ピアノ曲MadeInJapan

【こどものためのJAPAN4-3】 三善晃作曲『海の日記帳』 上級編

2011/02/18
海の日記帳難易度表上級.JPG 三善晃作曲『海の日記帳』大解剖、最終回の今回は、上級編(「★★★」=ツェルニー30番後半以上、高度な読解力と音楽性を要する曲)9曲を、ご紹介させていただきます!

オトナな裏技を磨く!
譜読みが難しく、様々なテクニックも必要とされるこのレベル(レガートやスタッカート、アクセントやテヌート、また拍子の変化やウラノリのリズム、そして手の交差やグリッサンドなど...)。さらに、それら楽譜に書いてあることをきちんと弾けただけでは、まだまだ音楽にならないところに、真の難しさがあるように思います。 

例えば、曲想がガラリと変わるところでの、楽譜には書いていない微妙なテンポの「揺れ」や、一瞬の「間」。これらは、あからさまにやると間違いとなってしまうものですが、センスよく取り入れられれば、実に生き生きとした音楽を生み出すものです。繊細で美しい三善作品を素敵に弾くには、それらオトナな裏技が不可欠でしょう。 

各曲ご紹介!
裏技を使いこなし、説得力ある演奏をするためには、まずは楽譜から変化を読み取る読譜力が必要です。以下ご参考までに、音源とともに、曲中の大きな【転調】とテクニック的な《特性》を記しました。が、それら読み取ったことを生かすのに本当に必要なのは、豊かな想像力とともに、多くの耳の経験かもしれません。言葉にならない微妙な表現を、感覚的に知っていること...。まずは先生が、実際に演奏して様々な可能性を示すことができれば、生徒さんは幸せですね。その点この『海の日記帳』は、先生にとっても追求しがいある、奥深い教材だと確信しています。

thumbnail.gif第17番 波と夕月
【c-moll→(左ページ5段目)f-moll→(右1段目)g-moll→(右2段目)Des-dur→(右3段目)c-moll】 《レガート》
左手の波が右手夕月に照らされて、様々な色合いを見せる曲。転調したかと思うとすぐ次の調へと変化してゆく中間部は、手の交差も含み、まるでオーロラのようです。あくまでもレガートの中で、様々な波の表情を出す技術が必要とされます。


thumbnail.gif第19番 シレーヌの機織り歌 【gis-moll→(右1段目)H-dur→e-moll→(右2段目)gis-moll】 《レガート》
4つの声部が絡み合いながら、美しい布を織り成していくような曲。常に刻むシンコペーションのリズムが、淡々とした機織りの様子をうかがわせます。転調部分で一瞬声部が減り、のびやかな雰囲気が漂いますが、すぐにまた元の仕事に戻り...。どこか人魚の悲哀を感じさせる曲です。



thumbnail.gif第21番 ソ,ソ,ソ......の小烏賊(いか)たち【C-dur→(左3段目)Es-dur&c-moll→(右2段目)C-dur】 《レガート》
テヌートが付いた「ソ」の周りで、様々な色合いの小烏賊が戯れています。遠い調へ転調する中間部は、ガラッと天気が変わり、海の色が変化する感じでしょうか。どんなに小烏賊が戯れようとも、「ソ」のテヌートをしっかり出す、指の分離が求められる曲です。



thumbnail.gif第23番 わんぱくさざえ
【C-dur→(左3段目)a-moll→(右1段目)C-dur→(右3段目)Des-dur→(右4段目)C-dur】 《リズム》
ポップなリズムに乗って、さざえが元気に遊んでいます。アクセントの部分が、どうも'もぐらたたき'のように思えてしまうのは、私だけでしょうか...。平行調mollへの転調で、少し疲れを見せますが、最後Des-durへの転調と、そこから戻ったC-durの部分は、ハイテンションそのもの!



