ピアノ・レビュー

コラム「アップライトよりグランド?」

2004/12/10

結論から言えば、基本的にはグランドピアノの方が機能的に優れていることは間違いありません。ただし、「どのグランドピアノでも間違いなくアップライトよりも良い」とはいい難いです。そう単純ではないだろうな、というのはおそらくどなたも予想されるところではないでしょうか。

設計上、基本的にはグランドピアノの方が楽器としての性能が高いことは確実です。その根拠については楽器メーカーのホームページ等で詳しく紹介されていますので、ご参考にされるとよいでしょう(ページ末尾にリンクを置きます)。例えば両者の比較でよく引き合いに出されるのは同じ鍵盤の1秒間あたりの打鍵数、というものです。一般にグランドピアノは一秒間に14回から16回の打鍵が可能。これに対しアップライトピアノは10回以下だそうです。

この弱点を解決するため、国内外の各メーカーで機構的な工夫をしたモデルが作られていますが、確かに反応速度は改善されているものの鍵盤の戻りの感触が変わったりして、明らかにグランドに近づいた、と言い切れるものにはまだ出会えていません。そのようなわけで、この一点を考えてもグランドのメリットは今更強調しなくとも明らかですので、このコラムはアップライトピアノの価値を再確認することを目的にしたいと思います。

アップライトピアノを選ぶメリットはスペースが節約できること、安価であること、そしてアップライトピアノならではの名品が選べる、ということです。

スペースの問題は日本のような住宅環境では切実で、国内メーカーのアップライトモデルの充実ぶりもこれを反映するものだと思います。最近はデザインが洗練されたものが用意され、いまだ真っ黒のものがほとんどであるグランドより、この方面での選択の幅が出てきています。

価格差については、特にヨーロッパのピアノについて非常に顕著なところです。例えばスタインウェイのアップライトモデルは400万円弱。一般的な国産のグランドピアノの価格を超える高価な品ですが、同社のグランドピアノに比べると半額近い価格です。私が試弾したK型は状態がよかったかもしれませんが、低音の迫力などはグランドのO型(奥行き180cm)に匹敵するものと思えました。これは弦の長さが構造上O型と同程度であるからだそうです。

またアップライトピアノの製造を得意とするメーカーの存在は特に強調したいところです。スタインウェイ、ベーゼンドルファーの2大メーカーがアップライト製造にかける手間や作りこみはグランドにかける力とまったく同等と思えます。どちらも素晴らしい楽器です。他に私が感銘を受けたアップライトピアノとしてはアポロ、ザウター、プレイエル、ベヒシュタイン、シュタイングレーバー、グロトリアンなどを挙げることができます(それぞれピアノ・レビューで既出、あるいはこれから扱って行きたいと考えているピアノです)。特に後の3つのメーカーのアップライトに関してはピアノは気品ある音や、多様な音色を作りだそうとする際の操作性、モデルによっては音量についても、平凡な出来のグランドを大きく超えることがあります。比較的安価な前3者に関しても独自の機構や音の個性には強く惹かれました。

スタインウェイやベーゼンドルファーのピアノは前述のようにかなり高価ですが、その他のメーカーのピアノには国産のグランドピアノを下回ったり、同程度の価格帯のものもあります。例えば同音連打が多用される近・現代曲を相当のスピードで弾くことを目的とする方にアップライトピアノは勧められません。しかし速く正確に弾くことがピアノを練習する主目的ではないとすれば、個性ある音、世界の一流の音を限られた住環境で、比較的安価に求めたい方には検討範囲にお入れになることをお勧めします。

端的に言えば音の貧しいグランドか豊かなアップライトか、で迷う局面がありえます。

ヤマハ・ピアノシティのページ
アップライトピアノとグランドピアノの違い」 という項目があります。

文責 実方 康介


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