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    <title>脳と身体の教科書</title>
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    <title>第１９回　音色を変える技術</title>
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    <published>2011-12-07T07:53:12Z</published>
    <updated>2011-12-07T07:58:04Z</updated>

    <summary>「音色」が変わるとはどういうこと？自由自在に音色を操ることの意味</summary>
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<div class="note">

<div class="t1">音色を変える技術</div>

<p>タッチを変えるとピアノの音色は変わるでしょうか？読者の皆さんはピアノを弾かれる方ですから、もちろん音色は変わるとお考えだと思います。一方で、音響学者の中には、「ピアノの構造を考えると、ピアノの音色を変えることはできない」とおっしゃる方もいらっしゃいます。</p>

<p>ピアノというのは、鍵盤がある一定の位置より下がると、ハンマーはひとりでに弦に向かって動いていくため、ハンマーが弦と衝突する直前の動きを細かくコントロールすることはできません。したがって、ハンマーがひとりでに動き始める瞬間の鍵盤の速度が、ハンマーの速度、ひいてはハンマーが弦に衝突するエネルギーを決めます。この鍵盤の速度を速くすると、ハンマーも速く動くため、音量は大きくなりますが、それ以外にはハンマーの動きを操る術はピアノの構造上存在しないので、「音量が同じであれば、音色も一緒のはずだ」とおっしゃる方がいるわけです。</p>

<p>しかし、近年の音響学、心理学、脳科学の研究の結果、ピアノの音色を変えられることや、ピアノの音色を感じ取る脳の仕組みについて少しずつ明らかになってきました。</p>


<div class="t2">１．音色と雑音</div>

<p>ピアノの音色が本当に変わるとすると、何がピアノの音色を決めるのでしょうか？これについては、いくつか研究があるのですが、その中で近年注目を集めている「打鍵時に生じるノイズ（雑音）」との関連についてご紹介します。</p>

<p>鍵盤を叩くと、机を叩くときと同様、「バン」といった雑音（ノイズ）が鳴ります。これはピアノを弾いているときには、通常それだけで聴こえにくいものです。「バン」と叩くノイズのわずか0.1秒かそれ以下の時間の後に、実際のピアノの音が鳴るので、耳は2つの音を分離して聴かずに、「混ざった一つの音」として認識します。</p>

<p>オーストリアのGoebl博士らは、このノイズが音色に影響を及ぼすと考え、興味深い実験を行っています<a href="#c1" class="c">(1)</a>。まず、鍵盤を叩くタッチと叩かずにそばから押さえるタッチで打鍵し、打鍵によるノイズがある音と無い音を２つ用意した後、それらを様々な人に聴いてもらいます。そして、２つの音の音色が同じか違うかを尋ねたところ、雑音の有無によって、音色の違いを聞き分けられることがわかりました。ノイズは単独として聞こえませんから、ノイズがピアノ音に混ざっているかそうでないかを、私たちの耳は検知できるということです。</p>

<p>次に、打鍵ノイズがあるピアノの音から、ノイズだけを取り除く特殊な処理を施した音を用意します。そして、元々ノイズの入っていない音との音色の違いを、様々な人に聴いてもらいます。すると、今度は２つの音色の違いを聞き分けることができませんでした。</p>

<p>これらの結果から、どうやら指先が鍵盤を叩くときに生まれるノイズが、ピアノの音色の知覚に影響を及ぼしていると言えます。さらに、私たちの研究の結果、このノイズがピアノ音に混ざることによって、音が硬く感じられることも明らかになりました<a href="#c2" class="c">(2)</a>。よくレッスンで「鍵盤を叩いてはいけない」とか、「指先と鍵盤の間に空気を入れないように」とかおっしゃる先生がおられますが、実際に鍵盤を叩くことによってこのノイズは生まれますから、みなさんが経験的に感じられていることは正しいのです。</p>

<p>さらに、Goebl博士らはその後の研究で、鍵盤がピアノの底に衝突するときに生まれるノイズも、音色の違いに影響を及ぼすことを明らかにしました<a href="#c3" class="c">(3)</a>。これらノイズの大きさは、指先の皮膚の厚みや、指先のどこで鍵盤に触れるか、筋肉をどれだけ固めるかなど、様々な要因によって変わり得るものです<a href="#c4" class="c">(4)</a>。音色の違いに個人差があったり、鍵盤への触れ方で音色が変わる背景の一つに、こういった要因が関わっていると考えられます。</p>

<p>とはいえ、「音色を決めるのはノイズだけ」というのも寂しい話です。音色に影響を及ぼす他の要因について十分に知られていないということは、現代の科学（装置や解析方法）では明らかにできない現象がピアノにはまだまだ潜んでいることだと、私は考えています。今後のさらなる研究によって、音色を変える脳と身体のメカニズムが解明されていくことでしょう。</p>


<div class="t2">２．音色を感じ取る脳</div>

<p>そもそも、音色とは何でしょうか？同じ音量、同じピッチの２つの音の違いを聞き分けられるとき、その違いを生み出しているものが音色です。つまり、大きさもピッチも全く等しい２つの音を聴いて、その２つの音が「違う」と判断できる場合、その２つの音は「音色が違う」と言えるわけです。</p>

<p>例えば、音量もピッチも同じピアノとヴァイオリンの音を聴けば、音の違いは容易にわかりますよね。これが、音色の違いです。この時、物理的には、音の周波数や音の波の形などが、２つの音では異なります。</p>

<p>さて、異なる楽器のように、明らかに音色が違う場合に比べると、ピアノの音同士の音色の違いはクリアではありません。そのため、ピアニストの脳は、そのわずかな違いを聴き取りやすいように変化していることが知られています<a href="#c5" class="c">(5)</a>。</p>

<p>上記のピアノ音とヴァイオリン音を聴く場合、ピアノの訓練を積むと、ピアノの音を聴いたときの方が、ヴァイオリンの音を聴いたときよりも、音を感じ取る脳細胞は強く活動するようになります。一方で、ヴァイオリンの訓練を積むと、その逆で、ピアノの音よりもヴァイオリンの音によく強く反応するようになります。訓練によって、良く聴く音の表情を微細に感じられるように、脳が変化するのです。</p>

<p>これは言いかえると、必ずしも音楽家ではない聴衆の方の耳には、わずかな音色の違いは感じ取りにくい可能性があることを意味します。では、膨大な練習時間を費やしてわずかな音色を変化させることは、音色の差を感じられる、ごく限られた聴衆のためだけのものなのでしょうか？</p>

<p>これは、みなさんによく考えていただきたい問題です。私自身は、逆説的ですが、細やかな音色で彩られた演奏は、音色のわずかな差を判別するのが難しい聴き手の方のためにも大変有意義で素晴らしいものだと考えています。なぜならば、そういった経験の積み重ねによって、聴き手の方の"音を聴く脳の働き"が変化し得るからです。「何度も聴くうちに良さがわかってきた」という経験をみなさんもされたことがあるかもしれませんが、それもまた音楽という芸術を鑑賞する醍醐味の一つではないでしょうか。音色を自由自在に操る術を身につけるための練習は、聴き手の未来に新しい景色を届ける力があるのです。</p>


<br />

<hr size="1" noshade>
<br />

<dl class="c_list">
<dt><a name="c1"></a>(1)</dt><dd>Goebl W, Bresin R, and Galembo A (2005) Once again: The perception of piano touch and tone. Can touch audibly change piano sound independently of intensity? <em>Proc ISMA</em> </dd>
<dt><a name="c2"></a>(2)</dt><dd>Furuya S, Altenmüller E, Katayose H, Kinoshita H (2010) Control of multi-joint arm movements for the manipulation of touch in keystroke by expert pianists. <em>BMC Neurosci</em> 11: 82</dd>
<dt><a name="c3"></a>(3)</dt><dd>Goebl W and Fujinaga I (2008) Do key-bottom sounds distinguish piano tones <em>Proc ICMPC</em></dd>
<dt><a name="c4"></a>(4)</dt><dd>Kinoshita H, Furuya S, Aoki T, Altenmüller E (2007) Loudness control in pianists as exemplified in keystroke force measurements on different touches.<em> J Acoust Soc Am</em> 121(5 Pt1): 2959-69</dd>
<dt><a name="c5"></a>(5)</dt><dd>Shahin AJ et al. (2008) Music training leads to the development of timbre-specific gamma band activity. <em>Neuroimage</em> 41(1): 113-22</dd>
</dl>


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</div>]]>
        
    </content>
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<entry>
    <title>第１８回　練習の生理学　（３）練習の科学</title>
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    <published>2011-09-07T03:43:00Z</published>
    <updated>2011-09-07T08:08:39Z</updated>

    <summary>うまくなるには練習が必要。どのような練習をすれば効果的？</summary>
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        <name>admin</name>
        
    </author>
    
    
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<div class="note">

<div class="t1">練習の生理学　（３）練習の科学</div>


<p>うまくなるためには、練習が必要です。練習すると、脳や身体の構造や機能が変化し、できなかったことができるようになるからです。ニューヨークの路上で、カーネギーホールの行き方を尋ねると、ニューヨーカーは「練習、練習、練習」と答えるというお話があるくらい、素晴らしい演奏と練習は密接に関係しています。</p>

<p>しかし、練習を好きな子とそうでない子がいます。言いかえると、モチベーション（やる気）の高さには、個人差があります。ピアノに限らず、楽器を習い始めた7歳から9歳の子どもを調査した研究によると、モチベーションが高く、練習量が多い子の方が、数ヵ月後により上手になっていました<a href="#c1" class="c">[1]</a>。しかし、音楽的な才能や知性が高いからといって、同じ練習でもより上手になるというわけではありませんでした。したがって、うまくなるためには、才能よりもやる気と練習が大切だとこの研究では主張しています。</p>

<p>また、別の研究によると、生徒の親がどれだけ子どもの音楽活動に協力的であるかも、生徒の演奏能力を左右するそうです<a href="#c2" class="c">[2]</a>。たとえば、お子さんが家で練習しているときに、横について見てあげたり、先生と直接連絡を取り合ったりする親の方が、子どもの上達が早いことが知られています。これは、楽器を習いたてのお子さんのモチベーションを高めることとも関係しているかもしれません。</p>

<p>では、どのような練習をすれば、うまくなるのでしょうか？イギリスで行われた調査の結果、上手な子の方が、単に練習時間が多いだけではなく、音階などの基礎的な練習を午前中にする傾向があることがわかりました<a href="#c3" class="c">[3]</a>。さらに、上手な子ほど、毎日決まった長さの時間を、基礎的な練習に費やしていました。つまり、練習のしかたにムラが少ないということです。ここでも親の果たす役割は少なくありません。小さいお子さんが、自分でしっかりと練習スケジュールを決め、毎日それを守るということは簡単ではないからです。しかし、これは子どもの場合の研究結果であり、年齢を重ねるにつれて、曲や状況に応じて、日々の練習のしかたを調整することも必要になるかと思います。</p>

<p>ピアノ科の音大生を調べた研究では、音階などの基礎的な練習は、練習時間に比例して、音の粒がより揃うようになることが報告されています<a href="#c4" class="c">[4]</a>。つまり、ある程度うまくなったからといって、基礎的な練習が必要なくなるわけではなく、その後も洗練された演奏技術を維持し、さらに磨き上げるためには、練習時間が必要なのです。実際、多くの名ピアニストも、練習の多くを音階に費やしたことが知られています。</p>

<p>
暗譜するためにも練習は必要です。暗譜には、３つのステップがあります<a href="#c5" class="c">[5]</a><a href="#c6" class="c">[6]</a>。一つ目は、覚えること、つまり、新しい楽譜を記憶することです。これは、楽譜の中で、同じグループのリズムや和声、アルペジオなどの音列のパターンを見つけることも含まれます。こうすることで、覚えやすくなるからです。二つ目は、覚えたことを思い出すための「きっかけ」を見つけることです。たとえば、「この終止形の和音が来たら、次はこの和声とこのリズム」とか「このアルペジオは１回目と２回目で、次に来る和声が違う」とかいったことです。楽譜の中に何か特徴的なことを見つけて、「この音が鳴ったら、次はこれが来る」といった、楽譜を思い出すきっかけになる情報を作ることで、暗譜はより確固たるものになります。ショパンなど、似たようなメロディが出てきますので、こういった「思い出すきっかけの音」を見つけておくと、暗譜の不安が軽減されます。三つ目は、反復練習をすることで、楽譜を思い出すための時間を短くすることです。たとえば、よく使っている本棚だと、どこに何の本があるのかすぐにわかります。しかし、あまり使っていない本棚だと「あの本はどこにあったっけ」と見つけるのに時間がかかります。暗譜も同じで、たとえ覚えていても、反復練習をしないと、すぐに思い出せません。時々刻々と変化する演奏の中では、思い出すのに時間がかかっていては、その記憶は役に立たないので、演奏中に次に何を弾くかが次々と頭の中に浮かび上がってくるようにするためにも、反復練習は必要と言えます。</p>
<br />

