レッスン室拝見

第15回 石黒加須美先生

2003/12/01

当協会正会員、一宮ステーション代表の石黒加須美先生。主宰する、かすみピアノスクールでは、それぞれ目的の違ったコンサートを年3回、開催している。今回は、『グループで発表』することを目的としたアンサンブル中心のオータムコンサート開催の意義と、かすみピアノスクールの特徴である、7名の先生がチームを組んで子供たちの指導に当たる、その効果を伺った。

《INDEX》
1.舞台の上で表現するということ 2.チームワークを生かしての指導
3.きっかけは娘のピアノ


1、舞台の上で表現すること



─ まず、年3回のコンサートの概要をお聞かせください。

石黒:舞台経験は一番表現力をつける良い経験になると考えており、子供たちに舞台の上で表現することを大好きになってほしい、自己表現を学んで欲しいという願いで、年3回の発表の機会を設けています。
自分のお気に入りの曲を演奏するサマーコンサートと、グループによる発表をメインとしたオータムコンサート、そしてピアノソロのスプリングコンサート、その他コンペティションやステップも活用しています。

─ オータムコンサートは、どんなコンサートなのでしょうか?

石黒:年齢別でのリトミックやオペレッタ、合奏などのグループ発表と、連弾が中心です。「何か決まったもの」を発表するコンサートではないのです。決まったものを素敵に完璧に発表しても良いのですが、子供たちと一緒にああしたい、こうしたいと考え、色々な引き出しを作っていくという過程を勉強する、グループレッスンの延長上にある手作りの発表会です。
年少以上のクラスの発表ですが、子供たちで考えた子供たちだけの舞台です。発表当日まで、どんどん高めて、どこまでできるか挑戦するので、本番までどうなるかわかりません。当日まで、子供達は一生懸命に、ここはどのように動いたらよいか、もっと良い表現はないのかを考えてくれました。

─ 発表会を拝見し、様々な体験をすることによって生徒さんたちが本当に音楽好きになるということが伝わってきたのですが。

石黒:そうですね。色々な題材でのオペレッタや様々な民族楽器なども演奏しますが、それでいて私達はピアノ教育をしているのです。お母様や子供たちに、民族楽器を演奏できるようになるという目的ではないし、将来俳優になる子がいるかもしれないけれど、演劇をするためにオペレッタをやっているわけではないとお話しています。
私は、楽器の王様である、大変難しいピアノという楽器を多方面から楽しく勉強して、ピアノが本当に好きになってくれたら嬉しいと思っています。

─ 具体的にはどのような?

石黒:まずリトミックでは、リズムを体で表現します。たとえば、長い音符はひざをしっかり深く曲げるとか、強拍の休符の緊張感などを、体を使うことにより体感できるのです。
ピアノが聞こえたところで反応し、またあるところでは、自由に歩いたりすることで自己表現を学びます。4年生以上は、調性やコード、音階など楽典的な要素の入った発表や、作曲にまで発展する事もあります。子供たちが普段のレッスンで、どれほど楽しいことを勉強して、今ここに至っているかを皆さんに発表する場ですね。毎回それぞれが個性を出し、工夫しているのを実感します。 オペレッタでは、大きな舞台で全体の流れを把握するということを勉強します。全ての出演者のせりふを覚えるのです。なぜかというと、全体の中の自分の役割を勉強し、更に誰かに何かを届けてあげることを感じる。それにはテクニック、エネルギーが必要ですよね。
ピアノを演奏することも同じです。それぞれの10本の指の役割を考え、どう表現するかということを学ぶのです。
民族楽器の演奏等は、ピアノと格闘していたテクニック、リズム感、脱力などを楽しく学べるというメリットがあります。

─ 秋のコンサートでは、連弾にも力を入れていらっしゃいますね。

石黒:連弾はお友達同士で一緒に合わせることが楽しいし、難しいことだと子供には話しています。ソロの何倍もの分業ができる一方、お友達の呼吸や体の揺れ、どのようなテンポでどのように音楽が流れるか、また4本の手のそれぞれの役割(指揮者の役割、メロディやオブリガード等を)感じないと合わせることができないのです。それがソロの演奏にとても有意義なものとなります。



