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ショパン  :  3つのワルツ (第6-8番)
Chopin, Frederic  :  3 Valses (Des:/cis:/As)  Op.64  CT212-214
ピアノ独奏曲 [pf/ ワルツ

作品概要

楽章・曲名 演奏時間
1 第6番 変ニ長調 「小犬のワルツ」  /  No.6 op.64-1 "Petit chien" Des dur  2分 00秒 譜例
2 第7番 嬰ハ短調  /  No.7 op.64-2 cis moll  3分 30秒 譜例
3 第8番 変イ長調  /  No.8 op.64-3 As dur  3分 00秒 譜例
8分 30秒
作曲年:1847
出版年:1847
献呈先:1.Comtesse Delphine Potocka, 2.Baronne Nathaniel de Rothschild, 3.Comtesse Catherine Branicka
初出版社:Breitkopf & Härtel

楽曲解説

総説 2014年8月  執筆者: 安川 智子
 いずれも1846年から1847年にかけて作曲、1847年に出版された。この《3つのワルツ》作品64とあわせて、作品63《3つのマズルカ》と作品65《ピアノとチェロのためのソナタ》がブライトコプフ社にまとめて売り渡され、これらがショパンの生前最後の出版となった。これ以後に作曲されたワルツとしては、没後に発見されたイ短調のワルツ(KK. IVb-11)のほか、1848年10月に作曲されたロ長調のワルツが、自筆タイトルページの複写機コピーのみ残されている。ショパンにとってワルツは、マズルカと並び生涯書き続ける日記のようなものであったのかもしれない。
とりわけワルツは、女性との結びつきを強く喚起させる。1838年から続いていたジョルジュ・サンドとの恋愛は1847年には破綻していた(ただし《3つのワルツ》は破局前にほぼ完成していたようである)。作品64の3つのワルツは、それぞれ別の女性に献呈されているが、3曲をまとめて聴くことで、哀しくも美しい想い出のアルバムのようにも味わうことができる。2曲目に短調を挟む3つのワルツのまとまりは、作品34とは異なりショパン自身の意図に基づくものである。

変ニ長調 作品64-1
【作品の基本情報】
 作曲年:1846~47 出版年:1847 (Paris, Leipzig)
 献呈 : デルフィナ・ポトツカ伯爵夫人 A Madame la Comtesse Delphine Potocka
 【楽譜所収情報】
 パデレフスキ版:No. 6/エキエル版:No. 6/コルトー版:No. 6/ヘンレ版:No. 6/
ペータース版(原典版):(No. 6, 補遺4[自筆譜に基づく])

 「子犬のワルツ」の愛称でよく知られる。自筆スケッチのほか、複数の自筆譜が残されている。「leggiero(軽く)」の主要主題と「sostenuto(支えるように音を保って)」の中間部による三部形式の短い楽曲である。糸玉を操るような細かい動きが特徴的な冒頭主題は、2小節で大きな3拍子を作り上げるヘミオラが用いられており、5小節目から加わる左手の3拍子との間に絡み合うリズムで複雑なテクスチュアが織り上げられる。一方、37小節目から始まる中間部は、全体としてAs(変イ)の音が支配する中、ジグザグの音型の中に半音進行を取り入れており、グラデーションのような美しい響きの変移が、この作品に深みを増している。小曲ながら細かい工夫の凝らされた名曲である。
献呈を受けたデルフィナ・ポトツカ夫人は、パリに着いて最初にショパンをもてなし、またピアノの弟子となった女性のひとりである。非常に美しく音楽的才能にも恵まれた彼女は、生涯変わらずショパンを友人として支え、また最後までショパンの音楽のよき理解者であった。ショパンは以前に《ピアノ協奏曲 第二番》作品21を彼女に献呈している。なお、1848年2月16日にプレイエル・ホールで行われたショパンのパリ最後のコンサートで、ショパンはこの変ニ長調のワルツを演奏している。

嬰ハ短調 作品64-2
【作品の基本情報】
 作曲年:1846~47 出版年:1847 (Paris, Leipzig)
  献呈 : シャルロット・ド・ロトシルド(ナタニエル・ド・ロトシルド男爵夫人)  A Madame la Baronne Nathaniel de Rothschild
 【楽譜所収情報】
 パデレフスキ版:No.7/エキエル版:No. 7/コルトー版:No. 7/ヘンレ版:No. 7/
ペータース版(原典版):(No. 7, 補遺5[ロトシルド家が所蔵していた自筆譜に基づく])
 