<hr size="1" noshade>
<br />

<strong>＜脚注＞</strong><br />

<dl class="c_list">
<dt><a name="c1"></a>[1]</dt><dd>O'Neill SA (1997) The role of practice in early musical performance achievement. In Does Practice Make Perfect? Current theory and Research on Instrumental Practice (Jorgensen H and Lehmann AC ed.), 99-112, Oxford University Press</dd>
<dt><a name="c2"></a>[2]</dt><dd>Davidson JW et al. (1996) The role of parental influences in the development of musical performance. Br J Dev Psychol 14: 399-412</dd>
<dt><a name="c3"></a>[3]</dt><dd>Sloboda JA (1996) The role of practice in the development of musical performance. Br J Psychol 87: 287-309</dd>
<dt><a name="c4"></a>[4]</dt><dd>Jabusch HC, Alpers H, Kopiez R, Vauth H, Altenmüller E (2009) The influence of practice on the development of motor skills in pianists: a longitudinal study in a selected motor task. Hum Mov Sci 28: 74-84</dd>
<dt><a name="c5"></a>[5]</dt><dd>Ericsson KA and Kintsch W (1995) Long-term working memory. ¬Psychol Rev 10: 211-245</dd>
<dt><a name="c6"></a>[6]</dt><dd>Chaffin R and Logan T (2006) Practice perfection: How concert soloists prepare for performance. Adv Cog Psychol 2: 113-130</dd>
</dl>





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    <title>第１７回　良い耳の仕組み　（２）良い耳＝良い脳</title>
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    <published>2011-07-12T01:56:00Z</published>
    <updated>2011-09-06T03:28:43Z</updated>

    <summary>「良い耳＝良い脳」をはぐくむ方法とは。。</summary>
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        <name>admin</name>
        
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<div class="note">

<div class="t1">良い耳の仕組み</div>

<div class="t2">（２） 良い耳＝良い脳</div>

<p>ソルフェージュや専門的な音楽訓練を受けると、メロディや和声をより精緻に感じられるようになりますが、その裏では、脳の大きさや機能が変化していることが知られています。ここでは、良い耳を支える脳の仕組みについて、簡単にご紹介します。</p>

<p>音のピッチやメロディの処理を担う脳部位（聴覚野）の神経細胞は、音楽訓練を積むことで、&#9312;数が増える、&#9313;働きが良くなることが知られています（Schneider et al. 2002 Nat Neurosci）。その結果、音楽の持つ豊かな情報を、より正確に処理することができるようになります。また、聴覚野だけではなく、「脳幹」といって耳から入った情報を最初に処理する脳の部位でも、音楽訓練によって、聴いた音に対する反応が良くなります（Lee et al. 2009 J Neurosci）。さらに、音楽訓練を積んだ年数が長い人ほど、これらの神経細胞の反応が良いことが知られています。和音に関しても同様で、私たちは音楽を聴いているとき、無意識のうちに脳は和声を認識しているのですが、この和声を感じる脳の働きが、音楽の専門的な訓練を受けることによって向上することが知られています（Koelsch et al. 2002 Psychophysiology）。リズムはどうでしょうか？音楽のリズムを感じる役割を担っている脳部位の一つに、運動前野という領域があります。複雑なリズムの音楽を感じるときほど、この脳部位は強く活動するのですが、音楽訓練を積むと、運動前野に加えて、「前頭前野」という頭の前の方にある脳の部位も、リズムを処理するために使われ、結果、より複雑なリズムを認識することができると考えられています（Chen et al. 2008 J Cog Neurosci）。これらをまとめると、音楽の専門的な教育を受けたり、専門的な訓練を積むことによって聴覚機能が高くなる背景には、音を処理する脳の構造や機能の変化が隠されていると言えます。</p>


<div class="t2">（３）どのようにして良い耳を育むか？</div>

<p>良い耳を育むためには、７歳までの音感教育が重要だというお話を以前にしました。他には、どのようなことが有効なのでしょうか？脳科学の裏づけのある訓練方法として、例えば、Suzukiメソッドが、音を処理する脳機能の働きを促進することが実証されています（Fujioka et al. 2006 Brain）。また、音を聴くことで脳の働きが良くなるという訓練の効果は、訓練に使われた楽器の音にだけ起こることが知られています（Pantev et al. 2001 Neuroreport）。つまり、ピアノの音ばかり聴いていると、ピアノの音を処理する脳の働きは良くなりますが、ヴァイオリンの音を処理する時の脳の働きにはあまり変化は起こりません。したがって、様々な音の表情を感じ取りたければ、様々な楽器の音を聴くことが有効かもしれません。</p>

<p>良い耳を育むには、どれだけの量の訓練が必要なのでしょうか？シカゴのノースウエスタン大の研究グループはこの問いに対して、一つの興味深い研究結果を報告しています（Wright and Sabin 2007 Exp Brain Res）。彼女らは「音色を細かく感じ取る能力」と「リズムを細かく感じ取る能力」の２つの能力を高めるために、そのための訓練を毎日どの程度すれば良いかについて調べました。訓練というのは、音色やリズムのわずかに異なる２つの音や音列を聴かせ、それが同じか違うかを判断するというものです。これはレッスンでもよくされることですよね。例えば、生徒さんに先生が音色の異なる２つの音を鳴らして、「どちらの音の方が硬いか、わかる？」といったことを聞かれたり、あるいは「タータッタではなくてタータッッタ」などといった細かいリズムの違いを実際に弾いてみて理解してもらおうとすることがあるのではないでしょうか。</p>

<p>この研究の結果、音色の違いを感じ取る能力を高めるためには、少なくとも３６０回以上、毎日このトレーニングをする必要があることがわかりました。つまり、練習の途中でやめてしまっては、音色を聞き分ける繊細な耳を手に入れることはできないわけで、練習の「量」が大切だということになります。一方で、わずかなリズムの違いを感じ取る能力を高めるためには、毎日３６０回トレーニングすれば十分で、それ以上しても能力に変化はありませんでした。つまり、ある程度リズムを感じる訓練をやれば、それ以上やっても時間のムダと言えます。なぜ「360回」という数字なのかはさておき、この研究から言えることは、耳の能力の「何」を高めるかによって、どの程度の量の訓練を積めば良いのかは違うということです。和声の違いやポリフォニーのバランスを聞き分けるなど、他の耳の能力の場合はどうなのか、今後の研究で明らかにする必要がある興味深いトピックかと思います。</p>



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    <title>第１６回　良い耳の仕組み　（１）音が「聴こえる」まで</title>
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    <published>2011-05-27T02:04:27Z</published>
    <updated>2011-09-06T03:22:54Z</updated>

    <summary>「良い耳」とはどんな耳？ピアノ教育でも重要な「耳」のおはなし</summary>
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<div class="note">

<div class="t1">良い耳の仕組み</div>

<p>「あのピアニストは耳が良い」、「随分と耳が良くなってきたね」といった、耳の良し悪しについての言葉をよく耳にします。耳が良いとは、人それぞれ様々な解釈がありますし、状況によって意味も変わるかと思いますが、ここでは単純に「わずかな音（音楽）の表情の違いを感じ取れること」としましょう。もし、ほんのわずかなリズムのズレを感じられれば、自分ひとりで練習していても、正確なリズムで演奏できるようになる可能性が広がりますし、音色の違いを感じられれば、音色を変えるための身体の使い方を見つけるチャンスが増えます。また、レッスンで先生が鳴らす音が自分の鳴らした音とどう違うかわからないと、家に帰って一人で練習するとき、何をどう練習すればよいのか見失うことさえあります。したがって、良い耳を育むことが、ピアノ教育において重要だということに異論を唱える方はいないかと思います。では、良い耳とは、何が良いのでしょうか？単に耳の形が良い、というわけではなさそうですね。ここでは、まず「音を聴く仕組み」について簡単にご紹介した後に、訓練や練習によって良い耳がどのようにして育まれるかについてご説明します。</p>

<div class="t2">（１）	音が「聴こえる」まで</div>


<p>音というのは、波です。波がふるえる速さが「周波数」です。この周波数が高い（＝振動する速さが速い）と、音は高く聞こえます。人間が聴こえる周波数には限界があって、一般には一秒間に20回程度振動する速さ（20ヘルツと言います）の低い音から、20000回振動する（20000ヘルツ）の高い音までの音を聴き取ることができます。私たちはどのようにして、単なる波から音の特徴を理解しているのでしょうか？</p>

<div style="float:right;margin-left:15px;font-size:8pt;text-align:center;"><span class="mt-enclosure mt-enclosure-image" style="display: inline;"><a href="javascript:void(0)" onclick="
  window.open('http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/images/016-1.jpg', '_blank', 'width=500,height=300'); return false;"><img alt="図１" src="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/assets_c/2011/05/016-1-thumb-300x172-8609.jpg" width="300" height="172" class="mt-image-none" style="" /><br />図１（クリックで拡大）</a></span></div>

<p>音の波が耳の中に入ると、まず波は鼓膜をブルブルと振動させます（図１&#9313;）。この振動は、耳小骨というところで増幅され、その後、耳の奥の「蝸牛」という場所に送られます（図１&#9314;）。この蝸牛というところは、かたつむりのような形をしていて、入り口の方は、高い周波数の音に反応しやすく、奥に行けば行くほど、より低い周波数の音に反応しやすいような仕組みになっています。蝸牛は、たくさんの神経（聴神経：図１&#9315;）とつながっていて、かたつむりの「どの部分」が反応するかによって、異なった神経が活動します。つまり、「低い音は僕が担当、高い音は私が担当」といったように役割が分担されていて、高い音が蝸牛に入ると、入り口に近い聴神経が活動し、低い音が入ると、蝸牛の奥にある聴神経が活動します。そして聴神経は、電気の信号を脳の方へ送ります。したがって、蝸牛は「音の"波"を周波数ごとに仕分けし、電気の信号に変換するところ」なのです。</p>



<div style="float:right;margin-left:15px;font-size:8pt;text-align:center;"><span class="mt-enclosure mt-enclosure-image" style="display: inline;"><a href="javascript:void(0)" onclick="
  window.open('http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/images/016-2.jpg', '_blank', 'width=600,height=400'); return false;"><img alt="図２" src="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/assets_c/2011/05/016-2-thumb-300x186-8611.jpg" width="300" height="186" class="mt-image-none" style="" /><br />図２（クリックで拡大）</a></span></div>

<p>さて、耳に届いた音の波は、蝸牛で電気の信号に変換された後、いろいろな脳の部位を経由していきます。音の情報を宿した電気信号は、最初に「脳幹」というところに送られ、そこで様々な下準備を経た後、「視床」、「聴覚野」の順に送られていきます。聴覚野というのは、耳の上あたりにある脳部位で、ここでは主に音のピッチ（高さ）や音色が処理されると言われています（図２）。つまり、耳から送られてきた信号が、聴覚野の神経細胞によって処理されてはじめて、私たちは「音が高い、低い」といったことがわかるのです。このため、蝸牛から伸びている聴神経は、聴覚野の神経細胞とつながっています。音の高さと関係のあるメロディも、聴覚野で処理されます。一方、リズムは、小脳や運動前野といった脳部位で処理され、和音は、頭の頂点あたりにある頭頂葉といった脳部位が主に処理します。このように、音楽の要素ごとに、処理する脳の部位が異なるのです。したがって、私たちが「音楽」とひとくくりにして聴いているものは、脳の様々な部位がオーケストラのように働くことで、理解しているわけです。そのため、脳の疾患によって、音楽を聴いてもメロディを認識できなかったり、メロディの中に間違った音が混ざっても気付くことができないといったことが起こり得ます（失音楽症）。また、正しい音程で歌えない人の一部も、失音楽症という脳神経疾患に含まれます。一説には、先天的な失音楽症の人の割合は２５人に１人と言われています。</p>

<p>音楽教育やピアノの練習によって変化するのは、これら脳の大きさや働きだと考えられています。次回は、良い耳の背景にある脳の仕組みについてお話します。</p>



<hr size="1" noshade>
<br />


<strong>＜参考文献＞</strong><br />
<div class="sanko">

<div>Altenmuller E (2004) Music in your head. <em>Scientific American</em>. 24-31.</div>

<div>McDermott JH, Oxenham AJ (2008) Music perception, pitch, and the auditory system. <em>Curr Opin Neurobiol</em> 18(4):452-456</div>

<div>藤澤隆史、松井淑恵、風井浩志、古屋晋一、片寄晴弘 (2009) 音楽を鑑賞する脳．情報処理、50(8): 764-770</div>

<div>Peretz I, Brattico E, Järvenpää M, Tervaniemi (2009) The amusic brain: in tune, out of key, and unaware. <em>Brain</em> 132(Pt 5):1277-86</div>

<div>Stewart L (2008) Fractionating the musical mind: insights from congenital amusia. <em>Curr Opin Neurobiol</em> 18(2):127-130</div>


