会員・会友レポート

【レポート】ショパン国際ピリオド楽器コンクール記者会見(1)

2018/03/30
ショパン国際
ピリオド楽器コンクール
記者会見レポート
執筆者:今関汐里(音楽学)
(1)ショパン交際ピリオド楽器コンクールの開催に向けて

第1回 ショパン国際ピリオド楽器コンクール公開記者会見・プレゼンテーション
日時:2018年3月13日(火)11:00~15:00
会場:トッパンホール

世界最高峰として名高い、ショパン国際ピアノコンクールを主催しているポーランド国立ショパン研究所(NIFC)は、ポーランドの独立100周年を記念し、2018年9月に第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールを開催する運びとなった(以後、5年毎に開催予定)。その目的は、ピリオド楽器のためのコンクール開催によって、ショパンの時代の楽器によるショパン演奏の普及にある。去る3月13日(火)、同研究所は東京のトッパンホールにおいて記者会見とプレゼンテーションを催した。第1部では記者会見に続いてダン・タイ・ソン氏(第10回ショパン国際コンクール優勝ピアニスト、第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール審査員)によるプレゼンテーションが、第2部では小倉貴久子氏(フォルテピアノ奏者)によるレクチャーと、参加者による試弾会が行われた。

1.
なぜ、いま、ピリオド楽器なのか?

ピリオド楽器とは、作曲家が生きた時代に用いられていた歴史的な楽器のこと。ピリオド楽器はバロック以前の音楽の古楽演奏では一般化しているが、19世紀のピアノ音楽ではまだ演奏の歴史は浅い。では、なぜ、いま、ピリオド楽器なのか。NIFCは、現代のピアノ(モダン・ピアノ)コンクールとの違いをこう説明する。これまでのショパンコンクールは、ショパンの真の解釈者を発掘するという理念のもと開催されてきたが、ピリオド楽器によるコンクールでは「ショパンや彼の同時代の作曲家の作品の真正な響き(authentic sound)を復元すること」を重視するという。つまり、作曲家と同時代に作られた楽器ならではのアーティキュレーションと、音楽的な語り口で、ショパンの作品の魅力を新しい視点から捉えなおそうというのだ。

2.
ピリオド楽器を通した啓蒙活動の一貫として

これまでNIFCはショパン国際コンクールだけでなく、ピリオド楽器のためのワークショップを開催し、経験の有無を問わず、奏者の育成に力を注いできた。プロによる演奏会の開催や、ワークショップ参加者に直に楽器に触れてもらうことで、ピリオド楽器演奏の普及にも尽力してきた(今年はコンクール直前の8月10~15日にワークショップを開催予定)。NIFCは、ショパンが実際に使用した楽器の収集にも力を入れている。これらの楽器を演奏することで、「実際に響いた音(original sound)」の復元が可能になるとした。
コンクールは、ビデオ審査、一次、二次予選および本選で行われる。ビデオ審査では、使用楽器が指定されている。「1860年より前にエラールまたはプレイエルの工房で製作されたピアノ、またはショパンの生存期間(1810-1849)のウィーン式ピアノまたはそのコピー」での演奏が必須であるという。ワルシャワで行われる一次審査以降は、大会側が用意した楽器を任意に選ぶことができる。その選定が、コンテスタントの演奏解釈に適しているかも評価の対象となる。 課題曲には、ショパンの作品はもちろんのこと、J. S. バッハやショパンと同時代のポーランド作曲家の作品が並ぶ。予選はすべて独奏曲だが、本選では協奏曲もしくはオーケストラ伴奏付きの作品を演奏する。審査には、名だたるピリオド楽器奏者のほか、ショパン弾きとして著名なモダン・ピアノ奏者たちも加わる。
また大会開催に向けて、ポーランド音楽出版社(PWM)のダニエル・チヒ博士は、エキエル版をコンクールの使用楽譜として推奨することを示し、その電子化プロジェクトが進行していることについても明らかにした。

3.
ダン・タイ・ソン氏の解説~ピリオド楽器は、ピアニストに何を語りかけるのか?

ダン・タイ・ソン氏によるプレゼンテーションでは、彼自身の体験に基づいて、ピリオド楽器(フォルテピアノ)と現代ピアノとの違いが語られた。モダン・ピアノの演奏歴が長い彼によれば、モダン・ピアノは全身の重みを鍵盤にかけることで楽器に適した響きを奏でられるという。一方で、彼が2005年から始めたフォルテピアノの演奏では、指先への神経の集中と、より一層、繊細なタッチが要求される。つまり、木製のフォルテピアノの響きは、がっしりとした金属フレームを内蔵しているモダン・ピアノに比べ、暖かみがある。ショパンの時代は、サロンや中規模のホールのように比較的聴衆と近い距離で演奏することが一般的であった。そのため、タイ・ソン氏によれば、フォルテピアノで語り掛けるように作品が演奏されていたのだろうという。現代ピアノが「歌うsinging」楽器だとすれば、フォルテピアノは「語るtalking」楽器といえる、と語った。

4.
小倉貴久子氏によるレクチャー~ピリオド楽器の機構と演奏習慣~

小倉貴久子氏は、楽器のアクション、ペダルなどの機械的な仕組みについて説明が加えられた。鍵盤を弾いてから、ハンマーが弦を打ち、音を鳴らすまでのアクション、弦の張り方やペダルの違い。木枠で作られているフォルテピアノがいかに繊細なつくりをしているか。何よりその繊細な木箱こそが、フォルテピアノ独自の柔らかな音色を生み出す特徴であることが示された。すべての鍵盤が均質な音を奏でるのに対し、フォルテピアノは音の高さによって響きが変わる。低い音は重々しく深みがあり、高い音は軽やかで煌びやかに響く。
小倉氏は、ショパンの作品を弾く上でのヴァリアントの必然性についても語った。ショパンはあるひとつの作品を弾く時、毎回常に異なる装飾音を付けていたと伝えられている。小倉氏はそれらのヴァリアントによって、ショパンが実際に聴き、演奏した音を感じることができると指摘した。楽譜に書かれた音そのものをオリジナルとみなし、楽譜に忠実であるモダン・ピアニストに対して、フォルテピアニストは演奏習慣そのものをオリジナルとする立場をとっている。楽譜から演奏へと「オーセンティシティ(真正性)」が遷移してきているのだ。果たして、今回のコンクールで、独自の装飾を付けて演奏するコンテスタントは現れるのだろうか?そうした演奏者の登場は、コンクールの結果にどう影響するのだろうか?

次回は、この意欲的な試みの可能性と、考察の余地がある諸々の観点について考えてみたい。

なお、本大会は、ポーランドテレビ(TVP)、ポーランドラジオ(PR)の協力のもと開催される。二次予選以降はテレビ及びラジオで生中継される予定である。


ピティナ編集部
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