ロンドンレポート

ミニ・モーツァルト No.2インタビュー:赤ちゃんだからこそ生の音楽で

2012/12/25
日本語English】 【No.1No.2
ミニ・モーツァルト No.2インタビュー:赤ちゃんだからこそ生の音楽で

インタビュー動画(大きい画面で見る)

赤ちゃんの最初の音楽との出会いを作るミニ・モーツァルト。その創始者のクレアに、創設に至る背景や、ミニ・モーツァルトのクラスをプログラミングする上でのポイント、背後にある考えなどをインタビューした。

インタビュー:クレア・ルイーズ・ショー
(Clare Louise-Shaw:ミニ・モーツァルト創始者)


ミニ・モーツァルトの始まりは身近な少人数から

クレア・ルイーズ・ショー

箱の中の楽器に興味津々
― ミニ・モーツァルトは、いつ、どのように始められたのですか?

もう7年ほど前、私の息子が1歳になる頃でした。NCT( National Childbirth Trust)という育児ネットワークの出産前クラスからの友達9人ほどと定期的に集まっていたのですが、その日たまたま雨が降っていたので、「私の家に来て何か楽しいことしましょうよ!」と言って、まさにこの部屋でピアノとヴァイオリンを弾いてあげたのが始まりです。

たいてい9組もの親子で集まると、常に誰かが泣いたり暴れたりしているものですが、驚いたことに、私がヴァイオリンやクラリネットを演奏すると、その間1時間あまり、子供たちはみな、「はーっ!」と、まさに釘づけになったのです。それを見て私は、「あぁ、これだわ、私の欲していたものは!」と思ったのです。

それからは、来る友達が1人また1人と増え、自宅では収容しきれなくなったのでアーツセンターに場所を変え、また人が聞きつけて「私たちも参加できる?」「私たちの近くでもやって!」と要望がでて、回数を増やし、場所を増やし...と、次第にどんどん大きくなってきたのです。

― ミニ・モーツァルトを始める前のバックグラウンドは何ですか?

ミニ・モーツァルトは、私のこれまでの人生の大きく3つのキャリアの集大成なのです。1つはもちろん、ミュージシャンとしての学位と経験です。専門教育の間にも、私は常に、オーケストラやバンドに参加したり、ジャズやディズニーランドで歌ったりという幅広く音楽を楽しむ経験をたくさんしてきました。2つ目は、親としての子育て経験。1番目の子どもの成長とともに、見えてくる視点、やってみたいこともどんどん増えてきています。3つ目は、BBCの音楽番組のプレゼンターとして放送に関わったことです。ヤング・ミュージシャン・オブ・ザ・イアーのイベントマネージャーを務めていた時に、そのドキュメンタリー番組の司会と演出をしてみないかと言われ、その後BBCが放送するプロムスやオペラなどの数々の音楽番組のプレゼンターとして5年ほど務めたのですが、その経験も、こうしたクラスを実施運営する上で非常に役に立っています。


生の音楽が、「知りたい、聴きたい、やってみたい」の主体的な欲求を引き出す

楽しみながらエクササイズ
― ミニ・モーツァルトと他の多くの音楽クラスとの違いは何ですか?

音楽のクラスは数えきれないほどたくさんあります。CDなどを使うクラスも、自宅でもできることですし、得るものは多くありますが、ミニ・モーツァルトの特徴は、すべて生の音楽で行うことです。子どもたちが、生の音楽やミュージシャンとインタラクティブに関わるということは、録音の音楽ではできないことで、それが子供たちに、単に聞き流すだけではなく、主体的に「聴く」ことを促すことにつながるのです。ここの講師は、みな大学の音楽の学位を持っている才能あるミュージシャンです。そうしたミュージシャンの音楽への真の情熱というものは、クラスを通じてみなに伝わります。私たちが求めているのは、子供たちが生の音楽への情熱の感覚をつかむことです。それは、いいミュージシャンが生で演奏するのに接することでのみ得られるものです。それらが、ミニ・モーツァルトが特に提供できる利点だと思っています。

― 目の前で演奏を聴くということは、赤ちゃんにとって驚きの体験ですね

今は家の中でも外でも、音楽や音は巷にあふれています。ですから、子供は耳から入るもの全てを聞かないようにすることに、既に慣れています。また、家族に楽器を演奏する人がいなければ、子供にとって音楽というものは、壁のプラグにつながった箱から出てくるものでしかありません。赤ちゃんは、おもちゃを押したら動く、ボタンを押したら何かが起こる、というような遊びのやり取りを通して、物事の因果関係を学んでいきますが、壁につながれた箱から勝手に流れてくる音楽というのは、つじつまが合わないのです。それが、ミニ・モーツァルトに来てヴァイオリンを弓でこすって音を出したり、楽器を吹いて音を出すのを自分の目で見て、多くの子どもたちは「ああ、こうやって音楽は鳴るんだ」と初めて理解し、ようやく音楽の謎が解けるのです。生のミュージシャンを通じて音楽とインタラクティブに関わることは、意識的に「聴こう」と注目する姿勢を生み、聞こえるものと目の前で起こっていることを関係づけ、子供の認知的な発達を助けるのです。

