ホーム コンクール ステップ セミナー コンサート 指導力アップ ピアノ教室紹介 ピアノ曲事典 読み物・連載
バッハ  :  平均律クラヴィーア曲集 第2巻
Bach, Johann Sebastian  :  Das wohltemperierte Clavier, 2 teil, 24 Praludien und Fugen  BWV 870-893
ピアノ独奏曲 [piano solo/ 曲集・小品集

作品概要

楽章・曲名 演奏時間
1 第1番 ハ長調  /  BWV870   C-Dur 前奏曲 2分 20秒 フーガ 2分 30秒 譜例
2 第2番 ハ短調  /  BWV871   c-moll 前奏曲 1分 30秒 フーガ 1分 50秒 譜例
3 第3番 嬰ハ長調  /  BWV872   Cis-Dur 前奏曲 1分 50秒 フーガ 2分 20秒 譜例
4 第4番 嬰ハ短調  /  BWV873   cis-moll 前奏曲 3分 00秒 フーガ 1分 40秒 譜例
5 第5番 ニ長調  /  BWV874   D-Dur 前奏曲 2分 20秒 フーガ 3分 10秒 譜例
6 第6番 ニ短調  /  BWV875   d-moll 前奏曲 1分 40秒 フーガ 1分 40秒 譜例
7 第7番 変ホ長調  /  BWV876   Es-Dur 前奏曲 2分 10秒 フーガ 2分 10秒 譜例
8 第8番 嬰ニ短調  /  BWV877   dis-moll 前奏曲 2分 00秒 フーガ 3分 20秒 譜例
9 第9番 ホ長調  /  BWV878   E-Dur 前奏曲 2分 00秒 フーガ 3分 00秒 譜例
10 第10番 ホ短調  /  BWV879   e-moll 前奏曲 1分 50秒 フーガ 2分 50秒 譜例
11 第11番 ヘ長調  /  BWV880   F-Dur 前奏曲 3分 40秒 フーガ 1分 45秒 譜例
12 第12番 ヘ短調  /  BWV881   f-moll 前奏曲 2分 00秒 フーガ 2分 10秒 譜例
13 第13番 嬰ヘ長調  /  BWV882   Fis-Dur 前奏曲 3分 00秒 フーガ 2分 40秒 譜例
14 第14番 嬰ヘ短調  /  BWV883   fis-moll 前奏曲 2分 20秒 フーガ 4分 10秒 譜例
15 第15番 ト長調  /  BWV884   G-Dur 前奏曲 1分 20秒 フーガ 1分 10秒 譜例
16 第16番 ト短調  /  BWV885   g-moll 前奏曲 2分 40秒 フーガ 2分 50秒 譜例
17 第17番 変イ長調  /  BWV886   As-Dur 前奏曲 3分 20秒 フーガ 3分 00秒 譜例
18 第18番 嬰ト短調  /  BWV887   gis-moll 前奏曲 2分 10秒 フーガ 4分 20秒 譜例
19 第19番 イ長調  /  BWV888   A-Dur 前奏曲 1分 40秒 フーガ 1分 30秒 譜例
20 第20番 イ短調  /  BWV889   a-moll 前奏曲 2分 20秒 フーガ 2分 00秒 譜例
21 第21番 変ロ長調  /  BWV890   B-Dur 前奏曲 2分 10秒 フーガ 3分 10秒 譜例
22 第22番 変ロ短調  /  BWV891   b-moll 前奏曲 2分 50秒 フーガ 5分 00秒 譜例
23 第23番 ロ長調  /  BWV892   H-Dur 前奏曲 2分 10秒 フーガ 3分 20秒 譜例
24 第24番 ロ短調  /  BWV893   h-moll 前奏曲 2分 10秒 フーガ 1分 40秒 譜例
59分 59秒
作曲年:1738-42
出版年:1801
初出版社:Simrock, Hoffmeister & Kühnel, Nägeli

楽曲解説

総説 2007年5月  執筆者: 朝山 奈津子
「うまく調律されたクラヴィーア第II巻、すべての全音と半音を用いて作られたプレリュードとフーガよりなる。ポーランド国王兼ザクセン選帝侯の宮廷作曲家にして楽長、ならびにライプツィヒの合唱音楽隊監督、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲」

