きます。ピティナのプレゼン風景はこちらへ!

「西洋から東洋へ」の図式を変えたい~FACPの発足とあゆみ

FACP理事一同。

「我々はダヴィンチやピカソを良く知っているが、西洋では東洋の芸術家がかつてほとんど知られていなかった」
会長シュー・ポユン氏(Hsu Po-Yun)が開会の挨拶で述べたこの言葉は、30年前にFACP設立に至る動機の一つであった。1981年シュー氏はフィリピンの故ルクレツィア・カシラッグ氏とともに、東西文化の不均衡を改善し、アジアの芸術文化を世界に広めることを目的としてFACPを設立した。その後30年間に、中国の経済的台頭、社会主義国の民主化、アフリカ諸国の政権打倒など、世界情勢は刻々と変わり、それにともなって文化のあり方も変容した。FACPの年次テーマにもそれが現れている。

シュー・ポユン会長
シュー・ポユン会長

いくつかターニングポイントと思われるテーマを挙げてみよう。1981年:アジア文化の促進とヨーロッパ派遣という大きな命題から始まり、1987年:アートマネジメントにおけるコンピュータ導入、1990年:アジア諸国における新しい文化施設の設立、1996年:オーストラリアにおけるアジア音楽の影響、1997年:政府援助と個人支援、1999年:地方の協力体制強化、2001年情報世代におけるパフォーミングアーツ市場開拓、2002年:アート現場における教育プログラム充実化、2005年アジア発ミュージカルの創作、2006年:カルチャーとエンターテインメントの薄れゆく境界線、2007年:文化と芸術を通じたアジア諸都市ブランド構築、2009年:幼児教育の重要性、イスラム音楽の魅力、2010年:パフォーミングアーツ国際市場における東西文化流入の逆転、グルジア探訪等である。そして2011年は映画部門が加わった。

この他「クロスボーダー」というキーワードも一貫して登場する。まさにFACPの出発点であり、存在意義でもある。

伝統文化の保持と発展~輸入文化に息づく民族固有の気質

さて今回のFACPでは、フィリピン側の基調講演に続き、各国代表によるスピーチが行われた。まずフィリピン側からご紹介。芸術文化庁長官フェリペ・ド・レオン・ジュニア氏(Felipe de Leon Jr.)によると、文化は政治・経済・精神の3要素に分類され、人間精神と結びつくものとして芸術があり、それは自然環境を反映して創造されるものである。また文化とは国や集団の団結力や効率性を高め、ボランティア精神を向上させ、そして社会へのコミットメントによって発展していくものであると唱えた。日本では芸術や文化というと個人のクリエイティビティと結びつく印象があるが、フィリピンでは社会や環境との結びつきが強調されていたのが印象的だ。どちらも是であり、バランスの取り方が大事だと思う。

スペイン植民地時代に建てられた教会(ユネスコ文化遺産指定)。
スペイン植民地時代に建てられた教会(ユネスコ文化遺産指定)。
ガラコンサート初日はフィリピンを代表する音楽や舞踊が披露された。
ガラコンサート初日はフィリピンを代表する音楽や舞踊が披露された。

初日夜はフィリピンを代表するパフォーミングアーツグループによる公演が行われ、民族舞踊やバレエ、オーケストラの演奏等が披露された。フィリピンは16世紀大航海時代にスペインに、また19世紀後半から終戦までは米国の植民地となったため、宗教をはじめとする両国からの文化的影響を多大に受けている。しかし本来この民族が持つ素朴で開放的な気質は輸入文化の中でも息づき、脈々と受け継がれていることを実感した。最も印象に残ったのは、6つの山岳部族の舞踊(Ramon Obusan Folkloric Group)。それぞれ先祖伝来の民族衣装をまとい、伝統楽器の音に合わせて力強く足を踏み鳴らし、身体全体で大地に祈りを捧げる。地底から湧き上がるようなエネルギッシュな音と踊りに、聴衆も釘づけだった。専門家によればこれは完全な創作舞踊だそうだが、文化とはその集団の精神性と団結力を高める、というレオン・ジュニア氏の発言が想起される。

「アジアの至宝たち」より、映像とライブを交えたジャワの創作オペラ。
「アジアの至宝たち」より、映像とライブを交えたジャワの創作オペラ。

なおカンファレンス期間中、会場では『アジアの至宝』と題して各国のパフォーミングアーツを紹介するコーナーが設けられた。日本からは福田成康専務理事が「いかに才能を発掘し育てるか」についてスピーチを行い、続いて中村芙悠子さん(2009年度福田靖子賞優秀賞)がステージを華やかに飾った。この模様は第2章で取り上げる。他には、深淵な心理表現のジャワ創作オペラ、愛嬌ある表情と動作のインド舞踊、高らかに鳴り響く中国の二胡、アジアの精神風土が感じられる台湾の弦楽四重奏団(ドボルザークop.96)、エネルギッシュなフィリピンのバンブーバンド、ピアノとヴァイオリンの二重奏などが演奏された。「アジア」と一括りにはできない、実に多彩なステージが繰り広げられた。

文化は伝統だけにあらず~台湾の新しい都市文化
クリエイティブ文化育成と都市再生が結びついた台湾のプレゼンテーション
クリエイティブ文化育成と都市再生が結びついた台湾のプレゼンテーション

文化とは伝統文化だけではない。新しい文化創造も進められている。近年経済的・文化的躍進が著しい台湾では、都市再生プロジェクトと絡めた文化政策を打ち出していることが、ジャーナリストのヨン・リー女史より発表された。古い街並みを再生し、新たにクリエイティブ産業の拠点とする計画である。国家の所有地や建築物を民間に開放し、若いアーティストの活動場所として提供することで、才能発掘・支援するという。例えばSongshan Creative & Cultural Parkは旧タバコ会社をリニューアルしたもので、2011年度ワールド・デザイン博覧会の会場となった。こうした計画と実績が認められ、ここ3年間で予算が大幅向上したことも報告された。さらに街そのものをアートスペースにするプロジェクトも進行中である。

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菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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