ピアノ連弾 2台ピアノの世界

第05回 ラフマニノフと私たち

2009/09/24

この8月末、ラフマニノフの「前奏曲嬰ハ短調 作品3-2(鐘)」のピアノ独奏版と2台ピアノ版を一冊に収録した楽譜がプリズム社より刊行されました。縁あって、その解説文の執筆を担当させて頂きましたが、譜面の上での精査・照査はもとより、実演による検討も重ねることで、ラフマニノフについてあらためて認識を深める機会ともなりました。ここでは、私たちが日頃ラフマニノフについて感じていることや、今回あらためて考えたことの一端をご紹介させて頂きます。

ラフマニノフは、言うまでもなく、世界的に最も有名で人気のあるロシアの作曲家の一人で、日本でもチャイコフスキーと並んで高い人気を誇ります。2台ピアノのための「組曲第1番」「組曲第2番」「交響的舞曲」もよく知られています。これらの2台ピアノの傑作群には、私たちはむしろ、現在の形でのコンサート活動を開始した2001年より以前に、親しみすぎるほど親しんでいたように思います。自分たちで弾き、CDを浴びるように聴きこんだことはもちろん、例えば、さる有名な女性ピアニストが来日した折のピアノデュオコンサートに足を運んだときに超快速の「組曲第2番」を聴かされたという興味深い思い出もあります。身近な友人、知人たちがラフマニノフのピアノデュオを弾くのをすぐそばで聴く機会も多くありました。

その後、私たちが自分たちのピアノデュオコンサートの回数を重ねるにつれ、ラフマニノフの捉え方も少しずつ変化してきたように思います。ラフマニノフという大きな存在も、決して孤立してそびえ立っているわけではないということ、具体的に言えば、師匠のアントン・アレンスキーを始め同時代の多くの人間と係わり合う中でラフマニノフの音楽も創造されたという視点で見るようになったことが一番大きな変化でしょうか。チャイコフスキーの美学は、その最も忠実な継承者であったアレンスキーを通して、アレンスキー門下の優秀な弟子たちへと引き継がれてゆき、それは、ソ連時代を経て、形を変えながらも現代ロシアで脈々と息づいているのです。

私たちは、2006年1月のコンサート「欧州ロマン音楽紀行」でアレンスキー「2台のピアノのための組曲第3番(作品33)」を、また、2008年2月のコンサート「銀色のロシア」でグリエール2台のピアノのための6つの小品(作品41)」、グレチャニノフ2台のピアノのための2つの小品(作品18)」を演奏しました。グリエールグレチャニノフは、共にアレンスキー門下であり、ラフマニノフとは同門にあたります。彼らのほか、スクリャービンメトネルにも優れた2台ピアノ作品があることはよく知られています。このように、アレンスキーの弟子たちが皆そろって、2台ピアノのために名曲を書いていることを知れば、ラフマニノフもこうした人々と肩を並べながら切磋琢磨を重ねたであろうことは想像に難くないでしょう。ラフマニノフのピアノデュオの傑作群は、決して突然変異的に生まれたものではなく、ピアノデュオを日常的に行う伝統と習慣の中から必然的に生み出されたものであることがわかります。

ラフマニノフは学生時代から晩年までピアノデュオと深い関わりを持ちました。青年時代には、チャイコフスキー「マンフレッド交響曲」、同「眠れる森の美女」、グラズノフ「交響曲第6番」など、先輩作曲家の管弦楽曲をピアノ4手連弾用に編曲する仕事もしています。ラフマニノフのピアノ4手連弾、6手連弾、2台ピアノのための作品は、いずれも、作曲者自身によって初演もしくは再演され、共演者として、ヨーゼフ・レヴィン、パーヴェル・パプスト、アレクサンドル・ジロティ、ヴラジーミル・ホロヴィッツなどの名が挙げられます。また、夫人のナターリア・ラフマニノフと「イタリアン・ポルカ」(4手連弾)を合奏した楽しくくつろいだ雰囲気のプライベート録音も残されています。晩年のアメリカ時代にも、ロシア出身の気鋭のピアノデュオ、ヴィクター・バビンとヴィーチャ(ヴィトヤ)・ヴロンスキー夫妻と親しく交流、特にバビンがラフマニノフの楽曲を2台ピアノ用に編曲することを快諾し、バビンの編曲手腕に厚い信頼を置いていたといったエピソードもあります。

前奏曲「鐘」は、なんといってもピアノ独奏版が有名ですが、2台ピアノ版もラフマニノフ自身の手がけた編曲版です。ソロを単純に2台に割り振ったようなものではなく、作曲者本人ならではの大胆で自由な書法をもって、2台ピアノ用に再構成された魅力的な編曲です。細部の音型の相違はもちろんのこと、実際に2台ピアノで演奏すると、ピアノソロとかなり異なる音響効果が得られることがおわかり頂けると思います。「鐘」をよく知っている人にも興味深く聴いて頂くことができるでしょう。個々のパートの難易度が独奏版よりも平易でチェルニー30番程度であるのも嬉しいところです。規模の大きな「組曲」や「交響的舞曲」とは異なり、コンサートや発表会にも組み入れ易い小品です。秋へ向かうこの季節、クレムリンの鐘の響きを思い描きながら、先生と生徒、生徒同士、友人同士で、気軽な気持で弾いてみてはいかがでしょうか。

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第5回

動画
RACHMANINOFF
"PRELUDE in C SHARP MINOR" FOR 2 PIANOS

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