【インタビュー】第24回:江夏 範明先生 「年齢に応じたやる気を引き出すには」 

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2007/05/24

kouka_noriaki_lecturer.jpg導入レベルから音大生まで、これまで延べ1,000人以上の生徒を見てきたという江夏範明先生。ユーモアあふれるトークと歯に衣着せぬ物言い、そして温かい人柄がにじみ出る指導論で、講座の方も反響が大きい。そんな先生が自身の経験から導き出した、生徒をやる気を引き出すための「やるべきこと」、そして「絶対やってはいけないこと」とは。指導書には載っていない、経験者ならではのノウハウをご紹介します。

◎ 講座では、いかに生徒側のやる気を引き出すか、というお話をされていますが、このテーマを取り上げられたきっかけを教えてください。

「昔は、生徒を『絶対にコンクールに通してやろう』という強い思いで教えていました。『コンクールの予選を通れないなんて、4年生で九九が出来ないのと同じ』と平気で言っていましたし、コンクール前は毎日厳しいレッスンをつきっきりでして、生徒に相当な圧迫感を与えていと思います。だから、コンクールに通る生徒の数は多かった反面、辞めていく人も非常に多かった。でも、コンクールに落ちた生徒の親が私に土下座して謝ってきたことがあって、その時初めて『自分は生徒をこんなにも辛い目に合わせていたんだな』と気付いたのです。

それからは、一番大切なのは『ピアノを楽しく、生涯続けていけること』という考えに切り替えました。コンクールにももちろん勝ってほしい気持ちはあるのですが、『コンクールに出られたら、それは素晴らしいことだね』とあえて言い、勝てなくても必ず誉めてあげる。『嫌々やらされても、まともに続くのはせいぜい2~3年、生徒のやる気を引き出せなければ続かない』ということに気付いてからはピアノを辞めていく生徒も少なくなったという経験から、その方法を講座のテーマとしても取り上げることにしました。」

◎実際に生徒のやる気を引き出すには、どういったことが最も大事だと思われますか?

「結局、生徒が先生自身に興味や魅力を感じないと、やる気も持続しないと思います。それには、ただ真面目に教えるよりも、ピアノ以外のところ接点を持つことです。私は、ピアノに興味がない小さな子供は、公園に連れて行って鬼ごっこをして遊んであげたりもしましたし、倦怠期にある中高生の生徒には、カウンセラーになってピアノ以外の学校やクラブ、好きな人のことなどとことん話し合ったりします。そうすると、特に小さい子なんかは、『先生のために、頑張る』といってコンクールや発表会に向かって、自らすごく努力することもあるのです。

もうひとつは、生徒の目線に合わせてあげること。一度生徒に、リズムをどんどん早く弾いたり、転んでみたりして、色々演奏の悪いパターンを聞かせてみたところ、生徒が自分から『私が上手いお手本を聴かせてあげるから』と精一杯上手に弾いて私に見せようとしたことがありました。その時は本当に感動して、どんなに小さな子でも対等に向き合ってあげることの大切さを教えられました。」

◎ 逆に、生徒に「これだけはやってはいけない」こととは?

「子供に言ったら傷つくことを、無意識なところで言ってしまっているケースは、意外に多いと思います。特に、手のことを言ってしまう指導者の方はいらっしゃるのではないでしょうか。『小さい』とか『形が悪い』とか、演奏が上手くいかないのを手のせいにされて、ピアノを辞めてしまったという話はたまに聞きますが、実際のところ、『良い手』を持っている人なんてあまりいないですよね。理想的な体や手を持っていなくても、あるものを活かして、上手く弾けるように導いてあげる。これが真の教育だと思います。

また、『私が言ったとおりのことが出来ないから、生徒が弾けない』という考えも絶対持ってはいけません。生徒にいかに関心をもって、受信してもらうかは、全て指導者自身の発信の仕方にかかっているのです。それを人のせいにしたり、『○○先生のところは良い生徒ばかりいていいですよね』といった気持ちで接していると、結局何を教えても生徒のほうが受け入れてくれません。

こういったことは、私自身、自分の子供を持って初めて実感できましたね。子供に何を言ったら傷つくか、どのような姿勢で教えるべきか、人様の子供を週に1回見ているだけの時はわからなかったことも、子育ての中で多く学ぶことができました。」

◎ ご自身も親として、生徒さんのご両親へアドバイスなどされていますか。

「小さい生徒のご両親には特に、ピアノを習うということの尊さを極力知っていただきたいと思っています。親のやる気を教育したり、夢のあることを言ってあげる。上手く行かないときは、お母さんと話して、励まして、丁寧な対応をする。幼稚園の子供なんて、親と接する時間が断然多いので、このように親の意識を高めてあげることは本当に大事です。

また、指導の中では、どんなに小さい子にも『皆すごいピアニストになるんだぞ』という無限の夢を持たせてあげることも忘れてはいけません。そしてこれは、親に対しても同様です。もちろん、必ずしもそうでないことはいずれ気付くのですが、初めから否定的なことを言ってしまうと出来ることも出来なくなってしまうんですね。いくら本当のことでも、夢を壊すようなことは絶対言ってはいけません。親は我が子を夢にして生きているのですから、親子両方に夢を持たせて、出来なかったことを出来るようにしてあげること、これは指導者の大切な役目ではないでしょうか。」

◎ 最後に、先生ご自身が指導者として心がけていることはありますか。

「クラシックの世界は常に変わっているので、いつもアンテナを張りめぐらして、色々な新しいもの、面白いものを追っていかなくてはいけないと思っています。最近はクラシックだけでなくポピュラーも教えたりしていますね。

『これしかない』と思ってしまうと、いつか上手く行かなくなる時が来た時に、気持ちを切り替えることが出来ない。コンクールなども、ひとつだけ受けるのではなく、複数受けていれば、一度上手くいかなくても次がある、と思えます。僕の娘も、コンクールを落ちてしまってショックで『もう辞める』なんて言っていたと思ったら、次の日別のコンクールで2位になって『私、そんなこと言ったっけ』なんてケロッとしていたことがあります(笑)。曲も、一つの曲を時間をかけて完璧に弾けるようになったとしても、結局は他も弾けなければ本当の意味での力は付かないんですよね。だから僕自身も、頭をやわらかくして、色々なことにチャレンジしていきたいと思っています。」

◎ありがとうございました!

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