【実施レポ】山本美芽先生 聴く力を育てるピアノレッスン 

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2013/11/08
山本美芽先生 聴く力を育てるピアノレッスン 文・写真・動画撮影編集・緒方ヤヨイ(ピアノ講師・「うたとピアノの教室オーバル」主宰)

日程:2013年10月2日 / 会場:ヤマハミュージックアベニュー横浜

3回の連続セミナー「聴く力を育てるピアノレッスン」。
2回目は「内的聴覚」。悪天候だったにも関わらず、会場は満席だった。

20代後半で音楽ライターとなった山本先生、"ライターなら本を書かなきゃ!"と、32歳で『りんごは赤じゃない』を出版した。
やがてソルフェージュ教育の第一人者である呉 暁先生の『練習しないで上達する』のライティングを担当。
ソルフェージュの基礎は、メロディを聴いて、真似して歌うこと。
歌うことは、非常に大事。歌うことで育つのが、「内的聴覚」である。

●耳コピとは?

「内的聴覚」という言葉は、ジャック=ダルクローズのリトミックで頻繁に出てくるが、何をイメージするだろうか?
例えばシューマンは、楽器を弾きながらではなく、音を思い浮かべながら作曲すべきだ、という考えで、自分の作った曲を音として記憶していた。「内的聴覚」を使って作曲していたわけである。
音を思い浮かべるのが「内的聴覚」なら、人によって違いはあるのだろうか?
それを調べるためのワークが、第1回で出された課題、耳コピによる演奏である。
挑戦を申し出ていた受講者が、まず原曲を聴かせてくれる。次に、耳コピされたものがピアノで演奏されると、自分が思い描いた音と全く同じではないことが体感できた。
同じ曲を、複数の受講者が選んだ際には、違いが更に浮き彫りになった。

プロのミュージシャンの耳コピは、どれほど芸術的に優れているのだろうか。
ワークに選ばれた曲は『ドナ・リー』。このような演奏素材を用意する見識の広さ、さすがだ。
オリジナルのサックス奏者。フレットレスベース奏者の耳コピ。更にウッドベース奏者の耳コピ。最後に山本先生の耳コピがピアノで披露された。
緻密に聴き取れる能力に驚きつつも、全く同じにはならないことも理解できた。
ジャズの世界では耳コピが推奨されているが、クラシックでは耳コピ能力開発そのものに、まだ関心が集まっていないと言える。

●生徒の「内的聴覚」をどう育てる?

レッスンに通ってくる生徒達は、この「内的聴覚」を使っているのだろうか?
知りたければ、歌わせてみることだ。歌えれば、確実に「内的聴覚」を使っている。
音を思い浮かべていても、同じピッチで声を出せるとは限らないので、本人のレベルに合った課題を、初見で弾かせてみるのも参考になる。楽譜に書かれているものを音としてイメージ出来ていれば、スムーズに弾けるはずだ。

「内的聴覚」を使っていない、つまり音を思い浮かべずにピアノを弾いている生徒に対しては、どのようなトレーニング方法があるだろうか?
ジャック=ダルクローズのワークや、ヒンデミット『音楽家の基礎練習』を体験。


良書として、『音楽家の耳トレーニング(春秋社)』が紹介された。

講義では、コダーイ・システムも取り上げられた。
ハンガリーの音楽教育は、言葉の抑揚と音楽が完璧に一体であることを重視し、わらべうたから入る。「内的聴覚」の核を形成するのは自国の民謡だ、という考えだ。

話が前後するが、セミナーで最初に行われたワークは、「拍の分割」だった。
無味簡素に正しく拍を打っているのと、わらべうたを思い浮かべながら打っているのとで、聴く側の印象が変わる。
「内的聴覚」でわらべうたを歌っている演奏は、楽しげに聴こえたそうである。

●伝承わらべうたが「内的聴覚」を育てる

思い出して頂きたいのが、第1回のテーマ「相互作用」。
とにかくやっただけ、という「内的聴覚」は訓練的。
イメージを持った「内的聴覚」を育てるには、【伝承わらべうた】が最適、と山本先生は力説した。
複雑な歌は、幼い子どもには耳コピしにくく、真似しにくいので、「内的聴覚」も育ちにくい。
【伝承わらべうた】は日本語から発祥し、メロディやリズムも単純で真似しやすい。更に動作もついているので、「相互作用的に」楽しみながら、テンポを一定に保ったり、タイミングを合わせたりなど、音楽の基本要素も育つ。
私は【伝承わらべうた】で遊ぶ活動を行っており、レッスンにも取り入れている。生徒たちが喜んで取り組む歌を紹介させて頂いた。歌と遊び方は、下記プロフィールに記載したブログにてご覧頂くことができる。

どの生徒も、無意識に"どんな音を奏でたいのか、頭の中で鳴らしてから弾く"という過程を辿れるように導くことは、今後のピアノ教師の使命であろう。

山本美芽

音楽ライター。東京学芸大学大学院教育学研究科修了。
これまでに国内外の主要なピアノメソッドの著書・訳者、ピアニスト、演奏家、ピアノ指導者など、100人以上に直接取材を行う。
「もっと知りたいピアノ教本」「レッスンのハンドブック」(中村菊子)、「21世紀へのチェルニー」(山本美芽)、 「練習しないで上達する」(呉暁)などの単行本において、ピアノメソッドに関する原稿を執筆。
新鮮な視点と鋭い観察力に定評がある。2008年よりピアノ音楽誌「ムジカノーヴァ」で書評をレギュラー執筆。「ジャズジャパン」に評論・インタビューを執筆中。 
 セミナーでは2人?3人組に分かれて意見を話し合い、発表して深める「グループワーク」を必ず取り入れている。ライターとして培ったインタビューの手法を応用し、受講者と対話しながら視点を深める形式は、参加者から「客観的な視点が持てるようになった」と強い支持を得ている。

ホームページ http://homepage1.nifty.com/mimetty
メールマガジン「音楽センスを伸ばしたい!」配信中。
facebooktwitterでも発信中。

緒方ヤヨイ
ピアノ講師。東京都大田区にて「うたピアノの教室オーバル」主宰。武蔵野音楽大学音楽学部声楽科卒業。神須美子、田口久仁子の両氏に師事。大手ゲームメーカーのサウンド部門に勤務、BGMの作曲や、効果音、音声データなどを担当、サウンドドラックCDをリリース。2003年よりピアノ教室を開設、指導にあたる。現在、後田 丞子氏にピアノを師事。全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)指導会員。ヤマハPEN会員。コーチングレッスン・セミナー全級修了。NPO法人 日本スクールコーチ協会 正会員。ブログ[楕円は踊る♪]
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