【インタビュー】第19回: 西谷玲子先生「きれいに弾きましょう、エチュード」

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2006/12/22

teacher_nishitani_int.jpg 今週は京都より、西谷玲子先生をお迎えします。学生を教えるかたわら、京都音楽院にて現役ピアノ講師も多数指導しているという西谷先生。そんな豊富な指導経験をもって語る、エチュードへのこだわり、そして練習曲を「きれいに弾く」意味とは?

まず、「きれいに弾きましょう、エチュード?4つの時代のスタイルを考えて?」の講座の題材として、エチュードというジャンルに注目された理由を教えてください。

「ピアノを習っている人は、エチュードと聞くと大抵『退屈』『つまらない』『指の練習曲』といったイメージを持つ人が多いと思います。けれども、エチュードと一言でいっても、バロック時代から近現代まで、当時の楽器の発達具合によってその曲に求められる内容もスタイルも変化してきています。例えば、バロック時代の練習曲は、ポリフォニーや装飾音の勉強のために作られていましたが、古典時代は宮廷の子供達を教育する為に、お稽古用に書いた曲などが結構あります。そしてロマン期になると、発達したピアノをフルに鳴らせて歌わせるようなエチュードも随分書かれています。このように、世の流れに応じて様々なスタイルで作られてきたことが、エチュードに興味をもったひとつの理由です。

また、エチュードというとショパンなどの難解な作品を思い浮かべる人もいらっしゃいますが、ブルグミュラーやツェルニーの練習曲集も、立派なエチュード、そして芸術作品です。また、ソナチネもソナタ形式を学ぶためのエチュードですし、モーツァルトの『きらきら星変奏曲』も、バルトークのミクロコスモスも、教育目的で書かれたエチュードですよね。そして、これらの『練習曲』を、音楽作品としてとらえ、解釈した上で、どういった目的で書かれているのかを考えて弾くことは、音楽表現を豊かにするためのトレーニングになるのです。このように、『指の練習曲』としてだけではなく、『音楽的表現の練習曲』としてのエチュード作品にも興味を惹かれました。」

先生ご自身は、エチュードについてどのような勉強をされましたか?

「私は大学時代はピアノ科でしたが、その頃少しチェンバロをかじっていた関係で、後々になって古い楽器の音や歴史に興味を持ち始めました。元々雑学が好きでしたので、色々な本を読んだりして、ピアノという楽器の歴史や、その音楽について調べたりしました。 

ただ、一番勉強になったのは、子供の頃に浴びるほど色々な曲を与えていただいたことだと思います。先生が非常に好奇心が強く、新しいものが大好きな方で、カバレフスキーの曲集がまだまだ珍しかった頃、発表会でその曲をすでに弾いている生徒の子がいたぐらいです!今考えると、すごい方だったな?、と思います。結果、私たちの世代はバイエルやブルグミュラー、ツェルニーといった教材が定番だった中、私はつまみ食い程度に本当に色々な曲を弾くことが出来、とても貴重な体験だったと思います。
また、一番印象に残っているのは、私が小学生の時、ちょうどツェルニー30番を終えて40番を弾き始めた時のことです。すでに終わっていた30番の復習をすることになり、譜読みが苦手だった私は『楽譜を読まなくても弾ける!』と一瞬喜んだのもつかの間。『復習だから、前と同じ弾き方ではだめよ』と先生に言われたんです。『楽譜に書いてあるテンポやダイナミックの変化、表現法について全部自分でよく考えて、好きなように弾きなさい』と。それはもう、嬉しかったですよ!1回目に弾いた時は地獄だと思っていた曲が、2回目に弾くと『こんなに面白かったの?』と驚いて、好きになれた曲も沢山ありました。エチュードも、余裕がある状態で弾くとすごく楽しいのだと、子供心に感じました。私の生徒さんは、ピアノ教室で現役講師をされているような方が多いのですが、ブルグミュラーなどの曲を勉強しなおしたりした時、『こんなに楽しかったんだ!』と、本当に生き生きと弾いていらっしゃいます。このように、ブルグミュラーやヘラ?、ツェルニーといった、テクニック的にも音楽表現の面でもいずれ大きな曲につながっていく、中級程度のレベルの曲を弾いたり復習したりするのは、とても意味があることだと思います。」

レッスンで子供の生徒さんにエチュードを与える時には、どのような点に気をつけていますか?

「本当に、10人いたら10通りですよね。生徒の中には、ベーシックな曲の上に、枝葉をつけて色々な時代なものを勉強出来るお子さんもいれば、1週間で2段楽譜が見れたら十分!といった子もいます。前者には、バロック、古典、ロマン、近現代から1冊ずつ、計4冊の練習曲集からローテーションで何曲も与えたりすることもあります。その反面、後者のような、1曲のエチュードを弾ききることが出来ない子には、『指が効率よく動けば、好きな曲が弾けるよ!』と目標をかかげさせて、エチュードの音階や特定のパッセージを部分的に、繰り返し練習をさせることもあります。

結局、生徒に対してこちらが出来ることは、ちょっと種をまいてあげることだけなんです。ずっと横について指示出来るわけではないので、『こういうものの考え方があって、こういうのも面白そうだよね』と色々と知ってもらった上で、楽譜や音楽に興味を持ってもらえればそれで良いと思っています。ニンジン、というとニンジンのジュースしか知らないのではなく、ニンジンはこういう形をしていて、葉っぱはこんな色で、初めは土の中に埋もれているけれども、出てきたらこんな感じ...といったことを、生徒には全て知ってほしい。そのためには、ドラえもんのポケットのように、100人いたら100通り、生徒さんの数だけアイディアを持てるようになれるようになることが、理想だと思います。」

ありがとうございました!

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