2009浜コンレポート

浜コン:ファイナル1日目レポート

2009/11/21
浜コンは、2日間のオフ(オーケストラリハーサル日)を経て、本日より2日間のファイナルが始まりました。ファイナルは、大友直人先生指揮、東京交響楽団の伴奏で、ピアノ協奏曲による最終審査です。審査員の先生方も正装に身を包み、音楽関係者も浜松の熱心な音楽ファンたちも多数来場して、いよいよ優勝者が生まれる緊張感・高揚感に満ちています。

16 Francois DUMONT(フランス、24歳)ヤマハ
・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 Op.73 「皇帝」

2次予選からずっと全体のトップバッターを務めるデュモンさんから、ファイナル6名の演奏が開始。
第1楽章から、力みのない色彩感溢れるタッチで、自身がピアノからオーケストラ的な音色を引き出し、積極的にオーケストラの中に溶け込ませていきます。時に管楽器よりも管楽器のように、弦楽器よりも弦楽器のようにピアノを鳴らし、音色の幅は多彩で、室内楽的な響き。派手さはありませんが、表現のツボを心得、音量や輝きがあるわけではなくとも、このコンチェルトにはそれで十分と聴き手を納得させる解釈。どこでピアノが出ていくべきか、どこでオケと同化すべきか、深い理解と緻密な読みに基づき、ややスローなテンポで気品溢れる「皇帝」を描きました。ここでもやはり大変に質が高く、すでにアーティストとして完成され、聴き手の好みで判断してよいプロフェッショナルな演奏となりました。
デュモンファイナル1

デュモンファイナル2「皇帝」を選んだ理由は?
ベートーヴェンの作品は多く弾いてきて、協奏曲も5曲とも勉強しましたが、特にこの5番は特別な試み、つまり初めて「オケとソリストが直面・正対する」という画期的な試みがなされた作品です。それまでの古典の協奏曲では、ソリストが問い、オケが応えるというスタイルでしたが、この作品は新たな可能性を拓きました。ソリストのカデンツァでスタートする、という発想も斬新ですし、荘厳な印象を与えます。ユニバーサルな印象も与えます。私にとって非常に興味深い作品です。
浜松で用意した全ての曲の演奏を終えましたが?
ソロは3段階のリサイタルで多くの課題が要求されましたが、私は、なるべく多彩な作品を選ぶように心がけました。もちろん全ての種類の作品を弾くことができるピアニストはいないわけですが、このコンクールではなるべく異なる種類の作品を演奏しようというのが私の課題でした。成功したかは分かりませんが、ロシアの作品、フランスの作品、バッハやベートーヴェン、モーツァルト、現代作品、あらゆるものを取り入れたのです。
そしてこれらの作品それぞれに新しいアプローチで向き合うということを心がけました。我々ピアニストは、人間であり感情を持ち、ということは共通していますが、異なる考えを持ち、異なるやり方でピアノに向かうべきであり、作品を利用するのでなく、作曲家に奉仕する存在であると思っています。


4 ANN Soo-Jung(韓国、22歳)ヤマハ
・ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op.18

2番手は、韓国のアン・スジョンさん。セミファイナルでは悔いの残る演奏でしたが、今日は大変に落ち着いています。走ったりヒステリックになったりせずに、各フレーズを丁寧に歌い、時にフォルテは瞬発力のコントロールで鋭敏に処理し、もちろん音色の美しさで圧倒するわけではありませんが、自分の持ち味を理解し、判断良く配置していきます。2楽章のように、ソリストの音色・音質が前面に出てしまうと、その乏しさがやや気になりますが、深く長く歌いこもうとする姿勢は十分に感じられ、きちんと演奏者なりの充実感をオーケストラの音に刻んでいきます。結局、この作品全体におけるメッセージや彼女自身の解釈の方向性はどのようであったのか、という大きな視点で見たときに、説得力がやや弱いものの、終演後のほっとしたような笑顔が印象的でした。
アンスジョンファイナル1

アンスジョンファイナル2ファイナルを終えていかがですか?
実際、自分の演奏に満足しています。本選は、2回しかリハーサルがないのですが、1回目のリハはまあまあでした。今日、2回目のリハで、私とオーケストラの皆さんは1回目よりも分かりあうことができ、今日の演奏を終えてとても嬉しい気持ちです。
浜コンへの出場はどんな意味を持ちそうですか?
浜松は世界有数のコンクールの一つで、私の中でも大きな意味を持ちます。今回の出場で、多くの課題をこなし、私は成長することができたと思いますし、素晴らしいホール・素晴らしいコンクールで演奏できたことを幸せに思っています。


10 CHO Seong-Jin(韓国、15歳)ヤマハ
・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 Op.73 「皇帝」

今日の最後は、15歳のチョ・ソンジンさん。今日2度目の「皇帝」です。
まず冒頭から、デュモンさんとはテンポも曲想も異なる、フレッシュな感性とブリリアントな音で、一気に引き付けます。デュモンさんが、音色をオーケストラに同化させた室内楽的なアプローチを取るのに対し、チョさんは、テンションのコントラストが実に明確で、良質で輝きのあるタッチで、オーケストラの上にそのクリアな響きを乗せていきます。その演奏態度は実に堂々とした風格を備え、音楽が今そこに新たに生まれているかのように再生行為を提示していくことができる圧倒的な才能が眩しいほどに輝きます。2楽章の、作為のない心からの歌、ホールの響きやオーケストラの反応にも対応した自然なうねり、安定感のあるメカニックなど、それぞれが一級品で、強い印象を残し、ところどころ大友先生の見事なフォローに救われるところもありましたが、全体に、レベルの高いパフォーマンスを披露し、盛大な拍手を浴びていました。
チョソンジンファイナル1

チョソンジンファイナル2演奏を終えての感想は?
ファイナルでしたので緊張しましたが、今は無事に終えて安心し、ちょっと疲れました。自分の好きな作品を日本のステージで演奏することができて、嬉しかったです。
「皇帝」を選んだ理由は?
ロシアの作曲家よりもドイツの作曲家が好きで、日本のステージでこの曲を弾いてみたいなと思ったからです。皇帝をオケと演奏したのは3回目です。オーケストラとは10回くらい共演していると思います。堂々とした「皇帝」をイメージするようにしました。
プロの演奏では、ダニエル・バレンボイムのものが好きです。彼のベートーヴェンの解釈はどれも「堅さ」を感じさせずに好きなのですが、それは、ピアノ演奏というよりむしろ指揮をしているような視点で演奏しているような感じがするからです。


明日は、後半の3名、ホ・ジェウォンさん(韓国)、エルマール・ガサノフさん(ロシア)、キム・ヒョンジョンさん(韓国)が登場した後、最終結果が発表されます。


ピティナ編集部
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