 この言葉は、1744年に筆写されたアルトニコル稿の表紙に書かれている。自筆浄書は1742年頃に作成された。大判の紙の表にプレリュード、裏にフーガを記し、譜めくりをしなくてもよいルーズリーフの体裁をとる。この自筆譜は現在、ロンドン大英博物館にある。
 曲集の成立に具体的な契機は証明できないが、《クラヴィーア練習曲集》を4巻まで出版した時期でもあり、出版の機会を窺がっていたことは考えられなくはない。が、おそらく第I巻以降に書き溜めたものにいわば「家」を与えて、個別の作品の散逸を防ごうとした。そもそもバッハは、自分の作品を使い捨てにせず、改良を加え続けてより完璧にする性質であり、ライプツィヒ時代の後半には特に頻繁にこうした改訂や集成が行われている。《平均律》第II巻には、新作よりも過去のさまざまな曲を取り入れたものが多く、24の調をそろえるためには移調して加えられた作品もあるが、浄書後も大胆な修正が加えられており、この曲集がバッハにとって単なる寄せ集めではなかったことがわかる。教程としても重んじられ、第II巻はバッハの弟子たちがみなそれぞれ自分の筆写譜を所有していたという。
 20年前の第I巻に比べて多様性がさらに強まるのは、作曲期間の長さゆえであろう。その中にはバロックの様式を脱却し前古典派へと向かう傾向も見て取れる。また、短三和音で終止する曲が第I巻に比べて増えているのは、時代とともに短調が自立したこと、そして短三和音が綺麗に響く調律がいっそう普及したことの証しである。

《平均律クラヴィーア曲集 第1巻》もご覧下さい。
演奏のヒント 2016年11月  執筆者: 大井 和郎
第2番 ハ短調

【プレリュード】
 1巻と同様に、楽しい、舞曲風の、躍動的なC-mollのプレリュードと考えて良いと思います。故に、通奏低音のような左手の8分音符の動きは、スタッカートにしてしまって良いと思います。勿論右に8分音符が出てきたときも同様にスタッカートにして良いでしょう。さて、このプレリュードのテンポですが、難所がいくつかあり、その難所に無理がかからないテンポが良いかと思います。難所は次にあげる箇所になります。

 7小節目4拍目の右手のトリル、同じく8小節目2拍目の右手のトリル。
 14小節目2拍目と4拍目の右手のトリル、同じく16小節目2拍目と4拍目の右手のトリル。
 トリルの処理の仕方にもよって難易度は変わってきます。しかし7小節目と8小節目のトリルは最終的に同じ音にたどり着かなければなりませんのである程度の速さは必要になります。
 14、16、小節のトリルの演奏法は次に解説するとおりです。2通りの演奏法があります。1つは、14小節目の2拍目を例に取ります。この右手のH㽇を、書いてあるとおり、左手のGに合わせる弾き方にすると、表拍のCのトリルはわずか16分音符1個分の時間内に収めなければなりません。そうなると、どうしてもトリルの3つの音の最後であるCを(3つめを)、左手のAsと一致させなければほぼ不可能です。トリルの3つめの音を左手と一緒に弾いたとしても、結構な技術が必要になります。

 もう1つの方法は、2拍目の表拍である、トリルとH㽇をすべて32分音符に統一してしまいます。

 32分音符4つでCDCHと演奏して、左手のAs とGにそれぞれ32分音符を2つずつ合わせます。この奏法の方が遙かに楽であると思います。以下同じ場所は同様に処理します。

 その他の注意点を書いておきます:
 5小節目4拍目や、6小節目4拍目のような場所は拍内に右手の声部と左手の声部が分かれて入っていますね。5小節目の4拍目を例に取りましょう。この4拍目に入っている4つの音である、FEsDCは、Fが右手の声部で、EsDCが左手の声部になります。しかし普通に演奏するとこの4つの音はあたかもどちらかの手の声部の4つの音に聞こえてしまいます。そこで、この場合右手の声部であるFを16分音符1つ分よりも幾分長めに演奏します。そうすることで、左手声部のEsとオーバーラップします。オーバーラップさせることで、2つの声部として聴かせることが可能となります。6小節目、23小節目、24小節目も同じです。

 12小節目、右手は3声になっています。1拍目の4分音符の長さ、1拍目裏拍8分音符のCの長さなどを厳格に守ってください。28小節目も同様です。

 次に音楽的な側面について述べてみます。前半(1-12小節間)、最高音はFとなり、これは4小節目4拍目右手、8小節目3拍目右手に現れます。しかしながらこのプレリュードはC-mollから始まり、前半の最後がEs-durで終わり、後半は引き続きEs-durから始まります。従って、テンションが高まっていくC-mollの部分での4小節目のFと、Es-durに転調して柔らかなムードになる8小節目のFではキャラクターが異なりますね。故に前半は4小節目が最も音量の上がる小節になります。

