19世紀ピアニスト列伝

A.-F. マルモンテル『著名なピアニストたち』

2012/11/15
図1 A.-F. マルモンテル(1816~1898)
図1 A.-F. マルモンテル(1816~1898)
もっと、日本語で読める19世紀ピアノ音楽関連文献を

今週から、オリジナルの記事に加えて「翻訳シリーズ」を手掛けようと思い立ちました。今日、19世紀のピアノ音楽について日本語で読むことのできる文献は非常に少なく、それらの書物でさえ、欧米における近年の19世紀ピアノ音楽研究の成果を踏まえれば必ずしも正確な情報を伝えているとは限りません。また、翻訳される書物のテーマは特定の作曲家に偏りがちで、専門書となると一般の読者が手に取って読むには、時代や周辺人物に関するかなり幅広い知識が必要です。

マルモンテルの『著名なピアニストたち』

そこで、現在著作権の切れた書物で、私たちがショパンを出発点として広くこの時代の音楽シーンを展望できるような書物を日本語で紹介できないか、と考えました。そのときに、思いついたのが、ビゼーやドビュッシーのピアノの先生として知られているアントワーヌ=フランソワ・マルモンテルの著書『著名なピアニストたち』です。

1816年生まれのマルモンテルは、生前ショパンやリストをはじめ著名なヴィルトゥオーゾたちの演奏を間近に聴き、恐らくは会話を交わしてその記憶を晩年、数冊の書物に記録しました。マルモンテルはいくつもの書籍を出版しましたが、「列伝」シリーズは次の3冊がから成ります。

図2 マルモンテル『著名なピアニストたち』初版の表紙(1878)。
図2 マルモンテル『著名なピアニストたち』
初版の表紙(1878)。

『シルエットとメダイヨン:著名なピアニストたち』(1878)
『管弦楽作曲家とヴィルトゥオーゾたち』(1880)
『シルエットとメダイヨン:同時代のヴィルトゥオーゾたち』(1882)

「シルエットとメダイヨン」という見慣れない言葉が見えますが、「シルエット」は人物の横顔の輪郭線を描いたもの、メダイヨンは楕円形の枠に収められた肖像画で、当時の一般的な部屋の装飾具のことです。
『著名なピアニストたち』は、もともと『メネストレル』という音楽雑誌に連載されていた様々なピアニスト兼作曲家たちの伝記記事でした。『著名なピアニストたち』にまとめられたピアニスト兼作曲家は、冒頭と結尾を飾るショパンとリストを含め総勢30名に上ります。それぞれの人物の人生、作品、演奏、顔立ち、性格、マルモンテルと直接交流のあった人物については個々の想い出についても語られています。Facebook企画上で全ての翻訳をご紹介できるかはわかりませんが、ひとまず今日は目次のご紹介から始めたいとおもいます。そして明日以降、序文を経てエントリー・ナンバー1「フレデリック・ショパン」から順次掲載していこうと思います。また、以後はご要望に応じて翻訳順序を変えることもできると思います。コメント欄にご意見をお寄せ下さい。(上田)

<目次>
  1.  1. フレデリック・ショパン
  2.  2. アンリ・ベルティーニ
  3.  3. ステファン・ヘラー
  4.  4. アンリ・エルツ
  5.  5. ムツィオ・クレメンティ
  6.  6. エミール・プリューダン
  7.  7. マダム・プレイエル
  8.  8. アメデ・メロー
  9.  9. ジョン・フィールド
  10. 10. フレデリック・カルクブレンナー
  11. 11. ヤン・ラディスラフ・ドゥシーク
  12. 12. シャルル=ヴァランタン・アルカン
  13. 13. ヨハン・バプティスト・クラーマー
  14. 14. ルイ=モロー・ゴットシャルク
  15. 15. ダニエル・シュタイベルト
  1. 16. ジギスムント・タールベルク
  2. 17. マダム・ファランク
  3. 18. ヨハン・ネポームク・フンメル
  4. 19. イグナーツ・モシェレス
  5. 20. ピエール=ジョゼフ=ギヨーム・ヅィメルマン
  6. 21. フェルディナント・リース
  7. 22. カミーユ・スタマティ
  8. 23. フェルディナント・ヒラー
  9. 24. ルイ・アダン
  10. 25. テオドール・デーラー
  11. 26. マダム・ド・モンジェルー
  12. 27. ルフェビュール=ヴェリー
  13. 28. アレクサンドル・ゴリア
  14. 29. カール・チェルニー
  15. 30. フランツ・リスト
  • 画像はGallicaより転載

執筆者:上田 泰史 


上田 泰史(うえだ やすし)

金沢市出身。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学修士課程を経て、2016年に博士論文「パリ国立音楽院ピアノ科における教育――制度、レパートリー、美学(1841~1889)」(東京藝術大学)で博士号(音楽学)を最高成績(秀)で取得。在学中に安宅賞、アカンサス賞受賞、平山郁夫文化芸術賞を受賞。2010年から2012まで日本学術振興会特別研究員(DC2)を務める。2010年に渡仏、2013年パリ第4大学音楽学修士号(Master2)取得、2016年、博士論文Pierre Joseph Guillaume Zimmerman (1785-1853) : l’homme, le pédagogue, le musicienでパリ=ソルボンヌ大学の博士課程(音楽学・音楽学)を最短の2年かつ審査員満場一致の最高成績(mention très honorable avec félicitations du jury)で修了。19世紀のフランス・ピアノ音楽ならびにピアノ教育史に関する研究が高く評価され、国内外で論文が出版されている。2015年、日本学術振興会より育志賞を受ける。これまでにカワイ出版より校訂楽譜『アルカン・ピアノ曲集』(2巻, 2013年)、『ル・クーペ ピアノ曲集』(2016年)などを出版。日仏両国で19世紀の作曲家を紹介する演奏会企画を行う他、ピティナ・ウェブサイト上で連載、『ピアノ曲事典』の副編集長として執筆・編集に携わっている。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会研究会員、日本音楽学会、地中海学会会員。

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