【インタビュー】第23回:武田 真理先生 「作曲家研究から広がるピアノの世界」

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2007/05/17

takeda_mari_interview.jpg第23回目のゲストにお迎えするのは、作曲家シリーズや4期についてなどの講座で、精力的に講師として活動されている武田真理先生。特に作曲家シリーズでは毎回ベートーヴェン、チャイコフスキー、ドビュッシー、サティ、ブラームスなどをテーマに繰り広げられる、ユーモアと意外性あふれるお話が非常に好評だ。今回は、その膨大な研究に裏づけされた講座内容が完成するまでの経緯や、作曲家研究がもたらす他分野の知識と演奏への影響などについて、たっぷりとお伺いする。

◎ 先生はこれまで様々な作曲家に焦点を当てた講座でレクチャーされていますが、一人の作曲家についてどれぐらいリサーチをされているのですか。

「一つの講座でお話するにあたって、その作曲家についての本を研究するのはもちろんですが、その作曲家が生きていた背景や周りの作曲家についても調べるので、かなりの時間を費やします。例えばチャイコフスキーだったらロシアの歴史から始めないといけないので、チャイコフスキー自身のことにたどり着くまでもすごく大変。その時自分で作成する資料は、一回の講座につき100ページにはなりますね。」

◎毎回、取り上げる作曲家はどのように選ばれているんですか。

「ベートーヴェンに始まり、チャイコフスキー、ドビュッシーと2年に1回ぐらいのペースで増えてきたのですが、音楽そのものよりもその人の生きた時代に興味を持って取り上げた作曲家もいます。例えばサティは、彼が生きた時代のパリに興味を持って研究を始めました。

西洋音楽の中心って、最初はイタリア、古典期になるとウィーン、ロマン期はドイツと、ヨーロッパの中でも時代とともに移り変わっているのですが、私が一番面白いと思ったのは、20世紀初頭のパリ。世界中から音楽家や画家、作家が集まってきて、あんなエキサイティングな街はないですよね。サティも相当周りから影響を受けていて、例えば『ジムノペディ』で彼は3つ同じような曲を書いていますが、それはピカソやブラックが描いていたキュビズムと結びつきます。そして、従来の美しく描くことが目的だった絵画と違い、新聞紙を貼り付けたりした奇抜なスタイルの作品を発表していた同時代の画家と同じように、サティもピストルやタイプライターの音を音楽にしていて、非常に作風に影響を受けていることがわかります。 

また、その頃蓄音機が発明されたことによって音楽の形も変わりました。だから、邪魔にならなくて、集中して聴かなくていい『家具のような音楽』をサティは目指していて、それがBGMという発想の始まりなんですね。曲自体の価値より、そういった他分野や時代背景と結びつくところが、一つの時代の流れとして面白いかな、と思ったんです。」

◎ 楽譜以外のところからいかに音楽を解釈するか、ということも絡んできますよね。

「結局、チャイコフスキーの音楽は彼の同性愛者としての悲しみを知らないと理解出来ないし、ベートーヴェンにしてもハイリゲンシュタットの遺書に書いてある、耳の病気のせいで貴族の人達と社交が出来なかったことが、その頃の音楽に大きな影響を及ぼしていると思います。

ブラームスの講座では、彼の音楽をミレーの絵と結び付けて話をしています。ミレーって、それまでの貴族に雇われていた画家と違って、一般の人を題材にしているんですよ。『落穂拾い』などでは農民を描いていて、それでいて彼らの表情は、生々しい人間のものではなくて、『神』という感じなんですね。ブラームスの音楽も似ていると私は思っていて、一般大衆的なジプシー音楽をすごくさりげなく、上手に使って、必ず崇高なものを維持しているんです。その繋がりの解釈が正しいかどうかはともかく、音楽について考える時に他のジャンルとも結び付けて考えみることが大切だと思うのです。」

◎こういった時代背景や他ジャンルの人物との関わりなどをリサーチされたことで、先生ご自身の指導や演奏にはどのような影響がありましたか。

「レッスンをするときに色々な引き出しが出来て非常に役立ちましたし、そういったことを生徒に投げかけると、皆色々な興味を抱いたり、ハッとしますよね。そのように曲に絡んだ色々なことが見えて来れば来るほど、ピアノを向き合うことは楽しくなると思います。

曲って才能だけで書けるものではなくて、作曲家がどうしようもなく背負っている運命や、その時代の社会的な動きなどがどうしても影響してくるんです。皮肉にも、ロシア革命があった抑圧的な時代にすごい作曲家が何人も誕生しちゃうというような、つっこんだところまで見ないと、曲に込められた本当の思いまで読み取れないと思うんですね。

私達は楽譜を作っているのではなく、楽譜から音楽を起こしている、いわば再現芸術です。だから演奏に個性なんてなかなか出こないと思いますし、そういったオリジナルな側面を出すためには膨大な量の研究と知識が必要だと思います。ミステリー小説の探偵のように、例えばベートーヴェンが3回テーマを繰り返すのはなぜか、ということを探っていくと、音の分析から始まって、そこで言いたいことはなんなのかっていう精神的な背景にたどりついて、それを表現するためのテクニックがそういった分析と一体になった時に初めて、再現芸術として成立するのです。」

◎ 最後に、先生はMIYOSHIメソッドについても積極的に講座をされているそうですね。

「このような西洋音楽や作曲家の研究をしていなければ、MIYOSHIメソッドの本当の凄さもわからなかったと思います。

三善先生はオーケストラ曲やオペラ曲を書かれているだけあって、ピアノや他の作曲家、導入書なども徹底的に研究されています。メソッドは8冊にも及ぶのですが、1冊目の一番最初の曲が、『ドレドレド』のような指の動きではなく、音の響きと、指の重さを移動していく奏法から入っているんです。音の響きを感じること、音から音への移り方、そしてバッハやベートーヴェン、ショパンに繋がる様式間にこだわって一曲一曲が書かれていて、それでいてどこか日本的なんです。

ロシアの人は『ラフマニノフは自分達ロシア人じゃないと弾けない』、フランスの人は『ドビュッシーやラヴェルの感覚はフランス人じゃないとわからない』と言いますよね。それは、育った環境から聞こえてくる言語まで全てが作用して曲が出来ているから、一理あるとは思うんです。だから日本人として、『日本人じゃなきゃわからない、すごいものがあるんだよ』と誇りに出来る作品として、ミヨシ・メソッドをこれから海外の方にも是非知っていただきたいと思っています。」

◎ありがとうございました! 

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