レッスン室拝見

第08回 KEIKO MUSIC FAMILY

2003/01/01
《INDEX》
1.自分の力でできるまで2.ご父兄との信頼関係3.自然に触れることの大切さ4.あなたが弾いた曲が名に!!5.音楽を聴く環境も作ろう


1.自分の力でできるまで


ここがKEIKO MUSIC FAMILYのレッスン室。リトミックができる大きなスペースとグランドピアノ3台が並ぶ。

─ 川崎先生の教室では、1歳半からのお子さんがレッスンに来ると伺いましたが。

川崎先生(以下川崎):はい。うちの教室の入門条件は「おしっこ」が言えるかどうかなんです。


─ 具体的にどのようにレッスンを進められていますか?

川崎:そうですね。最初はお話することも困難なので、コミュニケーションをしっかりとれるかどうか、ということから始まります。まず大抵の生徒さんは、グループレッスンのリトミッククラスに入ります。リトミックは個人レッスンと違い、お月謝をいただいていません。毎月決まった時間帯にクラスを設け、幼稚園生までは必修、小学生からは自由参加のカリキュラムです。
1年中通してやっているので、例えばはじめたばかりの子と、4、5年たった子が同じクラスに存在しています。大きい子が小さい子に教えてあげる縦割りのシステムができていますので私は楽です(笑)
リトミックというと体操リトミック等いろいろな解釈がありますが、私がやっているものは、ピアノの導入の下地になるようなものです。リトミックをやってきた子供たちは自己表現できるようになりますね。


─ 個人レッスンはいつ頃はじまりますか?

川崎:リトミックで、私の言うことに反応ができるようになったら個人レッスンに入ります。まずは数字の形を覚えることからはじめます。そして色、数字と色をつなげて覚える。次の段階で数字、色、鍵盤をつなげて覚えるという手順です。うちの教室は、ご父兄は基本的にはレッスン室に入れませんので、数字を覚えるのにだいたい1年くらいかかる子もいます。


─ 先程3歳の女の子のレッスン見学をさせていただきましたが、絶対使わない言葉がありましたね。「はやくしなさい!」という言葉。

川崎:宿題なども、生徒が理解した分をお家でやっているんです。全部が行き届いていないことが多いのですが、それは生徒が私の言葉がわからなかった、もしくは理解していなかったということだと思うのです。ですので、何週間かかっても自分でわかるまで、本人の成長を見ながらやっています。私はそれが理想的だと思っています。
1時間のレッスンの中で、準備も片付けも本人が全部するので、最初は準備だけでも10分くらいかかりますよ。



YAMAHAミュージックテーブルを使用してのレッスン。音楽を演奏するには、「タイミング」が大切。


レッスンの中で先生が感動したことがあったら、"感動シール"1つ!


教室にはお友達の写真が飾られています。
?大抵、低年齢の子供たちはお母様がついていたりすると思いますが、何故生徒さんだけのレッスンをされているのでしょうか?

川崎:お母様が一緒についていらっしゃる場合、特に第一子で期待の高い場合なんかは、ついつい熱がはいってしまうんですね。それでお家に帰って宿題をする時などに、わからなくて手がつけられなかったということがあると、たぶんお母様は「先生がこういったじゃない!」という一言を言ってしまうと思うんです。もうそれは私の中ではだめ。その一言があると、子供はもう聞いてくれないんじゃないかという思いがあるのです。確かに、ご父兄がついてくださったほうが、必ずもっと早く輝き始めると思うのですが、共働きが多い地域ですので、子供から手が離れてお母さんたちが仕事に出ようかなと思ったとき、いつまでたっても子供についていられないのが現実です。小さいころから手取り足取りやってくれていたのに、急にお母さんが忙しくなったからとか、下の子供が生まれたからといって、母親の手が離れた時、自分ひとりでは何もできなかったというのがかわいそうだなと思って。


─ 長い目でみてくださっているんですね。

川崎:そうですね。だから小学校6年生までの間に、音楽的自立、楽譜が読めることが身につけられればという目標です。一人一人成長具合が違いますから、3歳までにこれをして、何をして、ではなく、6年生までにという長い目標を立てています。読譜力と音楽のたのしさがわかってくれれば、中高生になってもレッスンに通ってくれるはずです。


─ 今の1年を急ぐのではなく、6年生になった時にどれだけの力がついているか、ということでしょうか。

川崎:どんなに小さくても本人の力だけで育てたいんです。絶対親が手伝ったほうが早いということはわかっているのですが。
理想的には、ピティナのA2級を年長さんで挑戦できれば良いというのはありますけれども、何がなんでもというわけではありません。すべてその子の成長待ちです。たとえば、先程見ていただいた橋口依奈ちゃんなども、自分の力で5つの数字を覚えて、指番号を理解するのに1年もかかりました。数字や色など基礎的なことを自分で理解してからピアノに入りたいという目標があります。


─ 子供が自分の力で理解できるまで、じっくりと待つ。教え込まないということですね。




2.ご父兄との信頼関係


鍵盤に置いたおはじきの「色」と「音」をつなぎ合わせるレッスン。

─ 親御さんとのコミュニケーションはどのように取っていますか?

