【インタビュー】第4回:パップ晶子先生 「バルトークのピアノ教育作品について」

文字サイズ: |
2006/09/01

Papp-sensei3.jpgバルトークの専門家として音楽之友社『バルトークピアノ作品集1~3』、『バルトーク子供のために1,2』の校訂の他、レクチャーや演奏、執筆活動も精力的に行っているパップ晶子先生。今回はそんな先生に、バルトークのピアノ教育作品の演奏法や指導法、そしてその魅力についてたっぷりとお話を聞いてきました!

コンペティションやステップの課題曲にも多く取り入れられるなど、今では現代音楽の作曲家として不動の地位を築いているバルトーク。一言で言うとどういう人ですか?
「そうですね...著名な国際的ピアニストでもあり、リスト音楽院の教授でもあり、民俗音楽学者でもあり、優れた作曲家でもあり...。
その中でも特に素晴らしい功績と言えるのは、彼が一生涯ずっと書き続けた330曲の子供のための作品だと思います。当時は大作曲家が子供の作品を作ると言うのは稀で、バッハのアンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集や、シューマンのユーゲントアルバムのように非常に限定的なものしかありませんでした。ですが、バルトークは作曲家として初期の段階からアメリカに亡命する直前まで、ずっと子供のためにやさしい現代曲を作り続けたんです。そしてこれらの作品に民謡の諸要素を多く取り入れたのは、当時消えかかっていた民俗音楽を子供たちに伝えたい、という強い思いがあったのです。
彼自身はリスト音楽院では主に大人を教えていたので、『ピアノの学校』という教則本を作るときは幼児の音楽教育の専門家と組んで作っていました。出版後も、その教育的効果をきちんと確かめる為に他の専門家に作品を検証し直してもらったりして、子供の教育への情熱がものすごくある人だったと思います。」

先生ご自身がバルトーク作品に興味を持たれたきっかけとは?
「もともとバルトークの民謡を使った作品に興味があって、この曲の元になった民謡ってどういうものなんだろう、とはずっと思っていました。ただ、実際に現地で専門的に研究出来るようになったのは、ハンガリー留学時代の大家のおばさんが偶然にもバルトークが5音音階を発見した民謡の発祥地出身の方だったからです。この大家さんはそらで400曲以上も民謡を歌えるような人で、正に"歌のなる木"でした。彼女は、ハンガリーの古い方言などを教えてくれ、ブダペストから900キロも離れている故郷に何回もご招待してくれました。本当にラッキーだったと思います。
バルトーク自身も、25歳の時からハンガリー、スロヴァキア、ルーマニアの民謡を集めて周って感動を得たのですが、その際の取材はお友達などを介して行ったそうです。やはり、つてや人の手引きがないとそういう所はなかなか行けないです。今、ジープでバルトークが旅した後を追おうとしたとしても、人間の足でしか入れないような地域が多々あります。私も調査の時はジャージを着て、山岳地帯や熊が出たりする地域に取材に出向きました。どういった伝統のもとでその曲が生まれたのかを調べたり、民謡の伝統の背景を探ったり、現地にお住まいの方々に民謡を歌ってもらって歌い方の特徴を知ったり...。また、3日間から1週間、時には3週間ぐらいそこに実際に住んでみて、生活を体験するといったこともしましたね。」

すごいですね!それでは、そういった民謡の研究が、先生ご自身のピアノ奏法に与えた影響などはありましたか?
「そうですね。まずは民謡の精神を知ることが出来たのが大きな収穫です。また、バルトークの音楽の場合は、リズムやアクセント、スタッカートの感じ方がとても特徴的なんです。ですので、民謡の取材をして、"アクセントってこのぐらいの強さで感じるんだ"とか"リズムはこのぐらいシャープに表現するんだ"とか、色々と感じることが出来ました。バルトークは、ハンガリーの流行歌の旋律に芸術音楽の和声を使ったリストやブラームスとは違い、民謡を徹底的に研究していて、その音階から和声やモチーフを抽出するという独自の技法を使っているので、こういったことを踏まえて弾いた方が演奏がさまになるんですね。
また、私は30歳を過ぎた頃からレクチャーコンサートなどをたくさんやらせて頂くようになったんですが、その間バルトークばかりをさらって、演奏の技術がぐんと上がったんです。バルトークの曲はスタッカートやきついアクセントが速いフレーズの中で入ってきたりするので、指がすごく賢く、敏捷になります。また、旋律線がすごくはっきりしていて、その流れを流麗に出さないといけないので、他の曲を弾く時もその技術がかなり生きてきます。例えばモーツァルトを弾く時も、音階やアルページョが綺麗に入るようになったりとか。更に、和声を綺麗に響かせながら、左手の伴奏を効果的にしたりなど、色々な演奏技術がつきますね。
一般的にバルトークの教材は教育的価値も芸術的価値も非常に高いので、内容を理解すると、すごく共感して夢中になって弾けます。また、スラーやスタッカートなどの色々なタッチの強弱の指示が詳しく書いてあるので微妙なタッチの違いを習得できる上、ピアノの強い音や優しい音、ディナミックの変化などが豊富で、表現とテクニックの両方の幅を一気に広げることが出来るんです。曲調は民謡的なものから現代的なものまで幅広くありますので、先生自身が勉強して、お子さんの個性・傾向・好みなどを良く見た上で曲を選んであげると良いと思います。」
貴重なお話ありがとうございました。


取材中、穏やかで柔らかい雰囲気のパップ先生から、ハンガリーの奥地まで自ら取材に出向いたという武勇伝が出てきた時はびっくり!研究への情熱がいかに人を動かすかということに素直に感心してしまいました。

⇒先生の詳しいプロフィールはこちら
⇒9/14(木)巣鴨で開催の講座情報はこちら


【GoogleAdsense】
ホーム > ピアノセミナー > ニュース > 03インタビュー> 【インタビュー】第4...