子どもの可能性を広げるアート教育

第13回 オーケストラによる子供向けコンサート比較

2009/01/30
【今週のお勧めサイト】 http://www.medici.tv/
MediciTVでは現在、ノーベル賞受賞式記念コンサート(王立ストックホルム・フィル、サー・ジョン・エリオット・ガーディナー指揮)等が視聴可能です。
オーケストラによる子供向けコンサート比較?創意工夫に満ちたプログラムと演奏をリポート
フランスでは新しい聴衆開拓を目指して、子ども&家族向け演奏会が頻繁に行われています。今回はOrchestre de Paris(パリ管弦楽団)Les Sieclesの演奏会をリポートします。2楽団とも作曲家の生涯を振り返りながら、曲の紹介をするという流れ。プログラムは以下の通りです。

・パリ管弦楽団 ブラームス 交響曲第2番/サル・プレイエル/60分
・パリ管弦楽団 ストラヴィンスキー バレエ音楽『火の鳥』/サル・プレイエル/90分
・Les Siecles J.S.バッハ&その息子達/サル・プレイエル/60分

パリ管弦楽団はチェロのソリストが、Les Sieclesは作曲家&指揮者がそれぞれナレーションを担当しました。それぞれ60分・90分という時間内に、どのように展開したのでしょうか。三者三様の内容をご紹介します。

◆ 演奏者の目線で、音楽の表現力を子供に伝える~パリ管弦楽団

1)ブラームス『ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲』(クリストフ・エッシェンバッハ指揮、エリック・シューマンvn、グザヴィエ・フィリップvc)~小学生対象

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11月20日パリ管弦楽団による小学生向けのコンサートが行われました。曲目はブラームスの『ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲』。この日会場には、6~10歳の小学生1200名が招待されました。

普段は標題音楽や舞踊曲を使うことが多い子供向けコンサートですが、今回はブラームス。どのように子ども達に聴かせるのでしょうか?

冒頭、ソリストのチェロ奏者グザヴィエ・フィリップ氏(Xavier Phillips)が司会を兼ねて、指揮者・ソリスト・オーケストラを紹介、続いてブラームスの人間像に迫っていきます。まず子供時代のエピソードとして、港の近くで育ったこと、父は音楽家ながら本人はほぼ独学で音楽を学んだこと、13歳の頃には家計を支えるためにカフェで演奏していたこと、等のエピソードが紹介されました。ブラームスは音楽家としての人生を、幼少の頃から運命づけられていたわけです。また54歳(1887年)に作曲されたこの二重協奏曲は、親友だったヴァイオリニスト、ヨゼフ・ヨアキムとの3年間に及ぶ絶交を解消するために作った「仲直りの曲」。うまく友好関係を修復できた暁に、同年ヨアキムとロベルト・ハウスマン(vc)の独奏にてケルンで初演されました。

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一通りエピソードを紹介した後、指揮者・ソリストの役割、音楽的表現(強い、弱い、等の表現)や楽曲構成(主題の提示、ハンガリー民謡の借用など)について、短い演奏を交えながら説明します。

そして最後は全体を通しての演奏。3楽章では小学生たちも参加しました。「このテーマが出てきたら、みんな手を挙げてね」という指示に、会場の全員が集中して音楽に耳を済ませます。テーマが聴こえてくると「あ、ここだ!」と張り切って手を挙げていました。小学生には音楽を身体で感じてほしい、という意図が伝わったようです。
なお、この演奏会プログラムを企画したのは、チェロ奏者Xavier Phillips氏とパリ管弦楽団スタッフHélène Codjoさんでした。

2)ストラヴィンスキー『火の鳥』(ブーレーズ指揮)~中高生対象

パリ・ルーブル美術館にて昨年11月より1ヶ月間、作曲家・指揮者ピエール・ブーレーズとの協同プロジェクト「fragments(断片)」が開催されました。これは、現代音楽と現代美術を関連づけながら、20世紀芸術を紐解く企画展です。

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その一環として、ブーレーズ指揮によるストラヴィンスキー『火の鳥』のマスタークラス(12月1日サル・プレイエル)とコンサート(12月2日ルーブル美術館ピラミッド下)が行われました。マスタークラスは一般聴衆のほか、13~18歳の中高生800名でホールは満席、翌2日は前日に入りきれなかった200名の中高生を含む1000名以上の聴衆が、ガラス天井のルーブル美術館ホワイエで音楽を堪能しました(2日コンサートは、http://www.medici.tv/で視聴可能)。

今回は主に中高生を対象にしていたため、前述の小学生向けコンサートとは異なり、より音楽の内容に肉薄していくプログラムでした。
まずスクリーンを使いながら、女性司会者が作曲の経緯やバレエの概要を説明していきます。初演当時の衣装・演出やダンサー、各楽器の役割、音楽とバレエの関係性などを説明しながら、重要なシーンを何箇所がピックアップして部分的に演奏を聴かせます。