川崎:レッスンの前後に顔を合わせるのですが、それだけでは時間が足りないので、連絡帳に詳細を書いてコミュニケーションをとっています。子供の前で話せないこと、たとえば今スランプだとかも、まめに書いたり、今これをこうしたいからこの行事をしているということを伝えています。ご父兄とのやりとりは、その他FAXとメールです。基本的にレッスン中は電話にでないので、その辺も理解していただいています。

─ ご父兄の中には、レッスンを見たいと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

川崎:ですのでご父兄には、うちの教室はこういう教室です。ということを理解していただいた上で入会してもらっています。もちろん、見学はいつでもOKですし、コンクール前のレッスンは必ず聴いていただいています。
入門式のときはお母様、お父様に来ていただいて、2時間時間をとってお話します。
この教室に預けても良いかと判断していただく為に。

─ なぜ2時間もの時間を取るのでしょう?

川崎:そのきっかけは、私の親友が中学校でお父様を亡くされたんですよ。下の弟さんと年が離れていて、その方が結局家族5人過ごしたのは8年くらい。みんながそろったのは数年だったんだよと言われて、私の生徒達は、私と過ごす1時間より、家族と過ごす1時間のほうが貴重な時間なはず。生まれて3年しか経っていない子達が、3年間の中で私と過ごす1時間の重みってすごく重要な気がして。せっかくの貴重な時間を過ごすのであれば、ちゃんと吟味してください、信頼して預けられますか?ということをお母様方にしつこいくらい教室の趣旨などについてお話するようになったんです。



3.自然に触れることの大切さ


お花見遠足にて


車社会に育つ子供たち。
「JRに乗って遊びにいこう!」

川崎:うちの教室は本当に年間行事が多いんです。


─ どのような行事ですか?

川崎:たとえばお花見遠足、いちご狩り、蛍狩り、落ち葉拾いなどみんなでどこかへ出かけたりもします。


─ ピアノ教室では珍しいように思いますが。

川崎:ただ楽しい、子供たちの交流の場だけではなく、ちゃんと理由があるんです。私たちが子供たちに伝えたい、こんな音を出してほしいというときに、「蛍の光」みたいな音を出して欲しいと言った場合、蛍の光を知らなかったら出せないですよね。それを体験してもらいたいので、連れて行くようになったんです。臭いにおいもいいにおいも全部知っていて、良い感受性が育つのではないかなと思います。ご父兄がとても協力的なので、行事に連れてゆくことも理解してくださっています。


─ その思い出を通して感性が育つんですね。

川崎:そうですね。そこで何を教えるのではないのですが、一緒に道を歩いて、一緒に遊んで、歩きながら「質問!今鳴いた鳥はなんでしょう?」とか、「あの畑に生えてい葉っぱは何でしょう?」という話しをしながら、時間をかけてゆっくり歩くんです。
コンサートのときだけ会うという関係ではなく、学校の友達以外に、ピアノ教室で友達だったよねっていう関係が築かれればいいなとも思います。


─ 素敵な関係ですね。

川崎:ぬりえの要素が入った教材も使っていますが、小さいころは色の指定はしません。いもむしだから緑ではない。小学生は、いもむしを緑でぬりますが、小さい子供たちは赤や黄色で塗る子もいます。


─ 大人の感覚で修正しないんですね。

川崎:そうです。年中さんくらいになるとキャベツはこの色というのがわかってくるから、緑で塗らなくとも直させません。そういうことがリトミックでもピアノでも言えると思います。
こんな動き、こんな表現をしたから、これはおかしいよね、ではないんです。自分が思っている動きをしてくれない子供がいても、怒ってはだめ。「そうよそうよ、それよね」って思うことはいっぱいあるじゃないですか。自分はこう思っていたのに、逆に子供を見て新しい発見があったり。


─ 教え込まずに、その子の能力を引き出すということでしょうか。

川崎:できないことを発見するのではなく、できることに気づいてあげる。これもできるし、あれもできるというのを積み重ねてあげたほうが全然良いと思いませんか?




4.あなたが弾いた曲が名に!!

─ コンサートはどのようなものがありますか?

川崎:生徒たちが出演する年1回 のコンサート(発表会)です。6時間に渡るコンサートなのですが、親御さんにもステージに立ってもらうんです。子供と同じ気持ちになってほしいから。
あと、普段レッスンを見ることができない分、コンサートではどのような順を追ってピアノが弾けるようになったのか、という過程も発表しています。白い鍵盤、黒い鍵盤、2つのグループ、3つのグループを理解し、まんなかのドの音がわかって、ドレミがわかって、最終的にバッハのメヌエットで終わるんです。