 後半は、Es-durから始まり、f-mollに転調し、シークエンスをたどりながら22小節目において、最高音のAsまで達し、この小節のテンションが最も高くなります。

【フーガ】
 大変厳かな4声のフーガです。悲しみも感じられます。このフーガの特徴は、主題がオグメンテーション(Augmentation)によってオリジナルの主題とストレッタで出てくることにあります。
 オグメンテーションとは、あるいフレーズを倍以上の長さに音価を変えてしまうことです。14小節目のテノールと、19小節目のバスがそのパターンです。14小節目、このテノールのオグメンテーションの主題に、オリジナルの主題がソプラノによって被さっていますね。演奏のコツとしては、この引き延ばされた主題が他の主題よりもはっきりと聞こえるように意識する事です。そうすることで聴いている人たちの耳にも届きます。
 4声体ですので、4人の異なった声質を持った人たちが歌っているように、各声部の音質を異ならせるようにすると良い演奏になります。
演奏のヒント 2016年11月  執筆者: 大井 和郎
第6番 ニ短調

【プレリュード】
 このプレリュードで気を配るところはダイナミックの変化です。奏者はまず徹底した分析を行い、音楽はどこに向かっていくのか、セクション毎に把握しなければなりません。その上で、ダイナミックを決定していきます。

 1小節目からは5小節目の1拍目Fに向かって行くと仮定します。このプレリュードは、上行はクレシェンド、下行はディミニュエンドという風には考えず、ゴールに向かって音量を上げていくと考えれば良いかもしれません。5小節目1拍目のFが4小節目の音よりも大きいか小さいかは議論できる場所であると思います。理論的には4小節目3拍目がV7で、5小節目が I ですので、和音が解決される場所=ディミヌエンドと考えても良いと思いますが、5小節目のFが最も大きい音と仮定してもかまわないと思います。そう考えますと、1小節目より2小節目、2小節目より3小節目、3小節目よりも4小節目のほうがテンションがそれぞれ上がります。

 同じく、6小節目から新たなセクションが始まり、9小節目に向かうと考えます。9-10、11-12、はシークエンスです。どちらの方が大きいかは奏者に委ねれば良いと思います。続いて、13-14、15-16も2小節単位のシークエンスですね。さて、18小節目より、26小節目を目指す長いクレシェンドが始まります。そうすると18小節目はpが望ましく、例えば17小節目などでディミニュエンドをかける等、18小節目がpになるもって行き方を考えてみましょう。

 以降、これまでの流れを参考にして引き続きダイナミックコントロールを常にかけます。恐らく42小節目のBが最もテンションの高まる小節ではないかと思います。最後は当然ですがディミヌエンドで終わってください。

【フーガ】
 まずは冒頭からの解説になります。主題は1-2小節間のソプラノになります。2小節目最後のAで一区切りつけます。その間、リズムは3連符と8分音符の2種類しかありませんが、3連符の最後のGは(1小節目)、次の8分音符のAに解決されると考えます。故にこの3拍目の8分音符のAにはアクセントをつけてはいけません。
 次のDもpから始まり徐々に2小節目の3拍目近辺を目指して膨らませ、3拍目を過ぎたら徐々に衰退させます(つまりはこの主題は2つの部分から構成されている
と考えて良いと思います)。以降、主題はこれの繰り返しになります。その他、レゾルーション(解決)の場所で注意するところは、8小節目3拍目のソプラノ16分音符のGは、2拍目Aからの解決になります。ここもアクセントつけないように。
声部の独立で最も難しい部分は、11小節目の左手にあります。11小節目の左手は、テノールとバスが3拍目より掛け合いになり、12小節目の2拍目まで続きます。各声部、1拍毎に2つの音符が 出てきますので、2つの声部で1拍に合計4つの音があります。この4つの音は全てタイミングが異なって出てきます。11小節目の3拍目を例に取りましょう。バスはAD、テノールはGFisですね。

 これらが4つ一緒になって、AGFisD と聞こえないようにしなければなりません。試しに、右の手でテノール、左の手でバスを担当してこの部分を弾いてみましょう。そうすると簡単に2つの声部を独立させることができると思います。ところがこれが左手のみでここを弾くとなかなかそうはいきませんね。

 筆者はヘンレー版を見ていますが、テノールの2つの音には、「2-1」の指使いが書かれています。つまりは、テノールの1つめの音を1の指で取り、2つめの音を2で取り、すぐまた1に変えろという指示ですね。しかしながらテノールの2つめの音を2で取ると、バスの付点8分を次の16分まで繋ぐことが大変に困難になります。そうするとバスは切れてしまい、この2つの独立した声部は1つの声部としてしか聞こえなくなってしまいます。

