会員・会友レポート

日々雑感~レッスン現場で思うこと その4 曲の出だしから「休符を考える」

2013/03/29
日々雑感~レッスン現場で思うこと
その4 曲の出だしから「休符を考える」
ベートーヴェンのソナタ第6番第1楽章

ある生徒の一回目の演奏は、曲の緊張感がなく、テンポもあいまいだったので、私は曲の最初に四分休符と八分休符を書き、さらにその二つに写真のようにクレッシェンドとスフォルツァンドを書きました。そして音符はsubito P(スビトピアノ)、休符はsf(スフォルツァンド)と書きました。これはてきめん。曲のテンポは正確になりメリハリやキャラクターも迷いなくこの後進みました.。このケースではスフォルツァンドとスビトピアノを繰り返すことにより、手にも気持にも適度な緊張を生み出し、曲のキャラクターが引き締まったのだと思います。
休符には、音にならなくても「強弱やキャラクター」を感じるべきだということです。「この休符はどのように感じれば、まわりの音がよりよく響くか」を考えればいいのだと思います。

ベートーヴェン ピアノソナタ第8番 悲愴 の第1楽章

試してみてください。いかがでしょうか?他にも工夫の仕方があると思います。

出だしの前に一拍休符を感じる。この休符は『止まった』休符であり音の出だしのためにパワーをためておく。
和音を弾いてから2拍目の頭に向かってクレッシェンドを感じる。そしてそのあとすぐに subito P(スビトピアノ)にする。
ここの休符はsubito f(スビトフォルテ)
は②と同じ

ピアノの音は減衰しますが、それでもクレッシェンドを考えることにより、次の瞬間の緊張感が増します。長い音にクレッシェンドを書くことはベートーヴェンやシューマン、そのほかの作曲家にも見られます。おそらく「音楽の緊張感」をどのように運んでいくかを考えていたのだと思います。
また、休符をどのように感じるかによって、音も変わってきます。曲の中に出てくる休符、曲の始まる前にあるだろう休符についてももっともっと意識を向けるといいと思います。以下のバラード2番のように、聴衆に休符の意味が伝わると思います。

ショパン・バラード第2番の場合

ショパンのバラード第2番の出だしは、いつの間にか音があった、という感じで出てきます。すると、写真に書いたように、聞こえない音が心の中になっていて、あるときに現実の音になると考えられます。ということは演奏者は「現実の音」ばかりでなく「音にならない音」も聴いていなければいけないことになります。つまり、音楽には「現実の音」と「音にならない音」があるのだといえます。聴衆も、演奏からそれを感じ取るようにすると、きっと音楽は豊になってきます。

私には、「現実の音」は氷山の一角、水面上に出た形にすぎないように思われます。


※本稿は大竹道哉先生がご自身のfacebookページに掲載された文章を加筆修正のうえ転載したものです。


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東京音楽大学付属高校、大学、研究科を首席で卒業。読売新人演奏会出演。第53 回日本音楽コンクール入選。87~90 年ベルリン芸大留学。優等を得て卒業。井口愛子、弘中孝、野島稔、山口優、クラウス=ヘルヴィヒ各氏に師事。ベルリン自由放送、NHK-FM 出演。ベルリン交響楽団、大阪音楽大学ザ・カレッジオペラハウス管弦楽団・モーツァルト管弦楽団と共演。兵庫県明石市在住・全日本ピアノ指導者協会(PTNA)正会員。ピティナ・ピアノコンペティション審査員。 07年にはじめてのCD、「バッハ・ピアノリサイタル」(ライブ録音)を発売、 11年2枚目のCD「シューマン・子供の情景・クライスレリアーナ」を発売。 楽譜「ヴェーベルン:ピアノ曲全集」をプリズム社より校訂 出版する。 92 年より大阪音楽大学非常勤講師。 音源サイトでは100曲を超える演奏を公開する。
ホームページ :http://www8.ocn.ne.jp/~m-ohtake/
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ピティナ編集部
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