</div>



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</div>]]>
        
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    <title>第１５回　練習の生理学　（２）早期教育の効果</title>
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    <published>2011-03-29T05:12:03Z</published>
    <updated>2012-01-12T11:03:04Z</updated>

    <summary>ピアノはいくつから習うのが効果的？早期教育するべき根拠とは</summary>
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<div class="note">

<div class="t1">練習の生理学　（２）早期教育の効果</div>


<p>我々の脳や身体には、発達しやすい時期があります。例えば、臨界期というのは、発達におけるある限られた期間のことで、その期間中の経験によってもたらされた脳や行動の変化は、生涯にわたって続きます。つまり、訓練や経験が脳や身体にもたらす影響が、最も強い時期です。よく「子供のうちに英語を習わせないと」といった話を耳にしますが、これは第２外国語の習得に臨界期があることと関連しています。では、ピアノ演奏に関わる能力を育む上で重要な時期というのは、いったい何歳ごろなのでしょうか？ここでは、ピアノ演奏において特に大切な二つの能力、すなわち「運動」と「聴覚」に焦点を当てて、早期教育がこれらの能力にどのような影響を及ぼすのかについてご紹介します。</p>
<br />


<div class="t2">１．運動機能</div>

<p>モーツァルトのフィガロの冒頭や<a href="http://www.piano.or.jp/enc/dictionary/composer/liszt/001414.html">リストのピアノ協奏曲１番</a>の冒頭といった、両手で同じメロディをユニゾンで演奏する場合に代表されるように、ピアノ演奏では、両手の動きを協調させる技術が不可欠です。左右の手の動きを協調させる上で、右と左の脳の間で情報をやりとりする「脳梁」という部位が重要な役割を果たしているのですが、この脳梁の大きさは、７歳までにピアノの訓練を始めた人の方が、それ以降に始めた人よりも大きいことが知られています(Schlaug et al., 1995)。また、手指を動かすための脳の情報処理の速さを左右する「白質」という部位に関しますと、１１歳までの練習の方が、それ以降の練習に比べて、この白質の発達により大きな影響を及ぼすことが知られています(Bengtsson et al., 2005)。これらの結果から、手指の動きや両手の協調に関わる運動機能の臨界期は、どうやら７歳あら１１歳あたりだと言われています。</p>

<p>しかし、これは<u>７歳を過ぎると練習をしても意味が無いというわけではありません</u>。脳の情報処理そのものを司る「灰質」という部位は、一般的に７&#65374;１０歳あたりに発達を概ね終えると言われているのですが、白質に関しては、成人まで発達を続けるということや、最近の研究では、灰質、白質共に、成人以後もトレーニングによって発達することも報告されています。したがって、何歳になっても、練習は脳の発達を促すということを忘れないでください。</p>

<br />
<div class="t2">２．聴覚機能</div>


<p>音楽訓練を始めた年齢が早いほど、音のピッチ（音程）を正しく認識したり、リズムを正確に感じ取る能力が高いことはよく知られています(Bailey and Penhune, 2010)。事実、６歳の子供に１年間、専門的な音楽教育（ソルフェージュのレッスンなど）を受けさせると、そうでない子供に比べて、リズムを正確に感じ取る能力が高まること、それに伴い、音の知覚に関連する脳領域である聴覚野の体積が増大することが知られています(Hyde et al., 2009)。同様に、音感訓練を子供に１年間施すことにより、音を聴いたときに聴覚野の脳細胞がより強く反応するようになることも知られています(Fujioka et al., 2006)。これらの結果から、早期教育が聴覚機能を育む上で重要な役割を果たしていることが伺えます。</p>

<p>では、聴覚機能の臨界期はいつなのでしょうか？一般に、運動機能と同様に７歳くらいだと言われていますが(Hensch, 2004)、聴覚を司る脳部位の発達は他の感覚器官より長い時間をかけて発達することが知られています。例えば、視覚は生後数ヶ月で白質が急激に発達する一方で(Kinney et al., 1988)、聴覚は生後１歳くらいから白質の発達が始まり、４&#65374;５歳あたりに発達のピークを迎えると言われています(Moore and Linthicum, 2007)。また、聴覚を司る脳部位の神経細胞は、５歳から１２歳の間にも発達を続けるという報告もあり(Moore and Linthicum, 2007)、正確な答えは出ていません。大まかには、１歳から５歳の間に最も大きく発達し、５歳から１２歳までの間も発達を続けると理解していただくのが良いかと思います。</p>
<br />


<hr size="1" noshade>
<br />

<strong>＜脚注＞</strong><br />

<dl class="c_list">
<dt><a name="c1"></a>※</dt>
<dd>神経科学や心理学の分野では、「臨界期（Critical Period）」に加えて、それよりももっと長い期間続く「感受期（Sensitive Period）」という期間の存在が知られています。これは、臨界期ほどではないのですが、脳に経験の影響が特に強く及ぼされる時期のことです。本章では簡単にするため、両者を同じように扱っていますが、厳密には違うものであると考えられています(Knudsen, 2004)。</dd>
</dl>



<strong>＜参考文献＞</strong><br />
<div class="sanko">

<div>Bailey JA, Penhune VB (2010) Rhythm synchronization performance and auditory working memory in early- and late-trained musicians. Exp Brain Res 204:91-101.</div>

<div>Bengtsson SL, Nagy Z, Skare S, Forsman L, Forssberg H, Ullen F (2005) Extensive piano practicing has regionally specific effects on white matter development. Nat Neurosci 8:1148-1150.</div>

<div>Fujioka T, Ross B, Kakigi R, Pantev C, Trainor LJ (2006) One year of musical training affects development of auditory cortical-evoked fields in young children. Brain 129:2593-2608.</div>

<div>Hensch TK (2004) Critical period regulation. Annu Rev Neurosci 27:549-579.</div>

<div>Hyde KL, Lerch J, Norton A, Forgeard M, Winner E, Evans AC, Schlaug G (2009) Musical training shapes structural brain development. J Neurosci 29:3019-3025.</div>

<div>Kinney HC, Brody BA, Kloman AS, Gilles FH (1988) Sequence of central nervous system myelination in human infancy. II. Patterns of myelination in autopsied infants. J Neuropathol Exp Neurol 47:217-234.</div>

<div>Knudsen EI (2004) Sensitive periods in the development of the brain and behavior. J Cogn Neurosci 16:1412-1425.</div>

<div>Moore JK, Linthicum FH, Jr. (2007) The human auditory system: a timeline of development. Int J Audiol 46:460-478.</div>

<div>Schlaug G, Jancke L, Huang Y, Staiger JF, Steinmetz H (1995) Increased corpus callosum size in musicians. Neuropsychologia 33:1047-1055.</div>

</div>



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    <title>第１４回　練習の生理学　（１）脳や筋肉がどのように変化するか？</title>
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    <published>2011-02-24T07:35:35Z</published>
    <updated>2011-09-06T03:27:52Z</updated>

    <summary>ピアニストにとって必要な筋力とは？効果的な練習方法とは？</summary>
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        <name>admin</name>
        
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<div class="note">

<div class="t1">練習の生理学　（１）脳や筋肉がどのように変化するか？</div>


<p>ピアノを練習すると、繰り返し演奏しても筋肉が疲れなくなったり、楽譜を覚えて自動的に指が動くようになったりするかと思います。この時、脳や筋肉ではどのようなことが起こっているのでしょうか？今回は、練習の生理学についてお話します。</p>



<div class="t2">１．筋繊維の変化</div>



<p>筋肉には、大きな力を発揮できるけれども、疲労しやすい「速筋」と、あまり大きな力は発揮できないけれど、疲労しにくい「遅筋」という２種類があります。これらは、トレーニングによって増えたり減ったりするため、短距離選手やボディビルダーは速筋が多く、マラソンランナーやクロスカントリーの選手は遅筋が多いことがよく知られています。</p>

<p>では、ピアノの練習を積むと、どちらの筋肉が増えるのでしょうか？速く指を動かすためには、速筋が必要ですし、演奏しても疲れないためには、遅筋が必要です。この問いに正しく答えるには、ピアニストの筋肉の繊維の一部を削って組織を調べる検査（バイオプシー）が必要なのですが、なかなかそんなことはできません。そこで、筋電図という装置を使って、筋肉の疲労しやすさを間接的に評価した研究があります（Penn et al. 1999）。それによると、ピアニストは、速筋よりも遅筋の方が発達していることを示すデータが報告されています。これは、ピアノを弾く上では、筋肉にとって、指を素早く動かせることよりも、疲労しにくいことの方が大切だということを意味しています。</p>

<p>これは、不思議に思われる方もいるかもしれません。といいますのも、練習すれば速く弾けるようになるからです。しかし、これは、<a href="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/2010/04/28_10645.html">第５回</a>でご紹介したように、指を動かす脳細胞の数が増大するといった、むしろ脳の中で起こる変化によるものと考えられています。</p>


<div class="t2">２．指の動きのパターンの記憶</div>

<p>練習を積むと、次にどの指を動かすかを意識しなくても、あたかも指が楽譜を記憶するように自動的に動くようになります。暗譜する上では、楽譜を覚えることと同じくらい、この動きを覚えるということは重要なのですが、その脳の働きはどうなっているのでしょうか。</p>

<p>「指をどの順番で動かすか」を記憶するにつれて、運動に関連する脳部位（運動野）の活動が強くなることが知られています（Karni et al. 1998）。これを運動記憶の増強（Consolidation）といいます。運動記憶の増強には、２つの興味深い性質があるので、ここでご紹介しましょう。</p>

<p>一つは、睡眠との関連です。練習して覚えた動きが脳の中で定着し、忘れないように増強されるためには、レム睡眠が必要だと言われています（Stickgold and Walker 2005）。ですから、睡眠を取らずに練習し続けると、動きを覚える上で効率が悪いということになります。よく指導の現場で、「一度弾いた曲をしばらく寝かせてから本番で使う」という言葉がありますが、実際、そういった曲は、舞台で暗譜が飛びにくいといった経験をお持ちではないでしょうか？これは、睡眠が動きの記憶を増強するためです。</p>

<p>もう一つは、せっかく覚えた動きの記憶が、脳に定着されず、忘れ去られてしまうことがあります。例えば、少し極端な例になりますが、ある音列A「ドミファソラソファミ」を何度も練習した直後、別の音列B「ファソファミファミレミレドレド」をすぐ練習し始めると、初めに弾いた音列A（ドミファソラソファミ）が脳に定着しないことが知られています。これを、運動記憶の干渉（Interference）といいます。しかし、音列Aを練習して、例えば数時間後に音列Bを練習すると、両方の動きの記憶が脳で定着することが知られています（Doyon and Benali 2005; Stickgold and Walker 2005）。したがって、新しい曲を覚えるときには、こまめに休憩を取ることが良いと言えるでしょう。</p>




<hr size="1" noshade>
<br />

<strong>＜参考文献＞</strong><br />


<p style="font-size:10pt;">Penn IW, Chuang TY, Chan RC, Hsu TC (1999) EMG power spectrum analysis of first dorsal interosseous muscle in pianists. Med Sci Sports Exerc 31(12):1834-1838<br />
Karni A, Meyer G, Rey-Hipolito C, Jezzard P, Adams MM, Turner R, Ungerleider LG (1998) The acquisition of skilled motor performance: fast and slow experience-driven changes in primary motor cortex. Proc Natl Acad Sci U S A. 95(3):861-868<br />
Stickgold R, Walker MP (2005) Memory consolidation and reconsolidation: what is the role of sleep? Trends Neurosci 28(8):408-415<br />
Doyon J, Benali H (2005) Reorganization and plasticity in the adult brain during learning of motor skills. Curr Opin Neurobiol 15(2):161-167</p>




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    <title>第１３回　ピアノ演奏による身体の故障（２）</title>
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    <published>2010-12-27T08:42:48Z</published>
    <updated>2010-12-27T08:28:59Z</updated>

    <summary>大事なのは「予防」。それでも体を傷めてしまった場合は、、ピンチはチャンス！？</summary>
    <author>
        <name>admin</name>
        
    </author>
    
    
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<div class="note">

<div class="t1">ピアノ演奏による身体の故障（２）</div>


<div class="t2">（２）	故障発症を引き起こす要因は？</div>
<p>「力み」が手や腕を傷める要因になることや、力みの回避が演奏による故障の予防につながることは、これまで繰り返し説明してきました。では、力み以外に、手を傷める要因は無いのでしょうか？</p>

<p>例えば、「手の小さい人ほど手を傷めやすい」という話をよく耳にします。事実、手を開くほど、手の中の筋や前腕にある筋は強く収縮しますので、例えば10度の重音を力まず掴んで演奏するためには、大きな手をした人の方が有利なのは明らかです<a class="c" href="#c1">(1)</a>。では、実際に手が小さい人ほど手を傷めやすいかを、我々のアンケート調査の結果に基づいて分析しますと、統計的には「手の大きさと、手の傷めやすさには関係がない」ことがわかりました。これについては、反対の結果を報告する研究もあり、未だ議論が続いているのですが、一番重要だと私が考えることは、「手が小さいピアニストでも、手の使い方や演奏する楽曲を工夫すれば、手を傷めずに演奏することができる可能性がある」ということです。</p>

