親子で楽しむ ピアノの歴史を探るコンサート~チェンバロからベヒシュタインまで?

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2006/10/08

―聴いて学べるピアノの歴史、弾いて体感ピアノの音色、親子でピアノの魅力を再発見―

2006年9月17日(日)杉並公会堂 小ホール PTNA杉並ステーション
この日、真新しい杉並公会堂の小ホールの舞台には、3つの時代の楽器が並んでいた。チェンバロ、フォルテピアノ、ベヒシュタイン。このベヒシュタインは、今年12月からスタートする杉並ステップで参加者が実際に弾くことのできる楽器。一足早く、このベヒシュタインと、現代のピアノへと通じるピアノの歴史を物語る楽器を、演奏とレクチャーを通して知ろうという杉並ステーションの企画だ。

●歴史の世界へ誘うメヌエットでオープニング

オープニングは、杉並ステーション代表の本多昌子先生がピティナっ子の娘さんと一緒にモーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク 第3楽章』のメヌエットを連弾して飾った。モーツァルトの時代のフォルテピアノのコロコロとかわいく華やかな音色と、親子の奏でる清々しい音楽は、満員の聴衆をピアノの歴史の世界へとゆっくりと誘っていった。

●指10本全部使って音を奏でるには?

「私たちが今一番なじみのあるこの大きなピアノ、ここにたどり着くまでにどんな歴史をたどってきたのか、今日はご一緒にお話を伺いましょう。」と本多先生が招き入れたのは、日本に20人しかいないというドイツピアノ制作マイスターの加藤正人氏。

加藤さんが"ピアノの原型"としてまず紹介したのが、「ムジーク・シュタープ」というアジアの楽器。竹でできたこの楽器は、"竹"の振動を"駒"で伝え、"箱"で共鳴させる、という仕組みが、現在のピアノに通じているというから驚きだ。これを手やバチでたたいたりしていたのを、「人間は指10本あるのだから、全部同時に使ってたくさんの音を出せないかな?」と発明されたのが、鍵盤。クラヴィコードの"Clavis"とは、"鍵"という意味のラテン語なのだ。

クラヴィコードの音源を聴いてみると、あまりに小さな音で会場の皆が耳を澄ます。なぜこんなに小さいのかを、シーソーのように弦をさわって音を出すクラヴィコードと、弦をはじくチェンバロの違いを模型を使って解説し、今度はチェンバロの音色を本多先生のバッハのメヌエットの演奏で聴いてみる。
「こんな小さい楽器ですが、先ほどより大きな音が出ましたね。でも、どうでしょう。本多先生、チェンバロで大きな音を出してください。」「ジャーン」と弾く。「では今度は、小さく弾いてください。」と言われると、本多先生は「うーん。。」とがんばってもジャラーンと音が出てしまう。「弾き方によって音量が変わらないです。」と本多先生。「このチェンバロに強弱をつけられないか、と考えて作られたのが"強弱が出る"という意味の「フォルテピアノ」という、この真ん中の楽器なのです。」

●浅くてスリル満点!のトルコ行進曲

モーツァルトが旅の途中で出会って感激したというフォルテピアノで、本多先生が『トルコ行進曲』を演奏。「どうでしたか?強弱はつきましたか?」と加藤さんが尋ねると、「強弱はつくんですが、タッチが浅いんです!!ちょっと触っただけでも音が出てしまうので、スリル満点のモーツァルトでした。あとで皆さんも試してみてくださいね。」とコメント。「では測ってみましょうか。」と加藤さんがものさしを取り出して測ると、6ミリ。今のピアノは10ミリというから、半分近くの浅さなのだ。

ヨーロッパの中でも、クラヴィコードを好んでいた地域とチェンバロを好んでいた地域があり、クラヴィコードを好んだ地域で作られたフォルテピアノは繊細なタッチでデリケートな音が出る楽器になったり、戦争による技術者の移動、師弟関係、また技術者がどんな作曲家や演奏家と親しかったかという交友関係、演奏の場の変化などが、ピアノのアクションやフレームの発達と切り離せない関係があったという。

●"エリーゼのために"弾き比べ

次に登場されたのは、12月の杉並ステップでもアドバイザーを務められる林苑子先生。まずはフォルテピアノで1曲。「みなさん、これは何という曲か知っていますか?」と会場の子どもたちへ尋ねると「エリーゼのために!」と声があがる。「そうね。誰が作った曲?」と聞くと「ベートーヴェン!」「そう、ほかの曲も知ってる?」と優しく問いかける。

「"ミレミレミシレドラ"って、とってもかわいいテーマですね。ずいぶんいっぱいあったけど、何回出てきたかしら?今度は同じ曲を、現代のピアノで弾いてみますから、みんなで数えてみましょうか。」と言ってピアノに向かうと、子どもたちは指折り数えつつ、耳慣れたピアノの音を、ついさっき聴いたフォルテピアノの音と重ね合わせながら聴き比べた。

●ピアノの"ヨコ"や"シタ"にも音の違いの秘密が!?

height="160" align="left">加藤さんはそれを受け、フォルテピアノとチェンバロにはなかった"鉄骨"が現代のピアノでは加わり、非常に強い力で弦を張っていること、さらに普段なかなか目にすることがない"側板(がわいた)"や"支柱"にも目をやった。

