今月、この曲

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リスト『エステ荘の噴水』ミュージックトレード社『Musician』2017年11月号 掲載コラム

 夏休みは恒例のピアノコンクール全国大会に出かけました。暑い中、5日間の熱演に心からの拍手を送り東京駅に向かいます。新幹線の乗車までには少し時間があったので、東京駅より徒歩5分の和田倉噴水公園を散策しました。都会の真ん中にいる事を忘れさせてくれる緑に囲まれた公園です。昭和36年に天皇皇后陛下御成婚を記念して作られた大噴水、モニュメント、天皇陛下御製の歌碑、レストラン等があります。躍動感溢れる落水や、静かに流れる流水は夏の暑さを暫し忘れさせてくれるひと時でした。

 今回はその噴水から10余年前に訪れましたイタリアのティヴォリにある貴族エステ家による別荘「エステ荘」を思い出しご紹介いたします。フランツ・リスト作曲『エステ荘の噴水』です。ピアノ曲集『巡礼の年 第3年』の中に収められており、壮麗に噴き上げる噴水を表題とした曲として知られています。エステ荘は2001年ユネスコの世界遺産にも登録され、4.5haという広大な敷地の庭園内にはオルガンの噴水、エフェソスのアルテミス、百噴水など、ギリシャ・ローマ時代の噴水が500程築かれています。後期ルネッサンス期の代表的な庭園であり、イタリア一美しい庭園として称えられ、現在に至っています。

 曲は冒頭より水が流れる様が音によって描かれています。繊細きわまりない音楽世界ですが、とてもドラマチックでロマンティックでもあります。キラキラときらめく水の雰囲気を伝えようとする高音の弱音のアルペジオとトレモロの連続です。次々に微妙に変化して、ラヴェルの『水の戯れ』と同様に水が動く様子を美しく表現しています。中音域のメロディーも高音の輝く装飾音と美しく絡み合います。終結部に向かい徐々に盛り上がりを見せ、強靭な音でクライマックスを向かえますが、徐々に平穏な雰囲気になって曲は閉じられます。巧なアルペジオでの水の流れををお楽しみください。

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