今月、この曲

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ラフマニノフ「リラの花 作品21 第5番」 ミュージックトレード社『Musician』2017年6月号 掲載コラム

 ロシアでは5月にリラ(ライラック)の花が咲きみだれる。私は2016年夏にロシアのイワノフカを訪れた。この地でラフマニノフは1890-1917の27年間春夏を過ごし、全作品中85%の曲が作曲された。自宅の敷地は18.5ヘクタール。東京ドームの建築面積が約4.7ヘクタールなので、いかに広大な土地かご想像いただけるかと思う。川や橋、緑があり、木々の中をくぐり抜け、美しい花々このような豊かな大自然に囲まれた中で散歩をして、平穏な日々が創作意欲を掻き立てられたのだろう。

 私は案内の方から「ラフマニノフの大好きなリラの花は5月に咲きみだれる。大変美しく、また今と雰囲気が違うから5月に来てほしい」と言われた。リラの花は『12の歌曲op.21』の第5曲。1902年の4月末にラフマニノフの従妹であるナターリヤ・アレクサンドロブナ・サーティナと結婚。旅行費用を得るために出版社のゲイトヘイル社と契約、1902年4月初旬にラフマニノフは1人でイワノフカに出かけ、2週間で『op.21』の作品を書き上げた(第1曲目のみ1900年)。

詩「リラの花」:エカテリーナ・ベケートワ(1855-92)
朝早く、明け方に 露に濡れた草を踏み
私はすがすがしい朝の空気を吸いに行く
かぐわしい木陰、リラの花が咲き群れている木
陰の中に私は自分の幸福を探しに行く
一生のうちにただ一つの幸福に
めぐり合うのが私のさだめ
そしてその幸福はリラの花の中に住んでいるのだ
緑の枝、かぐわしい房に、私のささやかな幸福
が花開いているのだ。(和訳:伊東一郎)

 初春の朝の清々しさを感じる作品。リラの花は甘い香りが漂う。この曲のピアノ独奏用への編曲は1913年頃。ピアノ版「リラの花」は、歌曲の和やかで可憐な雰囲気を残しながら、華やかに光がきらめくようなコーダをつけて、演奏会のアンコール作にしている。

 ラフマニノフのシンボルとも言える「リラの花」、ラフマニノフの演奏も残っているので是非聴いてみてほしい。

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