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> スタマティ/Stamaty, Camille Marie
スタマティ Stamaty, Camille Marie 1811~1870
スタマティ
Stamaty, Camille Marie
[
フランス
] 1811~1870
作曲家解説
上田 泰史
執筆者:
上田 泰史
1820年代から30年代にかけて、パリには輝かしい成功を求めてヨーロッパ中からショパン、リスト、タールベルクをはじめとしたピアノの名手たちが押し寄せた。大概の音楽史書を紐解けば、彼らの名前やその功績が記されているが、一方で19世紀前半に生まれたフランス人ピアニストたちの存在は殆ど歴史の暗がりに葬られている。しかし、実際にはサン=サーンスやドビュッシーへと連なる輝かしいフランスの流派(エコール・フランセーズ)が存在したことをこの機会に思い出してみよう。パリで指導的な役割を担い後続世代に多大な影響を及ぼしたフランスの主要なピアニスト兼作曲家として、P.-J.-G.ヅィメルマン(1785~1853)とF. カルクブレンナー(1785~1849) が挙げられる。彼らはいずれもパリ音楽院出身で、前者は同音楽院教授、後者は著名なピアノ教師として多くの傑出した生徒を育て上げた。カミーユ・スタマティはカルクブレンナーの高弟であり、弟子にサン=サーンスを持つ。
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彼はフランス・ピアノ史上に輝くこの二人の「達人」を中継する教師にして優れたピアニスト兼作曲家であった。以下、彼の生い立ちを簡単に紹介する。
スタマティCamille-Marie Stamaty は1811年3月13日(23日とする資料もある)、ローマで出生した。彼がイタリアで生を享けたのは、ギリシア系フランス人の父がチヴィタヴェッキアでフランス領事の職にあったからだ。母ナニーヌはモーツァルトやグルック、マルチェッロ、ボワエルデュなどを好んで歌う優れたアマチュア歌手であった。生涯にわたるカミーユの古典作品への好みは既にこの幼年時代から形成され始めていた。右のスケッチはその頃の幸福な家族を描いたもので、著名な画家アングルJean-Auguste-Dominique Ingres (1780-1867) の作 (1818年)である。母に寄り添っているのが6歳ころのカミーユである 。18年に父が亡くなると、一家はフランスのディジョンに移り、ほどなくしてパリに居を定めると、彼はこの地で文学を学び始めた。彼の家にピアノが来たのは14歳の時だった。おそらくこの頃にまでに彼はヅィメルマンの初期のすぐれた生徒であるフェシーAlexandre-Charles Fessy (1804-1856)の指導を受けていた。彼の素質は急速に開花したとみられ、15歳のときには既にサロンで演奏し、作品を出版するに及んでいたという。フェシーはこの少年に多年に亘る指導を施し、彼を伴奏ピアニストとして舞台に上げたりコンサートに連れて行っては当時のすぐれた音楽家を聴かせた。ところが、彼は音楽家の道を歩むことなく、父と同じ領事を目指すか、数学への関心から理工科学校への進学を考えていた。しかし、家族の意向で彼は結局1828年にセーヌ県の職員という安定無難なポストに就くこととなる。
転機が訪れたのは1830年のことだった。スタマティの演奏を聴いた当時のスター的ピアニスト、カルクブレンナーが彼の指導を希望したのである。時の名手に弟子入りした彼は、翌年には師の勧めで県の職員を辞める決意を固め新しい道を歩み始めた。スタマティはすべての指を均等に機能させるための器具「手導器guide-mains」を用いるカルクブレンナー独特の教育法を素直に受け入れて練習に励み、彼の一番弟子となった。過度の練習により手の関節と神経を痛めながらもカルクブレンナーのメカニズムを会得したスタマティは、レッスンで師の代理を務めるまでに成長した。1835年3月、彼はサル・プレイエルで慈善事業を兼ねてデビュー・コンサートを行い、《ピアノ協奏曲》作品2、カルクブレンナーの二台ピアノによる二重奏曲を師とともに演奏した。