― 赤ちゃんは、楽器から音が出ているのを見ると、触りたがりますよね

その通りです!赤ちゃんたちは、だんだんと自分もそれに関わりたくなり、さらに自分自身でやりたくなります。それがまさに、私たちが望むこと全てと言っても過言ではありません。これをきっかけに、赤ちゃんたちは聴きたい、知りたい、自分でやってみたい、と欲するようになるのです。

― 小さな部屋で、音楽の振動を体で感じられるのが、生の音楽のいいところですよね。

そうです、音楽は体全体での体験です。本物のミュージシャンが同じ部屋にいて、赤ちゃんたちが自分の目で見て、聞いて、感じて、触りたいと思ったら触れられる、ということは、とても大事で、そうした環境にすることも、プログラムを作る上での観点でした。


ミニ・モーツァルトの講師となるための資質

演奏中に触られるのも計算のうち
― すると、ミニ・モーツァルトの講師となるには、色々な資質が必要ですね。

ミニ・モーツァルトの講師になれる人は、特別な資質を持った人でなければなりません。楽器の演奏の才能は欠かせませんが、それに加え、子どもにも大人にもコミュニケーションのうまい人であり、また、突発的に起こる様々なことに対して、気持ちよく柔軟に対処できなければなりません。子どもは、急に近くに来て、ヴァイオリンの弓をつかんだりしますから、それを逆にうまく取り込むことができる余裕と機知が必要です。

― 他の音楽のサークルに比べて、歌の歌い方、テンポや強弱などのコントラストがはっきりと、意識的に設定されているように思いますが。

講師たちは才能あるミュージシャンですから、曲を始める前に、どのテンポや強弱で歌うか、この曲を通じて子供たちに何を伝えるのかのはっきりしたビジョンを持って曲に入ります。ですから、テンポや強弱などの違いを明確に伝えることができるのです。それが、単に童謡を歌える人がするクラスと、才能あるミュージシャンが実施するクラスとの大きな違いです。子どもたちも、同じ調子で何曲も歌い続けられると集中力が持ちませんが、こうした演奏のメリハリ、異なる質感の曲やアクティビティを混ぜることで新鮮さを保ち、45分間という赤ちゃんにとっては長い時間でも、興味を持ち続けることができるのです。


我先にとマラカスにダイブ!
― 講師の方は、専属ミュージシャンですか?

いいえ、現在18名程の講師がいますが、皆それぞれ別の場所で現役のミュージシャンとして活躍している人ばかりです。私は、クラスを率いていくにも、講師にアーティストとしての豊かな活動が背後にある方がいいと思っています。クラスにそれぞれのミュージシャンの独自性を持ち味として反映させることが、クラスに躍動感を与えることにもつながります。ですから、お話と曲の入れ方やアクティビティも、きっちり原稿通りにではなく、各自フレキシブルにできるようにしています。その方が、講師の方にも自分のクラスという所有感覚がでて、創造力をかきたて、新鮮なクラスになると思っています。

― クラスにあう楽器、あわない楽器はありますか?

ミニ・モーツァルトでは、あらゆるオーケストラの楽器の講師がいます(No.1参照)。中でも、ヴァイオリンなどの弦楽器、クラリネットなどの吹奏楽器は特に重宝しますね。弦楽器は、左手で弦を押さえ、右手の弓を動かして弾く、長い音の時はゆっくりと弓を動かし、跳ねる音の時は弓も弦の上で跳ねる、と、音の出る仕組みが目で見て分かりやすいので、聴覚と視覚を結びつけるのに適しています。吹奏楽器は、指を上に動かすと音の高さも上がり、下げれば音も下がる、というのがよく見てとれます。

こうした音と音との関係性は、視覚と結びつけて子どもの頃から頭に焼き付けておきたいことのひとつです。それ以外の楽器も、ミュージシャンの創造力によって色々な魅せ方ができます。オーディションする時も、特定の課題を与えるのではなく、5分間で子どもたちにどう自分の楽器を紹介して印象づけられるか、自由にやってもらいます。その中から、素晴らしいアイディアとそれを実行する能力、コミュニケーションのうまい人が、講師として選ばれています。


