今月、この曲

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ミュージックトレード社『Musician』2010年10月号 掲載コラム

 この8月、ポーランドで『サマー・ウィズ・ショパン』音楽祭の出演を終えてワルシャワの街を歩いていると、どこもかしこもショパン! メトロの中にもショパン、ケーキにもショパンの顔。フィルハーモニーホールも特別に開けて『ショパンと彼のヨーロッパ』という音楽祭を開催中。街中にショパンがいました。
 そこで今月の曲はショパンの「ポロネーズ第1番」。この気高さと、この奥深さ。どうしたら崇高な魂をこれ程までに音に込めることができるのか......。ノーブルな階級の人々特有のマエストーゾな歩みのテンポ。踊りの始まりには深々としたバスの響き。しばし陶然とし、これぞポロネーズ! と聞き惚れてしまうのです。
 ポーランド語の物語詩に美しいポロネーズの描写があります。錦糸銀糸を身にまとったポーランド士族たちの祝祭を象徴するものです。
ペアがペアに続く、盛大に楽しげに
踊りの輪が解けては、またもとどおりの輪をなす
淑女、軍人の色とりどりの
斑模様の衣装が、光るうろこのように
西日の光に黄金色に染まり 芝生の暗色に映える
湧き立つダンス、響く音楽、拍手、乾杯の声!
(途中省略 ミツキエヴィチ パン・タデウシュ 工藤幸雄訳)
 ポロネーズはその性格によっていくつかに分類できます。「軍隊」「英雄」と呼ばれる各曲は、輝かしくパワフルなテーマを持ち、全曲を通して英雄的な精神と高揚感に溢れています。
 第1番のポロネーズはドラマティックでなかなか技巧的、しかも抒情性がありメランコリックな雰囲気が漂います。テーマを見てみましょう。最初の4小節は、信じて疑わず勇壮に前進します。ところが後半は自信を失って意気消沈気味です。当時の地位のある男たちの威厳と不安が見えてきます。しかしここはショパン。負け犬にはなるものか!? と熱き魂を保つのです。トリオ部分は女性らしさが表現され、男の傍らに寄り添う可憐な女の歌で始まり、ショパンが愛したもう一つの楽器チェロが登場して、愛のデュエットを繰り広げます。この部分のなんと美しいこと......。
 ショパンの崇高な魂と精神が込められたポロネーズ。心正してもう一度楽譜に向かうことにしましょう。

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