 そこで、テノールの指使いですが、2つの音は両方とも1を使い、1-1という指使いにします。この指使いで音が切れるようであればペダルを使っても良いと思いますが、こうすることでバスの5の指がとても楽に繋ぐことができるはずです。お試しください。

 19-20小節間はシークエンスが入ってきます。主題の断片(3連符の部分のみ)が抜粋され、色々な調でで登場しますね。調によってカラーを変えてみましょう。
演奏のヒント 2016年11月  執筆者: 大井 和郎
第11番 ヘ長調

【プレリュード】
 多いところでは5声にまで厚くなるプレリュードです。このプレリュードだけでもとても大変な作業を強いられ、あらゆる箇所に細心の注意を払わなければなりません。このプレリュードのもう一つの特徴としては、ページ数で3ページ(ヘンレー版)、小節数で72小節分もある長いプレリュードに作られています。この手の長い曲は下手をするとかなり退屈に聞こえてしまいます。同じような曲では例えばシンフォニアの5番や9番のように、特に盛り上がる部分が突出しているわけでもなく、楽譜上、一見すると同じような進み方が延々と続くように見えます。

 聴いていて長く感じる演奏というのは、奏者そのものが曲を良く理解していない場合に起こります。同じ分数でも長く感じる演奏と短く感じる演奏では、短く感じる演奏の方が優れています。奏者は音楽を分析し、きちんとしたクリアーな「形式を聴かせる」ように工夫をすると良いでしょう。

 そうすることにより、聴いている方も長い曲とは感じなくなります。この手の曲の譜読みを終え、曲作りに入るとき、奏者は曲をいくつかに分割するとわかりやすくなります。仮にこの曲を3つに分けることにします。そうすると、1つめのセクションは16小節目までとします(厳密には17小節目の1拍目までです)。17小節目からは主題がC-durで始まりますね。次のセクションは17小節目から56小節目までとします。57小節目からは再びF-durに戻りますね。さて、勿論これは単なる一例に過ぎません。3つでは無く4つに分けても良いと思います。

 4つに分ける場合は17-32小節、33-56小節、とします。勿論、これら以外の分け方でも構いませんが、一応この分け方を前提に説明をさせて頂きたいと思います。

 1-17小節間を見たとき、何処の部分が最もテンションが高くなるかをまず見極めます。単純な方法としては、音が高くなる場所を探せば良いのですが、必ずしもそれが正しいとも限りません。例えばこの場合、右手の一番高い音はGで、これは1小節目と11小節目に登場します。しかしこの2つを比べた場合、1小節目のGは明らかに大人しい部分であることが解ります。そこで、この1小節目からのフレーズは何処まで続くか見てみましょう。

 きりの良い場所は4小節目までになります。ここまでを1つとします。続いて5-6小節間、7-8小節間は2小節単位のシークエンスになります。5-6と7-8を比べた場合、和声的に5-6のほうがテンションが高く、7-8は解決的な部分ですので、5-6の方に音量を上げると良いでしょう。ここで5-6と7-8はどのように構成されているかを見てみましょう。例えば5小節目の音型をご覧ください。2小節目とよく似ていることが解ります。2小節目を3拍目から1拍目に向かって、右から左へ読むような部分が5小節目です。7小節目も同じですね、この2つのシークエンスは故に主題とは見なしません。

 そうなってくると、1小節目の主題が次に出てくるのは9小節目であると考えます。9小節目の主題と1小節目の主題は明らかに、9小節目の方がテンションが高いですね。そしてそれは11小節目のGに向かうと考えたとき、この9-12小節間4小節間が、最も最初のセクションでテンションが高まる部分と考えます。さてでは、この4小節間は何処が最もテンションが高まる部分であるかは、奏者に考えを委ねます。10小節目1-2拍目の全音符の和音と考えても良いと思います。同小節3拍目は1-2小節目の解決和音ではありますが、11小節目に待っているGの事を鑑みたとき、果たしてこの解決をディミヌエンドにしてテンションを緩めてしまって良いものかどうかも考えなければならない事です。人によっては、11小節目が最も音量的に大きくなると言う人もいると思います。