グランドピアノのボディを作っている"側板"。この曲線をどうやって作っているか、想像したことがあるだろうか。ベヒシュタインは薄い板を曲げたものを何枚も重ねて曲線を作る。下敷きで実験できるように、曲げることによってパーンと張りのある音が出る。スタインウェイも同じ。一方ベーゼンドルファーのようにクラヴィコードが好まれた地域出身のピアノの側板は、箸のような木の棒を縦に並べるというように、同じピアノの曲線の形でも全く作り方が違う。

さらにピアノの下に注目すると、響板の下に組まれている木の板の"支柱"が、ベーゼンドルファーではまっすぐ「井形」で、ベヒシュタインは「放射状」に伸びている。「井形」は低音が響きやすく、「放射状」は華やかな音が出るという構造で、どんな音を目指しているか?で楽器の構造が全く違うということを、工場で撮った写真で見比べることができた。

そのベヒシュタインの華やかな音を聴いてみようと、林先生がショパンの『幻想即興曲』を演奏。ベヒシュタインはリストやブラームス、ドビュッシーなどが愛用したピアノ。たくさんの音を弾いても音が濁らず、音が多い中でも旋律や伴奏、ベースがよく聞こえる、透明感があるという特色を生かした作品が書かれた。ドビュッシーの曲のように印象派の絵のように音が重なり合う中にぼわーっと旋律が浮かび上がるのがよく表現できる。そんな音を聴いてみようと、シューベルト=リストの『セレナーデ』とドビュッシーの『月の光』の演奏に耳を傾けた。

●3つの楽器を体験?チェンバロってこんな音が出るんだ!

さらに休憩の時間には、この貴重な3つの楽器を会場のみんなが弾けるという贅沢な企画。本多先生や林先生の演奏、加藤さんのお話にあった特徴を自分の目と耳で確かめてみようと、それぞれの楽器の前にはたくさんの子どもの列が、今か今かと番を待っていた。

「チェンバロの思ったよりすっごく小さかったけど、かわいい音が出て一番好きだった」と弾き比べてみる子、見守る親も「小さく見えるけれど、鍵盤の幅は同じですか?」と加藤さんの尋ねたり、ベヒシュタインのシタにもぐり込んで支柱が本当に放射状になっているかを確認している子もいた。

休憩の後には、このコンサートの締めくくりとして、本多昌子先生の弾くベヒシュタインのピアノに、山中直子先生のヴァイオリンと宮坂拡志さんのチェロが加わり、メンデルスゾーンのトリオが披露された。

◎演奏・レクチャー 
 本多昌子(ピアノ)・林苑子(ピアノ)・加藤正人(レクチャー)・山中直子(ヴァイオリン)・宮坂拡志(チェロ)
◎プログラム
 モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク 第3楽章(フォルテピアノ)
 J.S.バッハ編:アンナマグダレーナのための小曲集より メヌエット (チェンバロ)
 モーツァルト:トルコ行進曲 (フォルテピアノ)
 ベートーヴェン:エリーゼのために(フォルテピアノ/ベヒシュタイン)
 ショパン:幻想即興曲(ベヒシュタイン)
 シューベルト=リスト:セレナーデ(ベヒシュタイン)
 ドビュッシー:月の光 (ベヒシュタイン)
 メンデルスゾーン:ピアノ三重奏第1番1楽章(ベヒシュタイン・ヴァイオリン・チェロ)

 (アンコール)ブラームス:ハンガリー舞曲6番(ベヒシュタイン・ヴァイオリン・チェロ)

◎使用楽器
チェンバロ/スピネット (ノイペルト社製)

ベントサイドスピネットと言い、場所を取らないように弦が鍵盤に対して斜めに張られ、18世紀当時現代のアップライトピアノ様に家庭で使用されました。
大型のチェンバロになると、8フィートの弦が2本、1オクターブ高い4フィートの弦と、音色の組み合わせが約5通りできますが、スピネットは8フィートと言われる一般的な音程の弦が一本のみはられています。ステージに用意された楽器はリュートストップという、リュートのような響きを出す機能がついているので、2通りの音色を出す事ができます。

フォルテピアノ(ハンマーフリューゲル(独))/ドゥルケン レプリカ(ノイペルト社製)

ルイ・ドゥルケンは歴史的な楽器製造の家系に生まれ、アントワープとブリュッセルで活躍しました。彼の祖父にあたる J.D.ドゥルケンは、チェンバロ製作の権威であった3人のルッカースの後継者として、最高のチェンバロを作り一世を風靡しました。ノイペルトのレプリカは、1815年にルイ〓ドゥルケンによって製作されたオリジナルに基づき作られています。このフォルテピアノには、モダン楽器のように、フォルテとウナコルダペダルが備え付けられています。それに加え、当時のピアノ譜において標記されていた「ソルディーノ」、又はピアニッシモ部分で使用が許された「モデラトゥアー」が備え付けられています。アクションは跳ね返り式(ウィンナーアクション)。この6オクターブ(F1- f4)のフォルテピアノの明るく多様な響きは、ドゥルケンの理想とした、モーツァルトの時代を思い描かせてくれます。(加藤正人)

◎共催:PTNA杉並ステーション/ユーロピアノ
◎後援:杉並区、社団法人全日本ピアノ指導者協会

11月24日(土)「親子で楽しむ ピアノの歴史を探るコンサート」第2弾/杉並公会堂グランサロン
12月17日(日)杉並ステップ/杉並ステーション


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