<p>他にも、演奏者の性格や気質が、身体の傷めやすさと関係がある可能性についても報告されています。例えば、先にご紹介したフォーカル・ジストニアを発症する人には、完璧主義な人や神経質な性格の人が多いことが知られています。しかし、その背後にある生理学的理由は未だ不明であるため、脳科学者の間で研究が行われています。</p>

<p>「練習時間」はどうでしょうか？練習をしない人よりする人のほうが身体を傷めるリスクが高いのは当然であり、統計的にも実証されています。しかし、毎日4時間の練習で手を傷めるピアニストがいれば、毎日7時間弾いても身体のどこも傷めないピアニストもいます。なぜでしょうか？これは、まさに「弾き方」や「身体の使い方」といったことが関係していると私は考えています。<a href="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/2010/02/26_10338.html">第３回</a>の冗長性の話の繰り返しになるのですが、私たちは同じ音を様々な身体の使い方で出すことができるため、ある音を出すのにも、身体に負担が少ない弾き方とそうでない弾き方があります。したがって、適切な姿勢や身体の使い方、エコ・プレイを探求し、実現していくことで、同じ時間練習しても、身体を傷めるリスクは減ります。</p>

<p>ピアノ演奏による身体の問題は、よく「使い過ぎ症候群（オーバーユース・シンドローム）」と言われます。確かに、使い過ぎが原因であることは疑いの余地は無いのですが、正確には「無理な身体の使い方で身体を酷使し続けた結果起こる問題」と言うべきかと考えています。問題の重要度を考えると、「ミスユース」の方がより強く認識すべきことではないでしょうか。</p>



<div class="t2">（３）	対処療法から「予防教育」へ</div>

<p>ピアノ演奏によって身体を傷めてしまう問題において最も重要なことは、<strong>「治療」ではなく「予防」</strong>にあると私は考えています。勿論、身体を傷めてしまった時には、効果的な治療が不可欠です。しかし、日々の生活習慣を改善することで、脳血管疾患や心臓疾患の発症を予防できるように、ピアノ演奏による身体の問題の多くは、正しい教育によって、未然に予防することができるはずです。</p>

<p>プロ、アマチュアに関わらず、健やかな演奏生活を生涯にわたって実現するためには、<u>傷めてからの対処療法よりも、演奏者に対する「正しい身体教育」が不可欠</u>なのです。特に、高校生、大学生といった時期に、脳や身体についての教育を行うことによって、「故障ゼロ」を実現することは可能であると私は考えています。事実、ドイツのハノーファー音楽大学やロンドンの王立音楽院といった世界屈指の音楽大学は、音楽を専門的に研究する機関や研究所を内部に作り、研究成果を教育や治療に還元したり、学生が身体の生理学の講義を受けられるようにしたりと、様々な新しい試みに取り組んでおり、学生の健やかな演奏活動をサポートすることに成功しています。</p>


<div class="t2">（４）身体を傷めてしまったら</div>

<p>私は、身体を傷めた方にはいつも、<strong>「これは今よりもうまくなるチャンスがあるということだから」</strong>とアドバイスしています。手や腕を傷めると、練習ができませんし、往々にしてそれはコンサートやコンクール前といった大切な時期に起こるため、絶望的な気持ちになります。多かれ少なかれ私自身も実際に経験しましたので、その気持ちは痛いほどよくわかります。</p>

<p>しかし、「身体を傷める＝何か弾き方や練習に問題がある」ことを考えますと、逆に考えれば、<strong>「問題のある弾き方や身体の使い方を根本から改善すれば、身体を傷めずに弾けるようになるだけでなく、今よりうまくなる可能性がある」</strong>というのが、私の持論です。事実、マレイ・ペライア、ミシェル・ベロフといった名ピアニスト達の多くは、故障から復帰後、今まで以上に素晴らしい音楽を奏でていないでしょうか？単に精神論ではなく、「ピンチはチャンス」である根拠を頭で理解し、万一身体を傷めたとしても、ポジティブな気持ちを忘れないでいただきたいというのが、身体を傷めてしまった方への私からの一番のメッセージです。</p>

<p>その上で、どのようにして状況を改善するかですが、まず整形外科や神経内科<a class="c" href="#c2">(2)</a>で診察を受け、医師の指示に従うことが第一です。もし医師の言うことや方針などに納得できない場合は、「セカンド・オピニオン」と言って、他の医師に診察してもらいましょう。遠慮する必要は一切ありません。そうして、自分に合った医師を探すと良いでしょう。また、人によっては鍼灸やアレクサンダー・テクニックを受けることも有効かもしれません。治療期間中は、どのような弾き方や練習に問題があったのか、自分でよく分析したり、書物を読んだり、先生と相談すると、その後の回復が早まりますし、再発の予防にもなります。</p>

<p>次に、治療によって問題が完治すれば、また再発しないために、問題の根本を断ち切ってください。「あ&#65374;治った」と思って、同じ弾き方、練習のしかたを繰り返しては、また辛い想いをすることになるかもしれないのですから。</p>

<p>ここで、身体に不調を感じたときに、決して"していただきたくない"ことが、２つあります。一つは、傷めたのは「弾きすぎたから」と勝手に判断し、しばらく休んでまた同じ弾き方、練習のしかたを続けること、もう一つは、痛みの警告を無視して、練習し続けることです。楽観的にならず、まずは手を止めて、思慮深く原因を分析したり、先生などに遠慮なく相談することで、原因の根本を断ち切っていただきたいと思います。</p>

<p>ただし、生徒さんは身体の不調に気付いても、「せっかく準備した試験やコンクールを受けさせてもらえなくなるのでは？」などといった理由で、先生に言い出しにくい心情があるのも事実です。先生はどうかそういった心情をよく理解して、もし生徒さんに相談された時にどう対応するか、あらかじめ考えておいていただきたいと思います。「ピアノ演奏による故障の問題は、早めの対処がとても重要」だということを忘れないでください。</p>





<hr size="1" noshade>
<br />

<strong>＜参考文献・ウェブサイト＞</strong><br />

<p style="font-size:11pt;"><a href="http://www.amac.co.jp/" target="_blank">音楽家のためのアレクサンダー・テクニック</a>　アレクサンダー・テクニック教師であり、声楽家でもある小野ひとみ先生のウェブサイトです。音楽家に向けたレッスンやセミナーを日本各地で実施されています。様々な書籍の情報も掲載されています。</p>

<p style="font-size:11pt;"><a href="http://www.playinglesshurt.com/" target="_blank">Playing (Less) Hurt</a>　（英語）著者はミネソタフィルのチェリストであり、演奏全般で起こり得る問題とその解決法が、ご自身の経験と深い洞察、幅広い調査に基づいて書かれています。</p>

<p style="font-size:11pt;"><a href="http://www.pianomap.com/" target="_blank">Pianomap</a>　（英語）オレゴン在住のピアノ教師、Thomas Mark先生のウェブサイトです。"ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと"の著者であり、ウェブサイトでは様々な関連情報が紹介されています。</p>


<strong>＜脚注＞</strong><br />

<dl class="c_list">
<dt><a name="c1"></a>(1)</dt>
<dd>先日、私の実験に参加してくれたモスクワ音楽院卒業のピアニストが、<a href="http://www.piano.or.jp/enc/dictionary/composer/chopin/000392.html">ショパンエチュードのOp.10-1</a>を大して手を広げずに、楽々と和音をつかむかのように弾いているのを目の当たりにし、衝撃的でした。</dd>

<dt><a name="c2"></a>(2)</dt>
<dd>神経内科は、ジストニアやパーキンソン病、小脳疾患といった脳神経疾患を扱うセクションです。心の問題を扱う「心療内科」とは別物ですので、ご注意ください。</dd>
<dl>





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</div>]]>
        
    </content>
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    <title>第１２回　ピアノ演奏による身体の故障（１）</title>
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    <published>2010-12-07T01:35:36Z</published>
    <updated>2010-12-07T02:14:40Z</updated>

    <summary>ピアノを弾くことによっておこりうる「身体の故障」その１　腱鞘炎等の概要</summary>
    <author>
        <name>admin</name>
        
    </author>
    
    
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--></style>
<div class="note">


<div class="t1">ピアノ演奏による身体の故障（１）</div>


<p>ピアノ演奏は非常に反復性が高い運動です。１分間に何百から何千もの鍵盤を打鍵しなければいけない曲も少なくありません。その過程で、筋肉や腱には負荷が蓄積し、炎症を引き起こしたり、時には、脳に好ましくない変化を引き起こすことすらあります。ピアノ演奏が引き起こしうる身体の故障問題について、２回に分けてお話します。</p>


<div class="t2">（１）	ピアニストの故障の実態について</div>


<p>ピアノの練習によって身体を傷めた経験のある人がどれくらいいるかを調べるために、私は2003年に203名のピアノ専攻の音高・音大生、ピアニスト、ピアノ教師の方を対象に、アンケート調査を実施しました。その結果、実に77％に及ぶ回答者が、過去5年のうちに練習時に身体のいずれかの部位に痛みや痺れを経験したことがあると回答しました<a href="#001"><small>（表１）</small></a>。部位別に見ると、手・指、前腕、肩の発症が最も多く、年代別に見ると、音大生の故障発症が最も多いことがわかりました。また、加齢に伴い、首・胴体に痛みやしびれの問題が増えること、さらには、これら痛みや痺れを経験したことのある回答者の44％が、専門医の治療を要する深刻な故障を発症していることがわかりました。</p>

<a name="001"></a>
<div style="margin-bottom:10px;"><span class="mt-enclosure mt-enclosure-image" style="display: inline;"><img alt="ピアニストのための脳と身体の教科書" src="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/images/012-img1.gif" width="624" height="238" class="mt-image-none" style="" /></span></div>


<p style="font-size:8pt;line-height:130%;color:#666;">【出典】<br />
Furuya S, Nakahara H, Aoki T, Kinoshita H (2006) Prevalence and causal factors of playing-related<br />
musculoskeletal disorders of the upper extremity and trunk among Japanese pianists and piano students.<br />
Med Probl Perform Art 21: 112-117</p>



<p>ピアノ演奏による身体の故障問題で最も有名なものは、「腱鞘炎」「手根幹症候群」「フォーカル・ジストニア」でしょう。腱鞘炎は一般に、筋肉と骨をつなぐ「腱」の周りを覆っている鞘（腱鞘）が炎症を起こしたり損傷した状態で、激しい痛みを伴います。例えば、ピアニストによく起こる腱鞘炎の中に、ド・ケルバン病というものがありまして、これは親指の付け根の手首側に激しい痛みを伴います。他にも、肘の内側や外側が痛くなる「上顆炎」も、ピアニストにはよく報告されています。</p>

<p>二つ目の手根幹症候群は、手首の中を通る正中神経という神経が圧迫されたり損傷し、指に痛みやしびれが生じる問題です。これは、ピアニストに限らず、パソコンをよく使う方にも起こる職業病として知られており、痛みのあまり夜寝られなくなるといった、時に日常生活に深刻な影響を及ぼすため、場合によっては手術を勧められることもあります。</p>

<p>三つ目のフォーカル・ジストニアは、腱鞘炎や手根管症候群とは異なり、一般に痛みやしびれは伴いません。しかし、ピアノを弾こうとすると、意図せず手指に力が入って固まってしまったり、意図しない指の動きが起こってしまったりと、思い通りに手指を動かせなくなる病気です。多くの場合、「ピアノを弾こう」と思うと、途端に症状が表れ、日常生活では症状が表れません。しかし、音楽家の100人に１人が発症すると言われており、今なお完治につながる治療法は確立されていません。この難病の背景にある脳神経メカニズムを解明することが、私の研究の大きなテーマの一つでもありますので、もう少し詳しくご説明します。</p>

<p>腱鞘炎や手根幹症候群は、末梢の身体部位の問題ですが、フォーカル・ジストニアは脳で起こる問題だということが知られています。つまり、手指の動きを思い通りにコントロールできなくなるのは、手指を動かす働きを担っている脳の部位に、通常では起こり得ない変化が起こっているからなのです。具体的には、フォーカル・ジストニアにかかると、脳には、「筋肉に送る指令を抑制できない」「身体から送られてくる感覚の情報を正しく処理できない」「意図していないのに、動かす必要の無い筋肉に指令を送ってしまう」といった変化が起こります。特に、運動の開始や抑制に関与する大脳基底核や、皮膚や筋肉からの感覚を処理する体性感覚野、あるいは体性感覚野と運動野（筋肉に指令を送る脳部位）を結ぶネットワークに、好ましくない変化が起こることが知られています。</p>

