アンサンブル力を鍛える

第02回 竹中勇人さん(ヴァイオリン)

2007/10/26
インタビュー第2回 竹中勇人さん

ピアノは優れたアンサンブル楽器です。ピアニストの可能性を広げるアンサンブル力とは何かを楽器奏者、歌手、ピアニストのインタビューを通して探って行きます。第2回目は学校クラスコンサートでもご協力頂いているヴァイオリニストの竹中勇人さんにお話を伺いました

― まずは、ヴァイオリンという楽器について教えて下さい。

第2回

良くヴァイオリンとヴィオラは楽器のサイズが違うだけだと教科書に載っていたりしますが、元々はヴィオール属とガンバ属という違う先祖からスタートしています。コントラバス等を見てもらうと分かりますが、若干シルエットが異なるんですね。今現在においては殆ど考える必要はないかもしれませんが。ヴィヴァルディ以前から基本的な楽器の形は完成されていました。バスバーという中の板がありますが、これができたことによってロマン派以降は大きな音がでるようになり、20世紀になってガット弦()からスチール弦に張り替えたこと、顎あて・肩あての部分を足していった、それ以外は基本的にはあまり変わっていません。
特徴としては、弦楽器の中で一番高い音域の楽器であり、基本的には歌う、特にメロディーを歌う楽器、というのが一番の特徴です。管楽器や声楽のように息を吸う瞬間はないので、テクニックを総動員すれば限りなく長い節を弾くこともできます。逆に言えば、フレーズ・旋律・呼吸感を無くして弾くこともできる。もちろん撥音が良い楽器なので、小回り・テクニックはものすごく利く楽器ですね。あと、歌い方や・息の速さ・音楽の流れなどは弓を見れば一目瞭然なので、一つの目安となるかもしれません。
(※ガット弦・・・羊の腸を取り出して、内包物を除去し、薄い膜の状態にしたもの。)


― ピアノ+ヴァイオリンで音楽を創っていく上で、お互いの役割はどのように考えていますか。

日本語で伴奏とかアカンパニストとか言いますけど、確かにヴァイオリンがいてピアノが支えていると言う曲もあるし、そういう場面も多いと思います。でも自分のパートの役割というよりも、ヴァイオリンとピアノが合わさった最終目標を想像して弾いていないとダメだと思います。あえて役割を挙げるとしたら調弦してもらうことでしょうか(笑)
「自分がヴァイオリンパートを弾いている」「ピアニストはピアノのパートを弾いている」ではなくて、出来上がっている創造物のたまたま一部を弾いている、ということだと思います。殆どの場合においてヴァイオリンがどう弾くべきかということは、半分以上はピアノ譜に書いてあります。ピアノパートを弾いているときにおいても、ヴァイオリニストがこう演奏するであろう、ということを想像しながら音楽を創っていって欲しいですし、自分の想像を上回る演奏をして下さると、それは本当に良い共演者だということですね。


― ということはピアノの部分も参考にしながらヴァイオリンのフレーズは作っていくということですか?

そうですね。例えばヴァイオリン部分だけをみると、鳴らしやすいからとか、高いポジションで弾いたら格好良いから、というようになりがちですが、果たしてそういう感覚が曲の全体から見て合っているのか、ある種の「見せ場」と言うのが曲の中の全体と一致しているのか、ということを見たりもします。


― 演奏の時はピアノの音を注意して聴かれるのでしょうか。

細かいパッセージの一つ一つを聴くということはありませんが、メロディー・和音は聴きますし、リズムも聴きます。流れとかは聴いておくべきですし、お互いにそうあって欲しいと思います。


― 「ピアノに支えられている」という言葉がありましたが、どういう感覚なのでしょうか?

第2回

よく人間関係で、「手のひらの上で転がされている」ということがありますが、そういうのが一番良い関係だと思います。高音域でわがままに弾いているように見えて、結局は手のひらの上で転がされている(笑)。ヴァイオリニストが「俺について来い!」という部分も必要な時がありますし、音楽的なパッション(情熱)を相手に与え続けるのも大事ですが、僕は自分だけじゃなくピアニストと二人で一つのものを作っていると言う感覚を無くしたくないと、オーケストラに入って改めて思いました。こういうアンサンブル感覚は音楽家の魅力として無くしてはいけない部分だと思います。自分のわがままだけで、またすごいテクニックだからといって素晴らしい音楽ができるかというと、そうでないことも多いですよね。


― 例えば、無伴奏の演奏と室内楽の演奏では心持は違うのでしょうか?

