【インタビュー】第26回:深谷 直仁先生 「良い練習・悪い練習」

文字サイズ: |
2007/08/03

web1.jpg2002年度特級グランプリの田村響さんを含む、数々のコンペティション優勝・入賞者を指導してきた深谷直仁先生。先日のセミナー『良い練習、悪い練習~正しい練習で才能も開花~』は、練習に対しての独自の分析法や指導論、そして長時間の練習を効率よくするための数々のポイントが「とても勉強になった!」と大好評でした。本インタビューでは、「誤った練習」と「効果的な練習」の本当の違いについて、詳しくお聞きしました。

◎今回、「練習」というテーマに着目されたきっかけとは?

「私がピアノを本格的に習い始めたのは、15歳の時です。その後、無事音楽大学に入学したのですが、ブルグミュラー25番から始めて、ツェルニーやソナチネなど、短期間で沢山の曲数をこなすのはものすごく大変でした。もともと小学生の頃からクラシックのレコードを聴きあさり、ハーモニカや合唱でソルフェージュ的訓練も出来ていたこと、またオルガンを少し習っていたことなども、上達が早かった原因ではあります。しかし、一番大事なことは、1日も休まず、とにかく練習した、ということだと思います。

自分自身が、『ピアノを小さい頃から習っていなくても、きちんと練習すればなんとかなる』という生き証人だということが、このテーマについてお話しようと思ったひとつのきっかけです。」

◎では、「良い練習」に向けて、指導者側ではどのようなサポートができるのでしょうか。

「必要な練習の量や内容は、時と場合、そして生徒の性質大きな差が出ます。天才型のピアニストですと1日2時間の練習ですませられたり、ギーゼキングのように初見で暗譜できたりする人もいますが、専門の道を志す人は、通常最低でも1日4時間の練習が必要だ、と一般的には言われています。

本人が必要だと感じた時に必要な分だけやるのがベストなのですが、そこで指導者がサポートできることといえば、まず練習が必要だと思わせてあげるような指導をすること、モチベーションを感じさせてあげること、そして悪い練習の癖をつけないための基礎力をつけてあげることだと思います。」

◎逆に、「悪い練習の癖」には、どういった原因が多いのでしょうか?

「練習不足に見えても、本当は一生懸命練習してきている生徒も実は多いんですよ。その時、生徒が苦しんでいる要因を教師が見つけ出してあげないとならないのです。

よく、つっかえつっかえ平気で練習して来る子がいますが、これは悪い練習の代表ですね。そしてこの場合、その子の基礎力と曲の難しさのアンバランスが原因になっている場合が多いのです。曲を練習する中で、どうしても得意な部分と不得意な部分は出てきてしまうのですが、得意な部分が多すぎてもつまらないし、不得意な部分ばかりですと、そもそもの基礎力不足からストレスがたまってしまう。『得意~不得意』のバランスを見極めて、その時点での生徒の基礎力に合わせて最適な曲や練習曲を選んであげなければいけません。」

◎では、音楽表現の練習については、いかがですか。

「『よくない演奏』の原因となるのは、ミスタッチだけではありません。よくあるケースが、『間違えないように弾く』ということだけに気を捕われて、表情豊かな演奏が出来ていないというもの。この場合、技術的な練習を早く終えて、表情のつけ方に早く取り掛からせてあげなければなりません。そのためには、まず成功率の高い練習をすること、そして、印象に残る、説得力のある演奏にするために、練習の本当の目標を見誤らないことです。先生が『間違えないように』という心境に追い込んでしまっていることも多いですので、その辺りも要注意ですね。

では、成功率の高い練習には何が必要なのか。それは、ひとつの曲に含まれる数々の『練習要素』を指導側が把握することです。これは曲の一部分を取り出して弾くという意味ではなく、リズム、メロディー、ハーモニーなどの、曲を作り上げている細かい『要素』のことです。これらを指導者が分析して、不得意な要素をひとつひとつ掘り下げて、繰り返し練習させていくことで、テクニックの練習作業を随分効率よくすることが出来ます。練習について指導する上で、こういった分析力は不可欠だと思います。」

◎指導者側にも随分と勉強が必要ということですね!では最後に、深谷先生がご自身の生徒さんに練習についてアドバイスされる時、いつも苦労される点などございますか。

「幼児には、『どんな簡単な曲でもフレーズがあるんだよ』というところから始めたり、大きくなってからは、音楽史について自分で本で調べさせてなるべく広い視野からひとつの曲を見つめるようにしたり、本当に生徒のキャリアや性質によって人それぞれの指導ですね。

ただ、演奏のキャリアはあっても、ずっと正しくない練習を続けてきた上で基礎が出来てしまっている場合は非常に苦労しますね。本人もそれが正しいと思い込んでいるので練習法を変えるようにもっていくのも難しいですし、向こうからこちらへのフィードバックも足りない。そのような時は、様々な知識や経験をもって、とにかく粘り強く説得するしかないですね。練習をしてくるように、ということが最終的にどうやって伝わるかは、結局いつも手探りなんです。」

◎貴重なお話、ありがとうございました!

⇒深谷先生のプロフィールはこちら


【GoogleAdsense】
ホーム > ピアノセミナー > ニュース > 03インタビュー> 【インタビュー】第2...