プログラム構成と選曲の背景

ダンス・ダンス!
― お話の中にはたくさんの童謡が組み込まれていますが、タームを通じて同じ歌が何度も出てくるので、子供も大人も覚えられますね。

プログラムを考案している時に、オリジナルの曲を作るかどうか悩んだのですが、やめることにしました。参加している子供と大人はその歌に親しんでくれても、家族や祖父母、友達は知らないので一緒に歌うことができませんし、大きくなっても歌い続けることは少ないだろうからです。でも、「きらきら星」や「こげ、こげ、ボート」ならば、みなで一緒に歌うこともできるし、自分が親になって子どもに歌ってあげることもできます。私が選んだ歌はどれも、私の親が私に歌い、私が自分の子どもに歌ってあげた歌ばかりです。

私は、音楽が世代を超えて伝えられ、共有できるという点が大好きです。ミニ・モーツァルトのプログラムで目指しているのは、クラスの中だけで終わる教訓的なものではなく、参加する子供の家族みなの音楽生活を豊かにすることです。だから、クラスでしか通用しない曲を使ったり、バラエティを求めて覚えきれないほどのレパートリーを入れたりせず、全体で60曲程度のよく知られた曲に絞ることは、非常に意識的な選択でした。その代り、クラリネットやピアノの音を聞いたり、音楽の速さや高低に注意を向けるアクティビティや、しゃぼん玉の時の音楽では、様々なクラシック音楽を演奏するようにしています。

― 子どもも、歌を覚えるうちに、次はジャンプなどと予測するのが楽しくなりますね。

それも、レパートリーをある程度に留める理由の一つです。赤ちゃんたちは、こうしたクラスに参加していくうちに、音楽に対する自信をどんどんつけていきます。童謡のメロディを覚えていくと、そこでジャンプ、手拍子、ここは静かに、などのアクションを予測するのが楽しくなってきます。それができるようになると、音楽的な予測もできるようになってきます。童謡もクラシック音楽の基本に則った構成をしているので、主音から属音へ、そしてまた戻ってくる、という和音の展開が非常に分かりやすくなっていますから、子供にとっても、そうした音楽的な展開に容易についていくことができ、自信がつきます。それらが、自分で音楽的表現ができるようになる一歩なのです。

― 幼児クラスは、赤ちゃんクラスとどう違いますか?

プログラムの内容はほとんど同じですが、赤ちゃんクラスでは大人が赤ちゃんと関わることがメインですが、幼児クラスでは、より先生と積極的に関わっていくようになります。楽器を見せて「これはヴァイオリンよ」と教えるよりは、「これは何だっけ?」「弦は何本ある?一緒に数えてみようか。1,2...」と子どもが自分で覚えたり答えたりすることを促します。楽器も同じマラカスなどを使いますが、赤ちゃんの時は親が一緒に動かすのを聞いたり感じたりしますが、今度は自分で音楽や指示にあわせて振ったり止めたりできるようになることを目指します。指揮のような音楽のジェスチャーも導入して、それを見て行動するのに慣れるようにしていきます。幼児クラスでは、「ハロー、ピアノ」のシンプルな二音の関係に注意を払って歌えるようになるのが目標です。


最初期の音楽教育を担うミニ・モーツァルトの理念

興味、情熱の萌芽が一番大切
― 最後に、ミニ・モーツァルト創立・運営にあたっての理念を教えてください。

ミニ・モーツァルトを支える理念は、子供たちの生の音楽との最初の出会いが、プロフェッショナルなものであり、かつ、より大切なことは、楽しいものであって欲しいということです。ともすると子育ては、教育熱心が過ぎて、何に関しても教訓的になってしまいがちですが、自分や周りの経験から見ても、子供は、純粋に楽しい時、個人的に熱中する時、それから何かを得たと思った時に、最もよくできて、さらにやりたがるものです。私たちは子供たちに、音楽に入り込み、自分のものという所有感覚を持ち、音楽とは自分たちができるものであるという自信を持ってほしい、と願っています。

ですから、子供が「わぁ、すごいなぁ!」と畏敬の念を抱くような素晴らしいミュージシャンを迎え、かつ、「私もヴァイオリンって知ってる!聞いたことも触ったこともある!」と自信を持って言えるようなインタラクティブなクラスにしたいと思ったのです。そうして、音楽への鋭い耳を育て、音楽は「自分が知っているもの、参加できるもの、やりたいもの」という意識を小さい頃から持っていれば、その後フォーマルな音楽教育を受ける際にもそこをベースとして積み重ねられるのです。その音楽への熱意を萌芽させることが、最初期の音楽教育を担うミニ・モーツァルトの使命だと思っています。

取材・執筆:二子千草


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