無伴奏は100%完全に自分の世界を作らないといけないので、ある意味わがままな空間を作って勝負します。アンサンブルは、自分の世界はもちろんですが、自分のパートと他のパートも含めた曲全体を創るわけです。共演者が同じような曲全体を想像しているか、というと違うと思うんです。自分の世界を持っているけれども他の人の世界も受け入れる。そしてそれを楽しめる状況を作っていくことが心構えでしょうか。ヴァイオリンの部分だけを演奏する、という点を捉えれば50:50ですが、自分としてはピアノの部分も想像して演奏しているので100なんです。それがピアノと合わさった時、殆どの場合想像していた100とは違うものが出てくる。それが面白さであり、それが120、150になることがあれば、それは素晴らしい共演者と共演できた、ということになると思います。


― 良いアンサンブルピアニストの条件というのはありますか?

良くアンサンブル能力などと言いますけど、人間自身に置き換えればコミュニケーション能力だと思います。 本番の時なんかは、少しは自分の想像していた部分をわがままに出していく、というのも必要だと思います。その「わがまま」が結果的にうまく合わさっていくのが良い演奏だと思うのです。ある程度ピアニストも出して頂かないと成立しません。


― ピアニストとして、こういうところを注意しておくと合わせやすい、ということはありますか?

ピアニストに限らないと思いますが、楽器としての発音の特徴があるのでまずはその違いを受け入れるべきだと思います。その上で、お互い「こういう音を出すのではないか」「このタイミングで音を出すのでは」というような想像力が働くから、お互い出れると思うんです。お互い想像力が無ければ無いほど合わせるのに時間がかかるでしょうし、本番だって「えっ?」と思うことも多いでしょう。タイミングにおいても、動作にあわせるのでは受身的です。本当は、相手のタイミングはその人の呼吸などから想像することが大事です。ただし相手の想像が自分の想像と違う時がある、という事は受け入れるべきだと思います。


― ピアニストが理解しておくべきヴァイオリンのその他の特徴を教えてください。

第2回

楽器の大きさは、ピアノが大きいに決まってますよね。確かに音量については、落としてもらう必要がある部分が多々あると思います。ただ殺していいかというとそうでもない。個人的には音の慣らし方として、「見通しの良い音」を出して欲しい思います。例えば建物があった時に、壁が窓なのか、塗り壁なのかによって印象は違ってくると思います。そういう空間を想像してもらうと良いと思います。つまり和音のバランスということでしょうか。これは殆どのピアノ曲に言える事だと思いますが、ピアニストの方はそういう演奏の技術を良く知っていると思うのです。つまりたくさんの音の中でメロディーが浮き出るような弾き方ですね。音量も和音もボディとしてしっかり持っていながら、他の共演者の音が聴こえる、「見通しの良い音」が出るといいと思います。


― ピアニストが「これは譜読みをしていたら損は無い!」という曲はありますか?

ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタは全部見ておくと良いと思います。特に1、5、7、8、9、10。ブラームスのソナタも良いと思います。ベートーヴェンの1番なんかは自分の音楽の様式感を見直すのにも非常に良いと思います。ピアノ科の人が改めてベートーヴェンのピアノ・ソナタ第1番を弾くという機会は少ないと思いますが、ヴァイオリン・ソナタの1番であれば、初めて見る曲だから新鮮だと思いますし(笑)。


― 竹中さんにとって、「アンサンブル」とはなんですか?

僕の理想としてはアンサンブルをやりに行くということではなくて、普段から一人で練習している時からアンサンブルを意識する感覚でありたいと思いますね。ソロと違って良くも悪くも、自分で想像していなかった展開や、予想していなかった音楽が飛び出てくることがアンサンブルの一番の魅力ですね。


竹中 勇人
竹中 勇人(たけなか はやと)
新潟県出身。6歳よりヴァイオリンを始める。東京音楽大学付属高等学校を経て、東京音楽大学卒業。在学中特待生奨学金を得る。大学卒業と同時に新日本フィルハーモニー交響楽団に1stヴァイオリン奏者として入団。同年、東京音楽大学研究科に入学。同大学のヨーロッパツアーに参加し、ハノーヴァー、ベルリン、ケルン、ザルツブルグで西村朗氏の「NIRVANA」の初演を行う。また、新日本フィルのメンバーと日本各地で室内楽の演奏会を開く。ヴァイオリンを二村英之、中道三代子の各氏に師事。またL.カプランのレッスンを受ける。現在東京音楽大学助手。

ピティナ編集部
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