2009浜コンレポート

浜コン:2次予選1日目レポート

2009/11/13
今日から、24名の通過者による2次予選が始まります。2次予選の課題は、

(1)ショパン、リスト、ドビュッシー、スクリャービン、ラフマニノフ、バルトーク、ストラヴィンスキーの練習曲より2曲。ただし、異なる作曲家から選択すること
(2)シューベルト、メンデルスゾーン、ショパン、シューマン、リスト、ブラームス、フランク、フォーレ、ドビュッシー、ラヴェルの作品より1曲ないし数曲。
(3)日本人の新曲委嘱作(2曲より1曲選択)
西村 朗:白昼夢 / 権代 敦彦 :ピアノのための無常の鐘

会場には、平日にも関わらず、熱心な聴衆が詰めかけ、コンテスタントに熱い視線を投げかけました。本日の演奏と演奏者の声を振り返ります。


Francois DUMONT(フランス、24歳)
・西村朗 白昼夢
・ドビュッシー 練習曲「組み合わされたアルペジオのための」
・スクリャービン 練習曲 Op.8-12
・ラヴェル 夜のガスパール (以上、演奏順)

昨夜の20時半過ぎに結果発表されてから、今日の10時30分に演奏というハードスケジュール。トップバッターは、フランスのフランソワ・デュモンさん。1次予選で聞かせた絶品のバッハが印象に残りますが、2次は得意のフランス物。音色が実に多彩で、空間に漂う音のグラデーション、それを聴き分け次の響きに反映させる耳の良さは抜群。スクリャービンやラヴェルの一部にやや精彩を欠いたり安全運転で乗り切ったりした箇所が散見されましたが、大人の音楽で魅了しました。
デュモン2次
少しお疲れ気味のデュモンさん。「まあまあだったかな。どう聴こえてましたか?(デュモンさんはいつも必ず自分の考えはそこそこに、こちらの意見を求めてくる)朝が早くてきつかったね」


Alessandro TAVERNA(イタリア、26歳)
・権代敦彦 ピアノのための無常の鐘
・ショパン 練習曲 Op.25-4
・ストラヴィンスキー 練習曲 Op.7-2
・メンデルスゾーン 幻想曲「スコットランド・ソナタ」Op.28
・シューマン プレスト・パッショナート Op.22a
・リスト 「ポルティチの唖娘」のタランテラによる華麗なタランテラ(以上、演奏順)

前回も3次予選まで進出している、浜松で大人気のタヴェルナさん。客席も平日にも関わらずかなりの入りになりました。
今回の2次予選進出者で唯一の、権代敦彦「ピアノのための無常の鐘」(他の2次参加者は全員が西村朗)。クリアでガラス細工のような美しさを持つ音質で、音楽の中で現在進行形で起きている変化をよく把握して深く語りかけてきます。全ての曲で、ちょっと変わった歌いまわしや間の取り方を見せるのですが、それがむしろノーブルな気品と感じられる説得力がタヴェルナさんの魅力。技巧的な不安を微塵も感じさせず、得意のリストのタランテラ(エリザベート王妃でも演奏)を鮮やかに決めました。
タヴェルナ2次
汗だくなのに、なぜか既に上着を着込んでいるタヴェルナさん。演奏直後なのに、選曲の思い入れをたっぷり語ってくれました。パワフル!
「2次には大好きな作品を並べました。技術的な準備ももちろん大変でしたが、ヴィルトゥオーゾ的なだけでなく、ロマン派というものをどう捉えどう描き分けていくか、という要素も必要とされました。リストのタランテラは、私の大好きな作品のひとつで、ピアノ音楽史の中でも重要な作品と捉えています。特に第2部の美しい部分に要求されるロマン的な要素、これがこの作品が最も要求しているものだと思いますが、それを表現しようと努力しました。」


NOGI Nariya(日本、20歳)
・西村朗 白昼夢
・ショパン 練習曲 Op.10-1
・ドビュッシー 練習曲「組み合わされたアルペジオのための」
・リスト バラード第2番
・リスト ハンガリー狂詩曲第6番(以上、演奏順)

日本人のトップバッター野木成也さんの登場。表現意欲旺盛な演奏態度ながら、それを安易に鍵盤に叩き付けず、作品が求める形にきちんと変換する感性の持ち主。特に、ドビュッシーの練習曲のコントラスト、リストのバラードに見せるセンスなど、随所に光る才能を聞かせました。
野木成也2次
「今日の演奏、まあOKじゃないでしょうか。演奏前は、テクニックというだけではない、音楽ということを常に考えて演奏しようと心がけてステージにあがりました。」


Ivan RUDIN(ロシア、27歳)
・ブラームス 6つの小品 Op.118
・西村朗 白昼夢
・ラフマニノフ 絵画的練習曲 ロ短調 Op.39-4
・ショパン 練習曲 Op.25-10 (以上、演奏順)

ロシアのルージンさんは、ブラームスのOp.118全曲から。限られた枠の中で抑制的に深く深く表現していく真摯な音楽性。白眉はラフマニノフのエチュードで、練習曲ではなく、音の「絵」という意味合いに徹しきった名演。丁寧に愛情をもって、情景が浮かぶ演奏を心がけていました。音に「意味」を与えようとする姿勢は好感が持てます。
ルージン2次
「演奏直後の今は、色々な感情が混乱しているよ。一言では言えないな。ピアノの状況が素晴らしく、調律師さん・スタッフさんたちにとにかく感謝したい。ベストは尽くしたよ。
(ラフマニノフのエチュードについて)これは練習曲じゃなくて、音の【絵】だ。絵、というのが第一義で、練習曲というのは些細な意味だよ。だから、画家が絵を描くように、僕らもピアノで絵を描いていかなければならないんだ。そう心がけて演奏したよ。」