<p>治療には、ボツリヌス神経毒素の投与や鍼灸、指を副木で固定し、脳で起こっている好ましくない変化を元に戻すトレーニング（Constraint-induced therapy）、アレクサンダー・テクニックなどが用いられています。しかし、前述のように、完治するための治療法は未だ確立されておらず、主にアメリカやドイツ、イギリスの研究者達が中心となって研究が行われています。特に21世紀に入ってからのフォーカル・ジストニア研究の進歩は目覚ましく、急速な勢いで発症のメカニズムの解明や治療法の開発につながる知見が報告されています。（続く）</p>


<hr size="1" noshade>
<br />

<strong>＜参考文献＞</strong><br />


<dl class="c_list">
<dt>・</dt>
<dd>Altenmüller E, Jabusch HC （2010） Focal dystonia in musicians: phenomenology, pathophysiology and triggering factors. Eur J Neurol 17 Suppl 1:31-6</dd>

<dt>・</dt>
<dd>Elbert T, Rockstroh B (2004) Reorganization of human cerebral cortex: the range of changes following use and injury. Neuroscientist 10 (2):129-41</dd>

<dt>・</dt>
<dd>Hallett M (2010) Neurophysiology of dystonia: The role of inhibition. Neurobiol Dis (in press)</dd>

<dt>・</dt>
<dd>Lim VK, Altenmüller E, Bradshaw JL (2001) Focal dystonia: current theories. Hum Mov Sci 20 (6):875-914</dd>
</dl>




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    <title>第１１回　「力み」を正しく理解する　（５）エコ・プレイ：力まずに弾くスキル（２）</title>
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    <published>2010-10-29T06:26:38Z</published>
    <updated>2010-10-29T06:40:24Z</updated>

    <summary>科学の目で明らかにされる、「力まず弾くこと」の重要性</summary>
    <author>
        <name>admin</name>
        
    </author>
    
    
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<div class="note">


<div class="t1">「力み」を正しく理解する　（５）エコ・プレイ：力まずに弾くスキル（２）</div>


<p><a href="/report/03edc/brain/2010/09/28_11411.html">前回</a>は、必要最小限のエネルギーを使って、最大限の音楽・音響効果を創り出すための技能（エコ・プレイ）の中でも、特に鍵盤から受ける力に関連したものについてご紹介しました。今回は、腕の使い方に関連したお話をご紹介します。</p>

<div class="t2">（４） イメージしてから打鍵する</div>
<p>「打鍵する前に、これから鳴る音をイメージする」。そのメリットについて調べた研究が、今年に入って、ドイツのKeller博士らによって発表されています。ピアノの場合、どの鍵盤を押せば、どの音が鳴るのか、あらかじめ容易に予測できます。しかし、同じ鍵盤を打鍵しても、毎回デタラメな音が鳴るような"ヘンテコな"ピアノを弾く場合を考えてください。この時、どの鍵盤を押せば何の音が鳴るのか、あらかじめイメージすることはできませんよね。Keller博士らはこのような状況を意図的に作り出して、「打鍵する前に、あらかじめ音をイメージするかしないかで、指の動きがどう変化するか」について調べました。</p>

<p>研究の結果、あらかじめこれから鳴る音をイメージして打鍵した方が、イメージせずに打鍵するよりも、指先が鍵盤に衝突する瞬間の加速度が小さくなることがわかりました。つまり、これから鳴る音をイメージせずに打鍵すると、必要以上に強く叩いてしまうということです。したがって、「頭の準備」も、エコ・プレイを実現する上で重要な技術の一つだと言えます<a class="c" href="#c1">(1)</a>。</p>

<div class="t2">（５） 重力を利用する</div>
<p>"重量奏法"といって、腕の重さを利用して打鍵するというアイデアがあります。「重力を使いなさい」、「腕を落としなさい」といった表現を、ピアノを弾く方であれば、一度は聞かれたことがあるかもしれません。この重量奏法は２０世紀初頭に提唱されたのですが、演奏者や指導者の経験的な感覚と合致することも相まって、またたく間に世界中に広まりました。しかし、「重力を使っているように感じているだけで、実際には使っていない」という可能性も否定できず、１００年近くの間、その真偽は教育者、科学者の議論の的でした。その長年の問いに答えるべく、私は打鍵時に腕に作用する力の大きさを算出し、同時に腕の筋肉がいつ、どの程度収縮しているかを計測することで、ピアニストが本当に重力を使って打鍵しているかについて詳細に調べました<a class="c" href="#c2">(2)</a>。</p>

<p>その結果、実験に参加してくださった国内外のコンクールで入賞歴のあるピアニストは、上腕の力こぶの筋肉を弛めることで、重力を利用して打鍵していたのに対し、ピアノ初心者は、上腕の二の腕の筋肉を収縮させることで、筋力によって打鍵していることがわかりました。さらに、より大きな音を出そうとするときほど、ピアニストは力こぶの筋肉を弛める量を増やし、重力をより多く利用していたのに対して、初心者は二の腕の筋肉をより多く収縮させていることが明らかになりました。</p>

<p>したがって、「重力を利用して打鍵し、筋肉の仕事を減らす」というのは、どうやら真実だということはわかったのですが、より詳細にデータを見てみると、指先と鍵盤が衝突する約0.02秒前には、ピアニストがたとえフォルテで打鍵する際でも、二の腕の筋肉は収縮し始めていました。つまり、完全に重力だけで打鍵しているわけではないということです。同時に、力こぶの筋肉も収縮し始めたことから、「重力をギリギリまで利用して腕を加速し、鍵盤を押さえる直前に関節を固めることで、腕のエネルギーを鍵盤に効果的に伝達する」というのが、私の実験に参加してくださったピアニストの方達のしていたことです。</p>

<p>ただし、腕の重さを全て使っても足りない大きな音を出すときには、ピアニストであっても当然、二の腕の筋力を使わざるを得ません。実際、ｆｆｆで打鍵してもらうと、ピアニストであろうと二の腕の筋肉は初めからフルに収縮していました。重力が腕を回転させる力の大きさは、「腕の重さ」と「腕のフォーム」に伴って変化しますから、ある程度体重を増やして腕の重さを増やすことは、楽に大きな音を出すために役立ちます。また、重力を最大限に利用して肘を回転させるための腕のフォームは、「前腕が鍵盤と水平にある状態」だということも、覚えておくと良いかもしれません。</p>

<p>なお、MRIを用いた研究によると、ある狙った量だけ力を入れるよりも力を抜く方が、脳にとっては「難しい」ということが、最近になってわかってきました<a class="c" href="#c3">(3)</a>。例えば、１０の大きさだけ力を入れるよりも、力を入れた状態から１０の力を弛める方が、より多くの脳部位が活動することが報告されています。「なぜ脱力できないの！」と生徒さんに言い過ぎて、生徒さんの脳を怒らせないようにしてくださいね。</p>


<div class="t2">（６）まとめ</div>
<p>このように、科学技術の力を正しく借りてピアノ演奏を見てみると、肉眼では確認できない様々なスキルを詳細に記述することができます<a class="c" href="#c4">(4)</a>。こうして得られた知見を知っていただくことで、皆さんに動きのレパートリーを増やしていただいたり、技術の習得をサポートすることが、『ピアノ演奏における身体教育』の果たすべき役割だと私は考えています。ただし、これらを、いつ、どの程度利用するかは、個々人によっても、何を弾くかによっても違ってきますので、それらは練習の中で探していかないといけません。「わかる」と「できる」の違いを練習によって埋めることで、思い描いた音楽を、思い描いた身体の動きで創造していただきたいと思います。</p>




<hr size="1" noshade>
<br />
<strong>【脚注】</strong><br />
<dl class="c_list">
<dt><a name="c1"></a>(1)</dt>
<dd>Keller PE, Dalla Bella S, Koch I (2010) Auditory imagery shapes movement timing and kinematics: evidence from a musical task. J Exp Psychol Hum Percept Perform 36(2):508-513<br />
余談ですが、論文には「イメージせずに打鍵すると、無駄なエネルギーを使う」と書かれているのですが、Keller博士とお会いした際に、「鍵盤を叩いてしまうがゆえに、音が汚くなるリスクもあるのではないでしょうか」と申し上げたところ、彼もそのように考えてらっしゃるとのことでした。このあたりは、今後の研究で明らかになっていくかと思います。</dd>
<dt><a name="c2"></a>(2)</dt>
<dd>Furuya S, Osu R, Kinoshita H (2009) Effective utilization of gravity during arm downswing in keystrokes by expert pianists. Neuroscience 164(2):822-831</dd>
<dt><a name="c3"></a>(3)</dt>
<dd>Spraker MB, Corcos DM, Vaillancourt DE (2009) Cortical and subcortical mechanisms for precisely controlled force generation and force relaxation. Cereb Cortex 19(11):2640-2650</dd>
<dt><a name="c4"></a>(4)</dt>
<dd>ちなみに、本稿でご紹介しているのは、「エコ・プレイ」のための基本的な技術の一部についてです。オクターブの連打やトレモロ、アルペジオにおいても、無駄な力を減らすスキルについて現在研究しておりますので、成果がまとまり次第、改めてお話させていただきます。</dd></dl>


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    <title>第１０回　「力み」を正しく理解する　（４）エコ・プレイ：力まずに弾くスキル（１）</title>
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    <published>2010-09-28T03:54:00Z</published>
    <updated>2010-09-28T03:59:54Z</updated>

    <summary>「脱力しなさい！」という指導。あいまいだと思ったことはありませんか？
</summary>
    <author>
        <name>admin</name>
        
    </author>
    
    
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<div class="note">


<div class="t1">「力み」を正しく理解する　（４）エコ・プレイ：力まずに弾くスキル（１）</div>
<p>これまで、力みの弊害についてお話してきました。では、実際にどのようにして力みを回避することができるのでしょうか？「脱力」という言葉は、演奏・指導の場面で古くから言われていますが、全部の筋肉を脱力し切ってしまっては、音は鳴らないどころか、身体は動きません。したがって、生徒さんの中には、先生に「脱力しなさい」と言われても、「どの筋肉をどのタイミングで脱力すれば良いのか、わからない」と心の中で思っている方も、少なからずいらっしゃるかもしれません。本章では、必要最小限のエネルギーを使って、最大限の音楽・音響効果を創り出すための技能について、２回に分けて幾つか事例をご紹介します。</p>


<div class="t2">（１）必要な瞬間だけ力を入れる</div>
<p>ピアノという楽器は、ハンマーヘッドが弦にどう衝突するかによって、音が変化します。ハンマーヘッドの振る舞いを決めるのは、鍵盤をどう押さえるかということですから、現在の科学でわかっている範囲内で申しますと、「鍵盤が底に着いてから力をどう込めても、ピアノの音は変化しない」ということになります<a class="c" href="#c1">(1)</a>。もしそれが本当であれば、鍵盤が底に着いてから力を加えることは、無駄なエネルギーを使っているということになります。</p>

<div style="text-align: center;font-size:8pt;float:right;margin-left:15px;">
<span class="mt-enclosure mt-enclosure-image" style="display: inline;"><img alt="図１" src="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/images/010-01.gif" width="253" height="322" class="mt-image-none" style="" /></span><br />（図1）</div>

<p>今から10年少々前にドイツで行われた研究では、ピアノの鍵盤の底にセンサーを敷いて、ピアノを弾いている時に指先が鍵盤にいつ、どれだけの力を加えているかについて調べました<a class="c" href="#c2">(2)</a>。その結果、プロのピアニストの方が、趣味でピアノを弾いているアマチュアピアニストよりも、「鍵盤が底に着いてから、指先が鍵盤に力を加えている時間が短い」ことがわかりました（図１）。つまりプロは、音が鳴ったら、瞬時に鍵盤に加える力を抜いて「省エネ」していたのです。これは、狙った音響効果を最小限のエネルギーで生み出す、極めて"エコ"な技能と言えるでしょう。簡単に聞こえるかもしれませんが、実際にどのタイミングでどれだけの力を抜いて、それが音楽に影響を及ぼさないようにするということは、それほど簡単なことではないと私は考えています。</p>

<div class="t2">（２）鍵盤を押さえておく力を減らす</div>
<p>この研究では、もう一つ面白い現象が発見されています。たとえば、親指、人差し指、小指で「ドレソ」と押さえたまま、中指と薬指で「ミファミファミファ・・・」とトリルを弾くことを思い浮かべてください。指の独立の練習でありそうな課題ですが、この時、「ドレソ」と鍵盤を押さえておく力を計測すると、アマチュアピアニストは、時にプロの３倍もの力で鍵盤を押さえ続けていたのです。これも意識に上りにくいことかもしれませんが、重要な省エネ法の一つです。なお、そのためには同時に指同士を独立に操るスキルも必要になることが知られています<a class="c" href="#c3">(3)</a>。</p>

<div class="t2">（３）\鍵盤から受ける力を逃がす</div>
<p>私たちの身体が物体を押すと、同じ力で物体から押し返されます（"作用・反作用の法則"）。したがって、鍵盤を押さえるときには、同じ力で指先は押し返されます。この時、手や前腕にある筋肉が受ける力の大きさは、鍵盤を押さえている時の手のフォームによって決まります。例えば、指を伸ばした状態と、指を立てた状態では、同じ大きさの音を鳴らす時でも、指の筋肉に加わる力の大きさは、指を伸ばした時の方が大きいというのは、容易に感じられると思います。</p>



