今月、この曲

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セシル・シャミナード:ロマンティックな小品集「春」ミュージックトレード社『Musician』2016年3月号 掲載コラム

 春の息吹が聞こえてくる季節になりましたね! 伊賀忍者の里にもほのかに春の香りが漂います。暖かな風と共に伊賀は町中に忍者が溢れます。驚かれるかもわかりませんが、市役所、銀行、商店などの制服が忍者衣装に変わります。なんと散歩中の犬までが忍者衣装をまとい刀を背負っているのです。色とりどりの忍者が現れたら春の到来です。
 私の好きな作曲家のひとりにセシル・シャミナードがいます。21世紀の今もなお女性が社会進出するには難しい問題があるというのに、1世紀以上も前に作曲した曲の大半が出版されたという大した女性です。女性ならではと思える作風(繊細でしなやかな優雅さが構築性より重視されていると思います)はとてもロマンティックで美しい作品に心奪われます。
 デュオの「春」はその名のとおり色で例えるならピンク色、香りと風を感じる素敵な曲です。技術的に難しい曲ではないので、情景を感じ伝えることに時間をかけて楽しんで取り組むことができます。
 最近、生徒さんの車に同乗しアニメーションの「のだめカンタービレ」を延々と見る機会がありました。最初はなんとなく目の前を画像が流れていただけなのですが、徐々に興味がわいてきました。もちろんアニメならではの誇張はそこここにありますが、なんとよく考証されていることでしょう! そして普段忘れてしまっていた大切なことを思い起こされるシーンが数多くありました。
 「春」はまさにその呼び覚まされた記憶が必要な曲です。複雑でない曲の中に美しさや優しさが溢れます。ついこわい顔をしてコンクールのレッスンをしている私に恋の話をさせてくれます。"Ich liebe dich""I love you""Je t'aime""愛しています"、小さい子にもニュアンスの違いがわかってもらえるものです。えっ? というお顔のお母さまを横目で見ながら、そんな話しを子どもたちにして曲作りを進めていきます。
さぁ、春色の洋服に着替え足取り軽くお出かけしましょうか!

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