─ ご父兄にも一目瞭然で良いですね。

川崎:ご父兄は、ああやってうちの子は弾いていたんですねと頷いてくださっています。普段レッスンを見れない分、これをやっていて弾けるようになるのかしら?という不安があると思うんです。 お母さんとしては、早く名曲を弾かせたい。どうしてうちの先生は、名曲を弾かせてくれないのかしら?と思われると思うのですが、そのような段階になった辺りでは、「あなたが弾いた曲が名曲になる。名曲を増やさなければならないのだ」と伝えています。
極端な話ですと、コンサートのアンケートではいつも「エリーゼのために」がダントツ・・なわけです。「あなたが弾いた○○がよかった。来年はあの曲が弾きたい」と誰かがいってくれるようになろうよ、いつまでたってもエリーゼのためにだけじゃないよ!と言っています。
誰かがあなたのピアノに対して感じてくれるようなピアノが弾けたらいいなと思ってレッスンをしています。コンクールの評価に対しても、通過するのは審査の先生が「あなたのピアノをもう一度聴かせてほしい」と思った人が名前を呼ばれるのよ、と子供に伝えます。そんなピアノを弾いて欲しいのです。

私が大学に入ったときに、受験用のピアノレッスンしかやっていなかったので、ジャズひとつひけないことがショックで、子供たちには、譜面が読めるようになったらジャズにも取り組ませています。
私がボランティアで演奏会をしているのですが、ヴォーカルクラスの子供たちは、演奏会に一緒についてきてもらって、老人ホームで歌ったり、野外コンサートや、もちろんピティナ・ピアノステップで歌ったりしています。

─ 本当に発表の場が多いですね。発表会やコンクールだけの世界じゃなく、いろんな方への発表の場が。



5.音楽を聴く環境も作ろう


クリスマスコンサート「X'mas X'mas」は、國谷尊之先生をお迎えして。


コンサート(発表会)のエンディングでは、全員が合唱を。ホールの天井から、700個の風船をとばしました。


ミュージカル"きょうりゅう組曲" 衣装はご父兄の手作りです。

─ 他にはどのような行事がありますか?

川崎:クリスマス会では、プロの演奏家をお呼びして、「40分間ちゃんと聴く」ということもやっています。この町では、年齢制限があるため、小学校1年生になってはじめてクラシックコンサートホールに行けるのです。でも、小さい子供たちが大きなホールに行って、走らないわけないし、座っていられるわけないし、という思いがあるので、音楽を聴く環境も、小さいころに作ってあげたいと思っています。今は聴くときだとか、今は騒いでいいときだということを理解させるのも、こちらの仕事ではないかと思い、そういう機会を作っています。


─ コンサートは先生が企画していらっしゃるんですか?

川崎:はい。100席限定の小さなホールでやるのですが、いつも満席になります。


─ コンサートが地元になかったら、作ってしまおうという感じなのですね。

川崎:そうなんです。講座もないし、コンサートもないので、企画してしまったという経緯があります。自分の子供たちにプラスになるようにやっていることなので。
いろいろな行事をやるきっかけになったのは、コンクールに初めて出したときに、なんでこんなに違うのだろうと思ったんです。それって場数を踏んでいないからだと思い、まず子供にちゃんとしたホールで演奏の場を与えること、本物の音楽を聴くこと。あとはレスナーとしての勉強のために、さまざまな講師を呼んで講座を開催しています。


─ ご自身もコンサートに出ていらっしゃいますよね?先生のステージ姿も生徒さんに見せたいということでしょうか?

川崎:絶対絶対!私もこうやってがんばっている、だからあなたのドキドキが私にはわかる。でも私はステージに立って人に聴いてもらうのが楽しいと伝えたいんです。
私が一生懸命やっていれば生徒もついてきてくれると信じています。


─ 川崎先生にとって、生徒さんはどんな存在ですか?

川崎:講座より何より勉強させてもらっている。もちろん講座で勉強したことは、いろいろな年齢層がいるので、即実践できて幸せだと思うんですが、講座に出るより何よりも、やっぱり子供たちと接することが一番自分の身になっていると思います。
やっぱり出会いだなと思うことはたくさんあります。ピアノの技術習得だけのピアノ教室にはなりたくないと思っていました。生徒が中学生になったら、女同士の話もするし、男の子との会話だったら、3週間ピアノを弾いていない子もいますし、カウンセラー的な部分もたくさんあります。受験の子たちもいますが、その子たちも全て順調なわけではないですし、中学校の何年間はスランプがあったりするし。そんなこともまとめて接することができたらと思っています。かなわない夢はないと思って子供たちにも伝えています。


─ これから更に、どのような教室にしたいですか?

川崎:そうですね。子供たちが大きくなってから、「ぼくはピアノを習っていた。ピアノが弾けるようになった」って言うだけでじゃなく、「ぼくの教室ではいろいろやったよー」とか、自分の子供が生まれたときには、「お父さんの出番はないのかい?」って言ってくれるような人に育ってほしくって。教室卒業した子も、何かにつけて必ずみんな集まってきてくれます。それが嬉しくて。
ずっとピアノの先生やっていたいです。
私はピアノの先生にはならないと思っていたのですが、今は天職だと思っているんです。レッスンが大好きです。


─ ありがとうございました。



ピティナ編集部
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