【実施レポ】音楽総合力UPワークショップ2016 第5回 武田 忠善先生

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2016/09/27
  • 第5回
  • 2016年9月8日(水)
  • 武田 忠善先生
  • 管楽器奏者から見たピアニスト
  • 坂かず先生

夏休み明けの音楽総合力upワークショップはクラリネット奏者、国立音楽大学学長の武田忠善先生、共演にピアニストの久元祐子先生をお迎えしました。晴れ男と晴れ女のコンビの先生方のおかげで、心配された台風予報の日でしたが無事に開催することができました。

武田先生は昨年国立音楽大学学長に就任されました。毎日のお忙しい業務の中でも、演奏家としてたゆまぬ努力を重ねられる「演奏する学長」の武田先生の姿は私達指導者にとって理想でありお手本です。
「教える側は自分のレベルを上げるべく精進している姿を生徒に見せることがなにより大切。自分自信を高める努力をしていない先生に学生はついてこない」とおっしゃる武田先生ご自身も学長室での朝練は欠かすことなくされているそうです。
武田先生のフランス留学時代にパリ音楽院で2年半師事されたジャック・ランスロ先生の言葉「名演奏家が必ずしも名指導者とは限らない。しかし名指導者は名演奏家でなければならない」。ここに武田先生の原点を垣間見たような気がしました。

待ちに待った演奏の一曲目はパリ音楽院の試験曲「コンクール用クラリネットの独奏曲(アンリ・ラボー)」です。技巧的にも音楽的にも高い力が必要とされるこの曲は、後に国立音大のクラリネット科の入試課題曲になりました。
演奏が始まると一瞬にしてホールがクラリネットの温かい音色に包まれます。息のぴったりあった演奏に会場の先生方も引き込まれていました。
なんと武田先生と久元先生との共演は今回が初めて。今回のために合わせたのも2日前と今日の2回だけだったそうです。その際も曲に関して言葉を使っての細かい打合せは一切なく、ほぼ世間話をして終わってしまったというエピソードには会場の先生方も爆笑です。室内楽は言葉にしなくても音楽上で通じ合うことが大切、音楽上でその時の会話を楽しむのが室内楽の醍醐味なのだとおっしゃっていました。

そして二曲目は「クラリネットのための第一狂詩曲(ドビュッシー)」です。この曲はクラリネットというより、むしろピアノの曲であり、クラリネットがピアノの曲の中に色彩を埋め込み一緒に共同で作っていく音楽だと紹介されました。
ドビュッシーが印象派絵画から影響を受けた微妙な色彩感や、日本の浮世絵からインスピレーションを得た自然界の水や海。「その色彩の中の水と空気の対話を楽しんでください」とおっしゃり演奏が始まりました。久元先生のピアノにクラリネットが溶け合う美しい響きに会場の先生方はうっとりと聴き入りました。

クラリネットを演奏するときは左右の指で上に引き上げて歯に圧をかけ、そこに息を入れます。その息を支えるのが腹筋。また立つ時の足幅も音色と大きな関係があり、床に響きを伝えて音を作っているそうです。
ここでは久元先生からもピアニスト側の貴重なお話を聞くことができました。
「息を入れる」というのはピアノでは重さを鍵盤に伝えることと同じ。腹筋を使い重心は下に置き、クラリネットの息と一緒に重さを感じることでクラリネットと「同じ回転」を作りやわかいクラリネットの音色に寄り添う、それを意識されているそうです。
クラリネットとピアノ、身体の使い方に共通点が多くありました。

さて管楽器奏者からみた「やりやすいピアニスト」とは。キーワードは「呼吸、そして耳」です。お互いの音をよく聞き、曲やフレーズに沿って呼吸のできるピアニストになるためにソルフェージュ、和声などの基本をしっかり学び身に付けることが必要とされます。そしてピアノのを含んだ室内楽を聞いたり、実際やることで、ソロ曲を演奏する時との違いが経験でき演奏が変わってくることでしょう、ぜひ「伴奏」という認識を捨てて「共演者」として音楽を一緒に作りましょう、というお話には多くの先生が頷きます。

音楽は、デッサンしてキャンバスに色をおいていく絵画のメソッドと非常によく似ています。しかしそれよりも大切なこと。それは画家が風景や人物やシーンを見た時の「感動」無くしてキャンバスに向かって描くことはできないのと同じく、音楽家も「感動」なくしては音を作っていくことはできません。音楽家として最終的に一番大切となることは「五感を鋭くし、感性を鍛える」こと。この言葉は強く印象に残りました。

三曲目の「クラリネット・ソナタ(プーランク)」では超絶技巧を見せていただきました。3楽章からなるこの曲はプーランクが亡くなる寸前に書いたクラリネットの曲です。久元先生とどんな会話がなされているのか楽しんで下さい、と演奏に入ります。
演奏後、武田先生自ら「2楽章の8小節のノンブレス部は私の引退のバロメーターです」と会場の笑いを誘った後、もう一度その部分を吹いて下さいました。腹筋で息をコントロールしつつ静かなフレーズを約30秒。会場の先生方も思わず息を止め聞きました。

「ぼくは音色にはたいへんうるさいんです」とおっしゃる武田先生。豊富なイメージを持って作品に取り込み、そこに合う音色を作ることを追求し、「クラリネットって色々な音が出るんだね」と人から言われるのが一番うれしいそうです。
国立音大ではアンサンブルをとても大切にしているそうです。「違う楽器同士音と音を重ねて音楽を作っていくよろこびを知るとやめられない。意見を交わしお互いの音を聞いて一つの音楽を共有して作っていくアンサンブルはとても大事だと思う」と講座は終わりました。


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