 バッハの音楽を作るとき、ダイナミックのレベルは、波線で言えばどちらかというとスムーズに進む場合が多くあります。それは徐々にクレシェンドであったり、徐々にディミニュエンドであったりして、ベートーヴェンのような突然のフォルテやピアノはあまり多くないかもしれません。しかし例外もあります。先ほど7-8のシークエンスは5-6ほど強くないという話をしましたね。結果、7-8小節間はpかもしれません。ところが、9小節目から大きくなるとなれば、subito的なダイナミックの急激な変化であり、これはあっても良いことであるとは思います。5-6よりも7-8が大きければ、スムーズに9小節目に入れるという話です。しかしここはそうではありません。そこでどうするかです。

 英単語でignition(イグニッション)という言葉があります。これは、作動させる、始動させる、始める、といった初期段階の何かを意味します。例えば車のiginitionといえば、スターターを始動させる伴を差し込む部分のことを指します。この9小節目も実はイグニッションがあり、それが8小節目3拍目のヘ音記号、8分音符3つの、EsDCです。何故これが次の小節の始まりかというと、Esという音があるからです。様々な調でのシークエンスが最終的に10小節目でF-durに戻りますね。F-durという調にはEsは音階固有音として存在しません。故に、3拍目のEsDCは次の9小節目の主題の始まりということになり、ここ(8小節目3拍目裏拍)から音量を突然上げても不自然ではありません。是非お試しください。

 13-16小節間、C-durに転調して落ち着く部分です。徐々にディミニュエンドで良いと思います。17小節目からは2つめのセクションがC-durで始まります。よく見ると、17-20小節間は、1-4小節間とほぼ同じであることがわかりますね。そして更に、21-24小節間の2つのシークエンスも5-8小節間のシークエンスと一致しますね。異なる部分は25小節目以降です。27-28は、25-26のシークエンスに変化します。1つめのセクションより、一層テンションが高くなると考えて良いと思います。

 13-16小節間がC-durで落ち着くためのブリッジ的存在であったのに対し、29-32小節間はdmollを定着しようとしていることは確かなのですが、何か落ち着きがありません。16小節目がトニックで終わっているに対し、32小節目はドミナントで終わっていますね。このままでは済まない感じがします。

 今終了した部分が4つにこの曲を分けたときの分岐点になる場所です。33小節目から新たにd-mollが始まりますので、ここを分岐点として考えることは理にかなっています。33小節目から8小節間(33-40小節間)は、1-8小節間や、17-24小節間と似ている部分がありますね。特に前半は似ていますが後半は2小節単位のシークエンスではありません。完全にd-mollを定着させてしまいます。そしてシークエンスは、41小節目から2小節単位で始まり、41-42、43-44、45-46、とどんどんテンションが上がります。
 恐らくこのプレリュードでは、47小節から56小節目までが最もテンションの高まる部分であると思います。これらの小節をどのように演奏するかは奏者に委ねられますが、筆者の考えは55小節目に向かうべきと考えますので、55小節目に向かってそれなりの方向性を持たせると思います。

 57小節目からは再びF-durの穏やかな主題が戻ってきてcodaを迎え、終わります。

【フーガ】
 プレリュードが、横に流れる穏やかなプレリュードに対して、このフーガは6/16で書かれており、そう書いてあると何故かテンポはかなり速いと思ってしまいます。バッハは勿論6/8も使いますが、わざわざ6/16を使うときは限られています。例えばフランス組曲G-durのジーグであったり、Ddurのトッカータにこの拍子が見られます。6/8でも書くことはできたはずなのですが、6/16を選ぶからにはそれなりの理由があると考え、その理由とは単にテンポが速いことであると思って
しまいがちですが、それはそれで問題が起きます。

 筆者の考えからすると、89小節目以降などに多く登場する32分音符がクリアーに聞こえるテンポが適切だと考えます。あまり残響の多いホールでこのフーガを速く演奏しすぎると、これらの32分がグリスアンドのように聞こえてしまうかもしれません。そのような可能性も懸念し、ここはそこまで速すぎないテンポを選びます。

 果たして6/16で書く意味というのは、単にテンポを速くするという意味のみならず、テンションそのものを高く保つという意味で考えて良いと思います。

 このフーガを上品に、デリケートに弾くピアニストがいますが、このフーガはF-durであることを忘れてはいけません。F-durの他の曲を思い浮かべてください。非常に強い表現の調です。そして、とても楽しい調でもあります。バッハがこのフーガを書いているときどのような機嫌であったかを考えてみてください。これ以上楽しい時間もそうは無いのでは無いでしょうか?