 主音は作品64-1と異名同音関係にあたる(変ニと嬰ハ)。そのため4分音符による最初の一音(属音の嬰ト)は変ニ長調のワルツと同じ音であるにも関わらず、次に続く短3和音で全く異なる哀愁に満ちた短調の響きへと転換する。冒頭2小節が右手の6度並進行・半音下降による長い嘆息だとするなら、次の2小節では細かく優雅なステップが続く。この伸び縮みの感覚はこの曲全体に行き渡っており、絶妙のバランスを保っている。たとえばA-B-C-B-A-Bという構造の中で、情感豊かに歌われるAやCと、ノンストップの円舞であるBが交互に現れる。
三度繰り返されるBには、「più mosso(速度を速めて)」の表示があるところとないところがあり、またフランス初版とドイツ初版の間にも違いがある。作品64-1と同じ変ニ長調に転調するCでは「più lento(速度を遅めて)」の表示があるため、その後のBでは速度を戻す意味で「più mosso」が指示されたのであろう。いずれにしても、自由度の高い速度の揺れが、この曲の大きな魅力となっている。
 この曲を献呈されたシャルロット・ド・ロトシルドは、ジェイムズ・ド・ロトシルド男爵の娘であり、ショパンのピアノの弟子であった。ショパンは1832年に、男爵のサロンで同夫人ベッティに出会ったことから、ベッティとその娘シャルロット、さらに孫娘マチルドにピアノを教えるようになった。《ワルツ》変イ長調(作品69-1)、《バラード第4番》ヘ短調(作品52)などの重要な作品もシャルロットに贈っていることから、彼女が(あるいはロトシルド家が)ショパンにとって大切な存在であったことがよく分かる。

《円舞曲 Valse》 変イ長調 作品64-3
【作品の基本情報】
 作曲年:1846~47 出版年:1847 (Paris, Leipzig)
  献呈 :カテリーナ・ブラニツカ A Mademoiselle la Comtesse Catherine Branicka
 【楽譜所収情報】
 パデレフスキ版:No.8/エキエル版:No.8/コルトー版:No. 8/ヘンレ版:No. 8/
ペータース版(原典版):(No. 8)   
 
 変イ長調という調性は、この《3つのワルツ》作品64をひとまとまりと考える上で、最適の選択であるように思える。作品64-1と64-2がそれぞれ、属音にあたる共通音(変イと嬰ト)から始まることはすでに述べたが(作品64-2参照)、印象的なこの音が作品64-3の主音となることで、調性上の統一感が生まれる。長く引き延ばされた変イ音で終わる作品64-3の後にふたたび他の曲へと戻れば、文字通り際限のない円舞としても成り立つ。
 モデラートの一見穏やかな主題で始まるが、半音階を駆使して自在に転調を繰り返し、トリルを挟んで中間部へと続く移行部は怒りにも似た激しさを見せる。しかしそれも束の間であり、73小節目から始まるハ長調の中間部では、旋律を左手に託してまた穏やかに始まり、転調を繰り返して再現部へと至る。この中間部は、左手の旋律がチェロの響きを想起させ、右手の多声的な構造と合わせて室内楽を連想させる。ショパンには、オーギュスト=ジョゼフ・フランコム(1808-1884)というチェリストの友人がおり、同時期に出版された《チェロ・ソナタ》作品65をフランコムに捧げている。1848年のパリ最後のコンサートでも同作品をフランコムと共演していることからも、どこかしら間接的な影響を受けたのかもしれない。最後はアッチェレランドでだんだんと速度を速め、クレシェンド、ディミヌエンドを波打ちのように繰り返しながら、低音の変イ音へ向けて一息になだれ込んで終わる。            (2010年2月 安川智子 ※2014年7月改訂)
総説 2007年6月  執筆者: 齊藤 紀子
 この3つのワルツは、ショパンの晩年にあたる1846~1847年に作曲され、1847年に出版された。