<div style="text-align: center;font-size:8pt;float:right;margin-left:15px;"><a href="javascript:void(0)" onclick="window.open('/report/03edc/brain/images/010-02b.gif','_blank','width=450,height=550,scrollbars=yes')">
<span class="mt-enclosure mt-enclosure-image" style="display: inline;"><span class="mt-enclosure mt-enclosure-image" style="display: inline;"><img alt="図2" src="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/images/010-02.gif" width="250" height="318" class="mt-image-none" style="" /></span><br />（図2）</a></div>

<p>ピアニストとピアノ初心者の打鍵動作を高速度カメラで計測してみますと、ピアニストは、打鍵した瞬間から０．２秒間の間に徐々に指を立てていき、鍵盤から受ける力を逃がしていることが明らかになりました<a class="c" href="#c4">(4)</a>。その結果、手や前腕の筋肉が鍵盤から受ける負荷は、初心者よりも約３割も軽減されていました。ここで重要なのは、どのようにして指を立てていくかです。高速度カメラから得られた肩のデータを見ますと、ピアニストは上腕を前方に回転させながら、腕全体を使って指を徐々に立てていっていました（図２）。</p>

<p>よく「手首を回して力を逃がしなさい」という言葉を指導の現場で耳にします。しかし、単に手首関節が回転するだけでは、指の筋肉が受ける負荷の大きさは変わりません。力を逃がす秘訣はむしろ肩にあり、それが手首と指の関節の動きと協調しあって省エネを実現しているのです。</p>




<hr size="1" noshade>
<br />
<strong>【脚注】</strong><br />
<dl class="c_list">
<dt><a name="c1"></a>(1)</dt>
<dd>これについては賛否両論あるかと思います。実際、「科学的に明らかにされていない＝事実ではない」とは限りません。現在の科学の限界ゆえに、この問題を明らかにできないのかもしれません。個人的には、「鍵盤が底に着いてから指先でこすると、音色がどう変化するか」なんてことをキチンと解明できれば、とても面白いと考えています。</dd>

<dt><a name="c2"></a>(2)</dt><dd>
Parlitz D, Peschel T, Altenmüller E (1998) Assessment of dynamic finger forces in pianists: effects of training and expertise. J Biomech 31(11):1063-7<br />
１０年以上も前の研究ですが、今なお屈指の研究です。余談ですが、この実験では、スタインウェイのグランドピアノを改造して、センサーを取り付けています。実際これを見せてもらった時に、「スタインウェイを改造するなんてすごいですね」とAltenmüller教授に申し上げると、「隣の音楽学部からタダ同然でもらったんだよ」とおっしゃっていました。ハノーヴァー音大では、音楽学部に研究棟が隣接しており、科学研究の成果を指導や演奏の現場に直接還元できる仕組みがあります。</dd>

<dt><a name="c3"></a>(3)</dt><dd>Aoki T, Furuya S, Kinoshita H (2005) Finger-tapping ability in male and female pianists and nonmusician controls. Motor Control 9(1):23-39</dd>

<dt><a name="c4"></a>(4)</dt><dd>Furuya S, Kinoshita H (2008) Expertise-dependent modulation of muscular and non-muscular torques in multi-joint arm movements during piano keystroke. Neuroscience 156(2):390-402<br />
私が大学院時代に行った研究で、国内外のコンクールで入賞歴のあるピアニスト７名、ピアノ初心者７名を対象に、打鍵時の肩から指先までの動きを高速度カメラで計測し、鍵盤に加える力を力センサーによって計測しました。さらに、各関節に作用する力を計算し、どのような動きが「脱力」に寄与しているかを算出することに成功しました。</dd></dl>

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</div>]]>
        
    </content>
</entry>

<entry>
    <title>第０９回　「力み」を正しく理解する　（３）何が力みを引き起こすか</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/2010/08/30_11261.html" />
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    <published>2010-08-30T05:24:05Z</published>
    <updated>2010-08-30T05:22:04Z</updated>

    <summary>「力み」を減らして正確性を向上させる方法は練習の「量」のみならず。。</summary>
    <author>
        <name>admin</name>
        
    </author>
    
    
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<div class="note">


<div class="t1">「力み」を正しく理解する　（３）何が力みを引き起こすか</div>

<p>ここまで、力みとは何か、力みによって起こる疲労はなぜ問題かについてお話しました。では、そもそも力みはどうして起こるのでしょうか？力みを引き起こす要因は、一つではありません。詳述すると、何カ月分も費やすべきトピックなのですが、今回は特に重要である「正確性との関連」に焦点を当ててお話します。</p>

<p>私たちの身体には、たくさんの関節や筋肉があるため、一口に「鍵盤をある大きさの力で押さえる」といっても、様々な関節や筋肉の使い方が可能です。指を曲げても、肘を伸ばしても、あるいは胴体を前後に揺り動かしても、音は鳴るわけです。ですので、ピアノを弾くための身体の使い方は、個々人によっても、練習量によっても、先生の指導法によっても異なります。</p>

<p>様々な身体の使い方ができるということは、同じ音を鳴らしていても、身体の使い方によって筋肉の負担が違うということです。簡単な例を挙げますと、鍵盤に加える力は同じでも、指を使うより肩を使った方が、筋肉にかかる負担は少ないのですが、これは感覚的にご理解いただけるのではないでしょうか。理由は、胴体に近い筋肉ほど、太く強いからです。</p>

<p>一方で、肩に比べて指の方が、繊細な力のコントロールは得意ですから、肩を使いすぎると、狙った音量や音色の音が作りにくくなるかもしれません（<a href="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/2010/02/05_10165.html">第０２回参照</a>）。したがって、この場合ですと、「身体のどの部分を、どれくらい使うか」という割合は、「どれだけ正確に、楽に、弾きたいか」によって変わってきます。</p>

<p>練習の初期では、まず正確性を優先するため、２つの問題が生じます。一つ目は、手先を使った方が、胴体に近い大きな筋肉を使うよりも正確に弾けるため、その弾き方・身体の使い方で一旦弾けるようになってしまうと、さらなる身体の使い方の探求を怠ってしまう危険性があります。「思い描いた音楽を創ること」の重要性に比べれば、自分の身体の力みや疲労は些細なことですので、それが実現できてしまうと、どんな身体の使い方をしているかに関わらず、それ以上探求しないということが往々にして起こります。たとえその時、指の筋肉ばかり使うがゆえに、手指や手首、前腕の筋肉がカチコチに固まっていたとしてもです。</p>

<p>同じような問題はスポーツでも起こります。ボール投げにせよ、バットやラケットなどのスイング動作にせよ、初心者は手先だけを使いがちです。しかし、多くは、練習を積むにつれ、より胴体に近い筋肉を使い始めます。これは、胴体に近い筋肉を使った方が、素早く力強い運動を作り出せるため、投球速度や打球の飛距離といったパフォーマンスが目に見えて向上するためです。結果、手先の筋肉の力みも減っていきます。</p>

<p>一方、ピアノでは、スポーツほど大きな力や速度は必要ではないので、胴体に近い筋肉を使わずとも、狙った音楽を創り出すことは、多かれ少なかれ可能です。したがって、スポーツに比べ、「身体の使い方の探求」をする必要性が見落とされがちで、ともすれば「音楽表現の探求」のみに没頭してしまいます。練習の初期に、手先だけで弾いてしまうのは避けがたいことかもしれませんが、その後、より身体に優しい弾き方を探し求めていくことは、音楽表現の探求に負けず劣らず重要なことではないでしょうか。</p>

<p>正確性を優先することで起こる弊害の二つ目は、正確性そのものが力みを引き起こすという問題です。以前、「正確に身体を動かそうとするほど、脳は筋肉を固める（同時収縮する）」というお話をしました。もちろん、うまくなると、身体を固めずとも正確に身体を動かせるようになるのですが、「正確に身体を動かそうと思うことが、力みの引き金になる」ということです。</p>

<p>正確性は、練習の初期に限らず、ピアノを弾く上で、色々な状況で求められます。レッスン（先生のコワサにもよるでしょうか？）、学校の試験、発表会、コンクールやコンサートでは、ともすれば、過度に「正確に弾きたい／正確に弾かないと」という想いが生まれます。そのため、本番後、普段疲れない身体の部分が疲れていたり痛くなったりすることもあります。ピアノ演奏における力みには、こういった心理的および社会的な要因もあるため、一見、弾き方は完璧なのに手を傷めてしまうことも、しばしば起こります。</p>

<p>また、正確性は、テンポが速くなるにつれて、その要求が高まります。私たちは、速く身体を動かそうとすると、動きが不正確になります。これは「フィッツの法則」と呼ばれており、多くの研究者が今なお、そのメカニズムの解明に取り組んでいます<a class="c" href="#c1">(1)</a>。ピアノも当然、速く弾こうとすると、必然的に正確性は落ちるのですが、それでもなんとか正確に弾こうとすると、脳は筋肉を固めます。窓の立て付けが悪いから、窓枠のネジを締めなおすようなものです。ですから、自分が弾けるテンポ以上で弾くことが、間接的に力みの引き金になるわけです。</p>

<p>幸い、私たちの身体は、練習を重ねるだけで（たとえ身体の使い方を探求せずとも）、動作の正確性は向上し、結果、ある程度は力み（同時収縮）が減っていくことが知られています<a class="c" href="#c2">(2)</a>。したがって、「たくさん弾けば、力みは消滅する」と思ってしまいがちなのかもしれません。事実、それは完全に間違いではありませんし、単に練習不足が原因で、力んで弾いているケースも多々あります。しかし、練習の「量」だけで、必ずしも力みの全てが無くなるわけではありません。逆に言うと、適切な身体の使い方・弾き方を発見するだけで、力みは容易に消え去る可能性があるということです。次章の「エコ・プレイ」では、力みを軽減するための身体の使い方について、具体的な事例をいくつかご紹介します。</p>





<hr size="1" noshade>
<br />
<strong>【脚注】</strong><br />
<dl class="c_list">
<dt><a name="c1"></a>(1)</dt>
<dd>* Fitts PM (1954) The information capacity of the human motor system in controlling the amplitude of movement. J Exp Psychol 47(6):381-91<br />
* Harris CM, Wolpert DM (1998) Signal-dependent noise determines motor planning. Nature 394(6695):780-4</dd>

<dt><a name="c2"></a>(2)</dt>
<dd>* Osu R, Franklin DW, Kato H, Gomi H, Domen K, Yoshioka T, Kawato M (2002) Short- and long-term changes in joint co-contraction associated with motor learning as revealed from surface EMG. J Neurophysiol 88(2): 991-1004<br />
* Thoroughman KA, Shadmehr R (1999) Electromyographic correlates of learning an internal model of reaching movements. J Neurosci 19(19): 8573-88</dd>

</dl>



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</div>]]>
        
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<entry>
    <title>第０８回　「力み」を正しく理解する　（２）筋肉の疲労</title>
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    <published>2010-07-23T05:27:40Z</published>
    <updated>2010-08-30T06:28:21Z</updated>

    <summary>練習「し過ぎ」は百害あって一利なし！筋肉の性質からみたその理由とは</summary>
    <author>
        <name>admin</name>
        
    </author>
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/">
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<div class="note">

<div class="t1">「力み」を正しく理解する　（２）筋肉の疲労</div>


<p>ピアノを練習していると、手や腕が「だるい、疲れた」と感じることがあります。特に、力んだまま弾いていると、筋肉はすぐに疲労してしまいます。このように、私たちがピアノを弾く中で日常的に使う「疲労」という言葉ですが、筋肉が疲労したとき、脳や身体の中でどんなことが起こっているのでしょうか？</p>

<div class="t2"><span>筋疲労のメカニズム</span></div>

<p>筋肉の疲労（筋疲労）には、様々な定義がありますが、その中でも最も直感的に理解しやすいものは、「筋肉が発揮できる最大の力が低下すること」でしょう。練習するにつれ、演奏できる最速のテンポや最大の音量が低下することがありますが、これが筋疲労です。</p>

<p>筋疲労が起こる原因は、大別すると二つあります。一つ目は、筋肉を収縮させるエネルギー源である酸素および糖が十分に筋肉に供給されないため、筋力が発揮できなくなるというものです。しかし、いつ疲労が起こるかは、筋肉の種類によって異なります。筋肉には、「疲労しやすいけれど、大きな力を出せる筋肉（速筋）」と、「疲労しにくいけれど、大きな力は出せない筋肉（遅筋）」があります<a class="c" href="#c1">(1)</a>。疲労に伴い、速筋が先に力を発揮できなくなっていき、その後、遅筋も力を発揮できなくなります。自分の限界以上の速さで難しい曲を弾いていると、数秒から数十秒ほどでテンポが落ちていきますが、これは速筋の疲労によるものと言えるでしょう。</p>

