【インタビュー】第11回: 池川礼子先生「『即読譜奏』のすすめ」

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2006/10/20

ikegawa-reiko(interview).jpg自身が考案された、楽譜が短時間で読めるようになる「即読譜奏」の講座が大反響を呼んでいる、池川礼子先生。即読譜奏の原理の秘密、誕生秘話、そして、即読譜奏が本当の目的とする、音楽的な演奏とは。

即読譜奏とは、具体的にはどういうものなんですか?

「普通、楽譜を読むときは、『見る』→『考える』→『弾く』という順番がありますね。即読譜奏は、この『見る』と『弾く』のプロセスを直結させてしまい、楽譜をすらすら読めるようになることで、より音楽を感じ、楽しむことが出来るのではないか、という考えのもとに開発された読譜法です。

具体的に言いますと、例えば、メロディーの隣同士の音は、90%近くのものが2度か3度の音程で出来ています。そのことを理解した上で、譜を見た瞬間、隣り合った2つの音程と、それを弾く為に必要な指使いも瞬時に判断することが出来れば、メロディーラインを見てすぐに弾けるようになる。また、英単語を例に取りますと、APPLEという言葉はA、P、P、L、Eの5つのアルファベットで出来ていますが、『APPLE』という単語をひとまとまりで読み、理解しますよね。楽譜も同じように、ひとつひとつの音符としてではなく、モチーフやフレーズ単位で読み解いて行くことで、簡単に読めるようになります。このように、楽譜を効率的に読み解いていくことで、かなりの速さで読譜が出来るようになるのです。」 

なるほど。この読譜法は先生が考案されたとのことですが、どのようにして生まれたのですか?

「初めて即読譜奏について考えるきっかけとなったのは、鹿児島短期大学の児童教育科で、ピアノのグループレッスンの講師をしていたときです。対象は多くが、ピアノ専門の学生ではなく、全くの初心者と、昔少し弾いていた時に、読譜への抵抗感からやめてしまった人たち。彼らは、週1時間半のグループレッスンを1年半受けた後に、幼稚園の保母さんになるための資格試験でソナチネを弾かなければならない、という、切羽詰った状況でした。その子達に、『ほら!読譜ってこんなに簡単でしょ』ということを教えるために考えたのが、即読譜奏です。

この即読譜奏は、いくつかの経験を元に考案しました。ひとつは、昔受けていた、嵐野英彦先生の指導者対象のアナリーゼのレッスン。すごく面白いレッスンで、今も役に立っている音楽理論の知識を蓄えることが出来たのもこの時でした。特に、その時先生が、『基本的には音楽って、あまり予測不能に音が飛んだりはしないんだよ』とおっしゃっていたことがずっと頭の隅に残っていたんですね。

また、私は大学を卒業してすぐバスティンの教材に出会い、定期的に講座でレクチャーもさせていただいていたのですが、バスティン先生は本当にすごいと思います。後々とても重要になってくる音楽理論の概念を、初歩的な曲にも取り入れている。例えば、曲の頭で、『このメロディーと同じものはどこにありますか?』と問い掛ける練習曲があります。最初は、すごく単純なことに思えるのですが、転調したり、色々な箇所に現れるメロディーの繰り返し、あるいは少し変化していることなどを探していくうちに、自然にバッハの曲に出てくるゼクエンツ(繰り返し)なども理解できて、曲の全体像の把握や、読譜・暗譜が飛躍的に早くなるのです。バスティン先生の教材は、自分でも気付かない間に、小さい頃から楽曲分析をさせているんですね。こういったバスティン流の考えは、即読譜法のルーツとなっています。」

実際に、即読譜奏は、誰にでもすぐ効果があるものなのでしょうか?

「先ほどお話した学生は、1年後にはほとんどの子がソナチネぐらいまでは弾けるようになっていました。また、元々演奏は上手いけれども、読譜はすごく苦手...という方にも、即読譜奏の効果は絶大です。私の生徒でも、こういう子がいました。演奏レベルが非常に高く、コンクールではいつも上位の成績。でも、新しい曲を与えると、パズルの様にひとつひとつの音を一生懸命読むので、読譜にものすごく時間がかかってしまう。そうすると、音楽的に楽譜を読むことが出来なくなって、前の日に練習したことが次の日には何も残っていないんですね。その子も、即読譜奏を教えて2、3ヶ月するとかなり変わってきて、昨年念願のG級決勝進出、今秋よりベルリン音大に進学しました。

他にも、小さい頃からこのように譜読みをしていると、年長さんでブルグミュラー25曲を1週間で全曲弾いて来る子もいました。また、大人の生徒にもこの方法を教えているんですが、大人の方にこの譜読みの原理を教えると、すぐに興味を示して、『なるほど!』と理解してくれる。初心者の方が、3回レッスンを受けただけで、『ソナチネ7番1楽章』が弾けた、という例もあります。

こういう話をすると、よく『それは、その生徒さんが優秀だから...』などと言われることも多いのですが、それは違います。鹿児島のバスティン研究会の先生方に、年に一回、指導の近況を報告していただくんですが、何人もの方が、『即読譜奏で、今まで1年単位で本が変わっていたのが、1ヶ月単位になった感覚です!』とおっしゃっていました。要するに、考え方ひとつなんですよ。」

それは素晴らしいですね!昔から読譜で苦労していらっしゃる方には朗報だと思います。

「そうですね。楽譜がすらすら読めないと、なかなか上手く弾けなくて、そのうち練習したくなくなってしまい、ピアノを弾くこと自体を止めてしまう...というケースも多いと思います。現代人は、小学生も中学生も、そしてもちろん大人も、忙しくてあまり練習時間がない。そんな時に、最悪の場合レッスンの時だけでも、ある程度弾けて楽しめれば、続くじゃないですか。たとえ10分の練習でも、『弾ける弾ける!』と思っているうちに、楽しく練習が終われば、ピアノも習い続けていけると思うんですね。

ただ、私が講座でお話しているのは、確かに楽譜を速く読む方法についてなのですが、ここで大事なのは、譜読みが短時間で出来る分、どれだけ音楽の内容を読むことに時間をかけられるか、なんです。先ほど、メロディーの90%は予測可能でパターン化されていると言いましたが、その残りの10%に曲の大切な部分が含まれていることが多いので、そこをじっくり考えて弾けば、ちゃんと音楽的な演奏が出来る。

楽譜を『見る』→『弾く』を直結したことで生まれる余裕で、間に『考える』ことが生まれ、先には、『聴く』、そして『感じる』があります。この『3K』を大切に、楽譜ばかりに気をとらわれるのではなく、ちゃんと自分の音を聴いて、音楽を感じた上で、独自の音楽表現を出来るようにするための、即読譜奏なんです。」

ありがとうございました!

取材中は冗談交じりずっと明るくお話していた池川先生が、取材後のレッスンで、パっと「先生の顔」に切り替わった瞬間が印象的でした。ちなみに、筆者も読譜はあまり得意ではないのが悩みだったのですが、「即読譜奏」、是非試してみたいと思います!

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