【インタビュー】第16回: 庄司美知子先生「中高生指導のポイントとは」

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2006/12/01

shouji_michiko.jpg数多くの国内外コンクールに門下生を入賞・優勝させる一方で、ご自身もコンクール審査員や講師として活躍の幅を海外にまで広げておられる、庄司美知子先生。今回は、先生の指導経験が最も豊富な年齢層である、中高生の指導についてお聞きします。レッスンの過渡期とも言われ、生徒が肉体的・精神的に多くの変化を迎えるこの時期。中高生がピアノをやめないために、本当に必要とされる指導とは?

先生の中学・高校生の生徒さんはコンクールなどでもかなりの実績を残されていますが、この年齢特有の演奏の問題点があれば教えてください。

「ひとつは、成長に伴う身体の変化ですね。特に、小学校の終わりから中学校にかけては、手の構造も一番変わってくる時期です。それまでは指がすごく動いていた子が、急に弾きにくくなることも多いですね。そして、小さい頃についた悪い演奏の癖も障害になり始めるのも、この頃。例えば、身体を不用意に揺らす演奏や、メロディーの『中膨らみ』、つまり旋律の間に入る『フワワ~ン』という音。指導者側がこういった問題について意識を高め、生徒の年齢やその子供の手の条件や精神状態対応した選曲をしてあげる必要があります。

また、特に日本人に見られる傾向として、バロックや古典期の曲に弱いんですね。今は教材が沢山あって選ぶのも難しくなってきましたが、特にバッハだけは、小学生の頃から一通りやっておいた方が良いと思います。子供達は、近現代曲に至っては、不思議と身体でぱっと受けられます。ですが、古典やバロックの曲は、テンポ設定ひとつ取っても、小さい頃に触れていないと形式がわからず、大きくなっても様式感がない演奏をしがちなのです。こうしたことから生徒の演奏力が伸びず、中学ぐらいからピアノから離れていってしまう子が多いのだと思います。」 

小さい頃に基礎をきちんと身につけていないと、後々問題が出てくるということですね。では、中高生になった生徒には、どういった曲を与えればよいのでしょうか?

「大切なことは、まず、大きすぎる曲を与えないということですね。中学生ぐらいの、まだ完全に手が成長しきっていない頃に大曲を与えると、無理に手を広げさせてしまって後々手に負担をかけてしまいます。また、例えばモーツァルトの後期の曲などは、初期のものとは全然中身が違うので、もう少し大人になってからやった方が良い場合もありますし、ショパンのバラードなどは、私は中学生の子にはまだ弾かせません。指は動いたとしても、内容的にはすごく大人な曲で中身が深いので、あまり若いうちに弾いても満足な演奏は出来ないと思います。

ただこの頃って、みんな大きな曲をやりたがります。そういう時は、『今は譜読みだけにして、もう少し年齢を重ねてからちゃんとやってみなさい』と言って、未完成なまま一通り弾かせてみて、後々、再び持ってこさせるようにします。生徒は、簡単な曲ばかりでも、難曲続きでも嫌気がさしてしまうので、そこは指導者のさじ加減で、『これはまだ完成していないからね』という曲と、『今、ある程度までは完成させましょうね』というものを、交互に与えていくことが必要になってきます。」

選曲も、指導者の力量が相当試されますよね。他に、曲を選ぶ時に注意すべきポイントはありますか?

「私は大きな作品を弾かせる時は、部分的ではなく、例えばソナタであればなるべく全楽章、フランス組曲でも、一曲ではなく全曲、やらせるようにしています。

特にコンクールに向けて、ソナタの1楽章や3楽章だけ弾く人や、試験など時間制限がある演奏ですと、途中で切られるとわかっているので、曲の後ろの方をさらっていない人は結構いますよね。ですが、このような弾き方ですと、曲のスタイルの勉強がきちんと出来ない上に、ひとつの作品を弾くときに、曲と曲の間の『間』の取り方も演奏の大事な要素なのです。

また、生徒には多くの作曲家の曲を、最低1曲は弾いてみさせるようにしています。ベートーベンはよく知っているけれど、ドビュッシーは一曲も弾いたことがない、という子、たまにいますよね。でも、『ここで今好き嫌いしたら、一生お肉食べられないのと一緒だよ。違う調理法だったら、こんなにおいしかったんだ、ってことが発見できなくなるのよ』と言うと、みんな仕方なくやるんです(笑)。すると、形式感というものも段々わかってくるし、個人的な曲の好みも出てくるのもこの頃ですね。『私にはフランスものは合わないみたい』と言う子には、『どうして合わないと思う?』と聞くと、『私は音が重いのかも』と言い出して、それならどうしたらその曲に合う弾き方なのだろう、と考えます。そういう意味でも、この時期に、出来るだけ多くの作曲家や作品に触れておくのは非常に大切です。」

確かに、段々と自分の意見や考えをもち始めるのもこの頃ですよね。中高生を教える難しさというのは、身体的にはもちろん、精神的な変化にあるのかもしれませんね。

「そうですね。この時期一番多いのは、やはり心の問題だと思います。中高生というと、親離れが必要な時。それまでは熱心な親がレッスンや練習につきっきりだったのが、親から自立して自分で何かをしたいと思うようになります。自分との葛藤や親への反抗などでピアノを辞めてしまうというパターンは多いので、自立の方法を生徒とよく話合う必要が出てきます。

この年齢の子は本当に複雑で、自分の考えを言いたいのに親の顔をちらちら見ていたり、親離れして一人でやりたい気持ちはあるのにそのスキルがまだなかったり...。一つ言えるのは、一人一人の個性がはっきりしてくるので、ワンパターンな対応は絶対にいけない、ということ。、今の子達って、弾くことはそこそこに出来るのに、頭と心と手が繋がっていないというか、すごくアンバランス。一人一人、『お母さんは来ないでいいです』とか、『後半だけ見に来てください』とか、状況と子供に応じて見方を色々と変えてあげることが大切ですね。」

そういった、自立に悩む子供にお勧め出来る、良い方法はありますか?

「私は自分の生徒には、なるべくアンサンブル演奏をすることを勧めています。ピアノ連弾はもちろん、モーツァルトのバイオリンソナタなど、他楽器と合わせることも試みています。

ここで大事なのは、先生とではなく、子供達同士の組み合わせで弾く、ということ。室内楽は、演奏の合図の送り方から伴奏型になった時の弾き方まで、『合わせ』のすごくよい勉強になるだけでなく、精神的にもすごく成長出来るのです。まずは子供達同士で、練習のためのレッスン室を取るところから始まって、リハーサル時間の相談と調整。他にも、楽譜を自分たちで製本してめくりやすいようにしたり、ピアノの子は弦の子に影響されて、初めてレッスンに鉛筆を持ってきて、自分の楽譜に書き込むようになったり...すごく楽しいと思います!そうして、大人から離れた所で練習することによって子供は少しずつ成長していくので、この時期に室内楽を体験させてあげることはお勧めですよ。」

ありがとうございました!


この取材の後日、実際に先生が中高生の生徒さんのレッスンを拝見させていただいたのですが、「モーツァルトはいくつの時この作品を書いたと思う?」「この曲以外にに知ってるF-durの曲はどんな雰囲気?」「どうしてこの指使いを選んだの?」...など、生徒さん自身の答えを引き出そうとする姿勢が印象的でした。中高生に限らず、生徒と真剣に向かい合う姿があってこそ、相手と通じ合えるのだという、当たり前だけれどもなかなか出来ないことの大切さを感じさせてくれるレッスンでした。

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