ピアノ曲MadeInJapan

☆インタビュー第10回 〔NYレポート2〕 小野真理さん

2008/11/17

〔NYレポート2〕 ミュージック・フロム・ジャパン 小野真理さん 「続けることの大切さ」

「ミュージック・フロム・ジャパン」。コントラバス奏者の三浦尚之さんと、ダンサーでいらした小野真理さんを中心に、日本の現代音楽をアメリカに紹介する活動を、これまで33年間に渡って地道に積み重ねてこられた組織です。主な事業は、年1,2回のコンサートツアーと、そのための新曲委嘱、そして日本の作品のデータベース運営。エンターテイメントの国アメリカにて、日本の現代音楽は、どのように受け入れられてきたのでしょうか。マンハッタンチェルシー地区の素敵な事務所に伺い、エグゼクティブの小野真理さんに、お話を伺いました。YouTubeなどのインターネットサイトを通じて、経済のみならず、私たち音楽家の世界も一気にグローバル化してきた昨今。日本人音楽家としてこの世界で生きていくためにも...、小野さんの貴重なお話をどうぞお楽しみください!



アメリカ人の耳

「ミュージック・フロム・ジャパン」が始まった70年代半ばは、ニューヨークでも日本でも、現代音楽が盛んになり始めた頃でした。そのような中、ニューヨークでコントラバス奏者として活躍していらした三浦尚之さんが、ご自分にしかできいないことを、と始められたのが、日本の現代音楽をアメリカに紹介する「ミュージック・フロム・ジャパン」でした。当時の日本の音楽は(伝統音楽はまだしも現代音楽など)、アメリカ人にとってはほとんど馴染みのない音楽。当初は、その拍節感のなさやシンプルさについて、「忍耐、忍耐、そしてご褒美」といった批評も受けたそうです。その後、地道に活動を続けられて33年、今ではアメリカ人の耳も、その異質な音楽を受け入れるようになってきました。「私たちがやってきたことも、文化の一面を切り開く一助を担ってきたのかもしれません」と、小野さん。


地域による差

毎春の全米ツアーでは、日本の現代音楽を携えて、ニューヨーク以外にも、例えばテネシーやアラバマなど、様々な地域をまわられます。ニューヨークでは、尺八やお筝、座禅などの日本文化を自分から学ぶような親日家の人々も多く、コンサートもやりやすいそうですが、その他の地域となると状況は全く違うとのこと。やはり今も、「よく知らない国のよく分からない音楽を聴いてくださっている」感じがあるそうです。それでも中には、「このコンサートのために3時間かけて来ました」という地方の方々もいらっしゃるそうで、そういう方のためにも、「言葉や文化の違いを超えて、人々の心に直接アプローチしてくれるような演奏を、優れた演奏家の力をお借りしてお届けしたい」と小野さんはおっしゃいます。


日本の湿気

アメリカ人にとって異質な日本の文化。ではそのアメリカと日本の根本的な違いは、どこにあるのでしょうか。小野さんはそれを、「湿度の違いに感じる」とおっしゃいます。カラッとしたアメリカの天候と、なんとなくモヤッとした日本の天候。それはそのまま、そこから生まれる文化の違いにもなっているのかもしれません。そしてその文化の違いは、演奏家による演奏の違いにも表れているとのこと!「ミュージック・フロム・ジャパン」では、当初からアメリカ人の演奏家による日本人作品の演奏を進めていらっしゃいましたが、日本人による日本人作品の演奏と、アメリカ人による日本人作品の演奏では、それはそれは曲の感じが変わるそうです。そしてそれは、作曲家にとって、とても興味深いものであるとのこと!私たち演奏家にとっては、無意識な部分での文化の違いかもしれませんが、それでもその違いを認識していくことは、どのような作品の演奏でも大切なことかもしれません。音楽は、異文化理解の大切なツールでもあるのですね。


世界への情報発信

ところで「ミュージック・フロム・ジャパン」のホームページでは、日本の現代音楽の膨大なデータベースが、英語で公開されています(http://www.musicfromjapan.org/mfjdata.html)。そしてそこには、世界中からのアクセスがあるとのこと!例えば、日本に公演に行く予定のアフリカの児童合唱団から、「せっかく日本に行くので、日本の曲も持っていきたいのですが、何か良い曲はないですか」との問い合わせがあったり...。33年に渡るご活動を経て、最近ではこのような形で、世界中の様々な団体によって日本の作品が演奏される機会も増えてきたとのこと。「新しい作品を紹介し続けるのは大変な活動ですが、続けていると注目してくださる方も出てくるのです」と小野さん。まさに'継続は力なり'。信念を持って何かを続けることの大切さを、教えていただきました!



最後に、アメリカの音楽界で活動を積み重ねていらした小野さんに、日本の演奏家へのメッセージをお願いしたところ、「日本人の演奏家がこちらでリサイタルを開かれるときに、プログラムの中に1曲でも日本人作曲家の作品が入っていると、とても良いのですが...」と!それは、世界を視野に入れたときに、私たち日本人演奏家にとって最もやりやすい具体的な行動の一つかもしれませんね。...その際のレパートリー作りには、是非「ミュージック・フロム・ジャパン」やピティナ「ピアノ曲事典」の日本人作品データベースのご活用を!

photo by Ken Howard

須藤 英子(すどうえいこ)

東京芸術大学楽理科、大学院応用音楽科修了。在学中よりピアニストとして同年代作曲家の作品初演を行う一方で、美学や民族学、マネージメント等について広く学ぶ。04年、第9回JILA音楽コンクール現代音楽特別賞受賞、第6回現代音楽演奏コンクール「競楽VI」優勝、第14回朝日現代音楽賞受賞。08年、第8回オルレアン国際ピアノコンクール(フランス)にて、深見麻悠子氏への委嘱・初演作品が、日本人として初めてAndreChevillion-YvonneBonnaud作曲賞を受賞。同年、野村国際文化財団、AsianCulturalCouncilの助成を受け、ボストン・ニューヨークへ留学。09年、YouTubeSymphonyOrchestraカーネギーホール公演にゲスト出演。現在、現代音楽を中心に、幅広い活動を展開。和洋女子大学・洗足学園高校音楽科非常勤講師。
ホームページ http://eikosudoh.webcrow.jp/

【GoogleAdsense】
ホーム > ピアノ曲MadeInJapan > インタビュー> ☆インタビュー第10...