 61小節目は、このフーガで最も音量が大きくなる部分の1つかもしれません。そして85小節目からの主題は87小節目1拍目で一瞬だけ短調になります。ユーモアたっぷりの書法ですね。楽しさに満ちあふれています。

 そして32分音符を迎え、94小節目で一度音量を落とし、そこから最後まではテンションをさらにどんどん上げてしまいます。人の評判など気にせず、きれいにまとめようと思わず、単に音量を上げるのでは無く、多大なるエネルギーを感じさせる終わり方で演奏してください。
演奏のヒント 2016年11月  執筆者: 大井 和郎
第12番 ヘ短調

【プレリュード】
 この2拍子のプレリュードほど人によってテンポが異なる曲も珍しいかもしれません。かなりゆっくりな人もいればかなり速い人もいます。一般的に、2拍子という拍子はバロック時代は割と速い拍子として定着してきましたので、筆者がこれを演奏する場合、どちらかというと速いテンポになりますが、学習者は自分の判断と感性でテンポを決めて頂いて構いません。

 このプレリュードは前半と後半にきれいに分かれており、一目瞭然です。1-28小節間が前半で、29-70小節間が後半ですね。このプレリュードのピークポイントは後半、29-57小節間のどこかだとお考えください。ご自分のインスピレーションで大丈夫です。このプレリュードを仮に3つに分けるとしたら、1-28、29-56、57-70、と分かれると思います。それではまず前半を見てみましょう。

 特に際立ってテンションが高まる部分は前半には無いような気がします。強いて言えば16小節目くらいでしょうか。それにしてもそこまで気持ちは高ぶりません。このプレリュードは大雑把に考えるとほぼ4小節単位で新しいフレーズが始まるとお考えくださって間違いありません。前半も同じです。厳密には1小節目から4小節目の1拍目で一区切りになります。この4小節間には細かいフレーズが各小節に1つずつ入り、合計4つのフレーズがあります。最も高い声部を抜粋すると次の4つになります。

  1 As As G
  2 B. B. As
  3. As As G
  4. F F. E

 この4つのフレーズにはそれぞれ3度、または6度下の声部があります。そして各4つともダブルサスペンションの形をたどります(ダブルサスペンション=前の小節にある和音の音を次の小節まで引っ張ってくること、これがシングルではなく3度や6度など重音2つ、同時に起こること)。つまり、1小節目はCEGで構成されていますので、CGE以外は非和声音になります。この1小節目1拍目の表拍に入り込んでいる非和声音は、前のアーフタクトの和音を1小節目まで引っ張ってきている事になります。故に、この場合、右手As と F は、前の小節の音であり、非和声音ですね、

 そしてそれがGとEに裏拍で解決されますね。故に、裏拍はディミヌエンドの形をたどり、ここにはアクセントは付きません。

 そして2小節目。1小節目2拍目の和音である、CEGBの GBが次の小節に入り込んでいますね。

 そして解決されます。この繰り返しになります。故に、1-4(上記)の3つの音の中でゴールの音は真ん中の音になり、この真ん中の音に向かい、3つめの音でレゾルーション(解決)になります。

 そしてこの4つを比べたとき、1つ目よりも2つ目の方が2度高いので2つ目は1つ目より大きくします。3つめは7度も高い位置にありますのでここに向かって行き、4つめは再び2度下がりますので、3つめよりは音量を落とします。4つめの音量を落とすもう一つの理由は和声的な理由からになります。

 アーティキュレーションは自由です。テンポによっても変わってくると思います。これで1-4小節目の分析ができましたね。あとは、ここを弾くときに注意するのは右手のバランスです。3度や6度を右手で弾くとき、下の方の声部が1の指になることが多くあります。結果、必要以上に大きく出すぎてしまう事になります。くれぐれも1の指は力を抜いて、きれいなバランスを保ってください。

 次に4小節目2拍目より、8小節目2拍目までの音型を追います。8分音符で棒が下に向いている音は、左手でとります。それらを抜粋すると、E F D E G F D E  になりますね。裏拍に出てくる16分音符3つは右手でとります。右手の音程を抜粋すると、5 6 4 5 7 6 4 5になります。音程が広い場所が、テンションが高まる部分ですので、右手が7度になるところをゴールとして目指しますと、左手の最も高い音である G と一致します。これはもうここを目指してほぼ間違いが無いということになります。

 人によっては、ここの部分を2つに分けて考える人もいます。EFDEとGFDEです。これでも勿論構いません。2つに分けて考えたとき、両グループの最後の音であるEは弱くなり、アクセントはつきません。和声的に解決しているからです。
次の4小節は冒頭の繰り返しですが、後半(11-12小節間)が異なります。f-mollの平行調であるAs-durに転調します。ここから、20小節目1拍目までAs-durのまま、冒頭8小節間と同じに見えますが、12小節目2拍目より4小節間、1-8小節間には存在しなかった新たな4小節間が加わります。そしてこの4小節は、8小節目2拍目より始まった新たな4小節の延長になり、最終的に、このセクションで最も高い音であるAsに到達します(15-16小節間右手)。