Antoine DE GROLEE(フランス、25歳)
・ショパン 練習曲 Op.25-11
・リスト パガニーニ大練習曲第6番「主題と変奏」
・西村朗 白昼夢
・シューマン 交響的練習曲 Op.13 (以上、演奏順)

フランスの2007ロン・ティボー5位、デュ・グロレさん。体を大きく前後に揺らし、足を踏み鳴らし(左足の位置を変え続ける音)、体全体で音楽に没入しようという姿勢が印象的。それでいて、表現の方向性は一貫しています。変奏曲形式のエチュードを大胆に描き分けていくリストなど、一筆書きの鮮やかさを感じさせますが、一方で、レベルの高い表現も何度も続くと聴き疲れがし、どこか空回りしている印象も残りました。コンクールでなく、感興にまかせたコンサートでこそ真価を発揮するタイプのピアニストでしょう。
グロレ2次
「ちょっと今日の演奏に関しては...。実は、昨日は一睡もできなかったんだ。なぜかは分からないけれどね。けれどベストを尽くそうと努力したよ。眠れていたら、ベストが出せたんだけどなー(笑)。でも、このコンクールに来られたことは嬉しいよ。皆さん親切だし、日本を楽しんでいる。」


ANN Soo-Jung(韓国、22歳)
・西村朗 白昼夢
・シューマン フモレスケ Op.20
・ラフマニノフ 絵画的練習曲 変ホ短調 Op.33-6
・リスト パガニーニ大練習曲第3番「ラ・カンパネラ」 (以上、演奏順)

韓国からアイルランドにわたって勉強中のアン・スジョンさん。今年春のダブリン国際3位です。西村作品は、持ち前の瞬発力を生かした積極的なアプローチ。コントラストの幅を大きく取り、アタックスピードの変化で表現を拡げます。エチュードのクリアな処理は、さすがの安定感を感じさせました。
アンスジョン2次
「出来は...今終わったところだから、分からないわ。今日のステージを楽しむことはできたと思う。もちろん、たくさんのミスもあったし、予想しないこともあったけれど、楽しむことはできたと思う」


AN Jong-Do(韓国、23歳)
・西村朗 白昼夢
・ラヴェル 夜のガスパール
・ショパン 練習曲 Op.10-5
・スクリャービン 練習曲 Op.42-5 (以上、演奏順)

午後の最後は、韓国のアン・ジョンドさん。ラヴェルの弱音は、実際、聴こえるか聴こえないかというくらいに思い切った音量を用い、狂気的なフォルテと対比させ、かなり大胆に音響的アプローチで作品に迫ります。ただその大胆さが、曲想との結びつきではなく、単に音楽が乱れているようにも感じさせ、説得力を欠く面があります。時折見せる濃い情熱に、表現する意志を感じさせました。
アンジョンド2次
「今は、終わったばかりで、出来は考えられないなー。演奏前は、ただ、今日弾く作品のことを考えていたよ。緊張していたけど、とにかく作品に集中しようと思っていた」


HAN Sang-Il(韓国、25歳)
・ショパン 練習曲 Op.10-1
・リスト 超絶技巧練習曲第8番「荒野の狩」
・ドビュッシー 前奏曲集第2巻「花火」
・西村朗 白昼夢
・シューベルト さすらい人幻想曲 D.760 (以上、演奏順)

夜の部は、韓国のハンさんから。ショパン・リストのエチュードでは、調子ができらず、やや消化不良気味かと感じましたが、花火・西村を経て、シューベルトのさすらい人幻想曲で本領発揮。作品をよく手中におさめ、構成力と、遠近感を感じさせる音作りで、見事に弾ききりました。
ハン2次
「まあ、悪くはなかったんじゃないかな。ミスはもちろんあったし、できなかったことも浮かぶけれど...」


James Jae-Won MOON(オーストラリア、23歳)
・西村朗 白昼夢
・シューベルト 即興曲 Op.90-3
・シューベルト ピアノソナタ第4番イ短調 D.537
・ショパン 練習曲 Op.10-12
・ショパン 幻想ポロネーズ (途中でカット)
・ラフマニノフ 絵画的練習曲 ニ長調 Op.39-9(演奏せず)

最後の登場は、浜コン連続出場となる、ムーンさん。いつもニコニコ、演奏している姿も本当に幸せそうで、音楽を心から愛していることが伝わります。こだわりのプログラム構成は、西村作品の響きが終わる中から、シューベルトの即興曲の響きを生み出すなど、一つのストーリーのような構成。シューベルトの歌心とリズム感が、特に彼のあたたかな音楽にぴったりです。
ただ、残念ながら、最後から2曲目の幻想ポロネーズの途中で時間切れ。ラフマニノフをまったく弾かなかったわけですが、どう評価されるでしょうか。
ムーン2次
いまひとつ消化不良気味に退場してきたムーンさんだが、持ち前の人柄の良さで、すぐにニコニコ、インタビューに答えてくれます。
「うーん、40分以上は経っていないように思うんだけどなー。経っていました?どれか、ゆっくり弾いちゃったかなー。最後まで弾きたかったよ。」

明日は、8人のコンテスタントが登場します。日本人は、加藤大樹さん(09特級銀賞)が登場。演奏に期待が高まります。




ピティナ編集部
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