【インタビュー】第21回: 嵐野英彦先生 「作曲家によるピアノ曲解説 ~曲のしくみを理解してもっと素敵な演奏を~」

文字サイズ: |
2007/02/16

arashino_hideo.jpg「アナリーゼ」と聞くと、どうしても難解なイメージがつきまとい、敬遠してしまいがち。そんな中、今回ご登場いただく嵐野英彦先生は、自身の講座「作曲家によるピアノ曲アナリーゼ」で、ピアノのレッスンに実際使用されるような曲を通して指導者に音楽理論の基礎と大切さを再認識させている。子供のピアノ曲、ソルフェージュテキストを多く出版している作曲家が語る、アナリーゼの意味と必要性とは。

◆ 先生の講座では、アナリーゼの題材にコンペティションやステップの比較的簡単な課題曲などを取り上げていらっしゃいますね。

「僕が講座で目指しているのは、ベートーヴェンやショパンなどの大曲のハイレベルな分析ではなくて、音楽の本質を初歩的な楽曲から読み取る基本的な能力を再認識してもらうことなんです。

ひとつの例として、機能和声というものを知らずにヨーロッパの音楽を勉強しているということは、新聞の文章を漢字を全部すっ飛ばして読んでいるようなものだと思います。おおよそのことを読み取れたとしても、本当に何を言っているのかは分からない。楽譜を本当に理解するためには、昔大学で勉強したけれども、今は眠ったままで放っておかれた状態になっている音楽理論に関する知識を、もう一度掘り起こす作業が必要になってきます。だから、大抵僕の講座は、『あ!昔そんなことをやった覚えがあります』というところからスタートするわけです。全くゼロというわけでなく、今は忘れてしまっている、一番の底辺のところを見つめなおすのです。」

◆ ピアノ指導者や演奏家は、ついつい演奏の方ばかりに目が向いて、理論や楽典を教えることは後回しになってしまいがちですよね。

「理想は、『テクニックと音楽理論とソルフェージュ』、このトライアングルの形を崩さずに、バランスよく発達させることですね。しかし今は、指先の指導ばかり先行しているように思います。

指導者自身が楽譜から何かを読み取って教えるという立場にいる以上、楽譜を通して何を伝えるか、相手に何を感じさせるかということは非常に重要です。そのためにも、自分の中に楽譜の読み方というものをきっちり持っているかということを、それぞれの指導者が自覚して欲しいと思いますね。生きた音楽を作るためには、楽譜の裏にあるものを見つけ出し、読み取る能力が絶対に必要であって、それを養うのがアナリーゼなのです。 

ベートーヴェンの後期からロマン派にいたるまでの時代は、作曲家は作品に関する情報を全部楽譜に書き込もうとします。だから、少なくともその頃の作品っていうのは、楽譜に書かれたことを正確に再現すれば、そう間違った演奏にはならないんですね。ところが、モーツァルト、ハイドン、バッハみたいに、楽譜の情報量がすごく少ない音楽は、楽譜に書かれたものが全てでは決してなくて、もっと楽譜の奥まで見て自分が音楽作りに参加しなくちゃいけないんですね。そのための第一歩として、まずは楽譜を書いてみる、例えば皆さんに自分でメロディーを書いてみて欲しいと思っています。」

◆ それって、わりとすぐに出来るものなんですか?

「もともとどんな音楽でも共通項はいくつかあるので、それをきっちりマスターすればそこそこのものは書けるようになります。それから先は、ハーモニーをどう繋いでいくかなど、その人のセンスで、アナリーゼすることにより色々アイディアが出てきます。

熱心な先生の中には、初期の頃からレッスンに聴音なんかを取り入れるために、テキストを買い込んで、一生懸命その材料を探したりしている方もいらっしゃるようです。しかし、一人一人の生徒に本当に必要な課題というのは、時には難しすぎたり、時には易しすぎたりして、なかなかレベルに合わないのです。そんな時、自分で今この生徒に何を教えたいか、何をさせたいかというポイントに合ったような曲が、その場で書けるような能力があることが、ピアノ指導者にとって理想だと思います。

もともとツェルニーやブルグミュラー、グルリットなんかも膨大な数の練習作品を書いていますが、あれは全部自分のレッスンために作曲したもの。ツェルニーなんて、出版の作品番号が3桁で、それぞれが複数曲で出来ていますからね。多分、生徒に自分の書いた曲をインクも乾いていない状態で渡して、『お前にはこれが良い、お前にはこれ』なんてやってたに違いないんですよ。要するに、教材を作る為にわざわざ練習曲を作ったんじゃなくて、必要に迫られて作ったものを考えて系統立てた結果、ああいうメソッドが出来たのだと思います。」

◆ どの指導者にも可能性があるということですね。そのためにも、指導者側が基礎を学びなおす必要性を強く感じます。

「教える側としてとにかく大切なのは、それぞれのレスナーが自分が何を出来るのかということを再確認して、その中で足りないものを自覚することだといつも感じています。何々を勉強した、こんな講座を受けたというだけで安心しきってはいけないんです。レッスンでは自分が理解したことを、生徒に全て分かる様に難しい言葉なしで翻訳していかなければいけないのですから。

日本の教育って、だんだんと先細りしていっているシステムだと思うんですよ。何かを教わった人が、それをそのまま次の人に教えても、次の世代にはもともとあったものの何割かしか伝わってないんです。そうやって世代を経ていくうちに、質、内容ともに薄まっていく。だから音楽指導にしても、指導する人が本質的なものをきちんと教わった上で、自分の言葉で音楽を感じたり読み取ったりする能力を培って、それをまた次に伝えていかないといけない。楽譜はただの記号であって、五線上に書かれたものは全てではない。だからこそ、指導者自身が楽譜の裏にあるものを見つけ出す能力を自分自身で開発していかないと、いろいろな壁にぶつかってしまうと思いますね。

日本の音楽教育のカリキュラムには、和声などの音楽理論は一般教養科目と同じ扱いで放り込まれていて、とりあえず一通りの規則を覚えて解答を書けばいいというところで終わってしまっている。だけど、僕はそういった一方通行の大学の授業とは違う、必ずレスポンスがあって、先生方が分からないと思うことをを本当に理解してもらうためのお手伝いが出来ることを目指しているんですよ。普段あまりにも見過ごされていることをちゃんと知って欲しいというのが、僕がお話をする基本でもあるのです。」

◆ ありがとうございました!

⇒嵐野英彦先生のプロフィールはこちら
⇒3/8巣鴨にて講座開催!詳細はこちら


【GoogleAdsense】
ホーム > ピアノセミナー > ニュース > 03インタビュー> 【インタビュー】第2...