<p>筋疲労の原因の二つ目は、脳にあります。筋肉に指令を送る脳の細胞も、糖をエネルギー源として働いているので、疲労します。具体的には、一秒間に筋肉に送る指令のペース（頻度）が低下し、その結果、発揮できる筋力は低下します<a class="c" href="#c2">(2)</a>。なお、脳の疲労は、筋肉との関係のみに限らず起こることで、思考能力の低下や認知・感覚機能の低下などとも関係しています。</p>

<p>ちなみに、筋疲労は筋肉に乳酸が蓄積することによって起こると一昔前まで信じられていました。確かに、疲労に伴い、乳酸の生成は増えるのですが、現在では、それが本当に筋疲労を促進するものなのか、明確な答えは出ておらず、懐疑的な見方も強まっています。</p>


<div class="t2"><span>練習との関連</span></div>

<p>さて、筋肉が疲労すると、ピアノを弾く上で何が問題になるのでしょうか？一つ目は、発揮できる力の正確性が落ちます<a class="c" href="#c3">(3)</a>。ですから、音の粒がばらついたり、ミスタッチが増えたりして、音楽の芸術性が損なわれてしまいます。</p>

<p>二つ目は、普段使っていない筋肉を使って、演奏することになります。どういうことかといいますと、ある筋肉が疲労すると、その他の筋肉がそれを補おうとして働くことが知られています<a class="c" href="#c4">(4)</a>。そのまま練習を続けると、その「普段使わない筋肉」を使って弾き続けることになります。そうした普段とは違う筋肉の使い方で、仮にあるパッセージが弾けるようになったとして、果たして本当に弾けるようになったと言えるのでしょうか？</p>

<p>実際のピアノ演奏と筋疲労の関係を調べた研究はありませんので、答えはわかりませんが、少なくとも、「筋肉が疲労すると、脳は別の身体の使い方をする」という現象は、様々な運動で数多く報告されている事実であり、それは、疲労に対する脳の「一時しのぎの策」と考えられています。そんな身体の使い方を頑張って身につける利点は、どこにも見当たりません。にもかかわらず、筋肉が疲労したまま、我慢をして練習し続けるということは、普段使わない身体の使い方を習得しようとしていることに他なりません。大袈裟に言うと、「変な弾き方の癖がつく」可能性さえあるのです。</p>

<p>筋疲労の問題点の三つ目は、手や腕を傷めてしまうリスクが高まるということです。筋肉が疲労すると、運動の正確さが落ちるとお話しました。しかし、それでも正確に演奏し続けようとすると、脳は筋肉を同時収縮させる必要があります（前章参照）。疲れた状態で弾いている時に筋肉が硬くなっているのはこのせいです。同時収縮によって筋肉が硬くなると、筋肉に供給される血流が阻害されるので、筋肉はエネルギー不足になっていきます。そうして、疲労はさらに促進されていきます。</p>

<p>筋肉が疲労するということは、言い換えると休息が必要であるということです。しかし、その警告を無視して弾き続けると、どうなるのでしょうか？実は、筋疲労に伴い、筋肉の中にある感覚器（センサー）の感度が鈍っていくため、私たちは筋肉にどれだけ力が入っているか気づきにくくなっていきます<a class="c" href="#c5">(5)</a>。つまり、筋肉からの警告がどんどん聞こえなくなっていくのです。結果、知らぬ間に筋肉やその周りの腱が炎症を起こしたり、その筋に指令を送る脳に障害が発症するリスクが高まります。</p>

<p>筋肉が疲れた状態で練習を続けることは、美徳でも何でもなく、百害あって一利なしです。「疲れたから休む」というのは、決して練習をサボることではなく、自分を守り、効果的に上達するために必要なプロセスです。音だけでなく、自分の身体の声もよく聴いて、練習に取り組んでいただきたいと思います。</p>


<hr size="1" noshade>
<br />
<strong>【脚注】</strong><br />
<dl class="c_list">
<dt><a name="c1"></a>(1)</dt>
<dd>速筋と遅筋の両方の性質を備えた「中間筋」の存在も報告されています。なお、トレーニングによって、速筋と遅筋の割合も多少は変化すると言われています。<br />
* Lai CJ, Chan RC, Yang TF, Penn IW (2008) EMG changes during graded isometric exercise in pianists: comparison with non-musicians. J Chin Med Assoc</dd>

<dt><a name="c2"></a>(2)</dt>
<dd>* Gandevia SC (2001) Spinal and supraspinal factors in human muscle fatigue. Physiol Rev<br />
* Taylor JL, Gandevia SC (2008) A comparison of central aspects of fatigue in submaximal and maximal voluntary contractions. J Appl Physiol<br />
しかし、脳や筋肉の中での疲労が、いつ、どの程度起こるかは、どんな運動をするか（運動の強度、持続時間、用いられる筋肉など）に依存します。<br />
* Maluf KS and Enoka RM (2005) Task failure during fatiguing contractions performed by humans. J Appl Physiol<br />
* Enoka RM and Duchateau J (2008) Muscle fatigue: what, why and how it influences muscle function. J Physiol</dd>

<dt><a name="c3"></a>(3)</dt>
<dd>* Missenard O, Mottet D, Perrey S (2008) Muscular fatigue increases signal-dependent noise during isometric force production. Neurosci Lett</dd>

<dt><a name="c4"></a>(4)</dt>
<dd>ある疲労が疲労すると、それを補おうと、同じ関節を動かす別の筋肉（協働筋）が働いたり、他の関節が使われ始めたりすることが知られています。これは、身体の冗長性によるものです（<a href="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/2010/02/26_10338.html">第０３回参照</a>）。<br />
* Cote JN, Feldman AG, Mathieu PA, Levin MF (2008) Effects of fatigue on intermuscular coordination during repetitive hammering. Motor Control<br />
* Danion F, Latash ML, Li ZM, Zatsiorsky VM (2000) The effect of fatigue on multifinger co-ordination in force production tasks in humans. J Physiol<br />
* Huffenus AF, Amarantini D, Forestier N (2006) Effects of distal and proximal arm muscles fatigue on multi-joint movement organization. Exp Brain Res</dd>


<dt><a name="c5"></a>(5)</dt>
<dd>* Myers JB, Guskiewicz KM, Schneider RA, Prentice WE (1999) Proprioception and neuromuscular control of the shoulder after muscle fatigue. J Athl Train<br />
* Pedersen J, Lönn J, Hellström F, Djupsjöbacka M, Johansson H (1999) Localized muscle fatigue decreases the acuity of the movement sense in the human shoulder. Med Sci Sports Exerc</dd>
</dl>



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    <title>第０７回　「力み」を正しく理解する　（１）力み（りきみ）とは何か？</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/2010/06/18_10938.html" />
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    <published>2010-06-18T05:37:11Z</published>
    <updated>2010-08-30T06:28:44Z</updated>

    <summary>「目標とする表現」を実現するためのフォームを目指して</summary>
    <author>
        <name>admin</name>
        
    </author>
    
    
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<div class="note">



<div class="t1">「力み」を正しく理解する　（１）力み（りきみ）とは何か？</div>

<p>演奏していたり、レッスンをしていると、「身体のここが力んでる」と気づかれることがあるかと思います。ピアノに限らず、楽器を演奏する人間にとって、「力み」は切っても切れない関係にあると言っても過言ではありません。では、この「力み」とは、具体的にどんな現象を指すのでしょうか？ </p>

<p>身体を動かすためには、筋肉が収縮しなければいけません。ですから、筋肉の収縮そのものを「力み」と言うと、どうも違和感があるかと思います。ここでは、力みという現象を、「演奏に不必要な筋肉の収縮」と定義することにしましょう。そうすると、力みとは、筋肉に起こる２つの現象に大別することができます。ひとつは「同時収縮」、もうひとつは「フォーム保持の収縮」です。</p>



<div class="t2"><span>同時収縮</span></div>

<p>同時収縮については、以前少しご説明しましたが、曲げる筋である「屈筋」と、伸ばす筋である「伸筋」が同時に収縮する現象です。両方の筋が縮もうとする力を発揮しているため、骨は両方向から引っ張られ、動きません。言い換えると、「筋肉は収縮して力を発揮しているのに、関節は動かない」のです。つまり、同時収縮の働きは、関節を動かすことではなく、関節を固めることです。</p>


<div style="text-align: center;float:right;margin-left:20px;font-size:10pt;
margin-left:15px;"><span class="mt-enclosure mt-enclosure-image" style="display: inline;"><img alt="同時収縮" src="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/images/007-01.gif" width="300" height="155" class="mt-image-none" style="padding:10px 0;" /></span><br />（図１）</div>

<p>同時収縮を理解するために、模式図を用いて考えてみましょう（図１）。今、ボールの両端に、ロープがくっついているとします。ロープがたるんでいると、ボールを叩けばボールは動きますよね。しかし、ロープを両方から引っ張っていると、ボールを叩いてもボールは動きません。ボールを骨、それぞれのロープを屈筋と伸筋だとすると、両方のロープがボールを引っ張っている状態が、まさに同時収縮です。</p>

<p>レッスンで生徒さんの肘や手首が力んでいるかを調べるために、生徒さんの腕を持ってゆすってみる先生がいらっしゃいますが、これはまさに、上の「ボールを叩く」と同じことをしているわけで、関節の硬さを調べる上での正しい方法です<a class="c" href="#c1">(1)</a>。</p>

<p>さて、脳が同時収縮によって関節を固める意味は、主に２つあります。一つ目は、鍵盤から指先に加わる力に抗するためです。指先が鍵盤に力を加えると、同じだけの力を鍵盤は指先に対して加えてきます。ここで、関節が全く固まっていないと、鍵盤からの力に負けてしまって、音が鳴りません。タコの足を思い浮かべてください。タコの足を思いっきり速く振って、ピアノの鍵盤を叩いても、大きな音は鳴りませんよね<a class="c" href="#c2">(2)</a>。</p>

<p>二つ目は、動作の正確性を高めるためです。私たちは、１００％思い通りの動きを正確に作り出すことはできません。その理由の一つは、脳から筋肉に送られる指令にノイズが入っているためです。たとえば、５０の力を筋肉が出そうとしても、ノイズのせいで、実際に筋肉が発揮する力は、４８とか５２とかいった大きさにバラついてしまいます。結果、動作は不正確になるのですが、関節が固ければ、ノイズが脳からの指令に混入しても、筋力のバラつきが動きにあまり反映されないため、狙った動きを生成できるというわけです。これは経験的に理解できることで、針の穴に糸を通そうとすると、指先の震えを減らそうとして、指や腕、あるいは肩に力が入りますよね。この時の同時収縮は、まさに脳が「動作を正確に行おう」と思った結果、起こっています。</p>


<div class="t2"><span>フォーム保持の筋収縮</span></div>

<div style="text-align: center;float:right;margin-left:20px;font-size:10pt;
margin-left:15px;"><span class="mt-enclosure mt-enclosure-image" style="display: inline;"><img alt="フォーム保持の筋収縮" src="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/images/007-02.gif" width="200" height="386" class="mt-image-none" style="padding:10px" /></span><br />（図２）</div>

<p>力みの二つ目は、「フォームを保持するための筋収縮」です。私たちの関節は、筋肉が完全にリラックスした状態から少しでも離れた角度を保つためには、筋肉を収縮させる必要があります（図２）。例えば、指を動かす筋肉が完全に弛んでいれば、指全体がやや曲がった状態になりますので、全ての指を真っ直ぐに伸ばした状態に保つには、関節を伸ばすための筋肉を収縮させ続けないといけません<a class="c" href="#c3">(3)</a>。</p>

<p>身近な例では、コップやグラスを持つとき、小指を立てる人がいます。これは小指を伸ばす筋肉を収縮し続けて、指を立て続けているわけです。</p>

<p>したがって、ピアノを弾くときに「打鍵する指」だけでなく、「打鍵していない指」のフォームも、筋肉の力みを決定する大きな要因になります。コップの例でわかるように、往々にしてこのフォーム保持の筋収縮は"無意識に"起こります。これはとても大切なことです。意識の向けられにくいことだからこそ、しっかり意識を向けられる練習やレッスンのうちに、「本当にその手指のフォームが、目標とする表現を作りやすいのか」についてよく考える必要があります。</p>

<p>もう一つ大切なのは、自分にとって自然な手のフォームについてです。曲げる筋と伸ばす筋がリラックスした状態が、自然な手のフォームですが、これは筋肉そのものの硬さや他の解剖学的な特徴によって決まります。筋肉の硬さは人によって違いますし、練習によってやわらかくなったり、疲労して硬くなったりもします。ですから、自然なフォームは一人ひとり違いますし、今日と１ヵ月後では多少変わっているかもしれません。演奏時の力みに悩まれてらっしゃる方は、まず自分の自然な手のフォームはどんなものかをよく観察してみることが、力みを理解する手がかりになるかと思います。</p>

