会員・会友レポート

カプースチンを語る~その人柄、創作姿勢と音楽~ 1

2015/02/16
カプースチンを語る~その人柄、創作姿勢と音楽~
1.進化し続けるカプースチン
カプースチンはクラシック?ジャズ?

カプースチン夫妻と川上昌裕先生夫妻
(川上昌裕ブログ「新・ピアノ弾きの休憩室」より転載)
川上昌裕さん(以下、川上)
クラシックの作曲家として、勉強するべき重みのある作曲家の一人ですね。よく知られている《8つの演奏会エチュード》作品40を皮切りに、その後もジャズ的な語法を用いて、《24のプレリュード》作品53などどんどん書いていきました。彼曰く、作品75の《ユモレスク》がポピュラーミュージックの形式と言われる32小節形式を用いて作曲した最後の曲だということです。ただ、それ以降さらに自由になって、クラシカルになる一方で、ジャズ要素いっぱいの作品104(《2台のピアノとパーカッションのための協奏曲》)のような作品もある。カプースチン本人の録音で演奏を聴くと、色んな要素が入っている、バランスの取れた作曲家だなと思いますね。
西本夏生さん(以下、西本)
カプースチンの音楽を紹介するとき、よく「クラシックとジャズの融合」だと言われますが、これはジャズっぽい即興のような演奏をしているからという意味ではなく、私自身、彼のいろんな作品を弾いて、もっと深いところで融合しているのがだんだん分かってきました。
川上
その言葉は一人歩きしているよね。例えば、白い角砂糖、黒い角砂糖の味が違うとして、それをただ二つ並べて「これがカプースチンだ」と言ってるだけなんだと思う。カプースチンの音楽は、白砂糖も黒砂糖も両方コーヒに入れてぐるぐるに混ぜて全部溶かして美味しい、でもこの味は、見たことも聞いたことも味わったこともない......そこまで深い意味の融合なんだよね。
西本
私も最初は、ただ単に「ノリノリでかっこいい!」と思っていましたが、勉強していくうちにそんな簡単なもんじゃないんだと実感しています。「かっこいい」だけじゃ、本質は分かりません。
川上
よくよく見ると、ジャズのどの音楽にも似ていない曲ばかりなんですよね。非常に多くのクラシカルな部分があるし、彼独自の発想が入り混じってる。
カプースチンという、常に進化をし続ける作曲家
西本
この前お会いしたときに、「新しい曲ができ上がると、古い曲には固執しない」とおっしゃってました。
川上
たしかに彼は、過去のものには囚われず、どんどん進化している感じがする。誰かのレベルやニーズに合わせて作曲することにまったく興味がないし、やるつもりもないみたい。以前、なぜ子どものための易しい曲や分かりやすい曲を作らないのか尋ねたら、「みんなそう言うんだけど、僕は自分で書きたいものを書いているだけ。作家だって、子どものために小説を書いたりするわけじゃない。自分の書きたい小説を書いているでしょう?」と答えてくれました。自分の内なる疼きというか、自分が求める芸術に妥協はないんだよね。カプースチンは難しい、と言う人が多いですけど、それでいいんですよ。演奏者は演奏できるように頑張るしかない。難しさは弾く人の技術があれば、すぐに解消されます。ベートーヴェンのハンマークラヴィーア・ソナタなんて、当時誰も弾ける人がいなかった。でも今はどうですか? 弾けるピアニストは10人20人じゃないでしょう? テクニックがあって、ベートーヴェンの曲を勉強していれば弾けるようになる。
西本
作曲家の進化とともに、ピアニストのテクニックも進化していくんでしょうね。おもしろいですよね。カプースチンが妥協なく常に進化を続けてくれたおかげで、私たち自身も知らないうちに進化していく。
川上
彼はさらに新しい境地を求めて、ずっと作曲の筆を休めずに、毎年作品を書いてますからね。
西本
初期のころの作品と今の作品では、彼の違う一面があると思います。これは、彼が進化を止めなかった証ですよね。
川上
同行した僕の生徒が、《8つの演奏会エチュード》はカプースチンにとってどんな作品なのか、と質問したんですよ。
西本
何ておっしゃってました?
川上
「ラフマニノフが、あのプレリュード〈鐘〉作品3-2に対して感じていたことと同じだよ」と答えてました。つまり、あの曲がアメリカで有名になって、弾きたくもないのにアンコールでいつも弾かされて拍手をもらって、同じようにうんざりした気分だよ、ということだね。
西本
私も実は彼と同じような話をしたことがあります。私には、なんでみんなあればかり弾くんだろうと、逆に興味を失っちゃうんだよ、とおっしゃってました。
川上
どの曲が一番好きか聞くと、「自分の曲は全部嫌い」と言うしね。
西本
そうそう!
川上
それも進化をし続けている人の特徴ですよね。もう過去のものになっちゃうんだよね。どれだけ作曲家の頭の中が進んでいるかということがまざまざと分かります。
◆コンサート情報◆

日時:2015年5月4日(月・祝)13:00~20:00
会場:ティアラこうとう小ホール

  • 第1部:カプースチン愛好家によるプロローグ・コンサート (13:00-15:30/入場無料)
  • 第2部:「カプースチンを深く知ろう!」~奏法のエッセンス~ (16:00-17:15/2500円)
  • 第3部:カプースチン作品スペシャル・コンサート (18:00-20:00/2500円)

ピティナ編集部
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