ピアノ曲MadeInJapan

【こどものためのJAPAN7-3】 田中カレン作曲 『地球』 上級編

2011/10/28
chikyujoukyuu.JPG田中カレンさん作曲『地球』大解剖、最終回の今回は、前回の中級編につづき、上級編(「★★★」=ツェルニー30番後半以上)6曲を、音源とともに1曲ずつご紹介させていただきます!

弾いても聴いても大満足!
上級編ともなると、アルペジオやトレモロ、またジャズやダンス・ミュージックに近いリズム感など、かなり難しい要素も盛りだくさん!その分、流れ出る音楽も、より一層聴きごたえのあるものになります。細やかな音の連なりが、まるで錦織の生地のように艶やかに色合いを変えていく様子や、ノリよく刻まれるリズムが、あたかも生命の鼓動のように生き生きと紡がれていく感覚は、圧巻そのもの!弾いても聴いても、音楽に身を任せる喜びを存分に味わうことのできる、大満足な作品ばかりです。

技術とイメージ
例えば、急速なトレモロなど難しいテクニックは、リズム練習やアクセント練習などを積むことで、ある程度指は動くようになりますが、それだけではやはり音楽にならないところが、田中さんの作品の醍醐味でしょう。指が速く動いても、それが本当に風や光のように聴こえるか、また音価通りリズムを刻んでいるつもりでも、それが生きた鼓動のように聴こえるか・・・。幸い楽譜には、題名や発想用語など、曲のイメージがしっかりと書き込まれています。レッスンでは、まずは例えば絵を描いてもらうなど、イメージに注目を促すことが、案外、技術的な問題を音楽的にクリアするための近道となるかもしれません。

各曲ご紹介:アルペジオ編
以下、上級編の作品を、音源動画とともに1曲ずつご紹介させていただきます。まずは、特にアルペジオが美しい2曲、第7番「風力エネルギー」と第15番「地球」です。どちらも最初に、効率的な指使いをじっくり考えること、またなるべく和音に戻してハーモニーの色合いを感じることが、大切でしょう。


第7番 風力エネルギー
↓クリックすると音源動画をご覧いただけます!
chikyuYouTube.JPG「風のように軽やか」な分散和音やアルペジオに乗って、どこか懐かしく切ないメロディーが流れ ます。圧巻は、フラット系からシャープ系へとダイナミックにハーモニーが移り変わっていく、中間部のクライマックス!軽やかな風から生まれるエネルギーの強さを、実感します。


第15番 地球
chikyuYouTube.JPG「美しく大切な地球を思いながら」と書き込まれた、この曲集のタイトルともなった作品。宇宙からの映像でよく見るような、青く澄んだ神秘的な地球の姿が、本当に目に浮かぶ素晴らしい音楽です。雄大な中間部を経て、転調したテーマが戻ってくるときのペダルの使い方に、田中さんならではの響きへの研ぎ澄まされた感性を感じます。


各曲ご紹介:トレモロ編
次にご紹介するのは、トレモロを使った2曲、第1番「海」と、第13番「光」です。音の数が多いと、どうしても騒がしくなってしまいがちですが、そこをイメージと指先の感覚によって、なんとか淡く柔らかく表現したいものです・・・!


第1番 海
chikyuYouTube.JPG「青い海と水面に輝く光を思いながら」と書き込まれた、この曲集の最初の曲。ゆったりと始まる歌に続き、アルペジオとトレモロによる波と光の幻のような中間部が現れ、最後はまた歌に戻って終わります。これから始まる、この曲集の壮大な物語へと誘うような、とても素敵な作品です。


第13番 光
chikyuYouTube.JPGほぼトレモロのみによって構成された、技術的に高度な、そしてその分非常に美しい作品。音が移り変わるときに、ついついガクッと段差ができてしまいがちですが、「とてもやわらかに。キラキラと輝く美しい光を思いながら」弾くことによって、絹のようになめらかに弾きたいものです。腕に力が入ると痛くて最後まで弾けないので、脱力の勉強にもなる作品でしょう。


各曲ご紹介:リズム編
最後にご紹介するのは、リズムが特徴的な2曲、第5番「マグマ」と第14番「生命の楽園」です。両曲とも、クラシックというよりは、ジャズやダンス・ミュージックに近いビート感、グルーブ感に満ちた作品で、とてもカッコいいです!ただそれを本当にカッコよく弾くのは、なかなか難しい・・・。クラシックのみならず幅広い音楽への興味が、大切になるでしょう! 


第5番 マグマ
chikyuYouTube.JPG地の底からマグマが湧き出てくるような、とても「エネルギッシュ」な作品。伴奏が6/8拍子(2拍子系)、メロディーが3/4拍子(3拍子系)で刻まれる中間部は、なんとか伴奏の2拍子系のノリで3拍子のメロディーを歌えると、カッコよく弾けます。冒頭や最後のアッチェレランドは、思い切って前進しましょう!


第14番 生命の楽園
chikyuYouTube.JPG田中さんいわく「チック・コリアやクインシー・ジョーンズのようなドライブ感、また上原ひろみさんのような体全体でリズムに入り込む集中力とノリ」が大切となる、「生き生きと喜び」に溢れた作品。私自身、ジャズのその圧倒的なノリにはまだまだ到達できずにいるのですが、よく動画を見ては躍動感溢れるリズムにしびれています・・・。鍵は、田中さんのお言葉による「ドスの効いた感じ」の低音や、クールでメリハリの効いたタッチでしょうか・・・。自分で弾いていても、ついつい踊り出したくなるような、とても楽しい曲です。


田中カレンさん作曲『地球』、いかがでしたか?この宝石のような15曲の作品を、ぜひぜひみなさんも、弾いて聴いてお楽しみくださいませ!


今回の連載にあたり、カリフォルニアご在住の作曲者、田中カレンさんに、
メールを通じて日々たくさんのアドヴァイスをいただくことができました。心より感謝しています。




須藤 英子(すどうえいこ)

東京芸術大学楽理科、大学院応用音楽科修了。在学中よりピアニストとして同年代作曲家の作品初演を行う一方で、美学や民族学、マネージメント等について広く学ぶ。04年、第9回JILA音楽コンクール現代音楽特別賞受賞、第6回現代音楽演奏コンクール「競楽VI」優勝、第14回朝日現代音楽賞受賞。08年、第8回オルレアン国際ピアノコンクール(フランス)にて、深見麻悠子氏への委嘱・初演作品が、日本人として初めてAndreChevillion-YvonneBonnaud作曲賞を受賞。同年、野村国際文化財団、AsianCulturalCouncilの助成を受け、ボストン・ニューヨークへ留学。09年、YouTubeSymphonyOrchestraカーネギーホール公演にゲスト出演。現在、現代音楽を中心に、幅広い活動を展開。和洋女子大学・洗足学園高校音楽科非常勤講師。
ホームページ http://eikosudoh.webcrow.jp/

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