100のレッスンポイント

036.楽譜をそのまま音にするのではなく、自分の考えを加える

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2010/08/06

楽譜には、音、リズム、ハーモニー、楽語、スラーなど、さまざまなヒントが書かれていて、それによってどう弾くかが決まってきます。

でも、たとえばf(フォルテ)といっても、いろいろなfがあります。激しいf。感動のf。象のようなどっしりしたf、雷のような鋭いf。

その中のどのイメージがそのfに必要でしょうか?
そのfをどう表現するのがピッタリでしょうか?

音を出しながら、考え、探す。ただ音を並べているのと違い、「表す」ものには、魂が入っています。
しかし、考えたイメージどおりに、簡単に表現することはできません。だから練習をします!
書いてあるものを音に移すための練習ではなく、表現するための練習をしたいものです。

レッスンで、「どうしてそのように弾くの?」という質問をよくします。
答は、たいていかえってきません。自分が弾いていることに対して、想いはないのでしょうか!?

意味を考えずに弾いているので、自分がどう弾いたのかすらわかっていない場合もあります。

自分の意志がない演奏の大半は、日常生活の中で何となく読んでいる日本語のように、楽譜がそのまま指に移っていく感じなのかも知れません。
「頭が働かず、指が勝手に動いている!」「あなたの指なのに、勝手に動いてるよね!」と言うことがよくあります。
「ここをどうしたいか?」と考えて音を出しているでしょうか?

一方で、「こう弾きたい」という気持ち丸出しの演奏をする人もいます。「誰が何と言おうと、私はこう弾くんだ!」というような。作曲家や時代に合わない弾き方になってしまっている場合は困りますが、弾く人の想いがあれば「そう弾きたい」という考えが伝わってきます。それが面白いのです。
「私はこう思うのだけど、どう思われますか?」と、音で伝えてくる。
それが、レッスンでの理想的な、形ではないでしょうか?

とはいえ、初めから自分の想いを音に出せる人はごくわずかです。
皆、いろいろな経験とともに、自分の考えが音に出せるようになるようです。

ピアノという楽器は鍵盤を押せばある程度良い音がでます。
もしかしたら、それが心がなく指だけで弾いてしまう演奏が多い原因かもしれません。
しかし、そこに想いが伝わった音は全然違います。
また「自分の想いを加えること」こそが最も楽しいことだと思うのですが。
「想い」という、心の中の目に見えないものを、人に伝える手段が芸術だと思います。

ある彫刻家の先生が言われた「技術芸術家になるな!思想芸術家になれ!」という言葉が深く心に残っています。


池川 礼子(いけがわ れいこ)

武蔵野音楽大学ピアノ専攻科卒業。武田宏子氏・吉岡千賀子氏に師事。バスティン・ メッソードの講師として全国各地で講座を行う一方、地元鹿児島ではピアノ指導法研 究会を主宰。生徒育成においては、ジュニア・ジーナ・バックアゥワー国際コンクー ル第2位輩出のほか、長年にわたりピティナ・ピアノコンペティションにて高い指導 実績を全国にアピール。特に1999年度は、ピティナ全国決勝大会のソロ・デュオ・コ ンチェルト部門に計7組の生徒を進出させ、ソロF級で金賞、コンチェルト初級で優 秀賞などを受賞した。導入期から上級レベルの生徒までまんべんなく育て上げる指導 法は、全国のピアノ指導者の注目の的となっている。ピティナ正会員、コンペティシ ョン全国決勝大会審査員。ステーション育成委員会副委員長。

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