No.9"アードラー・フリューゲル"
解説
  • 基本的にFlügelは「ピアノ」と訳しています。
  • アードラー・フリューゲルAdler Flügel
  • ベーゼンドルファー モデル:ヨハン・シュトラウス(Johann Strauss)Mod. 260
  • [アクション] 突き上げ式 [ペダル] 2本 (左:弱音ペダル、右:ダンパーペダル) イギリス式ダンパー [制作年代] 1897/98年 [全長] 225cm [鍵盤数] 92鍵 [音域] F3~C5
  • 1899年にベーゼンドルファーからアードラーへ寄贈
  • アードラー・フリューゲルAdler Flügel
  • ベーゼンドルファー モデル:ヨハン・シュトラウス(Johann Strauss)Mod. 260
  • [アクション] 突き上げ式 [ペダル] 2本 (左:弱音ペダル、右:ダンパーペダル) イギリス式ダンパー [制作年代] 1897/98年 [全長] 225cm [鍵盤数] 92鍵 [音域] F3~C5
  • 1899年にベーゼンドルファーからアードラーへ寄贈
解説:丸山 瑤子

ベーゼンドルファーはヴィーンを代表するピアノ製造社であり、傑出したピアニッシモ、「ヴィーナー・トーン」と呼ばれるその楽器の音は、フランツ・リストをはじめとする多くの音楽家に愛されてきた。ベーゼンドルファーの楽器作りは現在もなお綿密な手作業で行われており、洗練された職人技を通してこそ、一台一台、質の高い音と演奏家の要求に応えうる力を持った楽器が生み出される。

ヴィーンにイグナツ・ベーゼンドルファーがピアノ製造社を創設したのは1828年。その後、現在に至るまで、ベーゼンドルファーとヴィーンの音楽界は切っても切り離せない関係を築いてきた。特に代表的なのは楽友協会との関係だろう。楽友協会が現在の場所、カールスプラッツに新設されるにあたり、ベーゼンドルファーは14台のピアノを贈り、その楽器の音に見合うホールを作らせた。今日はもうなくなってしまったが、その名も「ベーゼンドルファー・ザール」というコンサート・ホールでは、リストに加えてブラームス、バルトーク、ルビンシュタインなど、歴史に名を連ねる数多の音楽家たちがヴィーナー・トーンのピアノを弾いてきた。
さて、美しい装飾が施されたこのピアノは、ベーゼンドルファー社の創設者イグナツの息子、社の後継者であるルートヴィヒが、ヴィーン大学音楽学正教授のグイード・アードラーに贈ったものである。先の楽友協会へのピアノ贈呈がヴィーンにおける音楽の演奏、鑑賞と結びついている一方で、この出来事はオーストリアにおける音楽のアカデミックな側面、つまり音楽学の歴史と深い関わりを持っている。1870年以来、ヴィーン大学は学問分野において最初の音楽学講座(音芸術の歴史および美学Geschichte und Ästhetik der Tonkunst)を開講していた。ドップラーその他、歴代の名高い教授陣の胸像が並ぶヴィーン大学の中庭に、音楽学担当のエドゥアルド・ハンスリックのものも参列していることは、彼の功績が高い評価を受けている証拠だろう。
その後、音楽学が独自の研究所と図書館をかまえ、研究所(Institut)として独立したのが1898年、アードラーがハンスリックの後継に就いた時である。これを機にベーゼンドルファーが研究所の創設者であるアードラーへピアノを贈ったのだ。これはベーゼンドルファーが、音楽学のための独立した学問機関の創設を、ヴィーンの音楽生活にとって意義深いことと捉えたため、と考えられている。 その後、このピアノは長いことヴィーン大学の講義で活躍してきた。きっと音楽事典に名を連ねる人物たちが、このピアノの音色を聴きながら音楽を学び、または教えてきたのだろう。楽器の世代交代は30年ほど前の1987年のことだというから、およそ1世紀もの間、弾かれ続けてきたということである。引退したピアノは2010年にハインブルクのP. シュナイダーによって修復され、再び演奏できるようになっている。
この楽器は上に述べたヴィーン音楽史に対する意義を持つだけでなく、史料的価値も高いものである。というのも、取材協力者であるアウグスト・シュミットホーファー教授によれば、1891-1900年の間に作られたベーゼンドルファーの同モデルのうち、現存している楽器がこのアードラー・フリューゲルを含めてわずか2-3台しかないからだ。同じモデルの残りの楽器がいまどこにあるか、はたまた演奏可能なのかどうかはわからない、という。(補修を経ているとはいえ)とすれば今日でもまだなお演奏可能なこの楽器は、およそ100年前のモデル ヨハン・シュトラウスの音を今に伝えるという意味で、ベーゼンドルファー社の歴史にとっても重要な一台であろう。
ピアノ本体の素材はトウヒで、ペダルの数はモダン・ピアノの3本に対し2本である。ピアノの細部に目を向けると、響版に金文字で記された社名"Bösendorfer"、オーストリア・ハンガリー帝国を示す双頭の鷲の紋章が見られる。
皇室・王室御用達K. u. K.を冠する名誉を許された、ヴィーンを代表するピアノメーカーの誇りをもってこの一台も作られたに違いない。その音色は明瞭で、特にペダルを踏んだ時の柔らかで、部屋中に優しく満ちる響きは、耳に残って消えない。

動画
◆試奏
関連情報
◆この楽器を見られる場所

  • Universitätscampus AAKH, Hof IX
    Spitalgasse 2-4, 1090 Wien, Österreich
    (Institut für Musikwissenschaft der Universität Wien)
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