【インタビュー】第14回:春畑セロリ先生「効果的なポップス入門法」

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2006/11/09

haruhata_serori.jpg作曲家、編曲家として、映像音楽、CD制作、楽譜出版、さらに執筆、講演イベント企画など、多方面でマルチな才能を発揮されている春畑セロリ先生。今回は、その中でも話題の豊富な、ポップスの分野についてお話を伺いました。効果的なポップス入門の仕方、そして、子供にそういった音楽を教えるために、指導者が出来ることとは?セロリ先生ならではの、バラエティーに富んでいて、且つ奥深いお話をお楽しみください! 

東京藝術大学作曲家卒の、いわゆるエリートコースも歩んでいらっしゃる春畑先生が、ポップスにはまった最初のきっかけとは?

「小さい時から特にポップス志向だったわけではないんですが、高校生の頃からジャズの楽譜やポップスの本を買ってきて弾く、ということが自分の中でも周りでも普通のことでした。だから、初めからそういう音楽に対する抵抗は、全くありませんでしたね。

私は昔から、箱が一杯あったとしたら、面白そう、と思ったものをとりあえず開けてみるタイプなんですよ。そういう意味ではポップスも、これまで開けてみた箱のうちのひとつ、という感覚ですね。」

(笑)。こういう例えがセロリ先生ならでは、ですよね。ポップスの他にも色々な箱を開けてこられたんですか?

「今の自分に必要そうだから、とか、専門分野だから、ということは一切関係なく、とりあえず通りすがりに興味を引かれたら箱を開けてみる、という感じでずっとやってきました。それで、これまでアフリカに行ってみたり、科学博物館で展示解説やボランティアをしたり、ダイビングや乗馬など、色々なことに挑戦しました。

その中でも、縁がないと思ったものはまた閉めてしまいましたし、それはそれでいいんです。大事なのは、自分で箱を開けてみたこと。そういったものって、後ですごく役に立つことが多いんですよ。例えば、つい先日、興味半分で朗読の講座に参加したんですが、その時とても上手な参加者の方が、朗読に感情を込める方法がわからなくて悩んでいた。そこで先生が『上手く読まなくてもいいから、単純に内容のイメージを思い浮かべながら読んでみて』とおっしゃって、その通りにしたら、話の迫力がそれまでとは明らかに違ったのね。これは音楽でも言えることで、曲の魅力や描かれていることをイメージしながら弾くだけでも、そうでない時と演奏が全然違ってくるはず...ということを、早速次の日、ブルグミュラーの講座で、話題にしてしまいました。

もしその朗読の講座が勉強として仕方なく受けたものだったり、とても退屈でつまらなかったりしたら、そんなふうには取り上げなかったでしょう。本当に自分が面白いと思ったことだけが役に立つから、興味本位でやみくもに箱をあけてみることは大切です。

ポップスもそうですね。『絶対勉強しなきゃ!』とか、『ジャズもボサノバもラテンもロックも、とにかく全部覚えなきゃ』という風に無理やり勉強するのではなく、自分なりの『あ、これだ』と思うものをとりあえずつまみ食いしてみるスタイルが、お勧めですね。」

クラシックをずっとやって来た先生方にとっては、ポップスという慣れないジャンルに踏み込むのは勇気のいることですが、とにかくたくさんの箱をあけてみたら何かに出会える可能性はありますよね。

「そうそう!特にポップスは、民衆が楽しむために存在している音楽だから、楽しまずに勉強しても意味がないし、本質を理解出来ない。それに、先生が楽しんでいないのに、ましてや生徒にポップスの真髄を教えられるわけもない。興味がないなら仕方がないし、無理やりポップスをやる必要はまったくないと思う。

ただ、一口でポップスと言っても、数多くのジャンルやカテゴリーがあるので、とにかく面白そうだと思ったものは全部開けてみて、その中で面白いと思うものがあったら、ずるずる引き出してみるのもいいと思いますよ。例えば、『セミクラシックのようなポップスオーケストラなら聴ける!』と思ったら、そればっかり聴いてみたりとか、CDの解説書に書いてある言葉の中に、何かひっかかるものがひとつでもあったから、今度はこっちを聴いてみよう...とか。いもづる式にどんどん興味を持って引っ張ってみると、ひっかかるものが必ず出てくると思います。逆に、勉強しようと思って聴くと、『あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ』という感じで、結局どれも取りかかれないで終わってしまう。

もちろん、『背景や歴史を全部押さえてからでないと、音楽は聴けない!』という方に、私のやり方を押し付けたいわけではないんです。ただ、そうやってやみくもに開けたものって、ある日突然、『あぁ!そうだっだのか!』って別のものや考えに結びついてスパークが起こることもあるからこそ、お勧めなやり方ではあるんですよ。」

そういう意味では、最近は子供に「あれをやらせては危険」「これもダメ」と言った風に過保護になりがちなのも、考えものですね。

「そうですね。ただ、矛盾するようだけど、勉強って若いうちに出来るだけすべきだとも思う。今思うと、数学や漢字の練習ってすごく面倒くさくて、嫌々させられていたんだけど、知能を鍛えたり、感性を磨いたりしておくためにも、苦い薬でも子供には一通り体験させなくちゃいけないと思う。

かといって、つまらないと思って学んだものって絶対残らない。小中学校の先生にとって難しいのは、そのやらなければいけないことを、いかに子供に興味を持たせて教えるか、ということです。同様に、小中学生を相手にするピアノの先生も、教育者としては貴重な存在で、子供が音楽を好きになれるかどうかは、ピアノの先生にかかってる。ちょっとこわいくらい大事な職業ですよ。

だから、先生は教えるだけでなく、自ら生徒の興味の対象にアプローチする必要があります。『この子がこんなに良いと言っている歌手は、何が良いんだろう』と一回考えてみるだけでも、その子をよりよく知ることになるし、逆に、『この曲つまらない』って子供が言ったとしたら、どこがつまらないのかとか、曲の魅力を伝える言葉を持つ方法を考えてみる必要があると思う。

そのためには、自分が何かを新しく習いに行って、生徒側になってみるのも良い体験ですよ。例えば、ジャズダンスを初めて習いに行って、急に『踊りなさい』と言われて、『え~腰が引ける』と思ったとしたら、『そうか、生徒はみんな腰が引けているんだな』と、そこで初めて理解出来たり...。腰が引けているとき、どう言ってもらえると少し気が楽になるかも、こうしてわかりますよね。

子供と言っても本当に色々な子がいるから、それぞれのケアをしてあげないといけない。そのやり方って、千差万別あるわけだけど、それを得る為に違うフィールドに出て行くことは本当に大切です。だからこそ、自分なりの『つまみ食い』は、是非お勧めしたいですね!」

ありがとうございました!

今回のテーマはポップス...だったのですが、さすがセロリ先生、そこから次々と色々な面白いお話が飛び出してきて、とにかく楽しく、密度の濃い取材時間でした。アフリカの奥地の村を訪ねて、村民に「ゆうやけこやけ」を教えたという武勇伝をお聞きした時は、さすがにびっくり!好奇心と行動力の塊のような先生には、ただただ脱帽です。

⇒春畑先生のプロフィールはこちら
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