【実施レポ】音楽総合力UPワークショップ2015 第9回 木村元先生

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2016/02/24
 
  • 第9回
  • 2016年2月17日(水)
  • 木村元先生
  • 「音楽・ことば・編集─本づくりの現場から」

2016年最初のワークショップは音楽関係書籍を専門とするアルテスパブリッシング社代表の木村元先生でした。

「音楽は動植物と同じような生態系を持っている」。
音楽の生態系とは作曲された音楽が演奏されることに始まり、それを人々が聴取することに続きます。そして人は音楽を聴いたら何か語らずにはいられない。この「語る」という批評分析が動植物の排泄分解。語りの場はロビートークや最近ではSNSなどで拡散される感想などもそれに入ります。しかしそれは限定された人にしか発信されずに終わることが多い。しかし本という「もの」となり人の手にとられると、どんな人にどのように読まれてもいい、いかようにも読まれうる可能性を内包している存在となる。そこに出版社の社会での役割があるのだと木村先生はおっしゃっていました。

アルテス社の出版本の何冊かご紹介もありました。
今注目されている本はピティナおなじみの菅野恵理子さんの著書「ハーバード大学は"音楽"で人を育てる」。アメリカのトップ大学が取り組むリベラル・アーツ教育の最前線をリポートしたこの本は、ビジネス誌でも紹介され2回重版されている人気本です。
次の一冊は「ラマラ・コンサート(バレンボイム著)」。イスラエル人とアラブ人という敵対国同士の若者を集めてオーケストラを作り両国で演奏を続ける話です。木村先生の「フーガは音楽家が各声部を聞き取って理解し、ハーモニーを作り上げる。本当は両立するはずのないものがハーモニーを保って1つの音楽になっていくのは奇跡的」だとバレンボイムの平和活動を比喩された言葉がとても印象的でした。これはDVDでも観ることができるそうです。

「ウルトラセブンの最終回とシューマン(青山通著)」のお話では会場が熱い空気に包まれ盛り上がりました。ウルトラセブン最終回で主人公のダン(ウルトラ警備隊)が同僚のアンヌに自分がウルトラセブンであることを告白する8分余のシーン。名シーン「僕は・・・僕はね、人間じゃないんだよ。M78星雲から来たウルトラセブンなんだ!」で流れるBGMのリパッティ=カラヤン演奏のシューマンのピアノ協奏曲を聴かせていただきました。本の中では一人の少年(著者)が最終回で耳にしたこの曲を探し求め、さらに演奏者まで辿り着く。そして実に40年後「なぜ最後のこのシーンがシューマンだったのか」が作曲家の冬木透氏との対談で明らかになります。この本に対してアルテス社へは最終回を見ていた50代男性からの反響が想像以上で、「実は私もウルトラセブンでクラシックを知った」という方がとても多かったそうです。

本は「もの作り」なのだとおっしゃる木村先生。内容はもちろんのこと、「タイトル付け」がとても大切。前述の「ハーバード」も「ウルトラセブン」もタイトルは著者とともに熟考したそうです。木村先生からは会場の先生に「自分という本にタイトルを付けよう」という宿題をいただき、質疑応答の後、あっという間の2時間のレクチャーが終了しました。


受講者インタビュー
門脇 佳澄先生(指導者会員)

クラシック音楽は、「作曲」され、「演奏」され、それが「聴取」され、その後に感想を語り合うという「分析」があり、さらにそれを不特定多数の人に「発信」するというサイクルで1つの生態系が成り立っているということに改めて気付かされました。
後半のウルトラセブンのお話では、音楽の楽曲について、また色々な演奏者について一人の少年が突き詰めていくことで理解が深まり、音楽家としての耳が育っていく様子がとても興味深かったです。

中川 さとみ先生(正会員)

ウルトラセブンを観た少年の話がとても印象的でした。自分の人生を変える位の影響力がある音楽の出会いが最終回にあり、その演奏がリパッティー=カラヤンであることに辿り着くまで何十年。執着心を駆り立てた「音楽」という偉大なるもの。その執着心があるからこそ私達はこの音楽という世界に身を置いています。演奏者、教育者と立ち位置が違ってもいつまでも持ち続けていたいと感じました。


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