ピティナ・CrossGiving

循環のカタチ Vol.4 関本昌平さん -「指導者」の立場から-

循環のカタチ
Vol.4 関本昌平さん -「指導者」の立場から-

特級のステージを経験した皆さんは、その後様々な形で次の世代の音楽教育をサポートする立場に進んでいきます。クラウドファンディング期間後半の連載では、そうした「循環」を体現しているこれまでの特級入賞者へインタビューしていきます。

第4弾は2003年特級グランプリを受賞した、関本昌平さん。現在は指導者としても活躍し、地元・名古屋市立菊里高校、愛知県立明和高校、名古屋音楽大学、そして2023年からは母校・桐朋学園大学でも教鞭をとり、門下生からは近年多くの特級入賞者を輩出しています。


特級のステージを振り返って

私が特級に参加した2003年の最終審査は、現在セミファイナルの課題である「ソロのリサイタル形式」とファイナルの「コンチェルト」が、まとめて1日で実施されるという形式でした。当時のコンチェルトはまだ2台ピアノ伴奏で、グランプリの褒賞としてオーケストラとの共演が用意されている、という形でしたね。私の場合は、同年秋に開催された浜松国際ピアノコンクールへの挑戦も見据えての特級参加だったのですが、そちらではオーケストラ伴奏のコンチェルト審査もあったので、「先を見据えた準備」という観点で二宮裕子先生にじっくり指導していただいたのを、今でも深く感謝しています。

インタビューの様子

コンクールのライブ配信や聴衆賞という仕組みが始まったのもこの頃からだったので、振り返ると「コンクールを聴く」という今や当たり前になってきた文化の変わり目でもあったのかなと。昔は客席も今ほどは埋まらなかったので、サポートの手厚さ、聴衆の厚み、いずれにも特級というステージの成長を感じます。聴く機会が増えて、子どもたちも自身の挑戦の将来像を強くイメージできるようになりました。幼い頃から高い目標を持って好きなことに挑戦できる環境が整ってきたという意味でも、今の特級の注目度には価値があるなと感じます。

グランプリ受賞時の表彰式より
特級挑戦者を指導する立場になって

幼いころからピティナ・ピアノコンペティションに挑戦した結果特級に至る生徒には、自分が通ってきた勉強方法や体験した道筋を事例として提示することもあります。私自身、ピティナのコンペティションに幼少期から参加して特級に至ったので、低学年のうちから毎年挑戦している子には、「自分はこの時こういうプログラムでやったよ」「こんな曲やCDを聴いて勉強したよ」といった情報を伝えるようにしています。特級までたどり着くような生徒は、やっぱり先を見据えている子が多いので、幼い頃から音楽の視野が広がるような情報提供を心掛けています。

コンクールシーズンは、つきっきりの指導が続きます

もう1つ、門下生が特級に挑戦する時に必ず伝えているのは「ファイナルを見据えよう」ということです。つまり、コンチェルトの準備ですね。サントリーホールでプロの指揮者・オーケストラとの演奏なんて最高のステージを用意してもらっているからには、感謝と責任をもって、「ファイナルで最高の演奏をする」という覚悟で臨む必要があると思っています。という意味では、理想的には二次予選の段階でコンチェルトも仕上がっている必要があると思いますが、一次予選からファイナルまでたくさんの曲を仕上げるので、練習の優先順位や曲ごとの練習時間のコントロールがうまくできない子も出てきます。この練習のコントロールに伴走してあげるのも、指導者の大事な役割ですね。私も自身が特級に挑戦した時、二宮先生に大変鍛えていただいた部分です。

グランプリ受賞直後に二宮先生のレッスン室をピティナが取材した際の、貴重な写真を発掘。当時はご自身が、つきっきりで指導していただいたと語ります。
「育てる」ということの難しさ

学生の頃、実はピアニストとして「有名になりたい」という願望がなかったんです。一方で、コンクールで成績が出るようになってから、同じ門下生たちにピアノを教えるという機会を学生ながら度々いただいて、当時から「自分はいつか教える立場になるんだろうな」と思っていました。
現在の仕事は、音楽高校・音楽大学での指導と、自身の教室の門下生の指導とで、とにかく連日指導の毎日です。学校での指導の中で改めて感じるのは、「基礎」の重要さですね。手首の使い方や演奏の姿勢などは特に、幼い頃に癖になってしまうと直しにくいので、難しいです。演奏はもちろんテクニックだけでは成り立ちませんが、やはりベースとなる「弾き方の基礎」の指導方法をもっと極めていきたいと考えています。

今ではご自身が「指導」について多くの先生に教える立場に。

一方で、基礎やテクニックを伝えた後は、興味・関心・好奇心を本人がどうやって広げられるかが肝になってきます。「先生に言われたから」という思考回路で練習や勉強をするのではなく、自分自身で広くアンテナを立てて、一つのアドバイスに対して「じゃあこうやって弾いてみよう」「この人の演奏を聴きに行こう」「こういう勉強をしてみよう」と、自ら開拓できるような子が、伸びます。これを引き出すのはとても難しいですが、生徒のそういう成長に寄り添えるような指導者の在り方を考えていきたいですね。

10月28日にはピティナ・ピアノセミナー「徹底研究シリーズ2023」を開講。良い指導とは何かを多くの先生と共に考える機会を、積極的につくられています。
特級挑戦者へ応援メッセージ

コンクールやコンサートという場には、たくさんの「応援者」がいます。先生や家族の日頃からの協力はもちろんのこと、本番は、コンサートの企画者・広報の担当者・チケットの担当者・ホールの舞台担当者・お客さんなど、様々な人がいて、成り立つ場所です。そのことに、演奏者はまず常に、感謝しないといけないと思います。SNSやYouTubeなど、発信媒体が増えたことで、今の時代には演奏者に「話して伝える」ことが求められるシーンも増えてきました。そういう媒体の発信から伝わる感謝や、同じステージに立った人へのリスペクト、ステージに向き合う姿勢含めて応援が集まることも多いですね。
一方、「応援者のために弾く」というモチベーションだけではいけないとも思います。演奏家として応援してもらうことの前提にはやはり、自分自身で研究し練習を重ねつくりこんだ「音楽」が必要です。特級は準備する曲がたくさんあって大変ですが、一次予選からファイナルまですべての楽曲の作りこみに手を抜かず、一つひとつ丁寧に作り上げた時に応援がつくのだということを忘れずに、頑張ってください。

演奏家として育っていく生徒たちに指導者ができることはなにか、熱く語ってくださいました。貴重なお話をありがとうございました!

Vol.1 梅村知世さん -「伴奏者」の立場から-
Vol.2 今泉響平さん -「アドバイザー」の立場から-
Vol.3 片山柊さん -「作曲家」の立場から-

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