2、チームワークを生かしての指導


─ かすみピアノスクールでは、ベテランの先生から若い先生まで幅広い方がいらっしゃいますね。

石黒:私はスタッフと協力して一緒に勉強し、子供たちを一緒に成長させたいという強い願いがあり、現在7名の先生とスクラムを組んで指導に当たっています。
私はいつも役割分担をしようと言っています。ここでは7人全員で一人前の先生だという考え方なのです。一つの例では、新人の先生はいつもニコニコと優しい先生で、生徒と一緒に頑張ろうと言ってあげられる先生でいるように、逆に、私や年上の先生は、ある意味厳しい先生という役割分担をしています。若い先生の強みは、私の年齢より生徒に近いということです。それは、ピアノを教える力、エネルギーになると思います。逆に年齢差が広がっていくにつれ、いろいろな引出しを沢山作らないといけませんね。

─ 複数の指導者がいることで、工夫されていることは何でしょう?

石黒:例えば、 新人とベテランを組ませ、最初の2ヶ月はベテランの先生がレッスンしているのを見学します。2ヶ月後、新人の先生がレッスンを始めるとき、必ずベテランの先生がついているようにしています。朝からレッスンが始まる午後まで、それぞれが打ち合わせをし、組に分かれてピアノを弾いてみたり、生徒への声かけなどを研究します。
新人の先生はもちろん勉強になりますし、ベテランの先生は新人を見ることによって、客観的に自分の指導を省みる機会となるのです。目差すものは、皆良いピアノの先生になりたいということです。「これで充分」というのは、何年たっても無いわけですから。私はそのような人と一緒に勉強したいと思っていますし、やればやる程わからない事が出てきて、知れば知るほど楽しくなります。



3、きっかけは娘のピアノ


─ 教室で使用している教材をお聞かせください。

石黒:年少に入る前に、お母さんと一緒に、ピアノを聴いたりぬいぐるみを触ったり、お面をかぶったりしながら、様々な音楽体験をし、絶対音感を身につけることも目標にレッスンします。年少に少し入る前に、江口メソッドを使い、読譜やリズムなどの勉強を軸に、リトミックやオルフというドイツの音楽教育の考え方も取り入れ、グループレッスンと個人レッスン両方を、殆どの子供たちが中学生になるまで受けています。その後、年中~小学1年生までには、バスティンに入ります。たくさんの生徒がいますが、いろいろなローテーションで全ての生徒を見て行きます。

─ とても知識が豊富でいろいろな研究をされていますが、いつ頃からこのような形になったのでしょうか?

石黒:現在の教室の形になった一番の理由は、娘のピアノがきっかけでした。子供が生まれた時に、音楽が大好きな子になってほしかったのです。当時私が知りうる限りの信頼できる先生に預けました。3歳頃だったと思います。その教室ではバイエルを教えていましたが、なんと彼女は半年で80番まで進んだのですが、ピアノを辞めたいと言い出しました。

─ ピアノが弾ける子にはなったけれど、音楽が好きな子にはならなかったということですか?

石黒:そうではなくて、自分の能力を超えていたのだと思います。3歳と数ヶ月の子供がバイエル80番を弾くのは、能力を超えています。本当に鍵盤を打つだけで弾けていたという感覚ですね。それで、私は全て指導者の責任なのだ、生徒が100人いたら100人みんなを音楽好きにしようと思ったのです。子供たちが自分の目線できちんと理解できること、子供の精神年齢に合った教材や指導が必要なのだと思います。
ただ、365日ピアノを頑張っていなくても、思いっきり外で遊んだり、別のことをやったりしながら、音楽を楽しんでゆければ良いと思います。

─ そのようなお考えが、オータムコンサートの発表にも現れているんですね。本日は本当にありがとうございました。


ピティナ編集部
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