ピアノ曲MadeInJapan

◆大人のためのJAPAN13◆ 一柳慧『ピアノ・メディア』 (1970's-1「鍵盤への回帰」)

2011/05/19
一柳慧作曲『ピアノ・メディア』 。知る人ぞ知る、超人的ピアノ曲です!一度聴き始めたら、最後まで止められない...。まずはどんな作品か、動画でお楽しみください!

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鍵盤への回帰
お聴きいただいた通り、同じフレーズの繰り返しによって作られているこの曲は、1972年に一柳慧氏によって作曲されたものです。一柳氏といえば、それまでは前衛音楽最前線の作曲家!以前当連載でもご紹介させていただいた通り、図形楽譜による偶然性の音楽を通して、ジョン・ケージに代表されるアメリカ実験音楽を日本に紹介した第一人者でした。その一柳氏が、図形楽譜をやめ、内部奏法も排し、文字通り鍵盤音楽に回帰して発表したのが、この作品!『ピアノ・メディア』は、一柳氏自身の転換点となる作品であると同時に、「前衛音楽の終焉、ポスト・モダンの萌芽」として、日本の現代音楽の歴史的転換点ともなる作品となりました!

『ピアノ・メディア』とは
110516_1528491.jpg1972年に、ピアニスト高橋アキ氏によって初演されたこの曲は、右手が9音からなるフレーズを徹底的に繰り返し、そこに左手が異なった拍数のフレーズを投入していく、というシステムで作られています。作曲の直接の契機は、モーツァルトのピアノソナタのコンピューターによる自動演奏を聴いた作曲者の驚きと反発であったそうですが、その根底の作曲システムは、一柳氏がニューヨーク滞在時に知った、ミニマル・ミュージックという新しい現代音楽の書法によるものでした!以前は「全音ピアノ・ピース370番」として、ピースとしては珍しいオシャレな装丁で楽譜が販売されていたこの作品。ここ数年で残念ながら絶版になってしまったようで、再販希望のお声もよく聞きます。

ミニマル・ミュージックとは
ところで、先のミニマル・ミュージックとは、どのような音楽でしょうか。よく知られているのは、アメリカの作曲家スティーヴ・ライヒの『ピアノ・フェイズ』です(→参考動画)。反体制的カウンターカルチャーが渦巻く60年代後半のニューヨークにて生み出されたこの音楽は、「反復」と「漸次的変化」を特徴とするもので、一定のビートや調性感を持つ点で、それまでの前衛音楽とは一線を画すものでした。一柳氏はこのシステムを応用し、さらに独自の構築法を用いることによって、この『ピアノ・メディア』を生み出しましたが、その後多くの作曲家が同じくミニマル的手法を用いつつ、新しい音楽を生み出していくことになります。

ポスト・モダン時代へ
「クラシック音楽を学ぶには、やはり本場ヨーロッパへ留学したい」という思いは、今も昔も多くの日本人演奏家が抱くものですが、日本人作曲家の世界では、この1970年代頃から次第に、「より上を目指すために」と欧米へ目を向ける意識が弱まっていきます。その背景には、欧米の現代音楽が行き詰まり、規範的な大きな動きが少なくなったこと、またドル・ショックやオイルショックといった社会的ショックを体験し、海外を頼るよりも自身の内側や同じアジア各国へと目を向ける意識が強まったことなどが挙げられるでしょう。価値観の相対化と多元化...。日本の現代音楽界も、真の意味で独自の個性を重視するポスト・モダン時代へと、いよいよ突入していくことになります。


参考文献
日本の作曲20世紀 音楽之友社 1999
はじめての音楽史 音楽之友社 1996
石田一志「モダニズム変奏曲」
日本戦後音楽史研究会編 日本戦後音楽史(上) 平凡社 2007

須藤 英子(すどうえいこ)

東京芸術大学楽理科、大学院応用音楽科修了。在学中よりピアニストとして同年代作曲家の作品初演を行う一方で、美学や民族学、マネージメント等について広く学ぶ。04年、第9回JILA音楽コンクール現代音楽特別賞受賞、第6回現代音楽演奏コンクール「競楽VI」優勝、第14回朝日現代音楽賞受賞。08年、第8回オルレアン国際ピアノコンクール(フランス)にて、深見麻悠子氏への委嘱・初演作品が、日本人として初めてAndreChevillion-YvonneBonnaud作曲賞を受賞。同年、野村国際文化財団、AsianCulturalCouncilの助成を受け、ボストン・ニューヨークへ留学。09年、YouTubeSymphonyOrchestraカーネギーホール公演にゲスト出演。現在、現代音楽を中心に、幅広い活動を展開。和洋女子大学・洗足学園高校音楽科非常勤講師。
ホームページ http://eikosudoh.webcrow.jp/

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