 1曲目の変ニ長調、モルト・ヴィヴァーチェは、デルフィーナ・ポトツカ伯爵夫人に捧げられた。ジョルジュ・サンドの飼っていたマルキという名の仔犬が自分の尻尾を追いかけてぐるぐると回る様子を見て作曲したというエピソードがあり、<仔犬のワルツ>の愛称で親しまれている。3部形式で書かれている。冒頭にレッジェーロ、中間部にソステヌートと記されていることから、タッチの変化が要求されるワルツとなっている。また、中間部では変イ音の短前打音による手法が印象的である。曲の最後は、4オクターヴを駆け下りる右手で締めくくられる。
 
 2曲目の嬰ハ短調、テンポ・ジュストは、ナタニエル・ドゥ・ロスチャイルド男爵夫人に捧げられた。前曲と同様に、3部形式で書かれているが、主題の1つがリトルネロの役割を果たしている。中間部では主音が異名同音の関係にある変ニ長調に転調し、ピウ・レントとなる。長調に転じてもこのワルツの主題が持つメランコリックな性格が消えることはなく、そのことがこの曲に深みをもたらしていると言えるだろう。

 3曲目の変イ長調、モデラートは、カトリーヌ・ブラニツカ伯爵令嬢に捧げられた。小節をまたぐタイが特徴的である。3部形式で書かれているが、ワルツとしては、様々な調が用いられていることもまた特徴的である。中間部では左手に旋律が現れる。このワルツの主要テーマを再現するためにこの中間部の終わりで用いられる半音階的な和声は、いかにもショパンらしい手法である。ワルツ全体の最後は、5オクターヴの音域内を駆け上がり、それから駆け下りることにより締めくくられる。
■参考文献:Fryderyk Chopin “Waltzes for piano”ed. I.J. Paderewski, L. Bronarski, J. Turczynski Warszawa : Instytut Fryderyka Chopina 1977
演奏のヒント 2016年3月  執筆者: 大井 和郎
第7番 Op.64-2 cis-moll

 音楽的に難しいワルツです。テンポの取り方はピアニストによって様々で、どれが正しくどれが間違っていると言うことはありません。例えば33小節目の新しいセクションに入るとテンポを変える人もいれば、97小節目のpiu mossoを見て初めてこのセクションのテンポを変える人もいます。最終的には奏者に判断がゆだねられます。

 このワルツのヒントは「2度の下行」にあります。この「2度の下行」はメロディーラインなどあらゆる箇所に出てきます。この2度をどのように処理するか、色々な考え方ができます。まず冒頭をご覧ください。1-2小節間、メロディーラインはE-Dis です。そして3-4小節間3拍目の音だけを抜粋すると、Dis-Cisになることが分かります。 次に5-6小節間、メロディーはCis-his、7-8小節間、3拍目のメロディーだけを抜粋するとH-Aですね。これらの音程は全て2度です。

 この8小節間を2つに分けると、1-4,5-8,と単純に分かれます。仮に1-4だけを考えてみましょう。メロディーラインはEーDis DisーCis です。議論となるところは、1-2小節間と3-4小節間の強弱関係です。メロディーが、E-Disと来ていれば、当然ですがEよりもDisの方を小さくします。また、Dis-Cisと来ていれば当然DisよりもCisのほうを小さく弾きます。

 ここで、この4小節間のフレーズは2小節X2と考え、それぞれの最初の音のほうを大きく、後続の音を小さくという考え方ができますね。ところがこれを4小節単位で考えたとき、E-Dis-Dis-Cisとなりますが、この2つのDisはどちらの方が大きいのかという議論になります。

 実はこの3-4小節間、版によってはクレシェンドマーキングが書いてある版もあり、1-2小節間よりも3-4小節間の方を大きく弾いてしまう学習者をよく見ます。学習者があまりこれらのダイナミックの関係を意識しなくとも、3-4が1-2より大きくなってしまうのはその音数にあります。音数的には3-4のほうがよほど多いので、自然と音量も上がってしまうのです。

 しかしこれを歌として考えたとき、1-2の歌は実に本題であり、表現も強いです。しかしながら、3-4はどちらかというと囁いたり、内緒話のように静かに話している事が想像できます。筆者であれば、この4小節間は2x2に分けても良いのですが、1-2よりも3-4の方が遙かに音量を落とします。ここで1つ重要な注意があります。多くの学習者はこの3-4を弾く際に、2拍目裏拍から3拍目に行くとき、リピートされる音を適当にごまかして抜かします。例えば3小節目の2-3拍はfisが2つありますね。これがはっきりと「2つ」聞こえなければなりません。

