【徹底研究シリーズ】クラウディオ・ソアレス先生 直前インタビュー!

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2017/04/20
久々に復活の『ピティナ徹底研究シリーズ』!
聞き手:加藤哲礼(ピティナ本部事務局長)
(1)子どもの発達段階に悩みをかかえる指導者の皆様へ
子どもたちの大切な個性をどう伸ばしてあげることができるか─。
指導者であれば皆かかえている共通課題です。現在我々の抱える教育の課題について、どう感じておられますか?

S:コンクールなどで、良く弾けているけれど内面が伴わない演奏に出会うたびに、彼らの『本能』『パーソナリティ』を真剣に伸ばそうとしているか、大いに疑問を感じます。私ももちろん、コンクールに生徒を出しますが、結果にこだわりすぎて、毎年毎年、目の前の成果だけを追いかけてしまうことには問題があります。
例えば、私の生徒でとても才能のある子が、ある時、本人のパーソナリティとは真逆の<たくましい>演奏をしてきたので、おかしいと思い、本人や親御さんとよくよく話をしてみると、同年代の子がコンクールで良い結果を出したのを見て、その子と同じような弾き方にしなければならないという観念に囚われてしまったそうなのです。しかし、自分の本質に向き合い、自分が信じている演奏をしない限り、結局、誰にも支持されません。音の大小やスピードが基準ではないのです。幸い、その子は私の話に耳を傾けてくれて、彼女本来の魅力的な演奏に戻り、後に成功を収めました。
「コンクールや入試のために、こうでなくてはならない」という考えはとても危険です。子どもたち自身の内面から感じているもの、その子のパーソナリティを信じること。今回の講座では、そこに、もう一度、皆で向き合いたいと思います。

「昨今の国際舞台で、海外のジュニアとの差が開くいっぽう」という演奏研究委員会の問題意識を受けて、国際的なレベルで日本の音楽教育を見直したいと、今回、先生のお話を伺うことになりました。

S:まずは、子どもの「パーソナリティ」「自ら感じるもの」の発露が第一になってきます。それがなければ、世界中どこに行っても人に伝わるはずがありません。ただし、本能のままに弾けばよいというわけではないので、次のレベル、あるいは国際的なレベルを目指すならば、「知っていなければならないこと」というのが出てきます。知識や理論、様々なバックグラウンドや教養を入れ、自分の本能・やりたいことを、理性によってコントロールする段階です。
でも、まずは何よりも、子ども自身の『本能』が自然に出てくるよう導くこと。それがない限り、それを『理性』で洗練させていく話にはならない。その順番を間違っている教育が広まってしまっていると思います。この点についても、今回、考えてみたいです。

私の抱える課題とは?

徹底研究セミナー開催前に、来場者をご予定されている皆さんから日頃のレッスンなどでの悩みをアンケートいたします。

回答はこちら ★当日、引用させていただく場合がございます。
(2)学習途上の、若いピアノ学習者のみなさんへ ★ピティナ学生会員は、1日学んで4,000円(通し券)です★
先生の著書「バッハ演奏と指導のハンドブック」の参考文献の欄を見ると分かりますが、先生の本には、研究史・演奏史をたどれば避けて通れない重要文献をすべて踏まえたうえで、まず第一歩目に知っておくべきエッセンスが網羅されています。学習者にとって「一番最初に知っていてほしいこと」なのに「一番おろそかになっていること」が2003年の段階ですでにまとめられていますね。

S:読んで下さって有難うございます。そのつもりでまとめましたから。そういえば、今もドイツの古本屋さんで見つけた珍しい本を読んでいるところです(と、バッグから今研究している本を取り出す)。Eta Harich-Schneiderという古いチェンバロ奏者が1939年に書いた"Die Kunst des Cembalo-Spiels"(チェンバロ演奏の芸術)という本ですが、これがとても面白いんですよ。バロック時代よりさらに古い時代から、チェンバロ演奏がどのように行われてきたか、詳細に書かれていて、例えば二段鍵盤の驚くべき使い方を知りました。もちろん、音楽学者はこのような原語の文献も一つ一つ勉強して読めばよいですが、子どもたちや先生方がここまで読むことはなかなか難しいので、その入口になればと思い、「バッハ演奏と指導のハンドブック」をまとめました。今回は、そこから10年以上考えてきたことをまとめようと思っています。

「勉強スタイルの確立」
先生のその学ぶ姿勢は、どのように培われてきたのですか。

S:ひとことでいえば、「好奇心」ですね。
私の最初の先生は、天才的な芸術家気質で、音の美しさや質ばかりにこだわり、技術や手が全くできていない段階から、ショパンエチュードやシューマンの謝肉祭などをどんどん弾かせてくれました。音楽の素敵な面をたくさん教えてくださいましたが、一方で、やはりそれは子供には早すぎたので、色々な問題にぶつかり、それを自分ひとりの力で解決せざるをえなくなりました。壁にぶつかるたび、ヒントを探し求め、どんどん好奇心が強くなっていったんです。誰も教えてくれないから、自分で探すしかなかったのです。そのあとに、ブラジルで高名なピアニスト、ミゲル・プロエンサ先生がだいぶ整理して下さいましたが、私はすでに17歳でした。基礎を教えていただくには少し遅かった。
留学時代に師事したハンス・ライグラフ先生は本当に素晴らしかったです。音楽を勉強していくということの意味、特に「考える方法」を教えてくれましたね。衝動的ではなく、音楽に深いところで接して、楽譜を隅々まで理解したうえで演奏する。自分の意志が出てくるためには、結局、深いところから掘り起こしていかなければならない。そういった事柄です。「こう弾け」と指示されることは一切ありませんでした。もちろん、最初の3か月は、「タッチ」「音色」「力の入れ方抜き方」など、「自分がやりたいことが出てきたときに、それをこの楽器でどう表現するか」に関して、みっちり指導されました。けれど、そのあとは、あえて彼はあまり教えなかったんですね。だからここでも「好奇心」が育ち、自分で勉強し続けました。語学の知識も必須でしたから、ドイツ語は徹底的に勉強しましたし、その後、日本語、英語、フランス語、イタリア語とすべて独学で身に着けました。これもすべて好奇心がなせるわざですね。

事前にチェック!

クラウディオ・ソアレス著
バッハ演奏と指導のハンドブック(ヤマハ・ミュージック・メディア出版)定価2300円税抜

今回の講座は、著書「バッハ演奏と指導のハンドブック」の続編

S:アーティキュレーションについては、この本が出た段階(2003年)は、まだ書く勇気がありませんでした。その前の段階に全精力を注いだので、アーティキュレーションの問題に至るまえに私が燃え尽きてしまったのです(笑)。今回、ピティナから講義のお話をいただき、アーティキュレーションの問題について語るべきときが来たと思いました。「全部つなげる」「全部切る」「ロマン派のように歌ってしまう」...そういう安易な解決に陥らないよう、アーティキュレーションの意味、当時の音楽の在りようを、映像や譜例もご覧いただきながら、第一部で解きほぐしたいと思います。


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