<p>今回お話した「同時収縮」と「フォーム保持の筋収縮」をどうすれば軽減できるかについての科学的知見は、後の「エコ・プレイ」の章で詳述します。</p>


<hr size="1" noshade>
<br />
<strong>【脚注】</strong><br />
<dl class="c_list">
<dt><a name="c1"></a>(1)</dt>
<dd>科学の分野でも、関節の硬さを調べるために、「外部から身体に力を加える」という手法が使われており、関節の硬さは「ある一定の力を外から加えたときに動く量」と定義されています。（Lacquaniti et al. 1992 Journal of Neurophysiology; Milner et al. 2002 Exp Brain Res）</dd>
<dt><a name="c2"></a>(2)</dt>
<dd>全くの蛇足ですが、タコが餌を取る時には、足を部分的に固めて人間の関節のように足を使うことが知られています。（Sumbre G, Fiorito G, Flash T, Hochner B. "Octopuses use a human-like strategy to control precise point-to-point arm movements" (2006) Curr Biol）</dd>
<dt><a name="c3"></a>(3)</dt>
<dd>屈筋と伸筋がそれぞれ発揮する力のバランスによって、関節の角度は決まります。これを、「平衡点」と呼びます。まず、図１のヒモが「バネ」になったと考えてください。片方のバネだけが硬くなると（＝筋肉が収縮して硬くなると）、ボールは、硬くなったバネのある方に移動しますよね。これをよりわかりやすくしたのが図２です。手のフォーム（＝指の関節の角度）が変わるとき、こういうことが筋肉では起こっているのです。</dd>
</dl>



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</div>]]>
        
    </content>
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    <title>第０６回　身体が動く仕組み　（５）耳と指は脳でつながる</title>
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    <published>2010-05-28T07:03:59Z</published>
    <updated>2010-08-30T06:29:05Z</updated>

    <summary>ミスタッチは事前に分かっている！？「音を聴く」練習の重要性</summary>
    <author>
        <name>admin</name>
        
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<div class="note">

<div class="t1">身体が動く仕組み　（５）耳と指は脳でつながる</div>


<p>ピアノを弾いていて、音をイメージするだけで指や身体が反応したり、逆に指を動かすだけで音のイメージが自然と浮かび上がってきたり、といった経験はありませんか？ピアノを弾く人にとって、指と耳がつながっていることは感覚的にごく当たり前に思われることかもしれませんが、その背景にある脳の仕組みはどうなっているのでしょうか。</p>

<p>私たちが指を動かすときには、頭の頂点より少し前あたりにある脳の細胞が活動し、一方、音を聴くときには、耳の上あたりにある脳の細胞が活動します。しかし、ピアノの練習を積むと、音を聴くだけで、指を動かす細胞が活動したり、反対に、指を動かすだけで、音を聴くための細胞が活動するようになることが、この１０年くらいで明らかになってきました<a class="c" href="#c1">(1)</a> <a class="c" href="#c2">(2)</a>。つまり、「音に身体が反応する」というのは、「音を聞くと、身体を動かすための脳細胞が活動する」ということなのです。ですから、ピアノを弾くときには、脳から筋肉に指令を送ることで身体を"動かす"と同時に、奏でられた音を聞くことで身体が"動かされている"ことになります。</p>

<p>では、指と耳をつなぐ脳の仕組みは、ピアノを演奏する上で、何の役に立つのでしょうか？この利点についてはいくつか報告されているのですが、その一つに、「ミスをあらかじめ予測することができる」というものがあります。</p>

<p>ピアノを弾く際、指が動く0.1&#65374;0.2秒前くらいには、脳は筋肉への指令を既に出しています。ミスタッチをする時も同様で、脳はミスタッチさせる指令を、ミスが起きる前に送っているわけです。しかし、ピアノの練習を積むと、脳は、指を動かす指令によって、これから鳴る音をイメージすることができるので、「どの音を誤って弾いてしまうか」を予測することができます。ハノーヴァー音大のAltenmuller教授らのグループが、ピアノを演奏している時の脳波を測った結果、脳はミスが起こる0.07秒前に、「あ、ミスする！」とすでにミスに気づいていることが明らかになりました<a class="c" href="#c3">(3)</a>。その結果、無意識にですが、ミスタッチの打鍵の強さを弱め、ミスの影響を減らそうとしていることもわかりました。</p>

<p>また、指と耳をつなぐ脳の回路があれば、仮に予期せず意図しない音を鳴らしてしまった時でも、それにいち早く気づくことができることも知られています<a class="c" href="#c4">(4)</a> <a class="c" href="#c5">(5)</a>。その後、ミスを修正しようとする動きは、ミスの約0.3秒後には既に起こることも知られており<a class="c" href="#c6">(6)</a>、意図した音楽を演奏し続けるために必要な脳の仕組みと言えるのではないでしょうか。</p>

<p>なお、この指と耳をつなぐ脳の回路は、２０分程度の練習によって作られ始めます。そして、その後の練習を積む中で、指と耳との結びつきは強くなっていきます。しかし、ピアノの音を消した状態で練習しても、この脳の回路は形成されないことが知られています<a class="c" href="#c1">(1)</a>。ですから、指だけ動かしていて、音を聴かずに練習していると、せっかく練習しても、タッチと音を結びつけながら練習するのとは違った脳の回路ができあがってしまいます。だから、音をよく聴きながら練習することは大切なんですね。</p>

<hr size="1" noshade>
<br />
<strong>【脚注】</strong><br />
<dl class="c_list">
<dt><a name="c1"></a>(1)</dt>
<dd>Bangert and Altenmuller (2003) BMC Neuroscience</dd>
<dt><a name="c2"></a>(2)</dt>
<dd>Bangert et al. (2006) Neuroimage</dd>
<dt><a name="c3"></a>(3)</dt>
<dd>Ruiz et al. (2009) Cerebral Cortex</dd>
<dt><a name="c4"></a>(4)</dt>
<dd>Katahira et al. (2008) Neuroscience Research</dd>
<dt><a name="c5"></a>(5)</dt>
<dd>Maidhof et al. (2009) Journal of Cognitive Neuroscience</dd>
<dt><a name="c6"></a>(6)</dt>
<dd>Furuya and Soechting (2010) Experimental Brain Research</dd></dl>



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</div>]]>
        
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    <title>第０５回　身体が動く仕組み　（４）指を速く動かす脳の仕組み</title>
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    <published>2010-04-28T07:40:45Z</published>
    <updated>2010-08-30T06:29:24Z</updated>

    <summary>「脳、神経、筋肉の関係」から見えてくる、指を速く動かす脳の仕組み</summary>
    <author>
        <name>admin</name>
        
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<div class="note">

<div class="t1">身体が動く仕組み　（４）指を速く動かす脳の仕組み</div>


<p><a href="http://www.piano.or.jp/report/03edc/brain/2010/03/29_10477.html">前回</a>は、指が独立に動かない理由を、脳、神経、筋肉の観点からお話しました。今回は、指を速く動かす脳の仕組みについて、ごく簡単に概要をお話します。</p>

<p>数百年も昔から現在に至るまで、数多くの人たちが、ピアニストの卓越した指さばきに魅了されてきました。これは聴衆に限らず、演奏家や指導者、果ては科学者もが、ピアニストの指の動きの神秘に様々な思いを抱いてきたのではないでしょうか。しかし、その神秘のヴェールが科学的に解き明かされ始めたのは、1990年代に入ってからになります<a class="c" href="#c1">(1)</a>。</p>

<p>私たちの頭の頂点より少し前のあたりには、指の筋肉に指令を送る神経細胞がたくさんあります。これらが活動すれば、指の筋肉に電気が送られて、筋肉は縮み、指が曲がったり伸びたりします。MRIやPETといった脳画像診断技術を使った研究によると、指を速く動かそうとすると、より多くの神経細胞が活動することが報告されています。つまり、『指を動かす細胞が集まって力を合わせることで、指を速く動かすことができる』ということです。</p>

<p>指を速く動かすことができるピアニストは、専門的な音楽訓練を受けたことの無い人に比べて、この指を動かす神経細胞が多いことが報告されています。また、力や運動のタイミングの調節に関連している、後頭部のやや下あたりにある脳部位（小脳）の神経細胞も、ピアニストの方が多いことが知られています。さらに、これらの細胞の数は、「何歳からピアノを始めたか」、「毎日何時間練習したか」に比例するようです。つまり、早くからピアノを習い始めた人や、毎日の練習時間が長い人ほど、この指の動きに関連する神経細胞が多いということです。</p>

<p>また、５本の指を最速の速さで動かしているときの脳の働きをMRIを使って計測した研究によると、音楽訓練を受けたことの無い人に比べて、指を素早く動かせるピアニストの方が、より多くの神経細胞が活動していることがわかりました。また、ピアニストも、練習によって指をより速く動かせるようになるにつれて、活動する神経細胞の数が増えていくことも報告されています。以上をまとめますと、指を速く動かすためには、指を動かすための神経細胞がたくさん必要だと言えそうです。<a class="c" href="#c2">(2)</a></p>

<p>こうお話すると、ピアノの先生方や親御さんは、「うちの子、早くピアノを習わせないと！」「もっと練習させないと」と思われるかもしれません。それらはもちろんとても素晴らしいことなのですが、子供さんや生徒さんのピアノに対する姿勢やモチベーションはどうでしょうか？別の章で取り上げますが、間違った練習をたくさんすれば、より下手になり、手を傷めるリスクも増えますし、モチベーションが低ければ、練習が脳に及ぼす効果が弱まることも知られています。これらのリスクも知った上で、子供さん、生徒さんに合った練習プログラムを組み立てていただきたいと思います。</p>

<p>さて、ここまでお話したことは、練習が脳の形態的な側面（大きさ）におよぼす影響ですが、指を動かせるようになるにつれて、脳の"機能"も変わっています。どういうことかといいますと、例えば、速く弾くためには、複数の指同士を独立に動かせることが必要です。前回、指同士の動きがつられてしまうのは、脳の問題だというお話をしましたが、それを思い出していただければ、指同士を独立して動かすには、個々の指の筋肉に送る脳からの指令が変化することが必要であるとわかります。</p>

<p>また、速く弾けるようになると、弾き方、すなわち身体の使い方も変わります。弾き方が変わるということは、脳からそれぞれの筋肉へ送られる指令の量やタイミング、割合などが変化するということです。この「速く弾くための身体運動制御の仕組み」については、オクターブやトレモロの連打、アルペジオを対象とした研究を現在メインに行なっておりますので、成果がまとまり次第、追ってお話させていただきます。</p>

<p>最後に、ピアノの世界でよく言われている通説について考えてみたいと思います。「私は指が弱いから、指が速く動かない」、という話をよく耳にします。実際、自分自身も昔はそう思っていました。しかし、指の筋力と指を動かす速さとの間には相関がないことは既に実証されていますし<a class="c" href="#c3">(3)</a>、今回ご紹介した研究成果は、むしろ指を動かす速さと脳との関係を裏付けるものです。したがって、必ずしも「指の筋力が強い＝指が速く動かせる」というわけではなさそうです。</p>



<hr size="1" noshade>
<br />
<strong>【脚注】</strong><br />
<dl class="c_list">
<dt><a name="c1"></a>(1)</dt>
<dd>
初めてピアニストの演奏時の脳機能計測を行なったのは、私の知る限り、1992年に発表されたSergentらによるPETを使った研究です。（Sergent et al. 1992 Science）。</dd>

<dt><a name="c2"></a>(2)</dt>
<dd>
ピアニストの脳の形態や機能を調べた研究は、現在数多く報告されています。以下の解説論文の特に前半部分に、その詳細および参考文献の一部をまとめておりますので、僭越ながらご紹介させていただきます。<br />
"古屋晋一（2009）ピアニストの身体運動制御 - 音楽演奏科学の提案．システム／制御／情報．53(10): 419-425"<br />
<a href="http://4767468374000130978-a-1802744773732722657-s-sites.googlegroups.com/site/auditorymotor/%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%B4%BB%E5%8B%95/FuruyaISCIEreview.pdf?attachauth=ANoY7crTU7jcaY_kaxxl6YskjTCcSKBnvajyoxpVjqYLLen8mM4LeccylEISHDRU-tGhJUaw79ihyqDfOJWX3mKRCJBvWeXpTmOxDR7gtLd5kahZoNdbv1GzqytKDzouk31zr1tDJtQ2H1AALvFYVDBXqMsm9AvX5Mqhjx3tvextx7sK_gaNqsUqY5_g6qw5qVTyPvG49o5CfqmPsAcoDYkvjVRV8XcxtJhTl1SPiWfSc7dsgTlTAr_HeQZqhOagJMVQ7nH9Aghy&attredirects=0" target="_blank">ダウンロード（PDFファイル）</a>

<dt><a name="c3"></a>(3)</dt>
<dd>Aoki T, Furuya S, Kinoshita H (2005) Motor control</dd>
</dl>


</div>


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