 では本題に戻ります。4小節単位でフレーズを考えたとき、2度の下行形が2つありますので、右に行けば行くほど音量は小さくなります。しかし5小節目以降を見たとき、1-4で最も低い音であったCisから今度は段々、さらに2度ずつ下がっていくのがわかりますね。9小節目ではGisまで下がってしまいます。

 これは、音が高い位置にあればあるほど音は大きくなるというふうに考えたとき、9小節目まで ディミニュエンドをしなければならないなどと思ってしまうのですが、実はそうでもありません。5-8小節間の和音を弾いてみてください。実に甘ったるい、1-4とは全く異なったムードであることが分かります。誰かに何かをお願いしているようにも聞こえます。むしろ1-2よりも表現は強いかもしれません。4小節単位で徐々にディミニュエンドをする秩序をまもりつつ、5-8は新たなフレーズとして扱います。決して1-4より小さくなる必要はありません。

 そして表現が最も強いのは、9小節目から始まる2度のフレーズです。このAの音は、サスペンションといって、前の音を引き延ばしている非和声音です。このAがバスのGisと重なり短9度になり、「実に悩ましい2度」となるのです。1-2、5-6,の2度と比べたときこの9小節目の2度は本当に特別な2度ですね。そしてその2度はここを分岐にして上行していきますが、11小節目の同じフレーズと9小節目を比べたとき、上行しているのにも関わらず、11小節目のフレーズの方が柔らかく感じないでしょうか?

 そうなのです。このワルツのAセクション、実は下行するに従って表現が強くなり、結果的に音量も上がるという「癖」があるのです。25-29小節間をご覧ください。9-12小節間と比べたときに明らかにカラーが異なりますね。この辺りは(26-29)ソフトペダルを使ってでもとても柔らかく、完全に色を変えます。深刻になるのは30小節目からですのでここは元に戻しますが32小節目でこのセクションが終わりますので、たっぷりと時間を取り、文章の最後を読むように、31-32を演奏してください。

 続いてAセクションの中のBです。A2とでもしておきます。33小節目からスタートして64小節目で終わります。テンポの話はさておいて、このセクションも下行してたどり着く39小節目に向かって行くに従い、音量がアップします。45小節目ナポリの6という和音です。上行して行くに従ってディミニュエンドしてください。

 さて、奏者が困るのが49-64小節間で、なぜならばppというダイナミックが書いてあるからです。それでは前の39-48小節間との違いをつけるのにはどうしたら良いのかという問題が起きます。このセクション、49-64をpp弾くのは大変至難な技ですが、そうすると39-48の音量を少し上げなくてはなりません。このジレンマが実に難しいのです。これは筆者からの提案ですが、39-48は普通にpで演奏し、49-64はペダルを極力少なめにしてみてください。それでかなりのppが出せるはずです。

 65小節目からはBセクションになります。このセクションは、音が高い位置にあるほど感情は高ぶると思っていただいて間違いありません。65よりも70が大きく、70よりも73が大きく、75でピークを迎えます。ただやたらと音量のみを上げてしまうと乱暴になってしまうこともありますので、ブローディングなどをかけ、75小節目の3拍目Desにはゆっくり時間を取って達してください。筆者の個人的な感情を述べるのであれば、筆者はむしろ77小節目の和音により強さを感じます。ここが最も大きくなる場所でも良いと思います。
その他注記事項
ワルツ番号はパデレフスキ版による。

コンサート この曲が演奏されるコンサート

  ピアノと物語「ジョルジュ」
 [後援]  [ピティナ会員]
2016年12月17日 17時00分
福岡/ 久留米シティプラザ 久留米座
  ピアノと物語『ジョルジュ』
 [後援]  [ピティナ会員]
2016年12月23日 14時00分
東京都/ 座・高円寺1
  ミハウ・ソブコヴィアク ピアノリサイタル
 [後援]  [ピティナ会員]
2017年01月15日 15時00分
神奈川県/ カワイ横浜サロン「プラージュ」

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(株)全音楽譜出版社
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