ピアノ曲MadeInJapan

◆大人のためのJAPAN5◆諸井三郎『ピアノ・ソナタ第2番』(1940's-2「エリート西欧派」)

2007/06/22

子どもたちにピアノを教えるとき、私はよく"同じメロディー探し"をさせます。最初に出てきたメロディーがまた出てくる、それを発見すると、子どもの顔がパッと明るくなります。「やった!繰り返しだから練習しなくても平気っ!」と...。


形式美・構造美

繰り返しをもつ作品は、ソナタやフーガ、変奏曲など、クラシック音楽の中にはたくさんあります。主題となるメロディーの有機的な結合と論理的な展開...。作品の形式的・構造的な美しさは、西洋音楽の究極の目的のひとつであってきた、とも言えるでしょう。今回ご紹介する「エリート西欧派」は、前回の「民族日本派」とは裏腹に、こうした西洋的な美学こそを大切にする作曲家の集まりでした。


師匠はベートーヴェン狂!

第5回

「エリート西欧派」グループの師匠、諸井三郎。彼が作曲を志したのは、ベートーヴェンの《ピアノ・ソナタ》との出会いがきっかけでした。主題の結合と発展による、力強く説得力に満ちた音楽。日本人に足りないそうした論理性や構築性を、音楽を通して提供することこそが自身の使命、と考えたのです。東京帝国大学(現・東大)にて「音楽形式の原理(卒論)」を、その後ドイツにて本場の絶対音楽を学んだ諸井は、帰国後それらを体現した作品を次々と創作します。その一つが、今回の音源「ピアノ・ソナタ第2番」でした。


諸井三郎「ピアノ・ソナタ第2番」より第1楽章 (外部リンク:著者HPへ)

...私の拙い分析によると、この作品は、力強いA主題(Adagio energico)と、諧謔的なB主題(Allegro ma non troppo)、そして幻想的なC主題(Adagio tranquillo)を3本柱として、4つの部分に展開されます。第1部ではA→B主題、第2部(1'04"~)ではA→C→B主題、第3部(4'10"~)ではA→C→B主題が各々転調されながら、そして第4部(7'38"~)ではA主題が同主調にて、各々変形されながら現れます。短調に始まり長調に終わる、全曲を通した劇的な転調が印象的です。


"主題の展開を重んじる派"

そんな諸井の精神を受け継ぐ弟子たちによって1946年に結成されたのが、「新声会」という作曲グループです。主要メンバーには、柴田南雄入野義郎戸田邦雄 などがいました。前回ご紹介した「新作曲家協会」が"生活派""在野派""主題の展開を重んじない派"(=「民族日本派」)とされるのに対し、この「新声会」は"技術派""アカデミスト""主題の展開を重んじる派"(=「エリート西欧派」)とされています。他の作曲グループ同様、彼らも定期的に演奏会を開き、作品を発表していきました。


最先端がリアルタイムに

連載5回

諸井同様、当初は彼らも《ソナタ》や《変奏曲》など形式的な作品を創作していました。が、規範とするドイツ音楽自体は、ワーグナーシェーンベルク等の試みにより、1900年代初めからすでに「無調音楽」「現代音楽」へと変貌を...。そうした最先端の状況が、50年代にはリアルタイムで日本にも伝わるようになり、「新声会」メンバーの音楽も大きく変化していきます。そしてその変化が、日本の作曲界、また音楽界全体に変化をもたらしていくことになるのですが...。

次回は、残るもう一つのグループ、「中間折衷派」をご紹介したいと思います。
どうぞお楽しみに!


須藤 英子(すどうえいこ)

東京芸術大学楽理科、大学院応用音楽科修了。在学中よりピアニストとして同年代作曲家の作品初演を行う一方で、美学や民族学、マネージメント等について広く学ぶ。04年、第9回JILA音楽コンクール現代音楽特別賞受賞、第6回現代音楽演奏コンクール「競楽VI」優勝、第14回朝日現代音楽賞受賞。08年、第8回オルレアン国際ピアノコンクール(フランス)にて、深見麻悠子氏への委嘱・初演作品が、日本人として初めてAndreChevillion-YvonneBonnaud作曲賞を受賞。同年、野村国際文化財団、AsianCulturalCouncilの助成を受け、ボストン・ニューヨークへ留学。09年、YouTubeSymphonyOrchestraカーネギーホール公演にゲスト出演。現在、現代音楽を中心に、幅広い活動を展開。和洋女子大学・洗足学園高校音楽科非常勤講師。
ホームページ http://eikosudoh.webcrow.jp/

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