thumbnail.gif第24番 手折られた潮騒
【c-moll→(1ページ3段目)Es-dur→(2ページ2段目)gis-moll→H-dur→(2ページ4段目)b-moll→(2ページ5段目)f-moll→(3ページ1段目)c-moll(3ページ5段目)Es-dur→(4ページ2段目)gis-moll(4ページ5段目)c-moll】 《ハーモニー》
曲集中、最もページ数が多い曲。細かな音が多くテンポも速いので難しく感じますが、小節ごとの大きなハーモニーの中で、細かな音がキラキラ輝いているようにイメージすると、格段に弾きやすくなります。細かな音が水しぶき、ハーモニーが波でしょうか...。淡く、でも劇的に変化してゆく調性が、変幻自在な潮騒を連想させます。



thumbnail.gif第25番 さよりっ子たちの訪問
【F-dur→(1ページ1段目)d-moll→(1ページ3段目)Fdur→(1ページ4段目)d-moll→(2ページ3段目)B-dur、Des-dur→(2ページ4段目)f-moll→E-dur→(3ページ1段目)F-dur→d-moll→(3ページ3段目)F-dur】 《レガート》
細長くて美人、どこか憂いを秘めたさよりっ子たちが、みんなで泳いでいます。中間の鮮やかな転調部分でちょっとした事件が起き、一瞬シャープ系の明るい海に投げ出されますが、すぐに元調に戻り...。決して滞らない美しいレガートが、さよりのしなやかな泳ぎを連想させます。



thumbnail.gif第26番 磯波のキャプリス
【d-moll→(2ページ3段目)F-dur→(2ページ4段目)d-moll】 《リズム》
磯に打ち寄せる波が、気ままに戯れているような曲。あちらに当たって砕け、こちらに当たって砕け...。転調がほとんどない代わりに、アクセントや拍子の変化で、波の様々な様子が表現されています。



thumbnail.gif第27番 水泡のおにごっこ 【g-moll→(2ページ4段目)a-moll→(3ページ2段目)g-moll】
軽さの中に、おにごっこの緊迫感とじゃれあう楽しさが漂う曲。捕まりそうになりながらなりながら、唯一の転調部でとうとうつかまってしまった感じでしょうか。調号はシ♭のみですが、隠れた本来の調はg-mollです。





thumbnail.gif第28番 波のアラベスク
【gis-moll→(2ページ1段目)a-moll→(2ページ3段目)gis-moll→(3ページ2段目)h-moll→(3ページ4段目)H-dur】 《ハーモニー》
どこか懐かしさを秘めた、美しい曲。頻繁に現れるピカルディ(mollの曲で、同主調のdurの和音で終わる終止形)が、波のやわらかなさざめきを思い起こさせる1ページ。転調とともに、時に激しく立ち上っては打ち寄せる波を描く2ページ。そして、徐々に平行調に転調し、全てを儚い夢へと導く3ページ...。名曲です!

須藤 英子(すどうえいこ)

東京芸術大学楽理科、大学院応用音楽科修了。在学中よりピアニストとして同年代作曲家の作品初演を行う一方で、美学や民族学、マネージメント等について広く学ぶ。04年、第9回JILA音楽コンクール現代音楽特別賞受賞、第6回現代音楽演奏コンクール「競楽VI」優勝、第14回朝日現代音楽賞受賞。08年、第8回オルレアン国際ピアノコンクール(フランス)にて、深見麻悠子氏への委嘱・初演作品が、日本人として初めてAndreChevillion-YvonneBonnaud作曲賞を受賞。同年、野村国際文化財団、AsianCulturalCouncilの助成を受け、ボストン・ニューヨークへ留学。09年、YouTubeSymphonyOrchestraカーネギーホール公演にゲスト出演。現在、現代音楽を中心に、幅広い活動を展開。和洋女子大学・洗足学園高校音楽科非常勤講師。
ホームページ http://eikosudoh.webcrow.jp/

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