作曲の面では、スタマティは1832年から33年にかけてパリ音楽院でA.レイハが受け持つ対位法・フーガのクラスに出席し厳格な書法を学んだようだが、何も受賞することなく翌年にはクラスから退いている。彼はほかにも著名なオルガン教授ブノワからも作曲上の助言をうけたという。1836年、彼は勉強のためにドイツに赴き、ライプツィヒでシューマン、メンデルスゾーンと交わり、後者から作曲の教えを受けた。数か月で帰国することとなったが、この経験は少なからずその後の創作活動の糧となったであろう。37年、シューマンはこのフランスの友人の協奏曲の批評を書いた。彼によればスタマティは実際メンデルスゾーンの下で見違えるほどの成長ぶりを示したという。ドイツへの「短期留学」前に書かれた協奏曲について、シューマンは作曲技法上のぎこちなさを指摘しながらも、スタマティの豊かな想像力と情熱を評価し、激励している。
母との死別や結婚という出来事を経験した1840年代から50年代にかけて、スタマティはほぼ毎年演奏会を行っている。彼は演奏会でバッハ、ヘンデル、モーツァルト、ベートーヴェン、フンメル、ウェーバー、メンデルスゾーンなど、ドイツの「大家」の作品を好んで演奏した。彼がアルカン、ルヴェビュル=ヴェリーと同様、53年にエラールが開発した足鍵盤付きピアノに関心を示したのも、おそらくはバッハのポリフォニックな鍵盤作品への愛着からであろう。古典作品に加え、彼は時に自作を聴衆に披露することもあった。例えば1854年の演奏会では、彼は二作目のピアノ・ソナタ 作品20や《12の絵画的練習曲》作品21の冒頭3曲を演奏している。しかし彼の演奏流儀は同時代のフランスのピアニストたちとは幾分ことなっていた。マルモンテルは彼の演奏について次のように述べている。
カミーユ・スタマティは風格あるピアニストだったが、熱狂的で精彩に溢れ、輝かしい演奏をするような超絶的なヴィルトゥオーソではなかった。彼は少々控えめな色調の中にカルクブレンナーの美質を反映していたが、打ち解けた表現や喜ばしい大胆さ見せることは全くなかった。
スタマティに独特な演奏の性格は、彼の曲を聴けば実感することができる。彼の作品は、譜面上はしばしば音数が多く一見華々しいが、音楽の流れはどこか理知的で、冷静さを失うことがない。《ソナタ》作品8や《オベロンに基づく6つの性格的練習曲集》作品33にはこうしたスタマティの特徴がよく表れている。
スタマティは、ピアニスト・作曲家としてばかりでなく教師としても音楽院教授マルモンテルに劣らぬ知名度があり、1862年にはレジオン・ドヌール勲章を受けている。音楽院教授のフェティス、レイハや作曲家グノーやオベールといった著名な音楽家の子供を指導したのも彼である。しかしスタマティの門弟で燦然と輝きを放っているのはゴットシャルク(1829-1869) とサン=サーンス(1835-1921)であろう。1844年、スタマティは自ら後援者となって8歳のサン=サーンスの演奏会を開いている。この神童はここでフィールドの協奏曲のほかにバッハ、ヘンデルのフーガ、モーツァルトの作品を演奏した。46年の演奏会でもやはり彼は師スタマティとモーツァルトのソナタを連弾したほか、バッハのフーガ、ベートーヴェンの第3協奏曲を演奏している。こうした選曲には、スタマティの古典音楽への愛着が反映されている。「古典主義者」サン=サーンスの素地は幼いころに受けたスタマティの感化によって培われたといっても過言ではないだろう。
スタマティは1870年4月19日、妻と4人の子どもたちを残して59歳の若さで病死した。彼の残した作品にはソナタが2作、練習曲集が6集、《音楽院の想い出》をはじめとする数々の古典曲のトランスクリプション、性格小品集《12のエスキス》作品17、ピアノ・トリオ、ピアノ協奏曲、その他数々の舞曲や変奏曲、幻想曲、メソッド《指のリズム》作品36など60作以上が確認されている。最後に挙げたメソッドは今日も出版されているが、その他の作品は今日ではほとんど顧みられることがない。
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