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【読み物】 ~メトロノームのための音楽~
掲載日:2013年9月13日

 今日からちょうど50年前の1963年9月13日、オランダで開かれていた現代音楽フェスティバル、ガウデアムス国際音楽週間の一環で、当時の「前衛」作曲家のひとりジェルジ・リゲティ (1923-2006) の新作が披露されました。作品のタイトルは《ポエム・サンフォニック Poème symphonique》(フランス語で『交響詩』の意)。壮大な管弦楽の響きを連想させるタイトルですが、オーケストラのための作品ではありません。使われるのはなんと100台のメトロノーム。メトロノームの刻むカチカチという音だけを素材とした、おそらく音楽史上初めての作品です。

Youtubeで検索:[György Ligeti poème symphonique]

 ショット社から出版されたスコアには、作品成立の経緯や演奏の準備の方法などが記されていますが、音はひとつも書かれていません。(注)スコアによれば、演奏の準備としてはまず、2人以上の「演奏者」がピラミッドの形をしたメトロノームを100台舞台上に配置し、それらをMM50からMM140の間でセットします。セットが完了したら、100台のメトロノームをいっせいに動かして「演奏開始」。メトロノームの最後の1台が作動し終え、音が完全に消えたところで演奏終了です。初演はちょっとしたスキャンダルとなり、初演の模様を収録していたオランダのテレビ局は、あまりに前衛的な作品であると判断して放送を中止したそうです。

 リゲティにとって、時計やメトロノームのカチカチという機械的な音は、インスピレーションの重要な源でした。リゲティは幼いころから、それらの音を通して「鳴り響く迷宮のイメージ、合わせ鏡のような無限のイメージ」を見ていたと語っています(《ポエム・サンフォニック》ショット社版スコア)。メトロノームの無機質な音にじっと耳をすませていると、リゲティの思い描いた詩的な音楽世界が徐々に目に浮かんでくるかもしれません。 (平野)


注:ショット社のスコアはいわば改訂版にあたる。初版は、《ポエム・サンフォニック》の初演から2年後の1964年、アメリカの芸術家ジョージ・マチューナスを中心とする芸術運動フルクサスの機関誌 ccV TRE に掲載された。(参照:Eric Drott. “Ligeti in Fluxus,” The Journal of Musicology 21 (2): 201-239.)

《ポエム・サンフォニック》の演奏に用いられるピラミッド形のメトロノーム

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