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循環のカタチ Vol.2 今泉響平さん -「アドバイザー」の立場から-

循環のカタチ
Vol.2 今泉響平さん-「アドバイザー」の立場から-

特級のステージを経験した皆さんは、その後様々な形で次の世代の音楽教育をサポートする立場に進んでいきます。クラウドファンディング期間後半の連載では、そうした「循環」を体現しているこれまでの特級入賞者へインタビューしていきます。

第2弾は2021年に特級銅賞を受賞した、今泉響平さん。特級挑戦時には既に指導者として活躍され、史上初となる「特級銅賞」と「新人指導者賞」の同時受賞を果たしました。その後アドバイザー*としてもデビューし、自身の生徒だけでなく全国各地のピアノを学ぶ人々を指導しています。

  • アドバイザー:全国各地で年間600回開催されている合同発表会「ピティナ・ピアノステップ」事業で、参加者の演奏を聴いて評価コメントを送る指導者。

特級のステージを振り返って

特級参加時の私のことを「椅子の人」と覚えてくださっている方も多いと思いますが(笑)、演奏の姿勢・重心のコントロールのため、特注の座高が低い椅子を会場に持ち込んで演奏していました。二次予選以降に持ち込んでいた椅子は急遽つくったもので、その椅子での演奏に体をなじませていく必要がありましたね。あと、実はセミファイナルの直前に手を痛めてしまったんです。普段は指導中心の生活だったので、練習量が急激に増えて負担がかかったんだと思います。こうした物理的・身体的な調整は大変でしたが、低い椅子は重心が下がることで精神的にも落ち着いて演奏ができるので、やはり新しい椅子に慣れてきてから緊張がほぐれましたね。

特級挑戦時のインタビュー動画より。浜松のメーカー名陽木工がつくった「低い椅子」が話題を呼びました。

当時既に生徒がいて、C級に挑戦していた生徒が本選通過を決めたタイミングが、三次予選とセミファイナルの間でした。新曲課題曲を一日でも早く練習しないといけない時でしたが、生徒優先で3日間つきっきりで指導しましたね。福岡と東京の往復も多く過酷なスケジュールでしたが、生徒もいつも私の特級の結果を気にしてくれて、二人三脚の挑戦でした。新人指導者賞は正直意識していなかったのですが、結果的に特級も指導も実りがあって、嬉しかったです。

2021年特級ファイナリストと
「アドバイザー」という立場になって

コロナ禍に入る前から、二人のピティナ会員の先生に推薦をいただいて、アドバイザー登録の申請をしていました。人に教えるのが楽しいので、その機会が広がればと思って。アドバイザーに登録するための研修の段階でコロナになってしまい、機会を逸してしまっていたのですが、特級入賞後に改めてアドバイザー研修を受けました。特級で入賞したことで各地のステップ開催事務局からアドバイザーやトークコンサートのオファーをいただけるようになったのはとてもありがたいです。最近、オファーをいただいた地区への実際の派遣が増えてきて、特級入賞の価値を改めて実感しています。

ステップでは、コメントシートを一人ひとりの参加者に送り、講評します。

コンクールとステップでは、参加者のモチベーションは異なると思いますが、演奏を評価する立場の姿勢は基本的に変わらないと思っています。今の演奏から、次の上達につながるアドバイスを送る、というのは、コンクールの審査もステップのアドバイスも同じです。子どもたちの演奏には、体の成長が解決する課題があったり、会場のピアノの状態で鳴らしにくい鍵盤があったりと、物理的な演奏の障壁があることも多いです。なので決して「練習不足」ではなく、今日思うように演奏できなかったところにはどういう課題があるのかを伝えるようにしています。ステップは特に、コンクールや発表会などの本番を控えていて緊張を克服するために参加している人も多いので、失敗やミスも克服できるものだと思ってもらえるようにコメントを送っています。

オンラインインタビューの様子
指導と自身の演奏が繋がるとき

今は自分の演奏活動よりも、指導する立場の仕事が多いですね。ステップのアドバイザーのリクエストもありがたいことに増えていて、こちらが移動も多くなることを考えると、演奏とアドバイザーと指導が、ざっくり3:2:5くらいのバランスでしょうか。
自身の演奏活動や練習の時間が短くても、指導の時間が自身の演奏のための学びになることはとても多いです。自分が以前先生から受けた指摘を、指導者・アドバイザーという立場から人に伝えるようなこともあるので、自身の演奏で気を付けないといけないことをかみしめる機会にもなります。曲の理解も、人に伝えることで言語化が深まります。指導に多くの時間を割くことは、物理的には自分の演奏時間が減ってしまいますが、「鍵盤を使わない練習」と思って取り組んでいますね。

ステップのイベント内で開催されるトークコンサートの依頼も増えています。
特級挑戦者へ応援メッセージ

私が挑戦した時は、参加者がほとんど学生という中で社会人としての参加だったうえに、演奏スタイルをかなり変えての参加だったのですが、たくさんの方が応援してくれたのが心の支えになりました。椅子の持ち込みが話題になって「イスいずみさん」「いまイスみさん」とあだ名をつけて応援してくれたり(笑)、フランクな応援が逆に心地よかったのを覚えています。極限状態の中での声援がどれだけ力になるかを、特級を通じて経験しました。銅賞は、私のスタイルをたくさんの人が応援して受け容れてくださった結果ととらえています。

アドバイザーとして訪れた地域では、サイン会が始まることも。

2年前の自分のことを思い出すと、今挑戦されている皆さんも、各ラウンドで押しつぶされそうになるくらい緊張しているだろうと想像しますが、今の特級はたくさんの方が応援を届けてくれるステージになっています。私自身、特級に参加する以前からコンクールを見るのが好きで、配信のあるコンクールは聴く習慣がありました。今年ももちろん注目しています。いい演奏を応援してくれる人に届けるつもりで、頑張ってください。

アドバイザーにまで広がった現在のご活動と特級の経験とのつながりを、楽しくお話しくださいました。貴重なお話とエールを、ありがとうございました!

Vol.1 梅村知世さん -「伴奏者」の立場から-
Vol.3 片山柊さん -「作曲家」の立場から-
Vol.4 関本昌平さん -「指導者」の立場から-

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