【実施レポ】多喜靖美先生 課題曲公開レッスン

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2014/05/20
多喜靖美先生
課題曲公開レッスン
文:山本美芽(音楽ライター)
写真:田中知子(メロディア相模原ステーション)

日程:2014年5月7日
会場:杜のホールはしもと 多目的室

●五感を使いながら考え、音楽を深めるレッスン

 数々のコンペ金賞受賞者、そしてプロのピアニストを門下から輩出し、素晴らしい指導者として知られる多喜靖美先生が、課題曲の公開レッスンを行いました(主催:メロディア相模原ステーション 田中知子先生 )。この日、生徒となったのはステーションの指導者たち。A1級・B級・C級の課題曲を演奏し、多喜靖美先生が公開レッスンをする形式でした。予選本番が本格化する6月下旬までまだ時間のある5月上旬、レッスン受講者をあえて指導者がつとめることで、これから本格的に曲を仕上げる時期に知っておきたい事柄に焦点が絞られていました。

 この日の大きなテーマのひとつが、ペダルの使い方でした。まず、踏むときの雑音、離すときの雑音をもっと意識してほしい。従来の指導では、ペダルを踏みすぎて音が濁っているという指摘が多かったけれど、例えばドビュッシーでは、あえて色を混ぜるようにペダルを長く踏んだままで色彩感を作っていく方法もあるそうです。

 また、C級程度になると、ペダルは「楽譜に書いてあるから踏む」というより、「聴きながら自分で考えて踏む」ような指導が望ましいとのこと。コンペではリハーサルがなく、ペダルの状態を確認する機会もなく弾き始めなければなりませんが、多喜先生によると、本番中のステージで、音を聴きながらペダルの踏み方を調整している出場者が時々いるのだそうです。それが即座にコンペでの結果につながるわけではありません。しかし、真に音楽を追求するならば、望ましい方向性といえるでしょう。

 また、楽譜についているさまざまな記号やアーティキュレーションを実際にどう弾くか、受講者から質問が出されました。多喜先生はご自身の考え方を示しつつも、楽譜というのは従来思われていたほど絶対的なものではなく、場合によっては間違いもあるので、さまざまな情報を集めて最後は音楽的かどうか、自分で判断する。そんな立場を明らかにしてくれました。

 途中、課題曲「小さな羊飼い」を、合唱と鍵盤ハーモニカで合わせる試みがありました。左手パートのハーモニーを、二部合唱のパート譜にしたものが配られ、参加者で合唱。そのハーモニーの上で、菅谷詩織さんが鍵盤ハーモニカで旋律を吹いてくれました。ピアノ曲とはまた違った詩的な雰囲気、立体的な響き。ひとつひとつの声部を実際に歌ってみることで、受講者の演奏も、和声のうつりかわりをより自然にはっきりと表現できるようになっていました。

 コンペでは、芸術性に秀でた演奏でも評価が分かれる場合もあるので、参加者には結果に振り回されない賢さ、覚悟が必要というお話もありました。そこをふまえて挑戦すれば、ぐんとレベルアップできるのがコンペの良さ。どれだけ活用できるかは、指導者、保護者、参加者次第です。

 今回、コンペ課題曲はあくまでも素材とし、ペダルを耳で聴いて踏み方を調節したり、ハーモニーを歌ったり、五感を使いながら音楽を深めていく内容。終了後のランチをしながらの懇談会では、将来コンペを受けたいと考えている受講者からも「勉強になった」と好評でした。

山本美芽

 音楽ライター。東京学芸大学大学院教育学研究科修了。
これまでに国内外の主要なピアノメソッドの著書・訳者、ピアニスト、演奏家、ピアノ指導者など、100人以上に直接取材を行う。
「もっと知りたいピアノ教本」「レッスンのハンドブック」(中村菊子)、「21世紀へのチェルニー」(山本美芽)、 「練習しないで上達する」(呉暁)などの単行本において、ピアノメソッドに関する原稿を執筆。
新鮮な視点と鋭い観察力に定評がある。2008年よりピアノ音楽誌「ムジカノーヴァ」にて書評をレギュラー執筆、2014年1月号より「ライティングセミナー」の連載を執筆。「ジャズジャパン」にも評論・インタビューを執筆中。 
2013年よりピアノ指導者向けのセミナーにおいて、講師として本格的に活動。最新刊「自分の音、聴いてる?」(春秋社)についての講座、ピアノ講師を対象にしたライティングセミナー、個別ライティング指導も行っている。
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