 本来であれば、f-mollの平行調であるAs-durは、f-mollに比べて遙かに柔らかな調として登場しますね。ですから音色を変え、柔らかに行きたいところなのですが、12小節目2拍目以降はテンションは高まる一方です。12小節目2拍目よりクレシェンドをかけて15小節目2拍目に達して良いと思います。そのクレシェンドの程度は奏者に委ねます。

 そして16小節目2拍目より、4小節目2拍目と同じ音型が繰り返されますので、8分音符の音を追ってみましょう。G As F G B As F G となり、これは4小節目2拍目から8小節目2拍目までの音型ととても似ていますね。ところが注目して欲しいのは右手の音程です。抜粋してみましょう。

5 6 4 5 7 6 7 8 となり、4小節目2拍目からとは打って変わって、テンションは一気に高まります。音程が広くなるに従ってクレシェンドをかけて良いと思います。そしてクレシェンドをかけテンションを高めたら、20小節目2拍目より、24小節目2拍目まで、また新たな音型をたどりながらディミニュエンドをかけます。
 さてこの、20小節目2拍目からの音型ですが、今までには無いパターンですね。左手の流れを見ると縦割りの音楽ではなく、横にスムーズに流れていく音楽であることが解りますね。そうなると右手の16分音符もレガートに弾いてみたくなるものです。ところがそこにネックがあります。それは右手16分音符の連打音です。Ges As C Es Es C As F F G B Des Des B G Es~ 16分音符4つの最後の音、4つ目の音は、次の4つの音の最初の音と同じです。次の4つの最後の音もまた、次の4つの最初の音と同じです。

 そしてここが、レガートにできない場所になります。そこで、このEs Es や、FFなどの連打音が来る瞬間にペダルを一瞬居れます。そうすることで、連打音がレガートになります。そしてそれだけではありません。バスの音も、C Des B D ~ と連打音と同じ場所で変わりますので、バスの音も切れずに先に進むことができます。

 また、このパターンはシークエンスのパターンで2度ずつ下行していますので、24小節目2拍目までディミヌエンドをかけていきましょう。
24小節目2拍目以降、再び、4小節目2拍目の音型が現れます。両手は徐々に広がるパターンですので、27小節目に向かって再びクレシェンドをかけ、28小節目急激なディミヌエンドで終わります。
 
 29小節目以降、As-durで冒頭の素材が演奏されますが、b-mollへ転調します。31-32小節はとても圧迫を感じる終わり方であり、テンションは一気に高まります。一見es-mollで終わるように感じるかもしれませんが(32小節目)、実際はb-mollのサブドミナントになります。

 学習者がよく犯す譜面上のミスとして、38小節目の右手のタイにあります。1拍目裏拍のFか2拍目にタイがかかっているので、学習者は2拍目の音を弾き直さないことが多いのですが、2拍目のFは棒が2本上下に出ています。タイがかかっているのは上声部のFと考え、下声部のFは別声部と考えますので、この音は弾きます。

 40小節目より、2小節単位でシークエンス下行形が来ます。44小節目の2拍目からテンションは一気に上がります。そして、56小節目1拍目で一区切り付きます。ここまでのダイナミックは奏者に委ねられます。多くの奏者は52小節目2拍目より音量を落としますが、筆者であればそこも強いテンションを感じますのでフォルテのまましばらく進むと思いますが、これは主観的ですので、奏者の自由です。

 56小節目2拍目より冒頭の素材が戻ってきて、異なった3つの素材をコンパクトにまとめて70小節目で終わります。

【フーガ】
 このフーガは、プレリュードと同じく2拍子です。筆者はこれをプレリュードよりも速く演奏しますが、テンポは奏者の自由です。f-mollはバッハの場合だけを取って考えてもとても深刻な調でありますが、このフーガは短調ながらも楽天的な要素があります。奏者はテンションの最も上がるポイントを決め(数カ所あります)、そこまでの道のりとそこからの道のりを上手に作ってみてください。
演奏のヒント 2016年11月  執筆者: 大井 和郎
第19番 イ長調

【プレリュード】
 優雅な3声のプレリュードです。このプレリュードはまさに横に流れなければならないプレリュードです。横に流れるためには拍を感じさせない工夫が必要で、その1つにペダリングがあります。