冒頭、イワン王子がカスチェイの庭に入り込むシーンは、不気味さや不穏さを強調するような重厚な音色で始まります。火の鳥の出現や飛翔の瞬間などは、ハープ3台やフルート、ピッコロ、ピアノ、鉄琴等を使い、神々しく壮麗かつ煌びやかな火の鳥の姿を描いています。対して、カスチェイは半音階で示され、天地に轟くような轟音や重々しい音をホルンやテューバ等で、火の鳥の魔法による地獄の踊りは、ヴァイオリン等で雷鳴のように突き刺すような効果を出し、乱舞の果てに死に至る様子が表現されています。

30分ほどかけて丁寧に楽曲構成が説明された後、ブーレーズが再登場。拍手喝采を浴びながら、いよいよ全体を通しての演奏が始まりました。
ブーレーズの冷静かつ調和の取れた指揮は、ストラヴィンスキーの大胆かつ緻密な表現力、奥行きある人物・場面描写、火の鳥の神秘性などを、全体構成の明晰さを失うことなく、表現していました。そしてラストは、感動的なスタンディング・オベーションで締めくくられました。

マスタークラス後には別途テレビ収録が行われ、中高生15人ほどがブーレーズ氏を囲み、「自分のキャリアに対してどう思いますか?」「あなたは自分を作曲家、それとも指揮者だと思いますか?」「室内楽とオーケストラの指揮、どちらが難しいですか?」などの質疑応答が行われました。ブーレーズ氏は1問1問丁寧に答えていましたが、特に印象的だったのは子供達へのアドバイス。「自分自身の表現方法を見つけて、どんどんメッセージを発信して下さいね」。世界の第一線で活躍を続ける音楽家との交流は、子供たちにとっても忘れえぬ思い出になったことでしょう。


◆ レパートリーの豊富さ、切り口の面白さで魅せる~Les Siecles

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古典から現代曲まで様々な時代の音楽を演奏しようと、若手音楽家を中心に結成された管弦楽団Les Siecles(*Siecleとは「世紀」の意味)。創設者はフランソワ= グザヴィエ・ロス(François-Xavier Roth)、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団の準指揮者でもあります。
このLes Sieclesと作曲家ピエール・シャルヴェ(Pierre Charvet)のコラボレーションで、「バッハの家族(La Famille Bach)」という演奏会が行われました(11月29日午前/サル・プレイエル)

バッハ・ダイナスティとも言える一大音楽家系譜の頂点にたつJ.S.Bach。今回は大バッハとその子息たちの作品を並べながら、バッハのDNAがどのように次世代に受け継がれ、音楽史へ影響を与えたかを辿ります。

まずは大バッハのゴールドベルグ変奏曲から。この曲は不眠症に悩まされていた元ロシア大使von Keyserling伯爵が、長い夜を過ごすためバッハに作曲を依頼したもの。お抱えクラブサン奏者ゴールドベルグは、その寝室続きの間で演奏したそうです。第1変奏と第30変奏、つまり最初と最後の変奏を用いて、バッハがテーマをいかに発展させたかを浮き彫りにします。第30変奏には当時流行したシャンソン(野菜がテーマの歌!)2曲が対位法で登場し、主旋律に重なり合います。バッハ独特のユーモアや豊かな想像力が、手に取るように見えてきますね。

バッハの子息には、ウィルヘルム・フリードマン(Wilhelm Friedemann)、カール・フィリップ・エマニュエル(Carl Philipp Emanuel)、ヨハン・クリストフ・フリードリヒ(Johann Christoph Friedrich)、ヨハン・クリスチャン(Johann Christian)などがいますが、それぞれバロックの次に到来する古典派、ロマン派への架け橋となるような音楽を書いています。中でも長男ウィルヘルム・フリードマンは特に才能があり、美しいクラブサンの曲を残しています(Sonata 3 en trio pour 2 violons et basse continue en la mineur falck 49)。
よく知られているカール・フィリップ・エマニュエル(C.P.E.Bach)は、父J.S.バッハと、古典派ハイドンやモーツァルト等の間をつなぐ存在でした。また主にロンドンで活躍したヨハン・クリスチャンは、幼年時代のモーツァルトに影響を与えたとされています。それぞれの音楽に流れる流麗で品の良い旋律は、確かにバッハの遺伝子を受け継ぎつつも、それに甘んじることなく、次世代につながる新規性を具有しています。

コンサートの見せ場の一つは、J.S.Bach「フーガの技法(L'art de la Fugue BWV1080)」。オルガンではなく、アコーディオンを使って演奏されました。4声が複雑に絡み合う対位法を、アコーディオン1台で表現していたのは実に見事でした。(演奏者はElodie Soulard)

そして最後は、J.S.BachのPrelude et Fugue pour orgue BWV544に合わせて、全員で合唱!歌詞はこの演奏会のために書き下ろされたもので、とてもユーモラスでした。

隣の席で聴いていた少年アントワーヌ君(7歳)に演奏会の感想を聞くと、「Bien!(良かった!)」とにっこり。アコーディオンの独奏では、立って身を乗り出して聴いていたのが印象的でした。一台の楽器から色々な音と旋律が出てくることに驚いたようです。今は音楽院で基礎を習っているそうです。
*フランスの音楽院では、楽器演習の前に1~2年間の基礎課程があります。

~「子ども達が音楽を好きになってくれるように」との願いを込めた、各オーケストラや音楽家のプロジェクト。今年も多くの演奏会が予定されています。また機会があればリポートしたいと思います。


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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