【実施レポ】音楽総合力UPワークショップ2017 第8回 菅野恵理子先生

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2018/01/22
音楽総合力UPワークショップ2017 音楽総合力UPワークショップ2017
実施レポート
レポート:坂 かず先生
  • 8
  • 菅野恵理子先生 (2017年12月13日(水):開催)
  • 人を育てる「音楽」~音楽の意義を再発見する~

2017年最後の音楽総合力upセミナーは、著書『ハーバード大学は「音楽」で人を育てる』が話題となった音楽ジャーナリストの菅野理恵子先生をお迎えして行われました。
「世界観(概念)」というキーワードを中心に、歴史的観点、世界観に繋がる音楽コミュニティ、世界観を育てる教育プログラムなどお話しいただき、私達が音楽家として音楽教育者として「音楽と社会の関わりとは何なのか」を改めて考えるチャンスとなりました。

【「世界観」を考える上での歴史的前提】
歴史的に見て、古代から中世にかけての社会では学問の中に「音楽」が存在しました。音楽はあくまでも人間形成や人の精神を高めるためのリベラルアーツ(一般教養)の一つであり、また音楽は宗教とは切り離せない存在であったことも特徴の一つです。近現代になると、啓蒙思想の普及に伴い音楽は宗教とは関わらない「個の内面を表現する」存在へと変化します。現代では「個の表現+α」として「世界観を持つ」ということが大事となってきます。一体、この「世界観」とは何なのでしょうか。

【世界観、価値観でつながる時代】
世界観を反映する音楽祭のプログラムとして「Identity(アイデンティティ)」というテーマで開催された2017年ルツェルン音楽祭のプログラムが紹介されました。そこには各プログラムにテーマ「アイデンティティ」に関し、演奏者が表現したいことが書かれています。例えばピアニストのアンドラーシュ・シフのプログラムは、モーツァルト、シューベルト、ハイドン、ベートーベンの最後のソナタ並べて「永遠の別れについて考える」といった具合です。その他にも「葛藤するアイデンティティ」、「民族が獲得したアイデンティティ」、「圧政から自己を守るためのアイデンティティ」などがあり、実際のパンフレットを見せていただきました。日本で毎年ゴールデンウィークに開催されるラ・フォル・ジュルネの去年のテーマは「ナチュール(自然)」でした。「世界観」含んだテーマへの変化は2年前からで、このような音楽祭の流れは世界的な傾向のようです。

【世界観に繋がる音楽コミュニティ】
この音楽力upワークショップでもたびたび話題に出ているバレンボイムの「ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団」が音楽で国境を超えるメッセージを発信するという「世界観に繋がる音楽コミュニティ」の代表として、ここでも紹介されました。

【世界観を創造する教育プログラム】
世界観を創造する教育プログラムとしては、スイスの国際バカロレアから提供されるIBが挙げられました。「どのように自分を表現するか」、「世界はどのような仕組みになっているのか」を教科の枠にとらわれず教育を進めます。IBプログラムは科目横断型であり、どの科目にも応用できる力を養うことを一つの目的地として掲げています。これは、まさに2020年の大学入試改革に通じるものがあり、我が国の次世代に対する期待を窺い知ることができます。

【世界観・価値観での学び】
ストラヴィンスキーは「春の祭典」の初演の悪評に対して何を言われてもひるまず、ひたすら自分の直感を信じ、こう言います。
「『春の祭典』ではどのような種類のシステムにも従わなかった。...自分の耳だけが頼りであった。私はよく聞き、そしてまさに聞こえてきたものを書いたのである」。作曲家の思いの強さや、芸術家として持っている世界観に改めて驚かされるエピソードです。「芸術家は好きなことを言っていて社会性がない」とよく言われます。しかし、そうした芸術家の姿勢が人々の中の「好きなことを言いたい自分」を目覚めさせ、結果人々を美意識のぶつかり合いを通じた新たな連帯へと誘導するのです。むしろ、芸術は社会性の最も高く、かつ深い活動であると言えます。

私達音楽を学び、演奏するものにとって大切なことは、作曲家の原点(エネルギーの源)に向き合い、追及し、掘り下げ本質をつかむこと。そしてその本質と強く繋がり、音楽と対話するために、私達自身が自分は誰なのか、アイデンティティは何なのか。

各自の世界観を問いただし、改めて意味を考えさせられる2時間でした。


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