【実施レポ】中井正子 ドビュッシー紀行 第1回

文字サイズ: |
2012/06/01
中井正子 ドビュッシー紀行
~ドビュッシーの音楽を背景に中井正子とパリの町を歩く!~
文・山本美芽
第1回 ドビュッシーとパリ(2012年5月25日 カワイ表参道 コンサートサロン パウゼ)
img
パリの凱旋門(写真:中井正子)

 フランス音楽のスペシャリストとして知られる中井正子先生。なかでも今年生誕150年となるドビュッシーについてについてはパリ国立高等音楽院で受け継いだ演奏の伝統をもとに、実用版楽譜も出版、スペシャリストとして知られています。「ドビュッシー紀行」と題したこのセミナーでは、ドビュッシーが過ごした時代のフランスの景色や文化について、中井先生がフランスで撮ってきた写真を見ながらのトークをしたり、演奏を聞かせてくれたり...。まるでフランスで学んでいるかのような時間が流れていました。

 第1回は、ドビュッシーの幼年時代から青年時代にかけてのお話です。まずは初期の作品「夢」の演奏から。貧しい家庭で育ち、充分な教育も受けられなかったというドビュッシー。モーテ夫人に手ほどきを受けると、わずか1年でパリ国立高等音楽院に入学を許されたという。パリから電車で20分の街、サンジェルマン・アンレの駅からすぐ、「パン通り」に建つ普通のアパルトマンの2階。そこに残っている小さな部屋がドビュッシーの生家だといいます。「現在では高級ブティックが入っていて、素敵な町並みですが、当時は郊外にある、貧しい人たちが住んでいた通りだったんですね」

img
サン・ジェルマン・アンレにて、パリ方面を眺める(写真:中井正子)

 10代のドビュッシーは生計をたてるために、あちこちで伴奏をしたり、上流家庭のお抱えピアニストとしてアルバイトを続けていました。なかでもパトロンのヴァニエ夫妻との出会いは大きなもので、ドビュッシーはヴァニエ家でかなりの教養を身につけたのだそうです。初期の歌曲「月の光」を聴きながら、「これは歌手だったヴァニエ夫人のために書かれた作品です」とお話が続きます。

 "ダンス""バラード"など初期の小品の演奏を聴きながら、若き日のドビュッシーが影響を受けたという国立高等音楽院のアカデミックな教育、そしてサロンの文化にしばし思いを馳せました。

img
生家近くのドビュッシー通り(写真:中井正子)

 演奏のための講座は「版画」をとりあげ、中井先生は"塔"がイメージしているアジアの塔の写真などをパソコンで大画面に映し出していきます。"グラナダの夕暮れ"はパッチワークのような構造をしているという話のあと、断片的に入るギターのようなフレーズなどを弾いて説明。"雨の庭"では、子どもが雨の庭を見ている様子から始まり、風が吹いて雨が強くなって稲光、フランスの童謡、そして最後に雨が晴れる様子を、解説しながら演奏。大自然の雨や風そのもののように表現力豊かなピアノの音に、受講者たちは固唾を飲んで聴き入っていました。

 ドビュッシーの生涯、「このあと、もっと面白くなるんです」という中井先生。次回、6月22日の講座では「少年時代」をとりあげる予定です。

ラヴェルの全曲演奏CD(2枚組、ALMレコード)が6月7日に発売となり、東京・渋谷では7月にインストアイベントも予定されています。
中井先生は今秋に、アルテスより、ドビュッシーについての書籍を出版予定。もちろん、今回の講座で話した内容も含まれます。

中井正子
なかいまさこ◎ 東京芸術大学音楽学部附属高校在学中、パリ国立高等音楽院に留学。ピアノ科を審査員全員一致の1等賞首席で卒業。また、ピアノ科研究科を経て、ジュネーヴ国際音楽コンクール第3位入賞、ロン・ティボー国際音楽コンクールのフランス音楽特別賞他を受賞。パリ、リヨン、ワルシャワ等でのリサイタルの他、国内でも都響、新日フィル等を初め多数のオーケストラと共演、リサイタル、放送等の演奏活動を行う。1995~6年ドビュッシー全ピアノ作品を日本人として初めて4夜にわたって演奏。また1997年にはラヴェルの全ピアノ作品を2夜にわたって演奏。1998年よりショパン没後150年を記念して5回のショパン演奏会を開催。2003~6年にはシューマン・シリーズが開催され、好評を得た。 実用版楽譜「ラヴェル・ピアノ作品集」4巻、「ドビュッシー・ピアノ作品全集」全12巻を校訂。また、留学記「パリの香り、夢みるピアノ」をショパン社より出版。2003年より開始した2度目のドビュッシー・ピアノ作品全曲演奏全4回(主催・朝日新聞社)、さらに全曲CD全4枚(ALM RECORDS/コジマ録音)、全曲楽譜校訂全12巻(ショパン社)によるドビュッシー・プロジェクトが2008年ドビュッシー没後90年に完結。2009年にはフランス・パリでのドビュッシーコンサートで好評を得る。また補巻としてCD「知られざるドビュッシー」が全集の5枚目としてリリースされた。実用版楽譜「ショパン名曲選集26」全3巻を校訂、ショパン社より出版。2009年12月より2度目のラヴェルピアノ作品全曲コンサートが始まり、全曲CDを録音予定。演奏の傍ら、東京芸術大学ピアノ科において後進の指導も行っている。
山本美芽
やまもとみめ◎音楽・ノンフィクションライター、ピアノ教本研究家。著書に「21世紀へのチェルニー」など。音楽誌「ムジカノーヴァ」にて書評ページ担当。http://homepage1.nifty.com/mimetty
▲ページTOP

【GoogleAdsense】
ホーム > ピアノセミナー > ニュース > > 【実施レポ】中井正子...