 左手の連打音や右手のパッセージなどあらゆる部分に「瞬間的に」ペダルを用いて、ラインを繋いで下さい。このプレリュードは例外なく完全なる3声でできています。各声部は全て理にかないます。奏者は声部を見間違えること無く、きっちりと認識して下さい。例えば、14-15小節間、14小節目の付点全音符のバス、Cisは、15小節目の1拍目、付点4分音符のDと繋がります。このDは、一見すると14小節目のアルトから繋がっているように見えますのでこのような場所を気をつけます。アルトは15小節目ではト音記号のHに跳躍していることが解ると思います。

 加えてこのプレリュードは、休符が実に細かく書かれています。例えば4-5小節間のバスの一連の4分音符は、必ず8分休符とともに書かれていますので、厳格に8分休符を守ります。25-26小節間も同様です。これらの、4分音符+8分休符の通奏低音のような音型は実はバスの声部にしか書かれておらず、アルトソプラノには出てきません。こうしてみると、バスの声部は本当にバスの働きをする伴奏の役割も半分果たしており、そこに2つの上声部が乗っかっている感覚です。

 これらのバスの上に乗っている2声は、やはり独立をさせることでポリフォニーの秩序を守ることができます。例えば1小節目、ソプラノの3-4拍目は付点2分音符のAですが、このAが伸びていることを聴き続けて2小節目に繋ぎたいところなのですが、3-4拍目はアルトがスタートしますので、ソプラノのAを消してしまいがちです。このような部分はソプラノとアルトの区別をはっきりとつけ、ソプラノはきらびやかに、アルトは大人しく演奏すると良いでしょう。

 全体的にとても大人しく、優雅なプレリュードですが、1箇所だけ感情的に盛り上がる部分があります。20小節目です。バスの動きを見ると、このようなバスの動きは他には無いことが解ります、

 ソプラノとアルトの音型はこの1小節間で1オクターブ以上も上行します。ある種、強い喜びの表現です。

【フーガ】
 正直申し上げますと、筆者が感じるバッハの平均律で最も難しい曲は何を隠そう実はこのA-durです。筆者の弟子は問題なく弾きますが、筆者には相当辛い曲でした。このフーガもとても弾きづらいです。尤も筆者の場合テンポはかなり速くなりますのでそれも一因かと思います。

 このフーガは他のフーガと同様、ペダルは極力避けて下さい。速い6分音符の濁りを避けるためです。ペダルが必要になる箇所は主に付点8分+16分のリズムが来る場所です。5小節目や20小節目、23-24小節間などがそのリズムが来る箇所になります。目的としては、付点8分音符を次の16分音符まで伸ばす事にあります。

 23小節目を例に取ります。3-4拍間、ソプラノとバス両方にそのリズムが来ます。本来は指で付点8分音符を押さえ、そのまま16分音符まで繋げれば良いだけの話なのですが、内声が入ってくるとそれが大変困難になります。そこで例えば23小節目3拍目の裏拍辺りからペダルを一瞬だけ入れて次の16分に繋ぐようにします。以降、その繰り返しになります。勿論付点8分だけではなく、その他の音符を繋ぐためにも一瞬のペダルを入れる箇所がいくつかあります。25小節目1拍目、バスの8分音符Eを8分音符分伸ばすためにペダルを使います。左手はEを弾いた後すぐにアルトを弾かなければならないからです。

 その他の提案を書いておきます。

 6小節目、右手は16分音符しか弾かず、その他の音は全て左手で取ると楽です。例外が4拍目裏拍のアルトであるHの音で、これだけは右手で取ります。5小節目、4拍目の裏拍にある、16分音符のAとFis両方とも左手で取り、そのまま6小節目に入ります。

 24小節目、4拍目、アルトの16分音符、H Fis Gis A は右手で、2111あるいは、2121という指使いにすると良いです。くれぐれもソプラノのFisを離さないようにしてください。

 29小節目、2拍目、アルトの16分音符で、E D Cis H の D Cis H は左手で取ると良いでしょう。

音源 音源情報

Youtube PTNAチャンネル音源

外部動画

コンサート この曲が演奏されるコンサート

  連続リサイタル第21回 渡邉純子 チェンバロリサイタル〈自画像哉〉
 [後援]  [ピティナ会員]
2017年02月16日 19時00分
/ 紀尾井ホール 小ホール

ミュッセアイコン 楽譜情報

 エイブルマート楽譜一覧 原曲作品 編曲作品

 輸入楽譜 

 ミュッセ楽譜一覧